第328話 『三人のGSランク冒険者』 後編

 

「行くぞザンシロウ! 天飛アマト流奥義『金剛波斬』!!」

「おうよっ! 天飛アマト流奥義『鬼神連斬』!!」

 俺が闇の衣を纏うと、怯む事も無くランガイとザンシロウは奥義を繰り出した。俺は挟まれる様に繰り出された無数の刀身を、『闇夜一世』の黒手で掴み上げる。


 驚いたのは、防ぎきれなかった黒手が斬られて散らされた事だ。


「お前ら凄いじゃんか! その刀も喰えないみたいだ!」

「奥義を飄々と躱しておいて何を抜かすか! この化け物め!」

「ハハッ! 相変わらず強くて嬉しいぜぇ戦神!」

 ランガイは居合いの達人だ。油断すれば俺の女神の眼でも視認出来ない様な斬撃を繰り出してくる。

 ザンシロウは驚いた事に連携して、ランガイが生み出した隙を狙ってるみたいだ。


「喰え!」

 致命傷を与えても、あとで治してやれば問題ないだろ。俺は全力で黒手を発生させると、円形状にランガイを包み込んだ。

 黒球の中では肉を喰われる悲惨な光景が繰り広げられているだろう。


「甘いわい!!」

 ーー斬!!

 だが、ランガイは何事もなく黒球を抜け出した。すげぇな。一体何回斬れば、黒手を霧散させられるんだ? 筋が多過ぎて見切れない。


「呆けてんじゃねぇぞ戦神!」

「うるせぇ脳筋馬鹿!」

女神の盾アイギス』を発動して振り上げた俺の拳と、振り下ろされた翠蓮の刀身が打つかり合う。

 おいおい、地面が沈むとかどんだけの力だっつの。


「チィッ!!」

「おい。斬ったぞ」

「ーーーーァッ⁉︎」

 ザンシロウの舌打ちの後、小さく呟かれた一言を聞いた途端に俺の右腕から血が噴き出した。ボトリと音を立てて地面に落ちた腕を見つめながら激痛に蹲る。


「これで終いかのう」

「……吹き飛べ」

「馬鹿野郎! 戦神がこの程度で終わる訳がねぇだろうが!!」

「ーー何ぃ⁉︎」

 俺は蹲るのと同時に『神樹の杖ガルバンテイン』を次元魔術から取り出し、無詠唱でメルフレイムストームを放った。


 ーーさぁ、防げるもんなら防いでみろよ脳筋共。


 __________


 それは正に天災と言っても過言ではないレベルの魔術だった。

 遥か遠くの旅人や商人からも見えるほどの炎の嵐が獣人の国アミテアの上空へと巻き上がり、一体どれだけの死者を出したのかと噂される程に強力な力の奔流を人々は感じたのだ。


