第3話 「そして俺は女神になり、夢は儚く散る」

 

「う、う〜ん……」

 身体を転がしながら目が醒める。微妙に身体の節々が痛いが、記憶はハッキリと覚えていた。ここが女神様に飛ばされて来た筈の異世界。

 俺は何故か涙を流していて、理由は分からなかったけど女神様の所為だと思った。別れ際の表情が何かを堪えている様に悲しげで、どうしようもなく辛かった気がする。


「でも、次に会った時に聞けばいいか!」

(これから始まる異世界生活が大事だ。新しい俺こんにちわ! さようならボール! 跳ねるの案外嫌じゃなかったぜ? でも、もう振り返らない! だって俺にはハーレムが待っているんだもの!)


「ボールになんて戻ってられるか、クソが!」

 唾を吐き捨てるように過去の自分と決別する。夢の為に多少の歪みは必要なのだ。


「それにしてもここはどこ? なんか森っぽいけど、全部がデカイな」

 周りを見渡すと自分の身長の七〜八倍はあろう木々が、森林浴なんて絶対したくない邪悪なオーラを漂わせている。合間から飛び去る鳥は黒鳥は、カラスの五倍位の大きさをしていた。


 ーーあんなのに襲われたらヤバイんじゃねっ?  


「とりあえず、現状の把握が一番大事だ。まず水場を探して、この世界での新しい顔や、身体も見たいしな」

 幸いここは木々の中、水源を探すのは難しくなかった。地面の湿り具合などを確認しながら、足を進めると小川が見えてくる。

 綺麗とは言えないが汚染はされていなそうだ。右手ですくい上げて恐る恐る飲んでみた。


「贅沢は言えないが……水が不味いってさ、もう料理もなんもかも不味くなりそうで嫌だ!」

 愚痴を言いながらもいよいよ本番だと、顔を洗い泥を落として川を覗きこんだ。


「あれぇ〜俺目が悪いのか? そんな設定か? いや、掛けるのもやぶさかではないが、この世界に眼鏡があるかわかんないぞ〜?」

 ゴシゴシと瞼を擦り、もう一度水面を覗きこむ。


「うん……ロリ女神様やん。どっからどう見ても、ロリ女神様が映っておりますやん……」

 そんなまさかと自分の身体を弄る。

「上半身……ある! 下半身……ない⁉︎ よく考えてみれば、何故俺が女神様の紅ドレスを着てるんだ? なんかちっせえし! あぁ〜、もう面倒くさい!!」

 服を全部脱ぎ捨てて川に飛び込んだ。そのまま身体全体を見るように水面に視線を向けると、『ロリ女神』がいた。紛れもなく、記憶の中にある女神様がそのまま子供になった様な姿だ。


 なんかあらゆる歳上から愛されそうな、可愛い娘っ子が立っておる。同年代は照れ隠しに意地悪してきそうだ。リコーダー舐めたりとか、好きなのにツンデレしちゃったりね。


 ーーそして肝心な部位に、俺の『相棒』がいない。


(これは一体、どういう事だ……?)


 十分間程度何度も水面を見渡し、己の身体を触り続ければ、いくらなんでも理解させられた。


「ふっ、新しい身体か……」

 溢れる涙が止まらない。ちょちょぎれそうだ。かつて球体ボールだった俺は叫ぶ。ハーレムが散ったのを確信しながら、天に向かって悲鳴を上げるのだ。


「い、いくら何でもこれはないだろ女神様ああああああああああああああああああああぁっ!!」

 漢が夢を儚く散らせた慟哭が、ダンジョン『深淵の森』に響き渡ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る