第200話 女神と天使の異世界革命〜Propose〜3

 

「シルバ、アズラと冒険者達の回収は頼んだよ。俺は即座にカルバンへ飛ぶから街の屋敷で待ってる!」

『あぁ、あの竜の想いをしっかり形にしてやって欲しい』

「分かってる。最高の素材をくれたんだもんな」

 レイアはアズラの事をシルバに任せて、ダンジョンボスであるクリスタルドラゴンが消滅した事により発生した転移陣に飛び込んだ。

 ダンジョン内では座標が狂うとナナに言われて、一刻も早く届けたい気持ちを抑え、一度外に出たのだ。


 魔竜の巣穴の入り口に転移すると、ギルドの調査員に攻略の報酬を受け取った旨を伝えて、即座にカルバンのニルアーデの元へ『神体転移』を発動させる。

 残された調査員の青年は一日でAランクダンジョンをクリアしたその事実に愕然としつつ、改めてGSランク冒険者『測れぬ者』の力を目の当たりにして歓喜していた。


 __________


 彫金師ニルアーデは工房で準備を整えていた所に、突然現れた英雄を見て悲鳴を上げる。戻りは明日の夜頃になると予測していた為、現実だと信じられなかった。

 豪華な装備以外何も持っていない事から、やはり魔石の噂は眉唾だったのかと項垂れる。恐る恐る視線を向けた。

「な、何でもう帰って来ていらっしゃるのですか? やはり二日間ではとても……」

「いや、もう手に入れて来たよ! ほらっ!」


 微笑む美しい銀髪の美姫のその手には、噂に違えず不思議な輝きを帯びた拳大の魔石、ーー輝彩石が握られていた。

「本当はもっと大きかったんだけど、俺の神気に反応したら何故か縮んじゃったんだよね。輝きは増したんだけど……足りるかなぁ?」

「じゅ、充分だわ! あっ! 充分で御座います……触ってみてもよろしいですか?」

「最初会ったみたいに、普通に話してくれて構わないよ。どうぞ?」


 手渡された輝彩石を両手で握ると、ニルアーデは喜びに打ち震えた。自然と涙が溢れ出して止まらない。

「あぁ……本当にありがとうございます!」

「お礼を言うのはこれからだよ。この輝彩石を指定した数の指輪にして欲しいって依頼を、しっかり果たして欲しい」

「勿論です! 命に代えてやり遂げて見せましょう!」

「本当に報酬は、その魔石を切り出す時の粉塵で良いの?」

「えぇ、それだけでも凄まじい付与効果を生み出す筈ですが、暫くは家宝として保管しておくつもりです」


 ーーいずれ、自分にも大切な人が出来た時に、大事に使わせて貰います。

 そう照れ臭そうに赤面する彫金師を見つめると、つられて微笑んだ。やっぱり良い人だ。安心して任せられる。

「じゃあ、約束通り一週間後に取りに来るね。あげた時計は大っぴらに他人には見せない方がいいよ。今後、世界に革命を起こすつもりだからそれ迄はね」

「心得てますよ。では、一週間後に!」


『女神の翼』を広げて天空へ翔び立つ姿を眺めながら、ニルアーデは創作意欲を滾らせていた。


 __________


「さて……次だナナ。そろそろ本格的に協力して貰うよ?」

「任せて〜! 『聖絶界』と今の私のパワーアップした神力があれば、マスターの要望にもしっかり応えられるよ!」

「ちょっと練習だけしておこうかな。本番で失敗したく無いし」

「そうだね〜! 失敗したら恥ずかしいじゃ済まないもんね! それはそれで面白そうだけど……」

「おい、真剣な場面でドS心発揮するなよ⁉︎ ガチでキレるぞ!」

「えぇ〜? そう言われると、余計心が擽られるね」

 最近忘れがちなドS天使の厭らしく嗤う表情が思い浮かぶと、女神は咄嗟に慌てて叫んだ。


「チェンジ! ナビナナにチェンジで! お前はワインでも飲んでろ!」

「まぁ良いけどさ〜! 最近私に隠れてナビナナと念話してない?」

「ーーーーッ! ぜ、全然してないぞ!」

「なぁ〜んか、怪しいんだよねぇ〜」

「…………」

「ジ〜〜〜〜〜〜ッ!」

 顕現していない筈なのに、睨まれているのが分かる。下手くそな口笛を吹きながら誤魔化した。


