第201話 女神の結婚式に向けて〜マッスルインパクト編〜1

 

 レイアのプロポーズが成功した後、結婚式へ向けて事は早く動くかと思いきや、実際そうでも無かった。

 何故ならーー

「やべっ……俺ここ迄の準備しかしてない!」

 ーーこの一言から始まり、ナナ諸共プロポーズ成功=結婚であり、思考が結婚式に結びついていなかったからだ。


 それを聞いた、天使、竜姫、メイド、ドワーフの巫女は満面の笑顔で答えた。

「「「「今は、ーーそれどころじゃ無い!!」」」」

 レグルスに帰還せず、可能な限り『神域』でイチャイチャしたのだが、それでも幸せが天元突破した美姫達の欲望は止まる事を知らない。

 レイアは辛うじてアズラと隊長達へ準備と、国内の知人を含めて、同盟諸国へ招待状を送る様に指示をして、そのまま部屋へと連れ込まれて行く。


 そこへ隙を付いて挑む、『馬鹿』、ーーもといSランク冒険者のペットが一匹いたのだが、結果としては全身を鞭打ちされた状態で、部屋から放り投げ捨てられた。

「あははははっ! 天国が見えたっす〜! やったすよ! チビリーはやってやったすよ〜!」

 中で何が行われたかは不明のままに、式の準備は進められる。


 そして此処にもその噂を聞きつけて闘志を漲らせている者達がいたーー

「聞けぇ! マッスルインパクトの諸君! 我々の敬愛すべき軍曹へ、祝いの品を差し出すのだ!」

「「「「「「「サーーーーイエッサーーーーー‼︎」」」」」」」

 ーー愛しい筋肉達が立ち上がる。


 __________



『マッスルインパクト幹部会』

 その場には、団長のキンバリーを中心に、副団長のソフィア、ガジー、ジングル、サダルス、デール、更には既に結婚して子も生まれ、一線からは退いたボレット等の初期隊員も集まっていた。


『砂漠の大鼠』を鍛え上げて隊員とする過程でマッスルインパクトにも様々な派閥が出来ると共に、各国へ真女神教の信者達と共に支部が誕生する程の規模へ拡大していたのだが、それでもこの議題について参加しないなどという者は誰一人としていない。

 ーーそれ程に、女神はマッスルインパクトの中で神格化されていた。


「こんなにも俺達幹部陣が集まるのは久しぶりだな。みんな元気そうで嬉しいぞこの野郎! 筋肉は衰えてねぇだろうな!」

「「「「「「「うおおおおおおおおおおっ! マッスルーーーー‼︎」」」」」」」

 団長の号令に皆が立ち上がり、上腕二頭筋や腹筋、胸筋、各自が自慢したい箇所を隆起させた。

 最近は、このノリさえ部下達の前では止めようと名乗りでる者達まで出るのだが、今日は違う。


「改めて言おう! 我らが愛しき軍曹が遂に御結婚なされるとの事だ! 各国から凄まじい賛辞が贈られるのは明白だろう。野郎共……その中で最高のプレゼントを渡すのは誰だ⁉︎」

