第228話 ドワーフの国の守護者

 

 真女神教の支部兼アジトに戻り、疲労から一日中眠り続けたレイアは、起きると同時に指示しておいたマッスルインパクトの各支部長に召集をかける。


「やぁ、キンバリー君。この念話石を用いた通信システムはとても便利なものだね」

「イエッサー! 軍曹のお褒めに預かり光栄であります!」

「うんうん。さて、朝早くからすまないが、本題に入りたいんだけど良いかな?」

「イエッサー! 各支部の支部長、もとい真女神教の信者達へ招集をかける様に昨日から伝達してあります。軍曹のお言葉を受け賜る準備は完了しております!」


「素晴らしい。良くぞここまでマッスルインパクトを育てあげた。君の功績に報いる報酬を考えておこう」

「はっ! 光栄であります! 一つ質問してもよろしいでしょうか?」

「許そう」

「この度、初の全体招集は一体どの様な意図があるのでありますか?」

「……それをこれから説明するのだ馬鹿者。貴様は俺の貴重な時間を十秒間無駄にした。先程の報酬の話は無しだ」

「ーーーーッ⁉︎」

 その台詞を聞いたマッスルインパクト全支部の団員が身を引き締め、自然と敬礼のポーズを取っていた。


「さて諸君。君らは俺の為に死ねるか?」

「「「「「「サーイエッサー!」」」」」」

「今回、俺はドワーフの国に喧嘩を売られた。そして、コヒナタが拐われ、俺は不覚にもまともには戦えない状態にある」

「「「「「「マジっすかッ⁉︎」」」」」」

「お前達は勇敢な戦士だ。俺の為に戦い、俺の為に死ねるか?」

「「「「「「サーイエッサー!」」」」」」

「いい返事だ! 俺も鬼ではない、貴様らがレイアちゃん人形を崇拝していると、この場にいるガジーとソフィアから聞いた」

「その通りであります!」

「……ひ、非常に遺憾ではあるが、この度のドワーフとの戦争に勝利し、無事コヒナタを救い出した暁には、レイアちゃん人形『手ブラバージョン』を進呈しようと思う……」

「「「「「「「「「「「な、なんですとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお⁉︎」」」」」」」」」」


「そ、それは冗談では無く、言葉通り乳房を掌のみで隠すという事ですか⁉︎」

「そういう事だ!」

「嘘じゃないですよね⁉︎ やっぱりあとでやーめた! とか無いっすよね⁉︎」

「俺は女神だ! 嘘はつかん!」

(あげた後に壊さんとは言って無いからな)

「……………………」

 無言のままに、軍曹からの声明を聞いた団員達は各々欲望に身を任せて想いを奔らせていた。


「野郎ども! 戦争じゃああああああああああああああああ!」

「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」

 キンバリーはまるで若返ったかの様に勢い良く拳を振り上げた。念話石を通じて鼓舞された団員達の咆哮が混ざり合う。

「うんうん! 筋肉ども、俺の為に戦って、俺の為に死ねえええええええええええええ!」

「「「「「「ヒャッッハーーーーーーーー!!!!!!」」」」」」


 __________


 翼飛竜シュバリサを全速力で飛ばす者。

 ひたすらに馬を走らせる者。

 海路を選んだ者。

 エアバイクを購入した者。

 マッスルインパクトの面々は続々とゼンガの領地内に召集する。


 レイアは元々無関係なドワーフの民を巻き込む気は無かったので、一旦城下町を出て、先日襲われた賊のアジトを男達に掘らせ、拡張して本拠地とした。

 ソフィアの心痛を考え、やめた方が良いかと悩んでいた時に、在ろう事か本人から提案されたのだ。

「私の事を気遣って下さるのは嬉しいですが、部下達に情けない姿を見せる訳にはいきません。軍曹の望むままに命令して下さい!」

「お前は強いなぁ……ありがとう」

「はいっ! 私も作業を手伝ってきます!」

 数時間後、ドワーフ達が岩を削って作ったテーブルを囲って地面に座り、主要メンバーだけでの作戦会議が始まった。

 大規模な作戦は支部長が集まってから行うが、先に標的について知っておきたかったのだ。


「この場に、本当に俺がいて良いのか?」

「爺さんがリベルアのリーダーである事は変わらないだろ? 今回の件を知って、異論を発したメンバーがいたか?」

「い、いや……確かにそうかもしれんが、お前さんを裏切った事実に変わりはねぇ」

「大丈夫だよ。次に嘘を吐いたら『喰らう』からさ……」


 ーーゾクッ!