「取り敢えずナビに代わるね。頑張れマスター!」

「おう! 漢らしい所見せちゃる!」

「女神だけどね……」

「大丈夫。俺は絶対タキシードを着るんだ!」

「それはやめた方が宜しいかと思いますよ?」

 ナビナナに切り替わると即座にタキシード案を否定された。しかし、既にマダームには手配済みだ。問題は無い。


「フッフッフッ! 大丈夫だ。俺は格好良くいきたいの! 綺麗とかは今回要らないの!」

「それは無理な気もしますが……『神域』の準備は如何するのですか?」

「いきなり話を戻したな。そうだな、あとは花か? 作り物だとやっぱり雰囲気的に物足りない気がする」

「それではレグルスへの帰りに、竜の山に取りに行けば良いのでは?」

「あぁ! 彼処の花は綺麗だったなぁ。きっとアリアも喜ぶよ!」


 ーーその後、準備を整える為に必要だと思った物はランクに関係無く片っ端から手に入れ続けて、約束の一週間が経った。

 ニルアーデから受け取った指輪をワールドポケットにしまうと、レグルスへ戻る。


 ーー『プロポーズ』本番の始まりだ。


 __________


 アリア、ディーナ、コヒナタ、ビナスの四人は、最近レイアに放置されていると鬱屈していた。気が付けば城から抜け出し、数日帰って来ない。今までこんな事は無かったと疑惑を抱いて会議を開いていた。

 何故かそこにはイザヨイも参加している。


「おかしいのじゃ……まさか、他の国に愛人でも出来たのでは……」

「ディーナ。疑うのはやめなさいよ。レイアの性格なら素直に言うと思うわ」

「でも……旦那様は以前泥棒メイドと浮気した時に隠そうとしたけど」

「こんなに私達と離れる事は普段ならありませんしねぇ」

「パパはモテますの〜! 格好良いからしょうがないですの〜!」

 無邪気にケラケラと笑う幼女を見て、四人は溜息を吐いた。確かにあの美貌に目を奪われぬ者はいない。

 性別など関係無く人を引き寄せてしまうレイアの本質は、最早疑い様が無かった。


 ーー各々が常人を逸した美姫である自覚が、女神の側にいる事で薄れていたのだ。


「浮気なら……罰を与えなければいけないわね」

「賛成するよ天使。浮気相手諸共な……」

 アリアとビナスの眼光が鋭く光る。デスレアの事件で失われたテセレナの魔力の弱体化はあったが、封印されていた時に比べて本来の上がったレベルから、多くの魔力量を魔術の王は秘めていた。


 これからも『紅姫』のメンバーでいる為にリミットスキル『理を外れし者』を最大限に利用して、巨大な魔力に頼らない新たな魔術を作り出し続けている。

 コヒナタとディーナは正直そこまで嫉妬はしていなかったが、ーー場の雰囲気に流されていた。

「パパが早く帰ってくれば、問題はありませんの!」

「「「「…………」」」」


 さっきから幼女だけが正論を言っている気がして、空間が静寂に包まれる。その通りだと納得してしまった。


 そこへーー

「ふい〜! やっと戻れたぜ!」

 ーーアズラがシルバと共に帰還した。しかし、そこにレイアの姿がない事から、予想を確信へと変える。


「ねぇ? 何処に行っていたのか吐きなさい? 素直に言えばビンタで許すわよ」

「アズラ〜? 新しい禁術受けてみる?」

「妾も聖竜姫形態になろうかのう」

「ゼン様。神気を降ろして下さい。ザッハールグ改を試す機会が訪れました」

『あ、あれはまだ早いと思うなぁ〜! お爺ちゃんヨボヨボになっちゃうぞぉ〜!』

「構いません!」

『ふぁ⁉︎ またコヒナタちゃんがグレとる⁉︎』

 城に戻った直後にアズラを待っていたのは、生死の危機だった。内容から主人の事だと理解出来るが、それにしても激し過ぎる鬼の様な形相に困惑する。


「ま、待て! 何をキレているのか知らんが、誤解だ! これを渡す様に預かってる!」

 ーー四人が渡されたのは『招待状』だった。


 そこには紛れも無い愛しい人の文が書かれている。


 __________


 みんなへ


 数日間勝手に留守にしてごめんね?

