第2話 「楽しい! 楽しい? 転生準備の時間!」
「い、異世界転生ですと?」
俺はプルプルと球体を揺らして震えた。
「本当に夢にまで見た異世界生活が俺を待ってる⁉︎ 記憶は無いが分かる、分かるぞ‼︎」
その瞬間、ほんのりとした身体の光が少し強まった気がした。女神様は何故か焦った様子で俺を嗜めてくる。どうしたんだろうか。
「落ち着いてね〜。まずは準備でしょ? 色々決めなきゃいけないことがあるのよ〜?」
「す、すいません。でも、俺なんか異世界小説とかめっちゃ読んでた気がするんですよ! 知識だけはハッキリ覚えてます!」
何故かはわからないが自信満々だった。きっと楽しい世界が俺を待ってるに違いないと、興奮を徐々に高めていく。
__________
球体の様子を見つめ、女神は声色と表情には出さずに、今の出来事を振り返っていた。
(今の確実に封印が削られてたわよね〜。この子、欲望に忠実になると力が増すタイプ? マズイなぁ〜私の身体で抑えきれるかなぁ。とりあえず急ごう)
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それから女神様が俺の要望を聞きつつ、彼方の世界での事を教えてくれた。
どうやら身体はすでに準備されているらしい。ハーレムを作るためにも、イケメン細マッチョを狙っていた俺は拗ねるようにコロコロと地面を転がる。
「顔は並以上でお願いしますね⁉︎ 嫌ですよ? よく話にある様な豚体型の主人公とか、そんなハードル高いやつはノーセンキューですからね!」
その点を必死に切実に願った。
(転生して彼女も作れないなんて嫌だ! ハーレムの夢も異世界に行く前から諦めたくは無いもの!)
「大丈夫よ〜! 魔獣と戦ったって、そう簡単には死なないわ〜」
「それ顔関係ないじゃん‼︎ 誰も今の発言で戦うなんて言ってませんやん⁉︎」
やはり女神様の口調からわかる、俺の命が軽い。もう一度言おう、羽根のようだ。
「せ、殲滅魔法をください! それか戦略的兵器に連なるチート能力を! なんか戦車とかアサルトライフルとか呼べちゃうやつでいいっす!」
ーー女神様はあらあらと微笑む。
「魔法はレベルや経験で勝手に覚えるわ〜! 殲滅魔法は無いわねぇ。これから行く世界、魔法あったかしら? チートはダメよ〜。ズルはよく無いのよ〜」
(ヘタな事したら、封印が解けちゃうしね)
俺はゴロゴロと転がりながら、諦めず欲求を訴え続ける。試合終了はさせない。
「じゃあ、国を作れるだけの金貨とか、どんな魔獣も倒せる伝説の武器とかお願いします‼︎」
ーー女神様は変わらず微笑む。まるで鉄壁だ。
「ダメよ〜。お金は働いて自分で稼いでこそ意味があるの。武器だって、自分が苦労して手に入れるから愛着が湧くのよ〜!」
(あんたは俺の母親か⁉︎)
思わずツッコミたくなる程の正論が返ってきた。何も言い返せない。
とりあえず話題を変えて隙を作ろうか。言質をとればこっちのものだ。相手は自称とはいえ女神様、嘘はつくまい。
「じゃあ先に私の名前を考えてくれる〜? あと彼方の世界での年齢もね〜?」
(ん? 女神様も一緒に異世界に行くのか? それはそれで楽しそうだなぁ……パーティーメンバーにいたら無敵じゃないか。何だよ、だからチートをくれるのを渋ってたんだな? それにしても、名前と年齢か……よしっ!)
「じゃあ、俺の中に眠る中二病センスを全開で発動させますから、文句とか言わないでくださいよ?」
「大丈夫よ〜? どんな名前でも受け入れるわ〜!」
(貴方がね〜)
「見た目の印象がまずドレスで、神より姫っぽいから『姫』は使う。俺は赤が好きだから、そのドレスグッジョブなのでカッコイイ感じに『紅』を使う。漢字だけじゃ異世界っぽくなくて、嫌だからなぁ……」
「うーん、うーん、うーーん」
『約十分経過』
「レイアだな! 『
「いいと思うわ〜(棒読み)じゃあ、その設定に変更は認められませんが、よろしいですか?」
女神様の口調が、若干なんか仕事的な真面目モードに変わった。表情も先程までと違い真剣だ。
でも、別に俺の名前じゃないし設定なんて知らん。いざとなればシラをきろう。
「いいですよ〜! 自分で決めた設定に、文句なんてあるわけないじゃないですか! ーーキリッ!」
俺は勢いよくバウンドしながら、白々しい返事をした。
その瞬間、空中に不思議な羅列の陣が開かれ、真面目な顔をした女神様が、眼の前で輝きを放ちながら立っていた。
「今、この時をもって転生の契約は果たされました。これから転生する世界は、一度文明が滅び、道を違えた世界。貴方にとっては生活水準が落ちますが、別の方向への進化を感じるでしょう」
「…………」
「幸福に包まれる事だけではありません。痛哭にその身を喘ぐ事もある筈です。ですがどうか、新しい人生を悔やまず生きてください。貴方は人の死に対して脆く、とても弱い。出来るなら持てる力で数多くの他人ではなく、自らの周りの大切な命を救えますように」
ーー女神様の悲痛な想いが伝わって苦しい。意味なんてわからないのに。
「……ごめんね、レイア」
か細く儚いその言葉を聞きながら、俺は陣へ吸い込まれた。
流す瞳もないボールの身体から、確かに涙の伝う感触がしたんだ。
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