第65話 迷宮都市エレム
『それでね!』
「うんうん」
『今日はお庭に人間さんがいっぱい来てたの!』
「へー?」
『柱がなんとかーって、難しい顔してね、何か言ってるの……』
「へ、へー……」
以前、妖精の庭にある柱――妖精の門――に浄化をかけて綺麗にしちゃったけど、誰かが何かを調査しに来たのだろうか?
『でね! お花の上でお昼寝してたら、いなくなっちゃってた!』
「そ、そうなんだ……」
『あっ! 時間だ! もう帰らないと! またねー!』
「あ、うん。またね」
リゼは光を放ち、いつものように消えていった。
この魔法は、魔力消費が多すぎて頻繁には使えない。
そして、どんな意味がある魔法なのかよく分からない。
………………
…………
……
そんなふうに考えていた時期が僕にもありました!
最初にサモンフェアリーを試してから数日。
次に泊まった村でも、そしてその次の村でも、なんだかんだ言いつつもリゼを召喚している。大きな魔力消費に関しては、聖石を作るタイミングを上手く調整する事で何とかした。
召喚する理由? 理由か……やっぱり寂しかったのかもしれない。
パーティと別れてソロになり。そして皆といた町を離れ、この異世界で旅をして、知り合いなど一人もいない町を歩き、また知りもしない町を目指す。
この世界にとっての異世界人である自分には、生まれ故郷もなければ帰る場所もない。そんな事は当然なのだから、考えなくても分かっていたはずだけど、こうやってパーティからソロになって知らない場所を旅してみると、考えていた以上に精神的に来るものがあった。
南の村にいた頃はまだ良かった。
あの頃は日々の生活に必死だったし、やる事も覚える事も一杯あったし、余計な事を考える時間はなかった。
そして、あの頃はパーティというものを知らなかった。この世界での仲間というものを知らなかった。
今はパーティを知っている。仲間を知っている。知っているから、失うとその場所に穴が空くのだ。
「……寝よう」
ほら……時間があると、こうやって余計な事を考えてしまうから良くないんだよ!
やれやれ、と思いながらベッドに体を預け、光源の魔法を消し、ゆっくりと目を閉じた。
◆◆◆
「エレムに着いたぜ」
御者の声に前を向くと、隙間から町の壁が見えた。
この町は迷宮都市エレムと呼ばれている。その名の通り、ダンジョンがある町だ。
風の団から離れてソロになった僕にはいくつかの選ぶべき道があった。
まず、森の村へもう一度、行ってみる道。
次に、北へ向かって王都を目指す道。
そして最後に、西へと向かい、迷宮都市エレムを目指す道。
森の村は、妖精の庭を調べてみたり、ハナ婆さんを尋ねて話を聞くのも面白いと思ったけど、あちら方面の乗合馬車がない事と、僕がやりたい事とは少し違う気がした。
王都は、その重要性から考えて、人、物、金が集まってくる場所というイメージがあったので、そこに行けば何かがあるのではないか、という気がした。主に情報や良いアイテムを手に入れるならここじゃないかと思っていたけど、今の僕にはお金も力もないから微妙。いつか行く必要はありそうだけど、今ではない気がした。
最後に迷宮都市エレム。スタンダードな地下迷宮型のダンジョンがある町で、ダンジョンに集まる冒険者によって賑わっている町だ。ここのエレムのダンジョンは浅い階層の弱いモンスターから、深い階層の強力なモンスターまで一通り揃っているので、様々なランクの冒険者が活動していると聞く。ここなら僕のレベル上げに良さそうなポイントもあるのではないか? と思った。
ここまで考えて、次に、僕は自分が何をしたいのか、何がしたかったのか、何をするべきなのか、考えていった。
思い出したのはハンスさんがしてくれた話。
この世界には伝説と神秘と秘宝が眠っている。人が訪れた事のない前人未到の地がある。攻略されていないダンジョンがある。伝説にだけ、その名が残るアイテムがある。そんな話に心が踊り、いつか目指してみたいと思った。
そして思い出す……グレートボアの事。
Bランクのモンスターに振り回されるだけだった、自分の力。これでは伝説どころか、何とかグレートボアの突進を正面から受け止めていたCランク冒険者にすら手が届いていない。
そう考えると心の奥底から湧き上がってくる、悔しさ、不甲斐なさ、無力感……。そこまで考えると僕の心は決まっていた。
何かを成したいのであれば、それに見合った力が必要なのだから。
乗合馬車を降り、門の前から町を見渡す。
道幅が六メートルほどの大通りを馬車や色々な人々が行き交っている。
建物はほとんどが木製で、いくつかレンガ造りや石造りの建物もあった。
何かを売り買いする商人と客の声や馬のいななきが響き、冒険者らしき一団が酒場らしき建物へと消えていくのが見える。
「……よしっ、頑張りますか!」
そして僕は、このエレムの町に第一歩を踏み出した。
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