第19話 外面と内面は意外に違う事が多いという現実。
金色の翼が広がり、部屋の中が煌々と輝いていた。ハビルは娘のアリアが元の姿に戻り、赤児の様に泣いている光景を見て『神はいたのだ』と共に涙を流している。
アズラは突然起こった奇跡に顎が外れ、鼻水を垂れ流しながら驚愕していた。
相変わらず締まらないおっさんであり、その後もレイアの顔をじーっと目を細めて睨んでいたが、無視される。
何故なら当の本人はというと、内心超テンパっていたのだ。
(やっばぁぁぁい! このスキルやばい! 何故『女神の腕』なのに羽根が生えるのだ⁉︎ しかも、やたらでかい! そこは身体に合わせてひよこ羽根でいいでしょうよ! おっさん、めっちゃ俺を怪しんだ目で見てるし〜! 取り敢えずこの光ってんの消えてくれ〜! それにしてもこの子柔らかいし、よく見ると可愛いなぁー! 髪サラサラ〜! はっ⁉︎ それどころじゃない、そうだ! こんな時はナナお姉さんに聞こう! さぁ、良い子のみんな! いっせーのでいくよ?)
「いっせーの! ナナおねぇさああああぁん!!」
「…………」
「返事がない、まるで屍のようだ……」
「誰が屍だぁ誰がぁ⁉︎ この駄目マスター!!」
主人格ナナが怒声を張り上げながら、ようやく反応した。
「『女神の腕』は、本当に奇跡を生む力、つまり神気を使ってるんだよ。だから女神様の身体がより力を引き出されて、羽根が生えたんだと思う。集中すれば消せるよ! あと、きっとスキルになってると思うからあとで確認すれば?」
「わかった! とりあえず目立つから消す! 消えろ〜消えろ〜!」
レイアがむむむっと念じていると、光が少しずつ抑まっていき、羽根は光の粒子となって消え去った。
__________
その後、ロリ女神はこの場をとりあえず逃げようと決意する。いつの間にか穏やかに寝息を立てているアリアの肩に毛布をかけ、ベッドから立ち上がった。
「もう大丈夫そうだから宿に戻るね。一応何かあればエジルの宿に連絡して? 地竜の件も気になるから予定を変更して十日間位村にいるよ。おっさんも問題ないよね?」
「おっさんじゃないが、予定変更には賛成だ。色々聞きたい事もあるしな。覚悟しとけよ?」
アズラと見つめ合い頷くと、何度も御礼を言いながら涙を流し続け、目を真っ赤に腫らしたハビルを後に宿へと戻った。
「だはぁぁぁっ! 疲れた……」
レイアはテーブルに突っ伏して料理を待っている。アズラは聞きたい事があり過ぎていたが、今はいいかと少し遅い昼食を楽しみにしていた。
ーー二人共朝からハビルに呼ばれていた為、最早空腹だったのだ。
「お待たせしたね。沢山食いなぁ!」
エジル婆が持ってきた大皿には、驚く事に麺料理が盛られていた。
異世界で麺料理が食べられると思っていなかったレイアは、胸をときめかせながらアズラに尋ねる。
「ねぇ、おっさん! これ何ていう料理?」
「ん? 海鮮トーラじゃないのか? 別の村の主食になってるトーラっていう麺を使った料理だと思うが詳しい事は知らん。俺は村にいる間は食う専門だ! とりあえず食え!」
魔人の雑な説明を聞いた後、幼女はとりあえず腹が減っていたので、レシピは後でいいやと敬礼して食べ始めた。
「ズゾゾッ! はぁ〜! 美味しいよ〜!!」
麺など食べられないと思っていた為、喜びに打ち震える。
五センチ程の殻つき貝は身がプリプリしていて塩味とよく合い、苦味もない。甲殻類の魚介は、茹でてあるのにまるで半生のような柔らかさと、パサパサした感じが一切しないので、崩して麺に絡めやすかった。
肝心のトーラはリングイネに近い太さでしっかり歯ごたえが残っているし、少しピリピリする辛味のある香辛料が練りこまれているのがわかる。
エジルの宿は本当に料理が美味いのだ。レイアはきっと年の功だろうと、だらし無く頬を垂らしていた。
満腹になった二人は少し休みたかった為、一旦別れて夜に合流しようと予定を変更する。
「さて、どうやっておっさんを誤魔化そうかなぁ?」
バッチリ見られた女神の力の言い訳を考える。おっさんを信じるにはどうしたらいいか、何処まで信じていいのか、と。
初めての異世界生活で共に旅をする仲間を、無碍には出来まいと真剣に考えようとするが、ーー直ぐに飽きた。
「まぁ、おっさんなら幾らでも騙されるだろうし、悩まなくてもいっか!」
ロリ女神は深く考えなくても何とかなるだろうと、昼寝を始める。
この時アズラに全てを打ち明けていれば、違う未来もあったのかも知れないと後に後悔する事になるとも知らずに。
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