第329話 ダークエルフの目的。

 

 俺達は戦いが終わって即座に獣王スクロースの呼び出しを受けていた。

 道場に戻ると獣人の猛者達に囲まれ、事情を説明する様に詰め寄られたが今の状態で俺の正体をバラしたくは無い。


 ーー既に手遅れな気もするけど。でも、俺には秘策があるから平気なのだよ。


「わいとザンシロウがエルフの客人に無理を言って、手合わせをお願いしただけじゃい。なぁ、インメアン学園長殿?」

「ホッホッホ! 済まなかったのう。事前に話を通しておくべきじゃったな」

 インメアン学園長はSSランク冒険者であり、その名と魔術の力量はこの国にも届いている。少なくとも、獣王は知っている。


 先程の巨大な炎の渦は、インメアン学園長の最上級魔術だと口裏を合わせて貰った。納得がいっていないのは当の本人だけだろう。


 その後、俺達は王城と言うより、自然の岩や鉱石が作り出したかの様な砦に連れて行かれた。

 インメアン学園長とランガイは王の元へ、俺はザンシロウと一緒に地下に捕らえてあるダークエルフを見に行く為に別れた。

 タロウは俺の影に隠れ潜んでいる。


「ザンシロウは一体どうやってダークエルフだって事に気付いたんだ? エルフの皮を被って擬態するんだろ? しかも意識を沈めている間は自分自身でも思い込んでるって聞いたぞ?」

