第55話 冒険者の備えと第二波

「大丈夫か?」


 そう話しかけられて顔を上げるとダンとラキがいた。

 そして、ようやく僕は皆の事を思い出した。

 色々と展開が早すぎて皆の事を考えている余裕がなく、すっかり頭の中から皆の事が抜け落ちていた。

「うん、なんとか……。そう言えば、メルは大丈夫なのかな?」

 僕達三人は同じ宿に泊まっていたから一緒に冒険者ギルドまで行ったけど、メルは実家だからいなかった。その事を今になって思い出し、心配になってきたのだ。

「あぁ、恐らく問題ないだろう。あの時は朝も早かったから家にいただろうし、それならメルの親父さんが家から出さないはずだ。あそこなら多少のことぐらい何とでもなる」

 そうか……そう言えばメルの家は大きな商家で、メルの親父さんは冒険者になる事を良くは思ってないんだっけ。ならメルを今のタイミングで外には出さないか。


「ルーク、何か食ったか?」

 ダンにそう言われて思い返すけど、朝から何も食べた記憶がない。

 そう考えるとお腹も思い出したのか、空腹感が出てきた。

「いや、何も食べてないね」

 そう言い、背負袋を下ろして中を見る。

 記憶している限り、背負袋に食べ物を入れた記憶はないけど、一応探してみる。

 しばらくガサゴソとかき回したけど、やっぱり何もなかった。辛うじて前日の残りの葡萄酒が水筒の中に入っているだけだ。本来なら宿屋で毎日、葡萄酒を入れてもらっていたけど、今日はそんな時間もなくてそのままだった。

 軽くため息を吐いて、少し離れた位置でギルド職員と小競り合いを起こしている冒険者を見た。


「だからよぅ、ちょっと宿まで戻って葡萄酒入れてくるだけだって言ってんだろ!」

 若い冒険者がギルドの職員らしき若い男に詰め寄る。

「ダメなんです! いつ何が起こるのか分かりませんから、冒険者は門の側から離れないで下さい!」

 そう言いながらギルド職員は冒険者を引き留めようとする。

「だったらよ、冒険者ギルドがここに物資を用意するのが筋ってモンだろ? 違うか?」

 そう言って若い冒険者はギルド職員の胸ぐらを掴み上げた。

「それは……今は無理なんです……。もう少し! もう少し待っていただければ話がつくと思いますので、そうすれば用意出来るはずなんです!」

 ギルド職員のその言葉に、若い冒険者は「……話になんねーな」と言いながらギルド職員を押し飛ばし、歩き去っていく。

 慌ててそれを止めようとするギルド職員に、他の冒険者からも声がかかった。

「ねぇ、葡萄酒はともかく、こっちはもう矢が切れそうなんだけど」

「さっきの魔法で魔力が半分しか残ってない。何とかしてくれ」

「炊き出しもねぇのかよ。朝一番に駆けつけて何も食ってねぇのによ」


「……」

 冒険者達が文句を言うのも無理はないだろう。

 冒険者ギルドは持ち場から離れるなと言うが、しかし補給物資は何も用意しない。それではもうどうしようもないじゃないか。

 スタンピードは突発的に起こる災害のようなモノなんだろうし、仕方がない面もあるとは言え、この状態は少しお粗末と言うしかない。


「ほら、これを持ってろ」

 そう言ってダンが油紙の包を開けて中から乾燥肉を取り出し、僕に渡す。

「冒険者なら何があっても対処出来るように、普段からある程度は準備しとくモノなんだぜ」

 ダンから乾燥肉を受け取り、「ありがとう」とお礼を言った。

「あそこでギルドに文句を言ってる奴等だってな、大抵の奴はもしもの時の備えぐらいは何かしら用意してるはずだ。……例えばだ。あそこで矢がもう切れると文句を言ってる女。確かに矢の数は残り少ないかもしれないが、あいつは攻撃魔法も使えるんだ。だから、本当にどうしようもなくなったら魔法を使って何とかするはずだ」

 ダンのその言葉に感心したと言うか、考えさせられたと言うか、自分の考えの甘さを痛感した。

 もっと、何があっても対処出来るように準備が必要なんだ。

 この世界は、何が起こるかわからないのだから。



◆◆◆



「全員、持ち場に戻れ! 敵が来るぞ!」


 ギルマスのその言葉に全員が動き出す。

 僕も慌てて立ち上がる。

「じゃあ、また後で」

「ああ、しっかり頼むぞ」

 ダンと短く会話し、ラキと一緒に門横の階段を駆け上がった。


 階段を上りきり、空いている場所に適当に立つ。

 そして大きく息を吸って、そして吐く。

 二回目という事もあってか、最初よりもかなり気持ちが落ち着いている。なんだか、これなら今回も何とかなるような気がしてきた。

 周囲を見てみる。

 続々と冒険者が階段を上がって壁に上り、そして並んでいく。下では前衛の冒険者が門前に集まり、門が破られた時のために列を組んでいる。

 そして北側でも準備が始まったのか、騒がしくなってきた。


 前を見る。

 砂埃を巻き上げながらモンスターが迫ってきていた。

 あれは……、エルシープだ!

「第二波! もうすぐ来る! 全員準備しろ!」

 ギルマスのその言葉に全員が動き出す。

 弓使いは矢をつがえ、弓を引き絞る。そして僕達は呪文を詠唱した。

「闇よ、我が敵を撃て!」

「水よ、我が敵を穿け!」

「火よ、我が敵を穿け!」

「風よ、我が敵を撃て!」

「光よ、我が敵を撃て!」

 一帯の壁の上から、弓を引き絞るギリギリという音と、呪文を詠唱する声が響き渡る。


 そして。

「全員! 放てえぇぇ!」

 その言葉に全員が弾かれたように動き出す。

 弓使いが力一杯引き絞った弓から矢を放ち、僕達が呪文を発動させた。


「《ダークボール》!」

「《ウォーターアロー》!」

「《ファイアアロー》!」

「《ウインドボール》!」

「《ライトボール》!」


 そして、放たれた矢と生み出された魔法がババババという音をたてながら一帯を破壊した。

「まだだ! 準備が出来次第、放ち続けろ!」

 ギルマスのその声に、また弓を引き、そして呪文を詠唱し、魔法を放ち続けた。


 そして、僕達は第二波を乗り切ったのだ。

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