閑話 行方不明の女神?
最近、各国は『ある噂』でもちきりになっていた。
それは魔人の国レグルスを発端としており、新女神教の支部やマッスルインパクトの団員を中心として広まり続けているらしい。
ーー『女神レイアが消えた』と。
『
戦後処理として人族の大陸ミリアーヌの東の国、シルミルの人々を『
これは聖女セイナの血の効果を応用して『女神の血』をシュバンの治癒術師と薬師に渡し、開発させた新薬である。
名前から元の世界のアレを想像して欲しいが、状態異常に効果がある程度に抑えるのに苦労した。
回復薬と混ぜて何百倍にも薄める事で漸く薬として作用するらしく、希釈の度合いによっては冒険者のレベルが上がったり、ステータスに変化があったり、欠損した部位が再生したりと、秘密の漏洩を防ぐ為にミナリスが暗部を動かして大変だったと泣き言を漏らしていたのは記憶に新しい。
スキルが解けて復活したカムイからはたんまりとお礼をして貰ったので、現在『紅姫』の懐はホクホクだ。頬が緩んで笑いが止まらんね。
女神は奇跡の力を使い過ぎて神界に帰ったとか、酷い噂では死んだとか言われてるらしいのには、まぁ少なからず事情があるのは確かだけれど。
「死んでねぇっつの」
そんな噂の本人である俺は現在、エルフの国マリータリーに向かっていた。しかも王様であるイザークにも内緒で変装までしており、俺が此処にいる事実は『紅姫』のメンバーと、王都シュバンの隊長達しか知らない。
さて、では何が目的でマリータリーに向かっているかというと『勉強』の為である。
理由としては奈々様が神界に戻る際に「ナナの人格統合と顕現にはまだ時間が掛かるわ」と言っていたので、久しぶりに独り身気分を味わってみたかったのが一つ。
同時に俺の今の状態が元に戻るのにも暫く時間が掛かるとの事だった。
もう一つは『ある理由』から嫁達が修行の旅に出ると言い出したのが一つ。目的は主に精神修行だ。
そして最大の理由は、エルフの国マリータリーの首都レイセンに『魔術学園』がある事を知ったからだった。
「テンプレキタ!」っと大喜びした俺は反対するみんなを上手いこと丸め込み、冒険者ギルドのマスターであるマーリックに偽装プレートを発行させ、現在マリータリー行きの馬車に揺られて街道を進んでいる。
丁度、首都レイセンへ向かう商人の護衛クエストがあったので、引き受けた冒険者パーティーを含めて純金貨一枚を払い同行させて貰った。
その際、商人には魔王であるアズラの紹介状を書いて貰って口裏を合わせて貰う。有り体に言えば『余計な真似をするな』と釘を刺した形だ。
元々国の政治関連は宰相のミナリスに丸投げしており、異世界知識だけ放り込んで好き勝手にやっていた俺にたいした
それでも
誰も俺を責めはしなかったけど、これも良い機会だと思って頭を冷やす為にも旅に出る事にしたのだ。
「みんな優し過ぎるんだもん。甘えてばっかいられないよなぁ」
「ーーなぁ、お嬢ちゃんはどっかの貴族なのかい?」
ポツリと漏れた呟きを聞いて、前に座り込んでいた冒険者が話し掛けてきた。若干ウザいと思いながらも、純粋に心配してくれているのが伝わってきて無碍にも出来ない。
「ただの冒険者ですよ。流石に一人旅は心許なかったので、皆様に御同行出来たのは幸運でした」
「そうだったのかい。純金貨なんてポンっと出す位だから、どっかのお嬢様なんだと思い込んじまってたよ。すまんすまん!」
目の前のリーダー格の男は体格こそ細マッチョだが、全身に細かい傷痕があり、歴戦の戦士を思わせる風貌をしていた。
装備もミスリルで揃えている辺り、AかBランク程度の冒険者の集まりだと予想できる。
こちらの事情を深く詮索されたくないからこそ、敢えて『女神の眼』も発動せず、余計な会話もしないまま依頼人と冒険者の間柄に留めておいたというのに、話しかけてくんなや。
まぁ、短い付き合いだ。今は大人しく猫を被りまくってやろう。
「いえ、あと少しでマリータリーに到着しますし、ここ数日襲って来た魔獣や盗賊から皆様が守ってくださって感謝しております」
「それも依頼の内だから気にするな。大したランクの敵も出なかったし、まだ女神様の加護は俺達を見捨てていないって事さ」
目の前にいますけどね。お前の信仰心なんてその程度じゃい。
「今は姿をお見せにならないらしいが、俺は信じてるんだよ。きっと俺達の事を神界から見守ってくれてるってな。だから嬢ちゃんもレイア様を信じる心を忘れちゃいけないぜ」
「え、えぇ……ソウデスネ……」
俺は馬車から覗いた空を見上げながら、なげやりに返答する。新女神教が一体信者にどんな教えを乞うているのか帰ったら必ず調べよう。
だって俺の事を語っている時の目がヤバイもん。洗脳されてんじゃないかと疑わしいわ。
ーーピクッ!