 俺の質問を受けて、ザンシロウは髭をさすりながら考え込んだ。だが、返って来た答えがロクでも無い。


「ばっかやろう戦神! 勘だ勘! それにしてもさっきの技は半端じゃねぇな。まだ油断すると肉体が崩れそうだぜ」

「この馬鹿……もう一発食らわせてやろうかな」

 俺が杖の先を向けると、ザンシロウは顔を痙攣らせて話題を変えた。


「い、今は勘弁しろ。そういや、あの赤と黒の剣はどうしたんだ?」

「修理中だよ。ちょっと厄介な怪物と戦って消耗したんだ」

「ダークエルフの件もあるが、なるべく早めに直した方が良いぜ」

「??」

 双剣を早く直した方が良いのはわかってるつもりだったけど、特に急がなければならない理由に心当たりがなかった。


「数週間前から、翠蓮がやたらと鳴いてやがる。俺様が今回ダークエルフを見つけたのは、人探しのついでだ」

「ふ〜ん。まぁ、心に留めておくよ。そろそろかな」

 地下の階段を降りて行くと、鋼の牢屋が見えてきた。ザンシロウは親指を立てて、あっちだと目的の場所を示している。


「……こりゃあまた、厳重だな」

 ダークエルフの実物を直接見るというのはそれ程に難しいのだろう。首には隷属の首輪を、両手両脚にはグラビ鉱石から伸びた鎖が繋げられていた。


 そして、真白い肌に金色の髪を垂らした美しいエルフの少女が啜り泣いている。年齢は二十歳前後にしか見えないが、エルフの年齢は参考にならないからなぁ。


 俺はすかさず『女神の眼』を発動する。


 __________


【名前】

 デイル

【種族】

 ダークエルフ族

【年齢】

 325歳

【職業】

 邪術師

【レベル】

 46

【ステータス】

 HP 1289

 MP 5980

 平均値 2254

【スキル】

 擬態

 魔力吸収

【称号】

 邪神に心を捧げし者

 _________


 うわぁ。『女神の眼』だとバッチリ正体分かるじゃん。学園長が鑑定とか真贋のスキルじゃ無理だっていうからわざわざ来たのに意味ねぇ。


 俺が呆れて肩を落としている所へ、エルフの少女が叫んだ。表向きだけ見たら心が痛むわぁ。


「一体私をどうしたいのですか⁉︎ 何故、突然こんな非道な行いをなさるのでしょう⁉︎」

「いや、もう演技とか良いから。さっさと正体見せてよ、ダークエルフのデイルだっけ?」

「ッ⁉︎ 貴女は一体何を、ーーどうして私の名を知っているのだ!」

 二重人格みたいに突然少女の放つ雰囲気が変わると、白い肌が波打つ様にして黒く染まる。骨格自体がボコボコと変化すると、顔の中からもう一つ新しい顔が出てきた。


「気持ち悪っ!! お前男じゃん! ザンシロウさん、変態ですよ! ダークエルフの変態さんがここにいましたよ⁉︎ 警察呼んで〜!!」

「……戦神も中身は男だとか言って無かったか?」


 ーーガハァッ!!


 冷静なザンシロウの視線が刺さると、俺は盛大なブーメランだった事に気付き、血反吐を吐いて崩れ落ちた。穴があったら入りたいとはこの事っすか。


 もうこの生活に慣れすぎてて忘れかけてたよ。


 ここまで精神的ダメージを受けたのは久々だ。やるなダークエルフ。俺のグラスハートは砕け散る寸前だわ。


「ごほんっ! き、貴様の様な少女に見破られる程、我等の擬態は甘くないぞ⁉︎ 一体どんなアイテムを使った⁉︎」

(あっ。続けるのねデイル君。幼気な少女が血反吐を吐いて悶えてるのに、続けるのね? それとも空気読んでくれたんすか?)

 俺は涙を拭うと、何事もなかったかの様に立ち上がって話を戻した。こっちから情報を与えてやる必要は無いんだけど、どうしたもんかな。


「デイルが情報をくれたら、対価として教えてやるよ」

「……私は何も吐かんぞ。邪神様を裏切れば粛清される」

「戦神よぉ。面倒くさい事言って無いで、拷問すりゃ良いんじゃねぇの?」

「ザンシロウはちょっと黙っててくれ」

 さっき言った邪神に粛清されるって言葉は嘘じゃ無かった。そもそも、ダークエルフとエルフに何の違いがあるんだろう。

 信仰する神が違うからって、肉体的な変化が起きるまでに至るかな?


 俺はもう一度デイルの身体を隅々まで観察した。すると、一箇所おかしな反応を示している。


「なぁ、お前の心臓の辺りに瘴気を感じるんだけど、もしかして何か埋め込んでない?」

「〜〜〜〜ッ⁉︎」

「ビンゴか。それが一体何なのか確かめさせて貰うよ」

「や、やめろおおおおおっ!!」

 牢屋の扉を開けて俺が中に入ろうとすると、先程とはうって変わりデイルは暴れ始める。エアショットで軽く顎先を揺らすと、そのまま昏倒させた。


「そういう事か。じゃあこいつらの言ってた邪神って……」

「確かに驚いたな。一体どうやって封印結界シールフィールドから取り出したんだ?」

 ザンシロウが目を見開いている。心臓から瘴気の発生源を抜き去った後、デイルの傷口を塞いでいると更に驚くべき事が起きた。


「うあぁ、あああああああぁ〜〜!!」

 突然ダークエルフの肉体が溶けていく。老化ではなく、言葉通り融解していくのだ。俺とザンシロウはそれを眺めているしか出来なくて、暫くした後に残されたのは殺されたエルフの皮だけだった。


 こいつに罪がない訳じゃないし、心は痛まない。


「やっぱりこれって、『悪神の魂の欠片』だよなぁ?」

「間違いねぇよ」

 悪魔の王アグニスとリコッタ姉さんに持っていかれた欠片とは違い、更に極小に破られたミリ単位の破片だ。リコッタ姉さんは妊娠中で今回の件には関わっていないだろう。


 アグニスは力を吸われて、こんな大業な真似は出来ない。それに従っている悪魔ラキスも同様だ。


 一体誰が何の目的で動いているかは知らないけど、学園に潜伏しているダークエルフから聞き出せばいいかな。

 大掃除開始だ!

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