第20話 おっさんと特訓とチートするロリ女神。

 

 夜、アズラと合流したレイアはある相談をしていた。


「ねぇ、おっさん。明日から剣の特訓するから付き合って? あと常闇の宝剣の他に、もう一本凄い剣が欲しいから頂戴? ってか寄越せ」

 レイアは何故かナナにはあれだけ弱いのに、おっさんにはまるで主人の様な強気な態度を見せる。


 これは結局おっさんは優しくて馬鹿で脳筋だから平気だろうと、そして、きっと特訓とか言う響きに弱く、ワガママを多少聞いてくれると言う甘えと、悪どい考えが織り混ざった結果だった。


「特訓かぁ。ふむ、悪くないな……レイアの人に対する頼み方については、後々特訓中に指導するとして、もう一本の剣か。一体何に使うんだ?」

 ロリ女神はその問いに、ムフフッと変な顔をして笑い返す。


「やっぱ剣と言ったら両手に持ちたい! そう、俺は双剣使いになるのだ!!」

 ドヤ顔で自信満々に宣言するが、アズラは真剣に悪くないと考えていた。


 小さな身体に小回りが利く双剣は相性がいいし、何より眼前の幼女の力は 、技術を除いたステータスなら自分と変わらないものだ。剣に振り回される事もないだろう、と。

 そこへ、突然レイアが問題発言をぶっ放す。


「だからその使ってない、腰の剣をおくれ?」

 アズラは自分の腰の剣を見る。そして少し物悲しそうな顔をしながら願いを断った。


「……すまないが、この剣は貸すことも出来ない。大事なもんなんだよ」

「ぐぬぬっ⁉︎」

 レイアは断られると思っていなかったので、作戦の失敗に大きなショックを受ける。諦めずに食い下がろうとするが、その後もアズラは断固として断る以外何も教えてくれなかった。

 諦めて明日からの特訓の話と、練習用の剣についてお願いしてから大人しく部屋に戻る。


 __________



 アズラは酒場で琥珀色の酒をロックで飲みながら考えていた。自らの現状を思い出し、どうしたものかと酒の酔いに任せて現実逃避している。


 レイアには語っていない、『ある問題』があった。魔王軍にすぐ戻らないのは封印の洞窟の件だけではなく、問題の解決の為に自由に旅に出ることを許可されているからだ。


「何とかしなきゃならねぇが、手が見つからねぇんだよな……」

 今日も酒を飲み続け、思考が酔いで混迷してからベッドに寝転がる。


「まぁ、今はあいつに付き合うさ」

 明日からの特訓を楽しみにしていた魔人は、いつもより早く瞼を閉じるとそのまま眠りについた。


 __________


 翌朝、目を覚ましたレイアは特訓の為の準備を始める。


「ナナ、このスキルの効果は俺の想定している通りで大丈夫か?」

 仕事モードのナビナナが即答した。


「はい。上手くすれば、予測を上回る成果が見込めると思います」

 女神は満足そうに大きく頷くと、部屋の床に右手をついてまだ試していなかったリミットスキルを発動する。


「『セーブセーフ』発動!」

 地面から紅い文字が浮かび上がり空中に陣を描いていく。レイアが考えた特訓とは、身体の強化はもちろんだが「経験と実践」を主に伸ばすものだ。


 アズラとこれから実戦形式で剣技のみの訓練を夜までみっちりと行ない、ナナとシミュレーションによる反省と対策を練る。


 二十三時間後に、今のこの円陣を敷いた時間まで戻り、『セーブセーフ』を一度使っている二十四時間を特訓と休息に努め、次の日の朝また『セーブセーフ』を発動させて、反復練習と実践を繰り返すのだ。


『セーブセーフ』は全MPを消費するが、今は魔術を使用出来なくても剣技のみなら問題ないし、多少は時間が経てばMPも自然回復して使える。

 永遠にかけ続けるのは、二十四時間に一度きりという制約によって不可能だが、これでも充分過ぎるチートスキルだと考えていた。


「さぁ、楽しい特訓の始まりだぁ!」

 レイアは特訓の辛さより、導き出された結果が楽しみでしょうがなかった。


 この日からアズラにとって驚愕と焦燥の日々が続く事を、当の本人はまだ知らない。

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