第166話 試し斬りと試し魔法

 その冒険者達を避けつつ進む。

 その時、横目でチラリと彼らを確認してみると、地面の草を鎌のようなもので刈り取っているようだった。彼らの姿からして低ランクの冒険者っぽい。森の草刈りも彼らの収入源なのだろう。

 そのまま暫く森の中を歩き続けると、次第に下草も増え始め整備されないエリアへと入ってきた。

 マギロケーションで周囲を確認しつつ背負袋と杖を地面へと下ろす。


「さて、と」


 適当に選んだ一〇センチ程の太さの木の前に立ち、腰の闇水晶の短剣を手に馴染ませるように何度も握り直し、そして抜き、黒く光る三〇センチ程の両刃をしっかりと見つめながらゆっくりと魔力を流していった。


「う~ん、どんなもんだろう」


 以前にボロックさんの闇水晶ナイフを触らせてもらったけど、あの時は下手に魔力を流しすぎて壊してしまうのが怖く、おもいきって魔力を流すことが出来なかった。これは自分のだし、色々と試してみたいとは思うけど加減が分からないから慎重にはなってしまう。なのでゆっくりと魔力を流していくと、次第に闇水晶の短剣が赤紫の色を帯びていった。

 これは魔力の輝き。聞いた話では、ほとんどの人には見えないはずのもの。恐らく〈超感覚〉のアビリティを取ったことによってこの才能が覚醒したのだと思うけど、実際のところよく分からない。もっと複合的な要因でそうなってるのかもしれないけど検証のしようがないしね。

 いい感じに魔力を流した闇水晶の短剣を両手で正眼に構え、瞬時に一歩踏み込むと共に目の前の木の幹を横から真一文字に切り払う。


「フッ!」


 パンッという小気味よい音と共に闇水晶の短剣が振り抜かれ、二メートルぐらいの木材がグラリと倒れてきた。

 慌ててそれを避け、手に持った闇水晶の短剣を確かめていく。


「刃こぼれは……大丈夫かな」


 太さ一〇センチぐらいの木を切ってもあれぐらいの魔力を流せばとくに問題ないらしい。使用魔力量に関してはそこまで多くない気がする。が、一太刀ごとにこの魔力消費だと魔力が多くない人には厳しいかもしれないし、使用するリスクも大きいかも。

 次に切った木の断面を見ていく。

 木の断面は鋭利な刃物で切られたような……って、鋭利な刃物で切ったんだけど、綺麗な断面をしていた。手応えからして叩き切ったというより本当にスパッと切った感覚があったので切れ味は凄いと思う。


「う~ん」


 切れ味は鋭いけど確かに微妙な気はするな。

 それにさっきの剣技は無意識に習った動きそのままでやってしまったけど、剣と刀では動きも違うのだろうから、なんだか合ってない気もする。そもそも刃渡り三〇センチの短剣でやる技ではないか。といっても剣技はこれしか出来ないし、仕方がないけど。

 それから剣筋を確かめるように何度も何度も素振りしていく。

 大上段に振り上げて、軌道を確かめるように振り下ろす。

 もう一度振り上げて、袈裟懸けに振り下ろす。

 振り下ろす度に空気がヒュッと心地良い音を立て割れる。

 日本に居た頃より力が上がったせいか剣筋のキレは良くなっている気がする。


「やっぱり、筋力は上がってるよなぁ」


 日本にいた頃だと、流石に一〇センチの生木を短剣で断ち切れなかったはずだ。

 ふと思いつき、闇水晶の短剣を鞘に戻し、四〇センチ程の太さがある木の前に立つ。

 そして右足を引いて構え、腰を落として右手の正拳突きを木の幹へと放った。


「フッ!」


 インパクトの瞬間、ガツッという音と共に木の表皮が弾け飛び、幹がバネのようにブルブルと震え、地震でもあったかのように葉がガサガサと音を立てた。

 天から葉がヒラヒラと舞う。

 やっぱり筋力は物凄く上がってる。パワー系競技のプロアスリートぐらいのパワーはあるんじゃないかな。

 いや、もっとだろうか?

 しかし体格なんかはほとんど変わってないはずなのに、どこからこんなパワーが出るのだろうか? 自分のことながら謎だ。

 女神の祝福が素晴らしいと思うと共に、少しの怖さも感じる。

 それを振り払いつつもう一度、闇水晶の短剣を抜いて魔力を込めていく。

 加減しながら少しづつ魔力を増やし、さっき木を切った時より多くの魔力を流していくと少しづつ魔力が流れなくなっていった。

 どうやらこのあたりが流せる限界らしい。

 赤紫の魔力を宿す闇水晶の短剣をよく観察してみると、剣身から薄く魔力が流れ出しているように見えた。

 つまり、闇水晶には充電池のように魔力を蓄えるような機能はなく、勝手に少しづつ短剣から魔力が流れ出すので、その分の魔力を常に補充し続けないといけないっぽい。

 次に右手で持った闇水晶の短剣の切っ先を適当な木に向けて適当な魔法を使う。


「光よ、我が道を照らせ《光源》」


 体の中を駆け巡る魔力が右手に集まって手の中の闇水晶の短剣に到達した瞬間、ノイズが走るように魔力が乱れ、なんとか流れた魔法が短剣の先っぽから一センチぐらいの小さな光の玉となって現れた。


「うわぁ……これは想像以上かも」


 属性水晶は、その属性の魔法とは相性が良いけど、その属性以外とは相性が悪いため使える属性が限定されると聞いていたけど、これでは光魔法は使えないな。

 小さな光の玉を消し、もう一度、同じ魔法を使う。


「光よ、我が道を照らせ《光源》」


 今度は右手の闇水晶の短剣ではなく、なにも持っていない左手から出してみた。

 いつもとは違う魔力の流れになるので意識しないといけないものの、今度はすんなりといつもの光源の玉が手のひらの前に現れる。

 うん。闇水晶の短剣を通さなければ普通には使えるか。次は神聖魔法を試してみよう。


「神聖なる炎よ、その静寂をここに《ホーリーファイア》」


 体の中の魔力が右手へと流れ、闇水晶の短剣に接触した瞬間、乱れて霧散するように消えていき、辛うじて残った魔力が短剣の先から小さな白い火の玉となる。


「神聖魔法でもダメ、か」


 神聖魔法なら謎のパワーでなんとかなるかも?という期待が少しあったけど、そんなこともなく。他の魔法と同じ結果になった。これが闇属性の魔法ならいつも以上に魔力が通りやすくて使いやすくなるのだろう。けど闇属性の魔法は使えない、というか一番相性が悪いと思うので使えるようになる日が来るかは分からないし、確かめられないかも。

 しかしこの闇水晶の短剣は僕の魔力は素直に流すのに『光魔法を使おうとした時の魔力は弾く』わけで……。

 つまりそれは、魔法を発動させると、その魔力は体内で属性に変換されているということなのだろうか?

 もしくは体内で既に魔法として成立している?

 いや、でもホーリーファイアの炎は体内では炎ではないはずだし、これは難しい。

 ここを理解するには、もう少し新しい情報を集めなければいけない気がする。

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