 その埋め合わせをさせて欲しいんだ。ナナを迎えに行かせるから、二十時までに城の謁見の間に来て欲しい。

 以前エルフの里で着たドレスを着て来てくれると嬉しいです。

 パーティーなのでご飯は抜いて下さい。待ってます。


 レイア

 __________


 その文を読んだ四人は、即座に自分の部屋へ戻って準備を開始した。だがーー

「アリア! メイクもドレスの着方も分からんのじゃあ〜!」

「こ、濃すぎですかねぇ?」

 銀髪の天使形態になって準備をしていた直後、飛び込んで来た白竜姫とドワーフの巫女の顔はデー○ン閣下の様だった。

 そして、それを見つめている自分自身も鏡を見ると同様だ……


「拙い。前はリコッタがいたからメイクもして貰えたけど、今の私達の中にそんなテクニックを持ってる人材がいない……」

 頼みの綱はビナスだけだと思って部屋を訪れると、いつも通りの姿にドレスだけを着ようとしている姿があった。

「ねぇ? メイクは?」

「ぶはははははっはははははははっ〜〜! 何それ、その顔? 我を笑い死にさせる気か? 旦那様を笑顔にするには丁度良い脇役どもめ!」


 ーーピキッ!

 三人は額に青筋を浮かべながら、お気楽なビナスへ忠告した。

「いつもと同じ様子で行って、レイアが悲しんだらどうするのよ。きっとわざわざ招待状を寄越すくらいだから、準備とかしてくれたんじゃ無いからしら? そんな事も分からないの?」