「「「「俺達だ!!」」」」

 ソフィアが一歩前に進み出る。サダルスがそれに続いた。

「私はあの人に嘗て全てを滅ぼされ、人生をやり直している。だけど一切後悔はしていない……みんなに出会えて良かった。この恩を返したい!」

「俺も同様だ。地獄の特訓を耐え抜いた先に見えた世界は、色を一変させていた。あの光景を忘れていない! 礼を出来るこの機会に、生まれ変わった自分を見せたいんだ!」


 涙を溢れさせながら熱弁する二人の想いに感化され、皆が瞳を潤ませる。その通りだと頷いていた。

「それでは! 今これより『軍曹に何を贈ったら、一番喜ばれるか考えようの回』を開始する!」

 ーー会議名がそのままなのも女神式のままだった。軍曹は絶対なのだ。


「軍曹は最早レグルスの女王にまでなられた……並の価値ある者は自分で手に入れられるに違いない……」

「そうだな……それでは希少魔獣の食材ではどうだろうか?」

「いや、多分被るぞ……各国からの貴賓も招かれるからな。国側もかなりの気合いを込めて、食には経費を費やしているはずだ」

「だが、悪く無い発案だ。数で勝る我等の力を総動員してでも手に入れるのが厳しい品ならば、その価値はある」

「つまり、軍曹が手に入れられたくても、手に出来ないアイテムか……」

「「「……………………」」」

 静寂が場を支配する。各々が世界中に散る部下達から聞いた情報を、脳内に張り巡らせて考察するのだが、中々良い案が思い浮かばない。


「例えば、エルフの国マリータリーの『至宝七選』の様なものか?」

「あぁ、それは正しいがエルフの国は駄目だ。もう既に懇意にしている仲だし、軍曹が頼めば貸してくれるに違いない」

「下手すると、噂に聞く機神ライナフェルドの方が価値は高いしな……」

「国交を開始してから建てられたレイセン支部の情報によると、滅茶苦茶格好良いらしいぞ、ーー巨神」

「乗ってみてぇなぁ〜〜!」

「ふっふっふ! 聞いて驚け! 既に試作機開発に、とある筋から噛ませて貰っているのだぁ!」

「な、なんですと⁉︎ じゃあ、下手するといつか俺達にも乗れる機会が⁉︎」

「来るかもな……」

「やっぱ、すげぇな軍曹……」

「最早、讃えるには銅像とかじゃ足りねぇ……俺のレイアちゃん人形No.88も霞む位の、何かがあればなぁ〜」

「ーーーーーーッ‼︎」

 一斉に皆が立ち上がり、それだとボレットを指差した。


 幹部クラスの人間は皆が協力し合い、ミナリスから手放された至宝『レイアちゃん人形ナンバーズ』を各支部の、祈りを捧げる象徴として有していたのだ。


「そういえば今回の式に際して、神人形師ミナリスの記念すべきNo.100『レイアちゃん人形ウエディングドレスバージョン』が市場に流れると聞いたわ。確かシルミルのオークションで取引されるとか……」

「あの噂は眉唾じゃ無かったのか⁉︎ あのミナリス様がそんな記念品を、己の手元から手離すなど有り得ない!」

 食い付くガジーの真剣な瞳を見つめ返して、ソフィアは力強く答えた。


「これは噂なんだけど……最近は城に置いておくと、『とある破壊神』がその人形を奪取するか、破壊しに来るらしいのよ……見た目は幼い悪魔だと聞いているわ」

「な、なんて恐ろしい存在が誕生したんだ……」


 ーー勿論イザヨイの事である。『二丁神銃ロストスフィア』を手に入れた幼女は、暇があってはお人形さん遊びにハマっており、尽くミナリスは人形保管庫を破壊されたのだ。


 プロポーズ後の女神の姿を目に焼き付けた天才人形師、もとい魔王軍参謀は、今回の作品だけは何としても壊させないと決意した。

 財政を安定させる面でも、シルミルの勇者カムイに相談して、オークションでレイアちゃん人形を愛する同志の手に渡る事を望んだのだ。


「調べろ! 至急、その案件を皆で調べ上げるんだ!」

「あぁ、そして本当なら……かつてない程の金を稼がねばならん!」

「デール! 今一番金を稼げるクエスト関連と、土木作業の情報を集めろ! 汚い仕事は絶対駄目だ!」

「はっ! サダルス様が変わられた所を見せるためなら、儂も体を張りますぞ!」

「筋肉達よ! 急ぐのだぁーー!」

「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおっ! マッスルゥゥゥゥゥゥゥーーーー‼︎」」」」」」」」


 気合の咆哮を轟かせて、漢達は動き出した。


『二日後』


 勇者カムイから、全世界に発信するかの如き書面が拡散された。


 __________


 一週間後、シルミル最大のオークションを開始する。

 これは、レグルスの女王である女神レイアを祝う為のイベントの一環であり、今回のオークションには女神所縁の品が出品される予定だ。


 その内容の一部を公開しよう。

『レイアちゃん人形No.100、ウエディングドレスバージョン』

『世界で二番目に開発にされた時計』


 その二つだ。時計に関しては知らない者もいるだろうから、勇者の名をもって誓おう。

 これは我等王だけが持つ、女神から授けられた至宝であると。


 その価値は計り知れない。

 シルミル国中を挙げて、このオークションを成功させるつもりだ。


 皆、是非参加して欲しい。


 追記……レイアちゃん人形の競りには、同じくレイアちゃん人形のオリジナルナンバーズを持った人しか参加出来ません。偽物は即座に判明されるのでお気を付け下さい。


『勇者』カムイ


 __________


 この宣告に世界は震撼した。馬鹿馬鹿らしいと嘲笑に伏す者もいたが、女神の国レグルス、勇者の国シルミル、冒険者の国ピステア、獣人の国アミテア、エルフの国マリータリーの同盟は事実であり、その中のシルミルが大々的に発表する程のオークション。


 ーー並のオークションである筈が無い。


 各国から、有力貴族の代表者を選抜して望む程の意気込みを見せた準備が進められる。代表的なのはミリアーヌ中央の国、大国シンの賢王オーディルが動いた事だ。


 そんな中、勿論闇に蠢く者達も動き出そうとしていた。手に入れられれば一生安泰とも言える富が得られるのだ。危険が高かろうと動かない筈が無い。


 様々な思惑が交錯する中、マッスルインパクトの全団員達は……


「掘れーー! 掘りまくるんだ野郎共ーー!」

「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ! イエッサー!!」」」」」」」」」


 資金繰りの為に、女神教の信者達と協力して、各国の報酬が高い土木作業に勤しんでいた……



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