「こんの阿呆があああああああああっ⁉︎」

「やり過ぎだ馬鹿野郎おおおおおおっ!!」

「うん……やり過ぎちゃった、かも……」

 レイアは自分自身を結界で守っていたから熱のダメージから守られていたが、斬り落とされた右腕を繋ぎつつ、上空へと舞い上がっていくランガイとザンシロウを見つめていた。


 決闘の森の周囲一体が灰と化し、焼け野原の中央に一人で佇んでいる。


「彼奴ら、よく生きてるな。この威力って天獄テンゴク並だと思うんだけど……」

 流石はGSランクだと頷いている所へ、焼け焦げた二人が落ちてきた。


 __________


「……こんの化け、もんが、ぁ」

「……再生する、ま、で待ってろ〜!」

 ピクピクと身体を震わせながら、地面に伏した二人を見て俺は溜め息を吐いた。まだ諦めてないとか、凄い根性だけどね。


 俺は女神の翼で上空に飛ぶと、神樹の杖ガルバンテインを掲げる。


「フレイム、フレイム、フレイム、フレイム、フレイム、フレイム、フレイム、フレイム、フレイム、フレイム、フレイム、最後にメルアイスフォールン!!」

「「んぎゃああああああああああああああああああああああっ〜〜!!!!」」

「ふはははははっ! お前達が死ぬ限界まで打ち続けてやるわぁ!!」

 一人で魔王プレイなんて楽しんだりしながら、ひたすらに巨大な炎球を撃ち放ち、たまに嫌がらせの様に極大の氷塊の雨を降らせてやる。


 初級魔術なんて幾ら撃った所で、魔力枯渇にはならないしね。流石にもう終わっただろうと闇夜一世とアイギスの自動防御を解除する。


「「…………」」

「うん、これは流石に死んだかな?」

 ーーストンッ。

「えっ? キャアアアアアアアアアッ⁉︎」

 俺が丁度地面に降り立った瞬間、両膝から下が地面に落ちた。両断されたのだと理解する迄に、時間差がある程の一撃。

 これには流石に叫んでしまう。


「油断したのう? じゃが、此方のダメージも確かに相当なものだったぞ」

「おいおい、なんで不死者の俺様よりお前の方が先に立ってんだよ。どっちが化け物かわかりゃあしねぇな」

 肌を灼け爛れさせながらも、口元をつり上げる剣士二人。全てはこの時の為か。俺が終わったと判断して闇夜一世を解除するのを待ってたのか。


 ーー本当に常識の通じない強者。それを相手に命の心配とか、馬鹿か俺は。


「……殺す!」

「おうおう。ようやく舐めた攻撃を止める気になったみたいじゃなぁ。さっきから一々この程度ならわいらが死なんじゃろうみたいないらん気遣いしおってからに!」

「俺様は死にたくても死ねねぇんだって忘れたのか馬鹿が!」

 俺は両膝を拾い上げると瞬時に『女神の翼』で空へ舞い上がった。『超再生』でくっつける時間を稼ぐつもりが、悪手に終わる。


「そう来ると思ったっつの!」

「くそッ!」

 翠蓮が振り下ろされ、ザンシロウの身体ごと地面に叩きつけられた。落ち着け。そう思った直後に、俺の左肘から先が地面へと落ちる。


「幼女の身体を斬り落とすのはわいの趣味じゃないんだがなぁ」

「うああああぁっ⁉︎」

「大人しくしやがれ!!」

 身体を激しく揺らして暴れる俺を押さえつける様に、ザンシロウは残された右腕に翠蓮を突き刺して固定した。


 身体中に激痛が迸り、血が噴き出して頭までガンガンと痛む。確かに舐めていたのは俺か。でもここまでされても、負けたくないな。それに、ーー負ける気もしないのは一体なんで何だろうなぁ。


「神樹の杖……魔術連装展開! 『聖櫃』、『久遠』、『女神の盾』、『聖絶界』同時発動!!」

「まだ何かするつもりなんか⁉︎」

「なんだ戦神⁉︎ その結界は⁉︎」

 俺は自分の周囲を絶対防壁とも呼べるスキルで囲い、一定距離までランガイとザンシロウを弾き飛ばした。

 ランガイはその隙にも居合いで俺を斬ろうとしたみたいだけど、それぞれの弱点を補う様に展開された防御壁が俺の肉体を守っている。


 神樹の杖のトリガーに指をかけると、俺は魔力と神気を込めた。杖は俺の想いに応える様にしてその形状を変化させていく。


「死ぬなよ。これは俺の新しい魔術の形だ」

 コヒナタのザッハールグを見ていて閃いた機能だ。杖を持つだけでこれだけの魔力の増幅が叶うのならば、『鳴神ナルカミ』の様に神気を充填すればその力は更に増すと考えた。


 現に、イザヨイに渡した『二丁神銃ロストスフィア』の威力は凄まじい。俺が求めたのは魔術を連射する力。


 ーーフルバースト!!


((拙い⁉︎))

 先程の極大魔術とは違ってザンシロウとランガイは刀を構えて防ごうとしたみたいだけど、無意味だ。

 一発一発の炎弾に全て神気が込められている以上、攻撃力は段違いに高まっているし、殺傷能力は凄まじいだろう。


 ーーズドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!


「降参じゃあ! わいはまだ死にたくない!!」

「何だこんなもん、俺様に通用するとでも、ーーオブフゥッ!!」

 降参の合図と共に瞬時に避けたランガイはともかく、雄々しくも飛び込んだザンシロウは無数の炎弾に貫かれ、地面を抉りながら、全弾発射がおさまるまで撃ち抜かれ続けていた。


 これでも折れていない翠蓮ってすげぇ名刀だな。


「「……不死者で良かったね(の)」」

 ハッキリ言ってめっちゃグロかった。俺が普通のか弱き少女ならトラウマになってるよって言いたい程に、ザンシロウの身体は散り散りになっている。


 取り敢えず、これで漸く大人しくなってくれるだろう。そう願いたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る