第36話 魔王様を瞬殺しよう! 漢の夢、再び!!

 

「アズラ、大剣貸して!」

 レイアは折れた鉄剣の代わりに、己の騎士に授けた護神の大剣を受け取る。左手に常闇の宝剣、右手に護神の大剣へと持ち替えた。


「姫よ! 片手では大剣の重さに技術がついていかんぞ!」

 女神はその忠告にを受けても、口元を三日月に歪め、まるで悪魔の様に嗤う。


(あの顔は、きっと碌でも無い事を考えているな……)

 アズラは嫌な予感が拭えず、冷や汗を流していた。


「ナナ! STポイント3000を力へ!」

 レイアは元々考えていた秘策で、残りSTポイント7200中3000を力に振る。


「了解しました」

 これで力のステータスは4993となり、『名も無き剣豪のガントレット』で9986の力を得た。

 全てを捩じ伏せるのは力だと言わんばかりに、護神の大剣を魔王ビナスへと向けて一気に上段から振り下ろす。


「う、うおおおおおおお〜〜⁉︎」

 剣の腹を両手で支えて防御に徹した魔王は、巨大な隕石が降ってきて地面に叩き潰されるような衝撃を受け、破壊された床ごと階下に叩き落とされた。


 レイアは『女神の翼』を広げてビナスの目前に降り立つと、悪戯を仕掛けた子供の様に愉快に挑発する。


「ねぇ〜? ま、お、う、さ、ま? 気分はどうかなぁ? 一撃で叩き潰されたお陰で曇った目は覚めたかな?  約束通りその剣は貰うよ」

 挑発混じりの宣告を聞き終える前に、魔王は意識を失った。

 繰り広げられた光景から、アズラとミナリスは顎が外れそうな程に口を開き絶句している。


 ミナリスからすれば最強を自負する主が油断しまっていた結果、瞬殺されるという王として情けなさすぎる姿を見せ付けられたのだ。

 最早、唖然とするしかなかった。


 そして、アズラは逆にレイアの強さに驚いて目を丸くしている。

(あれ? 大剣ってああいうものだっけ?)

 片手で軽々と振り回す力のステータスを目の当たりにして、今後主人を怒らせてはならないと断固たる決意をした。


「ディーナ、やったあぁっ! 紅い剣ゲット! どう? 俺カッコイイ?」

「おぉぉぉ主様が喜んでおる! カッコイイのじゃ! 可愛いのじゃ! カッコ可愛いってやつなのじゃあ!」


「シャッキーーン!! ちょっと黒剣と合わせて構えるから、紅が前か、黒が前か、カッコイイ方教えて?」

「分かったのじゃ! 妾に任せよぉ!」

 美女二人がまるで服を選ぶ女子高生の様にはしゃいでいた。傍目から見れば微笑ましい姿でも、服と剣じゃ意味合いが全く違う。


 そんな中、ミナリスは気絶したビナスに駆け寄ると、中級魔術の『ヒールアス』で回復を施した。

 レイアはちゃっかりとその様子を『女神の眼』でチラ見してコピーに成功する。念願のヒールの上位だった。


 テンションは更に急上昇し、女神の暴走が始まった。


「よしっ! じゃあ城の財宝を頂いて街に帰ろうか!」

「何が『よしっ!』っだ! そんなの駄目に決まってるだろうが!」

(拙い。また姫の理不尽モードが始まったぞ)

 踏ん反りかえる女神を、アズラが慌てて止めに入る。


「以前にも言ったが忘れたのかい? 敗者は全てを失い、勝者はそれを自由に出来る権利を得る。それが世界の理だぁっ!!」

 女神は玉座に座り、黒炎の髪飾りから四つの火の玉を纏わせながら怒声を張った。

 隣に控えていたディーナは、竜の世界も力が全てだと瞳を輝かせている。最早ベタ甘だ。


「と、とりあえず、魔王様も気絶しておられるので、褒美等の話は後日に致しましょう。その『朱雀の神剣』はお持ち頂いて構いません。きっと反省するいい材料になるでしょう」

 ミナリスが頭を下げて、若干低姿勢になりながら提案する。レイアは唸り考え込むが、了承だと頷いた。


「そうだね。当分の間王都にいるからいいよ! 住む所が決まったらアズラに連絡させるよ! あともう一つお願いがあるんだ。ミナリスさんって性別を変えるスキルを持ってるって聞いたんだけど、一度で良いから見せてくれないかな?」

「アズラから聞いたのですね。私のリミットスキル『身体変化』を見せればよいのですか?」

「うん。是非お願いします!」

 次の瞬間ミナリスの身体が淡く輝くと、髪が伸び胸が膨らむ。顔付きが徐々に丸みを帯びて、美しい金髪の女性の肢体へと変貌を遂げた。


「おおおおおおおお〜〜っ!! 本当だ! 本当に変化したぞぉ!」

「私の家系はこのリミットスキルを生まれながらに覚えているのですよ。正直このスキルのお陰で性別には無頓着になってしますがね。喜んで貰えたなら良かったです」

 レイアは既に説明を聞いておらず、大きく両手を掲げながらガッツポーズをとった。スキルの確認は宿を決めた後だと、急いで走り出す。


「ありがとう! 二人共急いで宿を探すよ? 街の案内よろしく!」

「お、おう! じゃあな! 魔王様に宜しく言っておいてくれ!」

「主様どうしたのかぇ? 何やら嬉しそうじゃのう?」

 女神は瞳に固い決意の炎を灯し、心底喜びに打ち震えていた。


 ーー『漢の夢ハーレム、再び!』


「俺はやってやる! やってやるぞおおおおおおおっ!」

『女神の身体』はそんなに甘いものじゃ無い事を、この時のレイアはまだ知らない。

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