「阿呆がおる……」

「えぇ、あの人ダメですね」

 しかし、その言葉を聞いても傲慢な態度は揺るがない。ーーそこに疑問を持った瞬間、ビナスは立ち上がり胸を張って答えた。


「馬鹿どもが! メイクなど出来る者に頼めば良いのだよ。既に秘密兵器を呼んであるのさ!」

「はいはーい、呼んだぁ〜〜?」

 そこへ現れたのは、第三召喚部隊隊長のジェフィアだ。男を落とす事に置いて、このシュバンで右に出る者がいない存在。エロエルフに負けず劣らずの人材だった。


「フッフッフッ! ジェフィアにメイクを任せれば一切問題無し!」

 ドヤ顔をかまされ怒りにブルブルと震えるが、デーモ○閣下三人衆はプライドを捨てて土下座した。

「「「私達にもお願いします!」」」

「まだ時間はあるし良いわよぉ〜? メイドも呼ぶから、ちゃっちゃと仕上げちゃいましょうね〜!」


 ーーその後、仕上げた者達が息を呑む程の出来栄えの美姫達に見惚れる。

「さぁ、時間が無いわ! 行きましょう!」

 アリアの号令と共に、みんなはドレスの裾を摘んで謁見の間に向かった。時間通り辿り着くと、そこには銀髪の天使『ナナ』が顕現しており、同じく青色のドレスを着ている。


「時間通りだね〜! みんな凄く綺麗じゃん! 何でか顕現した途端に、主人格の私に代わって意味不明なんだけどね」

「ナナよ。お主が分からなければ、我等は誰も主様の意図を理解出来る訳が無かろうが……」

「ディーナの言う事も分かるけど、今回私は案内役以外本当に蚊帳の外にされててさぁ〜!」

「行けば分かるわよ。待たせる訳にも行かないわ。案内して頂戴」

 アリアに制されてナナは大人しく頷いた。

「はいはーい! 四名様をマスターの『神域』へご案内〜!」


 レイアとナナはレベルが上がった事により、以前の仮想空間とは全く異なる『神域』を作り出せる迄に至っていた。

 空間に淡い光が巻き起こると、五人はその先へと飛び込む。その瞬間ーー

「ようこそ! 俺の空間へ!」

 ーーそこには満面の笑みを浮かべる女神がいた。五人は一瞬息を呑むが、それの致し方の無い事だ。


 紅いドレスを見に纏い、髪を結い上げてメイクまで施された銀髪の女神が、光り輝く神気を放ちながら両手を広げていたのだ。

「「「「「美しい……」」」」」

 呟いた一言同時に口元から涎が垂れる。今すぐにでも抱き付きたい情動を、必死で堪えながら問い掛けた。


「レイア様……? これは一体……」

 コヒナタが辺りを見渡すと、白い花が飾られた未知の光景が繰り広げられていた。

「摩天楼……? それにその花は……」

 アリアは一言告げると首を傾げている。レイアがいた世界の記憶を有しているからこそ分かる答え。

「正解だよ。みんなに俺がいた元の世界の景色を見せてあげたくてね。ナビナナに協力して貰って、こつこつと準備していたんだ」

「何だぁ〜! それなら私に言ってくれれば良かったじゃん」

「ナナよ、お前は全てを打ち壊しそうだったから避けた……」

「むぅ〜! 失礼な!」

「「「…………」」」


 現実世界の知識がある天使は直ぐに順応したが、他の三人は開いた口が塞がらずに窓から映る光景に驚愕としていた。

「何じゃあれは、何故光っておる……」

「えぇ、何でこんなにも離れているのに分かるの? 魔術? す、凄すぎる……」

「これが、旦那様のいた世界……」


 呆けている三人に近づくと、その眼前で女神は跪いた。全員がその行動に目を見張る。


 __________


「ディーナ。弱い俺を、常に無邪気に明るく励ましてくれたね。奴隷なんて思った事は一度も無かった」

「ーーーーッ!」


「コヒナタ。君は俺がこの世界で出会った中で最高の鍛治師であり、心のパートナーだ」

「〜〜〜〜ッ⁉︎」


「ビナス。デスレアの事件で君を失いそうになった時、俺は身が千切れるかと思う程苦しかった。もう……何処にも行かないでくれ。側にいて欲しい」

「…………うん」


 俺は、振り向いて天使二人を見つめた。最初はアリアからだ。元々順番は決めていた。今も心臓はバクバクと高鳴っているけど、その為に念入りに準備とかしたんだ。

 ーー絶対失敗はしない。


「アリア。お互いに初めて会った頃と随分様子が変わっちゃったけど、それでも俺は君をずっと想っていた。会えなかった時は寂しかった。失うかと思った時は身が捩れるかと思った。これからも宜しくね?」

「……うん……ずっと側にいる……」


「ナナ。俺達の魂は元々夫婦だったらしいけど、それを抜きにして君は生涯の相棒だ。良ければ、これからもずっと支えて欲しい……ドSなのはナビナナがいるから大丈夫だ……多分」

「ええっ⁉︎ な、何でいきなりそんな事……あっ! ナビナナとの内緒話⁉︎」


 立ち上がって、みんなの顔をしっかりと見つめた。でも、予想以上にその光景に驚いたのは事実だ。顔をグシャグシャにして、溶けるメイクを気にせずに泣き噦る愛しい人達。

(あぁ。やっぱり俺は幸せなんだろうなぁ)


「みんな、左手を出して欲しい」

 無言のままに差し出された左手の薬指に、輝彩石で作られたぶかぶかの指輪をはめる。


 ーーディーナは、ペリドットの翠色の輝きを。

 ーーアリアは、ダイアモンドの透明な輝きを。

 ーーコヒナタは、ラズペリルの桃色の輝きを。

 ーービナスは、ガーネットの紫紺の輝きを。

 ーーナナは、タンザナイトの深い艶のある青い輝きを。


 各々の薬指に吸い付く様に形を変える指輪に、俺自身が一番驚いた。

(やっぱ異世界すげーな! ニルアーデさんグッジョブ!)

 でも今は、伝えるべき言葉をはっきりという場面だ。頑張れ俺、負けるな俺!


「俺と……結婚して下さい!」

 頭を下げて真摯に想いを打ち明けた。前世の記憶が無い俺からすれば初めてのプロポーズ。こんな女神の身体で精神男の言葉を真剣に受け止めてくれるかな?

 不安が募る。無言が痛い。ーー顔を上げられない。


 俺の想いは伝わっただろうか……


 __________


 ーーグイッ!

 レイアは両頬を掴まれ、アリアに突如キスをされる。珍しく一瞬で離れたかと思えば、瞬時に代わる代わるその唇に口付けされて、困惑した。


「んむうゥゥゥゥゥゥゥぅぅぅーー⁉︎」

 眼前に佇む美姫達は、満面の笑顔と共に涙を拭いながら答えた。


 ーーこれが答えよ。私達はみんな、一生離れたく無い程に貴女を愛している!


 己の左手にハマった指輪を掲げながら、迷い無い瞳で女神へ微笑みかけた。

「俺も、心からみんなを愛してる……」

 こうしてレイアのプロポーズは終わりを告げる。


『神域』内で抱き合う者達は、全員が笑顔と愛に溢れていたのだ……

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