第256話 八階へ

「よしっ!」


 地面に崩れ落ちたワイトのローブから下級魔力ポーションを見つけだした。

 ワイトは黒っぽいローブを着たスケルトンのような姿で、木製の杖を持っていたり短剣を持っていたりするモンスターだ。

 主に攻撃魔法やデバフ系の魔法を使ってくるとバルテズの資料には書かれているけど、確認はしていない。勿論、マギロケーションとターンアンデッドのサーチアンドデストロイコンボで確認する前に倒してしまうからだ。

 そうして七階に入ってから三日もしない内に三〇本程度の下級魔力ポーションを入手することが出来た。

 こんなハイペースで狩りが出来ている理由はほぼホーリーディメンションのおかげと言っていいだろう。普段は狩り場までの行き帰りの時間や雑務の時間があったり。或いは暗くなる前に余裕をもって村に戻る必要があって、そもそも狩れる時間が短いという問題点をほぼホーリーディメンションが解決してくれた。つまり仕事場に寝泊まりして起床後即仕事&仕事終了即睡眠という社畜の鑑のような生活環境をこのホーリーディメンションさんが実現してくれたことにより、普段の二倍三倍の狩り効率が実現したのだ!


「……あれっ? あんまり嬉しくない気がするぞ?」

「キュ?」


 まぁそれはいいとして……だ。

 バルテズの資料を見返す。


「ワイトが持っているのは下級魔力ポーションと、ローブと武器系統。それに金貨と銀貨。稀に魔道具や魔法武具などを持っている場合がある、か」


 現時点では魔道具等のレアなアイテムは見付かってない。念の為に杖とナイフは浄化してホーリーディメンション内にストックしているので、後でどこかに売りに行くか、売れなければ杖は焚き木にでもする予定。ホーリーディメンションが使えるようになったおかげで様々なアイテムを保存しておけるようにはなったけど、モノを大量に売ると目立つから売りにくいし、安いドロップアイテムを大量に保存しておいても大変なだけな気もするから難しいところだ。

 それはそうとして。


「下級魔力ポーション……試してみようかな」


 バルテズの資料を見る限り、ワイトが所持しているガラス瓶の薬は下級魔力ポーションしかない。つまりこの薬は下級魔力ポーションで確定だと考えていいはず。なのでとりあえず一度はどんなモノなのか試しておいた方がいいと思う。


「ワイトが持っていた、ってのがちょっと嫌だけど……ね」


 そう言いつつガラス瓶の栓を抜き、中の薄い青色の液体を口に含む。

 味はほとんどしないし匂いもない。水に近い感じだけど水ではなく、もっと軽くて不思議な感じ。

 それを飲み干すと体の中をスルッと落ちて胃に到着。


「おっ?」


 したと同時にそれらが溶けるように染み渡り、体中に魔力が行き渡る気がした。


「これは、凄いな」


 話には聞いていたけど、確かにダンジョン産ポーションは一瞬で魔力を回復させるようだ。

 これで保存期間も長いんだから国とか有力者が確保しようとするわけだよね。あまりにも便利すぎる。


「う~ん、時間があればねぇ……」


 ホーリーディメンションがあって、時間が許されるなら一〇〇〇本でも二〇〇〇本でも下級魔力ポーションをストックしておくのだけど、今はそこまでの時間は取れない。もうそろそろ八階に進むべきだと思う。


「ちょっと悔しいけど先に進もうか」

「キュ」


 そうしてようやく、僕も裂け目を通って八階に到着したのだった。


◆◆◆


「うわっ……」


 八階に入ると赤黒い濃霧にいきなり包まれ、バルテズの資料を見てこれを知っていた僕でも驚きの声を上げてしまう。

 バルテズの資料によると、この濃霧の正体は不明だけど、とりあえずマスクを聖水で濡らしておけば人も生きていけるらしい。

 なんだか適当だけど、別に彼らは科学者でもないんだから仕方がない。

 シオンは念の為、ホーリーディメンション内に残してきた。大丈夫だと思うけど、念の為だ。

 改めてバルテズの資料を思い出してみる。

 八階は赤黒い濃霧に覆われていて日中でも視界が悪い。なので六階などのように目視で目印を見付けることがほぼ不可能。適当に進めば迷い続ける可能性もある。だからバルテズ達が使った手段は――


「裂け目を出て、出てきた方と反対側に進む」


 地図の指示通り裂け目の裏側の方へ進むと、すぐにマギロケーションに不可視の壁が映り込む。


「これだな」


 その壁の前まで進み、左手で壁を触ってみる。

 以前、触った時と同じように、硬質な触感が手に伝わってきた。


「ここから左手で壁を触り続けながら進むと、九階への裂け目が見えてくる、か」


 そういえば、迷路で迷ったら片側の壁を触り続けながら進むといつかは出口に出る的な法則があったような気がする。彼らはよく考えたもんだね。

 マギロケーションがあるから実際に壁を触り続ける必要はないので、マギロケーションで壁を感じながらバルテズの指示通りにただ進んでいく。


「……」


 が、殺風景を通り越して不気味さと不安を感じさせる風景にメンタルを削られていくのが分かる。

 それでも、ただ黙々と進み続ける。進み続けるしかない。

 マギロケーションで周囲の地形が分かっている僕ですらここまでメンタルが削られてるのだから、他の冒険者達はどうなるのだろうか? 想像するのも怖い。バルテズ達がここを通った時はもっと心細かっただろう。道も分からず、先になにが潜んでいるのかも見えず、自分がどこを歩いているのかも分からず。なにも情報がない中で、自らの体で情報を集めながら先を目指した。僕が事前情報ナシでこんな気味の悪い場所に飛び込めるかというと……。ちょっと難しいかもしれない。

 無限に続く闇の中、そんなことを考えながら歩いていると、前方から争うような音が聞こえはじめ。やがてマギロケーションに複数の反応が映るようになり、近づくとそれが大規模な戦闘だと気付いた。


「これは……」


 目視出来ない中、慎重に近づきながらマギロケーションで周囲の状況を確かめていくと全貌が見えてきた。どうやら数十人程度の人形の部隊が二つ、その場で隊列を組んで戦っているようだ。

 一方は人の軍団。そしてもう一方はアンデッドの軍団。

 これは間違いなく――


「デスナイト……」

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