第25話 困惑するロリ女神とアリアのお菓子。

 

「何故だ、何故に起きたら裸なんだ⁉︎」

 レイアは困惑していた。性別が男ならばわかる、夜の特訓でも頑張ったのだろう。


(しかし、今は女。肝心の相棒がいないし、欲情するなら昨日風呂場でアリアの胸を洗っている時に飛びかかっていた筈)


「まさか……俺の溢れるリビドーが無意識に飛び出したとでもいうのか⁉︎」

 アリアが服を脱がせたとも思えないが、二人共裸という事は聞けば真相が分かるかもしれないと身体を揺らした。


「ねぇ、起きてアリア? 非常事態だよ! 何故か俺達裸なんだよ!」

 ぼんやりと意識を覚醒させた少女が、目を擦りながら呟く。


「な、にももんだい、ない、よ? きの、うははげし、かったね?」

「激しかったの⁉︎」

 実際激しかった。アリアが暴走しすぎて敏感な部分を責めると寝ぼけたレイアに押しのけられ、打たれたりもしていたのだから。

 全裸の女神はますます困惑するが、アリアはそれ以上何も答えない。


(まぁ、女同士だから気にしすぎるのも変かな……)

 謎は残ったが、とりあえず気にしない様に努めた。


 アリアはぺロペロタイムはバレてはいけないのだと固く口を閉ざし、昨日の光景を脳内フォルダに記憶する。

「えへへっ……」

 強かな少女は満面の笑顔を溢していた。


 アリアは一度家に戻り、レイアは別れた後にアズラとの約束を守ろうとエジルに朝食を頼みながら、一階のテーブルで待つ事にする。


「おはよう、レイア!」

「お、おはようございます……?」

 ロリ女神はいきなり見知らぬ人に話しかけられて、どぎまぎしていた。


(ナンパか? こんなロリっ子な俺にナンパする気なのか⁉︎)

 幼女を口説こうとする変態に向け、怪しい目線を青年に向ける。


「変な顔してどうしたんだ? なんかあったのかぁ?」

 レイアはどこかで見た事はあるなぁと、不思議そうな表情を浮かべつつ凝視した。


「お、おっさん⁉︎」

 アズラはいきなり朝から知らない人のような目線を向けられたかと思えば、今度は驚愕された事にショックを受ける。これはなんの虐めなのだ、と。やや半泣きだった。


「お前なぁ! そりゃあいくらなんでもひどいぞこの野郎!!」

「おっさんが、おっさんじゃなくなってる……だ、と⁉︎」

「なぁ、髭剃っただけだからな? 若返ってもいないぞ? お前は俺をなんだと思ってるんだ。髭か? 髭だとでも思ってんのか?」

 このツッコミは確かにおっさんなのだが、髭が無いと何故かイケメンに見える。


「ぐぬぬっ!」

 ロリ女神は何故か悔しい思いをしながら、ぶつぶつと呟いていた。


「おっさんのくせに、おっさんのくせに、おっさんのくせに、おっさんのくせに、おっさんのくせに……」

「おい止まれ! お前なんか恐いぞ!」

 アズラ闇のオーラを放つ幼女を宥める。


「もう俺の好きなおっさんは死んだ。貴様はただのアズラだ」

 一筋の涙が頬を伝い、女神は悲痛な眼差しを向けた。

(さようならおっさん……)


「いい加減にしろ。戻ってこい、現実世界に戻ってこい!」

 レイアは朝の全裸事件から、おっさんの死で完全に混乱していた。

 空を眺めると髭のおっさんがニカッっと親指を立てて、サムズアップしてる姿が見える気がする。妄想まで暴走していたのだ。


 __________



「実は俺、女神なんです」

 レイアは約束通り剣技のみでアズラに勝った為、自分の正体を少しばかり話そうと考えていた。


 魔人はいきなりの『俺女神』発言に首を傾げるが、アリアの治癒をしている時の光景はまさしく神々しいと呼ぶに相応しい。


「信じたくはないが、実際に神の奇跡みたいな技を目の前でやられちゃ、信じるしかないか」

「ただし、心は別人で男なので、ニセモノなんです」

「はぁ⁉︎ つまりは女神じゃないのか? 男口調だし、わかる気も……するか?」

 続けて幼女から聞かされた事実に、アズラは愕然とする。


(うーん、説明が難しい。身体は女神、心は別人でニセモノだと言っても伝わらないだろう。本物の女神様が来て説明してくれりゃ楽なのになぁ)


「以上、説明終わり! ご清聴あざっした!」

 アズラが待て待て待てと、振り返って歩き出そうとする幼女の首元を引っ張る。


「まだ何も聞いていないだろうが! せめて、なんで俺のリミットスキルを使えたのだけでも教えろ!」

 レイアはそれくらいならいいかと『女神の眼』の一部分だけ説明した。スキルコピーと相手の情報が見れる事だ。


「そんな反則なスキルがあるのか……何なんだそりゃぁ」

(気持ちは分かる。確かにチートだよなぁ……)

 自らも眉を顰め、目を丸くしている魔人を見つめる。


「気にする事ないよ。アズラの実力が本物だからこそ、俺も短期間で成長できたんだし、特訓はまだ続くんだからね!」

 すでに部屋に『セーブセーフ』を発動してあり、今日も検証しながら戦闘パターンを増やそうと考えていた。


「そうだな、これからはお互いが高め合えるように訓練をすればいい。俺はもう逃げるのを止めたんだ」

(おやっ?)

 向けられた真剣な瞳は昨日までと違って、何かが吹っ切れたように見えた。


「うん! じゃあ今日もよろしく!」

「おうよ!」

 二人で宿から出て草原へ歩き出そうとした直後、戻ったアリアがこちらに近づいてくる。


「あ、のこれ、たべて?」

 レイアへ差し出されたのは、一見クッキーの様に見えた。


「きの、うから、つ、くっておい、たの」

 可愛い女の子の手作りお菓子。嬉しいのだ。本当に嬉しいのだ。普通なら涙を流してもいいだろう。


 ーー色が「紫」でなければ。


(名称はさながらポイズンクッキーとでも名付けようか……死ぬの? 俺死んじゃうの?)

 瞳に決意を灯した女神へ、アズラは耳元でそっと告げた。


「……いくのか?」

 漢には逃げちゃいけない時がある。レイアは今がその時だと拳を硬め、魔人は背筋を伸ばして敬礼していた。

 アリアは嬉しそうに胸をときめかせている。きっと、自分の作ったクッキーが殺人に使えるなんて思ってもいないのだろう。


 ロリ女神はキラキラと輝いた笑顔のまま、見事な返礼をした。

「逝ってきます!!」

 ーーオブフゥッ⁉︎


 もちろん、特訓へは行けなかった。

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