第6話 自分の方針と皆の方針
「よし、大体の情報は共有出来たはずだ。完全に理解出来てるとは言い難いが……。持ってるアビリティを強化しても新しいアビリティを取ってもコストが同じという時点で、色々取るのではなく必要なアビリティを極振りするのが正解だろう。よくあるMMORPGなどと同じようにそれぞれの役割に合わせて特化型に組むべきだ」
マサさんは一旦そこで言葉を切って全員を見回す。
「皆、役割はリスタージュと同じでいいか? 要するに、私がタンクで、たぬポンが物理アタッカー。ビショップがヒーラー。エルフマンが弓と補助。あとは魔法系のバッファーとアタッカーという感じか」
マサさんは一応疑問形で聞いてはいるけど、これは決定事項のように聞こえる。
確かにこれはリスタージュであれば割と鉄板な構成ではある。
一般的にMMORPGでは役割ごとに特化したキャラクターメイキングをするのが当然で、それとは真逆の――所謂万能型キャラと呼ばれる――何でも出来るけど特に優れたものがない育て方をされたキャラは地雷扱いされ敬遠される傾向にある。しかしテスラはリスタージュとはまったく関係のない世界のはずだし、そもそもゲームではなく現実だ。果たしてゲームのようなやり方が上手く行くのだろうか?
どうしようかと考えている内に意外なところから声がかかった。
「ちょっと待ってほしい」
ヘンリク・ストロンバス三世。通称エルフマン。本名は知らない。
三度の飯よりエルフが好き。むしろエルフで白飯三杯は食える男。
無口で硬派なエルフらしいエルフをロールプレイする生粋のエルフ好き。
人は彼を敬意と奇異と驚愕の眼差しでエルフマンと呼ぶ。
現在は当然エルフの姿ではなく、貫頭衣を着たハゲてお腹が少し出た中年男性なんだが……エルフロールプレイは継続中みたいだ。
彼は日常生活でもロールプレイを続けているのだろうか?
止そう……あまり考えたくない。
「我は〈アバター〉でエルフを選択するつもり……いや、ハイエルフも捨てがたいが。とにかくエルフ系と精霊魔法だけは絶対に外せぬ! なので弓を極振りする余裕などない。〈エルフ〉と〈精霊力〉が取れぬなら皆とは別の道を歩むのみ!」
と、エルフマンが拳を振り上げ高らかに宣言する。
うーん……この人は本当にガチのエルフ好きなんだろう。今のこの状況で、自分の人生がかかっているはずなのに、優先順位はまずエルフ。そしてエルフ。三、四がなくて五にエルフ。
この人は本当にブレないな。
「……仕方がない。エルフマンはそれで仕方ないとして――」
と、マサさんが肯定しようとしたのを遮るように別の所から声がかかった。
「はーい。私もいいですか?」
「……カノンも、何かあるのか?」
恐る恐るという感じでマサさんが聞き返す。
「私もエルフにしようかなぁーって。ほらっ、エルフって美形で若いまま長生きって言うじゃないですかぁ。女の子に生まれて来たんだし、やっぱりずっと綺麗でいられるならいたいというかですね。いやっでもね、今の自分が気に入らないとか、そういうんじゃないんですよ! この姿に産んでくれたお母さんには感謝してるし……。お父さんとお母さんにはもう会えないのかな……。あっ! あとそれと身長も、もう少しは欲しいしぃ。それに髪の毛も綺麗な赤金色がいいかなぁって。それと目の色も……」
「……あぁわかった。わかった。エルフは魔法が得意な種族だろうし問題はないだろう。とりあえず魔法攻撃特化でINTは極振りにしてくれるならそれでいい」
うんざりしたような声でマサさんが言う。
んー……これは僕も言っておくべきだろう。皆も色々好きにやってるみたいなので言いやすくなったし。とりあえず僕は現時点ではMMORPGでは一般的なヒーラーのような存在になる気はない。これは今の段階ではっきりと言っておかないと。
「あの、ちょっといい?」
「……なんだ、ビショップもエルフになる気か?」
「いや、違うよ」
「じゃあ何になる気だ?」
少し困ったような顔でマサさんが聞いてくる。
「いやまず何になるかって話から離れようよ……ってそうじゃなくて……。んー、まだどうするとか具体的には決まってないんだけど。何かに特化するような組み方はしたくないかなぁ……と思ってて」
「どうしてだ? それはこのシステムでは非効率だろう。ヒーラーに何か不満でもあるのか?」
「いや、ヒーラーという役割に不満があるわけではないんだけど……」
うーん、どうしようか。上手く説明出来ないというか、上手く説得出来ないというか。
少し考えてから言葉を続ける。
「ゲームではタンクとかアタッカーとか役割に分かれてそれぞれ特化した育て方をするのが鉄則になってるけど、これはゲームじゃあないんだし、本当にそんなゲームみたいな考え方でいいのかなと思ってさ」
「確かにゲームそのものではないが、この〈ウィンドウ〉を見る限りゲームのようなシステムだし、それにそれぞれ役割に特化する方が効率的なのは間違いないだろ?」
うん、それは間違いない……とは思う。でも。
「もし、もしもの話だけど、前衛のマサさんがタゲを取りきれず敵が後衛に流れたとしたら、どうしたらいい?」
「……それは、私が前衛だと信じられない、という事か?」
マサさんの声が少し硬くなる。
その表情から不満とも落胆とも言える感情が読み取れた。
一概には言えないが、一般的にMMORPGではパーティ全員が上手くヘイトコントロールして敵のターゲットを前衛盾役に固定し、後衛が安全なところから支援する、という流れがセオリーだ。守備力の高い盾役が攻撃を受けた方がダメージは少なくて済むし、誰が攻撃を受けるか分かっていれば支援もしやすい。
そういうゲームにおいては敵のターゲットを取りきれず後ろに逸らす盾役は下手だと言われてしまう。盾役としては侮辱だろう。
僕は慌てて否定する。
「そうじゃないんだ。そうではなくて、もしゲームみたいに何か役割に特化した構成にしたら、ミスとかイレギュラー的な問題とか、とにかく何かのキッカケで不測の事態が起これば対処出来ないんじゃないかと言いたかったんだ」
そこで一呼吸置いて言葉を続ける。
「さっきの話で言うと、もしもマサさんが何らかの理由でタゲを取りきれなくて後ろに敵が流れてきた場合、魔法特化型だとそれに対処出来ずにやられるかもしれない。ゲームならリスポに戻ってまたやり直せばいいけど、現実に、これから行くテスラという世界にそんな死んでもやり直せるシステムがあるとは思えないんだ。だから僕は後衛でも敵と正面からやり合える必要があると思ってる」
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