第25話 ここから世界を見に行こう

 朝、起きて宿の裏庭にある井戸で顔を洗う。空を見上げると太陽が高い位置まで昇っていた。

 今日はちょっと寝坊だ。

 昨日の夜は出来る限りハンスさんから話を聞こうとして閉店間際まで粘った結果、寝るのが遅くなってしまった。しかしそのおかげで良い話が沢山聞けた。

 宿を出て朝のお仕事へと向かう。

 ハンスさんから聞けた話の中で面白そうだったのは、アーティファクト、古代遺跡、そして他の国の事だ。


 アーティファクトに関しては、今では再現出来ないアイテムの総称らしく、主にダンジョンや遺跡で見つかる。厳密にはどういう存在なのかはよく分かってはおらず、その種類も千差万別らしい。

 誰でも知ってる有名なアーティファクトでは、かつて英雄が使ったとされる光剣ルフニールなどがある。どこかの国が秘蔵しているという噂だが詳細不明。

 一般層にまで流れてくる情報だけではよく分からない。やはり権力者が保有する強力なアーティファクトの情報は出来得る限り秘匿されるのだろうか。

 しかしアーティファクトの全てが権力者に厳重管理されているわけではないらしい。アーティファクトと言ってもその効果は千差万別で、その能力の強さもピンからキリまで差はあるし、数的にもそれなりに多い。高ランクパーティなら一つぐらいはアーティファクトを保有していても別におかしくはない、程度には数が出ているのも理由としてある。


 そうこう考えている内にダンジョンに付いた。

 いつものように光源の魔法を使って光を確保し、階段を下りていく。

 今日もライトボールの魔法を練習しながら戦っていくつもりだ。

 ライトボールの魔法という新しい要素が増えた事で単調な作業に少し変化が出てきたけど、それでもやはり単調な作業には変わりはない。面白いか、つまらないかで言うなら間違いなくつまらないと言えるけど、ぶっちゃけるとMMOでトップを目指して本当にやりこんでいる人間なら、この程度の単調な作業は苦にもならない。

 MMORPGにおける狩りとは、効率の良い戦いを延々と繰り返す事に最終的には帰結するからだ。何時間も、同じ場所で、同じ敵を、同じ方法で、ずっと延々と狩り続ける。どんな工夫をこらしたゲームでも最高効率を求めるとそうなってしまうし、上位を目指すならやるしかない。結局は忍耐力が重要なのだ。時間が有り余ってる人でも忍耐力がなければ上位は目指せない。それがMMORPGというゲームだった。

 まぁこの世界に来てしまった以上、二度とゲームなんてやる事はないはずだし、どうでもいい事か。

 切り替えよう。

 またハンスさんの話を思い出す。


 古代遺跡について。

 古代遺跡とは、名前のまま、古い遺跡の事。

 ただの古い遺跡もあればアーティファクトが見つかるような遺跡もある。

 冒険者の間では後者を古代遺跡と呼んでいて、前者は特に儲けにもならないので興味すら示さないとか何とか……。

 これらの違いは何かと言うと、前者はそのままだが、後者はアーティファクトが見つかる遺跡なだけあって、遺跡そのものが超古代技術で作られた巨大なアーティファクトになっている事が多い事。

 古代遺跡で有名な場所と言えば、水都ルクレツィアという街が一般層にも知られている場所らしい。ここは古代遺跡をそのまま利用した都市で、城にある巨大なアーティファクトから常に清浄なる水が流れ出して街の隅々まで行き渡り、その水資源を活かした産業が盛んだとか。

 あとは伝承やおとぎ話で語られる真偽が不確かな古代遺跡もあって、ハンスさんもそういう伝説の遺跡の一つを探していたらしい。

 古代遺跡を見付けるだけでも名を上げられるし、最初に見つければ遺跡の宝物も基本的には好きに出来る。

 金と名誉が手に入る、一攫千金を狙えるのが古代遺跡探しだ。


 そうこうしている間にダンジョン最下層の五階に着いた。

 これからいつものように最下層のナイフ持ちゴブリンを倒す。

 実は最初と比べて稼ぎが良くなった理由がこのナイフ持ちゴブリンにある。このナイフ持ちゴブリンが落とす魔石はEランクで、他のゴブリンが落とすFランクの魔石より高い。そして再出現までは体感で三〇分程度。要するにこのナイフ持ちゴブリンを出来る限り倒しながら空いた時間に普通のゴブリンを狩ると効率が良いのだ。


「光よ、我が敵を撃て《ライトボール》」

 最奥の部屋の扉をくぐってすぐにライトボールを放つ。

 この部屋は明かりがあって相手が見えてるし、ゴブリンにグギャグギャ言わせる気もない。一撃でサクッと終わらせる。

 吹っ飛んで床に倒れ伏しているゴブリンがゆっくりと床に吸収され、床に魔石が残った。


「ハズレか」


 最初の時は魔石とナイフがドロップしたけど、どうやらナイフはレアドロップだったようで毎回は出ない。今回はナイフが出なかったからハズレ、という事だ。

 しかしレアドロップにしては出る確率は良いと思う。ここが初心者ダンジョンだからなのだろうか? それともやはりあの場所で最後に取得した〈幸運〉の効果が大きいのだろうか? 現時点では何とも言えない。

 さて、いつもの順路で稼ぎますか。

 そう考えながら、またハンスさんの話を思い出した。


 ハンスさんから聞いた最後の話。それはこの世界の地理についてだ。

 まずこの世界において地理というのは戦略的に重要な情報とされているらしく、正確な地図は表にはまず出回っていないらしい。なのでハンスさんの話にも曖昧なところが多かった。色々な国や町に関して具体的な位置を聞こうとしても、◯◯の東の方、とか、◯◯を右手に見ながら進めば、とか、そういう曖昧な説明になってしまうのだ。

 じゃあ紙に書いてもらおうとしたけど、それもあまり上手くいかない。

 それでもとりあえず、何となく位置関係が把握できそうな超単純な地図は出来た。

 それによると、まず今いる南の村の北側にはランクフルトという名の大きな街があり、そのランクフルトから北と東西に大きな街道が通っている。北側の街道は王都へと続く道で、東側には林業が盛んな山の村。そして西側には迷宮都市エレムがある。

 ついでに言うと、この国の名前はカリム王国。南の村の、さらに南にある初心者ダンジョンの先にはそれらを囲むように山があって海がある。要するに南側の海岸線沿いに山があって海洋資源を使えない、行き止まりの村という事だ。


 さて、ハンスさんから搾り取るように聞いたこの情報。この話を聞いて、朧気ながらだけど今後の指針が決まった。

 とにかく、まず僕はもっと世界を見てみたい。

 街の中で居を構えて死ぬまで安定した生活を送る事も可能だろうけど、それは嫌だ。理由は何であれ、異世界にまで来てただ普通に働くだけの生活なんてしたくない。


 リスクはあるし不安もあるけど、そんなモノを飲み込むぐらい、この世界は魅力的だ。

 色々な国を巡って、色々なダンジョンに潜って、凄いお宝を見つけて、伝説で語られるような場所にも行く。

 時には観光もして、最高の食を探すのもいい。


 それが僕の、この世界で生きる目的だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る