第128話 小魚の干物とドワーフと進まない話

 ズンズンと里の中を進んでいく背中を追いかけていると、その背中が一軒の家の扉を開け、中へと入っていった。

「あの……ここは?」

「ん? わしの家じゃよ」

 遠慮なく中へと入ってるし、確かに自分の家なんだろう。……いやそうじゃなくて。

「えっと、出口に向かいたいのですが……」

「あぁ、その事も話すからの。とりあえずそこに座って待っといてくれ」

 彼はそう言いながら部屋の中央にあるテーブルの方を親指で指し、家の奥へと消えていった。

 う~ん、何だか思わぬ方向へと向かっている気がするぞ。早く洞窟から出たいだけなんだけどなぁ……。と思いつつも大人しくテーブルへと向かい、イスに座って光源の玉を天井近くへと上げた。

 光源の光が蛍光灯の電球のように室内を照らす。まるで現代日本のようだ。

 しかしよく考えると最近ずっと地下に潜ってる気がする。エレムでもほぼ毎日ダンジョンで地下に潜ってたし、今もそうだ。そろそろ地上で生活したい……。


「葡萄酒でええかの?」

「えぇっと……はい」

 奥から現れたボロックさんはマスクや全身の重装備を全て取り払い、長ズボンにシャツというラフな格好で現れた。その手には陶器のボトルと木製のカップを二つ持っている。彼は僕の対面に座ってカップをテーブルに置き、ボトルのコルク栓をキュポンと抜いて中の赤い液体をトクトクと注ぎ入れ、その一つをこちらにすすっと滑らせた。

「すみません。いただきます」

「うむ。それでは、我らの新たなる出会いに、乾杯」

「乾杯」

 ボロックさんの音頭に合わせてカップをぶつけ、中の葡萄酒を口に含む。

 ん~……渋いな。舌先に触れた瞬間、渋みが広がり、飲み込んだ後も口内に残るような感じがする。ちょっと苦手かもしれない。

「さて、この場所の話じゃがの」

 ボロックさんはそう話し始めながら自分のカップに葡萄酒を注ぐ。……ってこれをもう飲みきったのか。流石ドワーフ。

「実は山岳地帯のど真ん中にある場所でな、洞窟を抜けるまでまだ少し歩かねばならんのじゃ。それにの、途中に難所があっての」

 そう言いながらまたカップに葡萄酒を注いだ。

 いや、ペース早くない? 僕にはちょっと渋すぎてこの葡萄酒単体では飲み続けられそうにないや……。なので腰の魔法袋に手を入れて小魚の干物を何枚か抜き出し、テーブルの上に置いた。

「これ、食べますか?」

「お? おおぉ! これは魚かの? しかし見た事がない魚じゃの。お前さんは一体どこから……いや、それは後じゃ!」

 そう言うと彼はガタッと勢いよく立ち上がると部屋の奥へと消えていった。

「……」

 うん、話が進まない! これはやってしまったか……。


 暫くしてボロックさんは四角い箱と金属製の網を持って戻ってきた。そしてそれをテーブルの上に置き、呪文を詠唱する。

「火よ、この手の中へ《火種》」

 四角い箱は火鉢のようなものなのだろうか? 底には灰が敷き詰められていて、中には炭がいくつかと五徳のようなものが入っていた。そこに火の玉が降ってきて、炭に火を入れていく。

「準備出来たぞ。普段は使わんが、今日は特別じゃ! さぁそれをここに乗せてくれ」

 そう言いながらボロックさんが五徳に網を乗せたので、網の上に小魚の干物を何枚か乗せる。ついでに魔法袋から小魚の干物をいくつか追加でテーブルの上に置いた。

「で、ボロックさん。出口の事ですけど」

「ん? あぁそうじゃった」

 この人、絶対忘れてたよ! 余計なモノを出すんじゃなかったか……。

「どこまで話したかの? ……あぁ難所の話じゃったか。説明が難しいのじゃがの、あの場所は特定の日にしか通れんのじゃ」

 そう言いながら彼は手で小魚の干物をひっくり返した。干物から出た油が炭に落ち、パチパチと弾ける。

「通れない……ですか」

「そうじゃ。じゃから当面は洞窟から出られん。これは口で言うてもよく分からんじゃろうからの。明日、自分の目で確認するんじゃの」

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