第24話 アズラ、泣く。
眼が覚めると、アズラは部屋の床に転がっていた。
「俺は、負けたのか……?」
意識が途切れる前の光景を思い出し、不意に項垂れる。
あまりにも幼女に攻撃の全てを読まれ続け、強者にしか使うまいと戒めていた『白虎雷刃』を向けてしまった。
そして打ち破られた事実。相殺どころか押し負けた『風神閃華』は、自分の技の上位に値する奥義だと理解出来てしまう。
「いつからだ……一体いつ、俺はあいつより劣った剣士になったんだ……」
(旅の途中、魔獣に襲われては蹴ちらす戦闘中に見たレイアはあんな力を持っていなかった。最初から信頼されていなくて、実力を隠されていたのか?)
ーー信じたくない。信じられない。
しかし、紛れも無く負けたのだ。戦場であれば首を刎ねられて終わり。
これまでも何度も負けたことはあった。ギリギリの勝負を繰り広げ、敗北に辛酸を舐めた日々が続いた事もあった。
しかしこれはそれらとまるで違う。全てを奪われたかのような絶望が全身に襲い掛かる。
「なんなんだ。レイアはどうやって俺のスキルを身に付けた? しかもまだ本気を出していなかった……様子見しながら何かを確認しているようだった……! ははっ! つまり……俺が、この俺が手加減されたという事かあああああああああああああっ!!」
魔人は先程の戦闘を思い出しながら分析する。ギリギリと歯軋りしながら、口元より血を流し強く膝を叩いた。
悔しかった、苦しかった、泣きたかった、暴れたかった。
「ちくしょおおおおおおおおおっ!!」
『剣王の覇気』を覚えてから、負ける事などなかったアズラは天井に向かい叫ぶ。
これが魔王に負けたのであれば話が違うだろう。わずか十歳の幼女に負けたのだ。慢心していた。油断していた。舐めていた。
(あれは怪物の類なのだと、自分の経験が通じない化け物なのだと何故認められなかった? プライドだ。プライドが自分の目を曇らせ、認識を違えさせたんだ)
時間が経つにつれ頭が冷えていく、惨めなのは自分自身だ、と。
「……何が第一騎士部隊隊長だよ。もはや笑うしかねぇ」
アズラはレイアに初めて出会った時、自分を「魔王軍第一部隊隊長」と名乗った。しかし、それは正式な名称ではない。
__________
ーー赤髪の魔人は望んだ職業『騎士』になれなかったのだ。
生まれた村を飛び出し、職業剣士として強くなる事のみを目標に戦い続ける。町々で名前が広まり噂されるようになった頃、突然魔王が目の前に現れた。
大地を破る戦いの後、手加減されながらも負けた事を理由に魔王軍へ入隊する羽目となる。しかし、そんな猛者共が集う中で、より強さを求めたのだ。
馬が合わなかったミナリスと激闘を繰り広げて周囲を黙らせると、近接職の部隊『第一騎士部隊隊長』に任命された。
それは名誉であり、幼き頃より騎士に憧れを抱いていたアズラは喜びに打ち震えた。
「魔王様の為に、この身は忠誠を誓おう」
ーーそして、事件は起こる。
受勲式で魔王より「護帝の剣」を授かると、職業「騎士」への洗礼を受けた。誇らしい気持ちと同時に自分のステータスを確認して顔を顰める。
「職業 ◾️◾️◾️◾️」
職業が騎士になっていない。それは魔王に忠誠を誓っていないという事になる。一体何故だと混乱する中、その事実は洗礼を授ける鑑定持ちの神官によって、周知されてしまった。
「気にすることはない、我が惚れ込んだのは貴君の力量だ。剣を返上しろなどとつまらぬ事は言わん」
魔王ビナスはアズラを諭したが、誰よりも自身が納得いかなかった。
そんな時、ミナリスから新しい騎士へ授ける為の装備を封印の洞窟に取りに行ってくるように命令を受ける。指令書には己の迷いが晴れるまで旅をしてこいとの追記もあった。
むしゃくしゃしていたアズラはそれを引き受け旅にでる。魔獣を狩り続け、盗賊を殲滅しながら封印の洞窟へと向かう。
しかし、辿り着いた先に見た光景は財宝の守護役であるオーク達の全滅。オーククイーンはそこらへんの冒険者が倒せるレベルじゃない。
財宝や装備も上位のランクのみが持ち去られている。ーー強者がいたのだ。自らとやり合える程の強者が。
アズラは歓喜した。装備のリストを見ながら木々を飛び回って盗人を探す。
そんな矢先、信じられないが小さな幼女が宵闇の宝剣とフェンリルの胸当てをつけ、何かを探しながら凄まじいスピードで走っているのを見つけた。
『こいつ』だと確信したアズラは、剣に雷を宿し一閃したのだ。
__________
レイアに出会うまでの自分を思い出し、ボロ負けした現実を認めてアズラは泣いた。
「う、うぅぅ、ゔおおおおおぉ〜〜っ!!!!」
悔しさからか、後悔からかはわからない。ただ、この日初めてアズラは酒に逃げ続けた自分と向き合ったのだ。
泣き続け、全てを認め肯定した後に別人のような精悍な顔付きをしていた。
「もう一度……最初からやり直すんだ……」
髭をそり、放置していた大剣と腰の剣を磨いて手入れし、ひたすらに振るう。狭い部屋の中で壁に傷をつけないのは技術が必要だ。
それすら剣士は楽しんでいた。無心に剣を振るう。ただ、剣を振るう。寝る間を惜しみ、五時間程経った後、ベッドに息を切らし倒れた姿はーー
ーー「おっさん」では無く、一流の剣士の顔をしていた。
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