 レイアがその一言を洩らした瞬間、その場にいた者達の背筋が一瞬で凍り付いた。口元は笑みを浮かべているのに、冷酷な視線の奥には得体の知れない闇を宿している。

 右手の指を口に見立ててパクパクと上下する可愛らしい仕草が、途轍もなく恐ろしい何かに見えたのだ。


「き、肝に命じておくぜ」

「さて、今はとにかく情報が欲しい。リベルアの諸君が知っている敵の戦力と、脅威に成り得る要素、王とネイスット、この四点について知っている事を話してくれ」

 ドルビーは立ち上がると、皆を代表して問われた質問に答えた。


「まず、敵の戦力についてだが、今回レイアを襲った者達の正体と関係がある」

「確か『タイタンズナックル』とかいう名前だったか?」

「あぁ、今回お前さんが倒したのはその『暗部』にすぎねぇのさ。パーティーと呼ぶには規模が大き過ぎてな。ゼンガでは奴等を戦力として、正規軍に迎え入れているんだ」

「ん? 冒険者と契約を結んでいるって事?」

「その通りだ。知ってると思うが、俺達ドワーフは力と器用さのステータスは高いが、戦闘にはからっきしでな。戦うよりも物作りが好きな種族だ」

 レイアはコヒナタが『神降ろし』をする前の状態を思い出し、確かにそうだと納得する。


「そこで、SSランク冒険者『バッカーデン』を中心に組織され、都合よく装備を卸していた『タイタンズナックル』に王自らがある契約を持ち掛けた」

「…………」

「この国の『至宝十選』の武器の半分までだが、望んだ時に使用していいってな……」

「……阿呆なのかこの国の王は? 他人に至宝認定された武器を使わせるなんて、寝首をかかれたらどうする気なんだよ」

「耳が痛てぇこった。でも、そうはならねぇ理由がある」

「成る程、ここでネイスットか」

「あぁ、『至宝十選』の武器を使えるのは、ゼンガ領内に限ると制約を交わしてあるのさ。だが、一度その武器の凄まじさに惚れ込んだ奴等はこの国を離れられず、リーダーのバッカーデンを含めて、千人を超えるゼンガの絶対的戦力と言っていい。勿論これにドワーフ軍も加わる」


「Sランクを超える武器を持った上級冒険者が相手か……確かに厄介な障害だなぁ」

 レイアは一瞬瞼を閉じると、情報を整理した後に現王ワーグルが王になった経緯と、神官ネイスットの正体が秘匿された存在である事を続けて聞いた。


 _________


「欲しい情報は大体手に入ったよ! ありがとうね」

「軍曹、お耳に入れたい情報が御座います」

 ガジーは団員から知らせを受けて、レイアが調べる様に命じていた『最も探したい存在』の居場所が判明した事を耳打ちする。


「見つかったかぁ……みんなが集まるまでに、先ずはそっちへ向かうとするか。ソフィア、ガジー、俺について来て。念の為に向かう場所を補佐に伝えておく様に」

「リベルアからも、地理に詳しい者を一人出すぞ」

「助かるよ! 多分、戦闘にはならないと思うんだけど、あちら側にもどう行動するかよく分からない女剣士が一人いるからさ」


『新たな精気を吸われた男性被害者が出た』

 戦の準備を整える前に、レイアは封印解除の為に悪魔(デモニス)との交渉を優先したのだ。

 嘗て裏切られた存在、ーーエルフの国のSSランク冒険者、『精気喰い』のリミットスキルの持ち主、妖艶な美女リコッタとの再会は近かった。

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