呑気に会話をしていたら、いつのまにか周囲を魔獣に囲まれていた事に気付く。ナビナナがいないと『
「チィッ! ここは森に近いから獣型の魔獣が餌を求めて出て来やがったか。囲まれてるぞ!」
索敵を担当していたシーフの張り上げた声を聞いて、冒険者達は一斉に迎撃態勢へと移行する。馬車を守護する者と魔獣を攻撃する者で布陣を分け、連携がスムーズな事も確認済みだ。
俺は震えて何も出来ないといった演技をしつつ、『迷死狐のローブ』のフードを深く被る。
貴族に間違われたのはこのローブのランクがSであるのと生地の美しさからだろうが、偶に装備してやらないと宿っている子狐の霊が騒いで煩いのだ。
母親を探す約束も後回しにしてるしなぁ。
馬車の速度が若干上がって尻が痛いなどと考えている内に戦闘は呆気なく終わった。いつもならここで何かしらボス的な魔獣が出てきて俺が戦う羽目になるのだが、最近の俺の運は絶好調なのだ。
(立ちそうなフラグが立たなくて最初は戸惑う程に、ね)
「フゥ〜! 何とか今回も撃退出来たな。みんな無事で良かったぜ」
「ありがとうございます。喉も渇いておられるかと思い、冷たい水を用意しておきました」
「助かるぜ嬢ちゃん! 無事レイセンに馬車を送り届けたら、酒場で浴びる様に酒を呑むんだ」
「それは是非一緒し……なんでもありません」
酒と聞いて理性が飛びかけた。危ない危ない。いつか酒風呂でもやってみたいものだと想像に胸を膨らませつつ、馬車は街道を進んだ。
__________
翌日、昼過ぎには無事に目的地であるレイセンに辿り着き、今は街に入る為、門前で行われている検問で身分証を提示する順番待ちをしている。
商人はコネがあったのか一足先に門を抜けて街に入っていったので、俺は「街に入るまでが護衛だ」と言って聞かない戦士面の冒険者の男と並んでいた。
「そういえば、身分証はちゃんとあるんだよな? 女神同盟のお陰でマリータリーもだいぶ他の種族と打ち解ける様にはなったが、まだ他種族を見下す輩や風習は残っているらしいぞ。仲間を奴隷にされた経験がある者達はしょうがないと思うが……」
「大丈夫です。ちゃんと冒険者ギルドで発行してもらいましたから」
「おっ! 冒険者プレートかぁ。どれどれちょっと見せてみな?」
先輩面したいのがみえみえ過ぎて若干呆れてしまうが、今の俺のプレートならば見せても問題はないと判断して差し出した。
【ロリカ・ヴィーナス 十歳 職業魔術師 Gランク ギルドポイント0】
そう、俺は無理な進化の代償としてステータスはそのままに、姿だけがロリ女神へ戻されてしまったのだ。
偽名はそのまま『女神ロリ化』を逆に読んだだけ。流石に実名をこの姿で口にしちゃだめだと仲間達に止められたからね。
改めてプレートに浮かび上がった自分の年齢を見て溜め息を吐く。
本当に勘弁してくれ女神様……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます