第165話 剣の受け取り
「まさか資料室の中に個人の部屋があるとは思わないよなぁ……」
資料室から続く通路を歩きながらそうつぶやき、先程のことを思い出していく。
あの後、彼女は『そういうことだから』という言葉を残して踵を返し、座っていた席へと戻ってまた本を読み始めた。そのそっけない態度を見てしまうと声をかけようにもかけにくく、僕の読書の熱も削がれてしまい、資料室の外へと出て鍛冶屋へと向かうことにした。
結局、彼女の名前すら聞けず仕舞いだ。彼女は誰なのだろうか? と考えても当然、答えは出ない。
空を見上げると太陽が真上近くまで昇っていた。
そろそろお昼頃かな。いい時間っぽい。
ガヤガヤと人や馬車が行き交う大通りを進み、裏路地からこの前に依頼した鍛冶屋へと入る。
ムワッとした熱気と焦げた炭の香りが体を包みこむのを感じつつ、前と同じようにカウンターのところに座っていたドワーフの親方に声を掛けた。
「すみません。この前、依頼した剣は、出来てますか?」
「出来とるぞ。これだ」
と、親方は横の棚から一本の剣を取り出してカウンターの上に置く。
木と金属で出来たシンプルな鞘。黄色っぽい金属の柄。皮の紐が巻かれたグリップ。シンプルだけど使いやすそうに見える。
剣を手で持ち、握りを確かめるように何度か握り直し、それから留め金を外して鞘から引き抜く。
金属的ではないシュルっとした音と共に引き抜かれた刀身は天窓からの光で黒く輝いていて、凄く綺麗に見えた。
カウンターから少し離れ、型を確かめるように何度か軽く振ってみる。
ヒュンという音が鍛冶屋の中の熱気を切り裂いていく。
よかった。久し振りに剣を触る気がするけど、まだ感覚は忘れきってはいない。
「どうだ? 問題ないか? 合わなければ調整はしてやるぞ」
「大丈夫そうですね。ピッタリですよ」
剣を鞘に戻し、鞘に付いた紐を腰のベルトの左側に結びつけた。何度か位置を調整したり、実際に抜いてみたりして感覚を確かめ、しっくりくるかを確認していく。
「属性を付けたくなったら持ってこい」
「はい、その時はよろしくお願いします」
親方に礼を言い、鍛冶屋を出た。
さて、とりあえずこの剣の性能を見てみたい。外でなにか斬れるものを探そう。
そう考えながら裏路地から大通りまで歩いたところで冒険者ギルドに寄ろうかと一瞬迷う。が、ここからだと一番近い南門とは逆方向になるし、諦めて南門へとそのまま向かい、その途中で果物などを買いながら町の外へと出た。
真っ青に晴れた空。遠くに見える高い山。左側二〇〇メートル程先に見える森。右側には岩がちでアップダウンがある荒れ地。その森と荒れ地の間を走る街道を馬車や冒険者達が行き来している。
そんな人々とすれ違いながらマギロケーションの範囲を拡大しつつ森の方へと向かい、試し斬りに手頃そうな倒木などを探っていくけど、どこにも見当たらない。
ん~やっぱりこのあたりは大きな町が近いだけあって燃料となる倒木なんかはすぐに回収されてしまうのかもしれない。森の中も下草が刈り取られ、木々は低い位置の枝が打ち払われていて見通しが良くなっている。綺麗に整備された森だ。よく観察すると木と木の間隔も適度にあって、しっかりと管理されているようにも見える。ここの木を勝手に切り倒すのもマズい気がするな。
そう考えて街道から森の奥へと入っていく。マギロケーションで確認しなくても森の中には冒険者の姿が複数見えた。
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