第37話 現実の厳しさに黄昏る女神。

 

「いよいよ、女の身体からおさらばだ〜!」

 俺達は城下町にある「カナリアの宿」に向かっていた。アズラに案内されながら、賑わう街並みに目もくれずに走り続けている。

 ビッポ村のエジルの宿より大きくて高価そうな宿が見えてくると、すかさず扉を開いて中へと入った。


「いらっしゃいませ~! カナリアの宿へようこそ。何名様でしょう?」

 カウンターにいた、中年の元気そうな女将さんが迎えてくれる。


「三名でお願いします。小さくてもいいので別々に個室をとれますか?」

「大丈夫だけど料金が高くなっちまうよ? 女性と男性で部屋を分けたらどうだい?」

「妾はいつも主様の側におるから、部屋を分けても無意味なんじゃないかぇ?」

「むぐぐっ……」

 俺は一人で『身体変化』を堪能したかったが、男になった姿も見て欲しかったので我慢した。


「じゃあ二人部屋と、一人部屋の二部屋でお願いします」

「あいよ! じゃあ二部屋で一泊一人銀貨九枚だ。食事は別料金で銀貨二枚だよ。何泊予定だい?」

「暫くこの街に滞在して冒険者ギルドに登録する予定なんだ。とりあえず金貨三十枚を先払いで渡すから、泊まれるだけ泊まっていいかな?」

「あらあら冒険者になるのかい? そっちのお兄さん強そうだものねぇ。代金は日割りで引いておくよ。余ったら返金するから、長期間宿を空ける時は連絡しておくれ?」

「わかった! よろしくね。女将さん!」

 挨拶を済ませて部屋に案内されると、荷物を置いてまずはディーナとベッドでゴロゴロする。


「ベッドはやっぱり最高だなぁ。料金も中々するだけあって、いい部屋だぁ」

「妾は寝てしまいそうなのじゃあ〜」

 そんな俺達を他所に、アズラは大剣を背中に担いで出掛ける準備をしていた。


「姫よ、俺は武器屋で新しい防具を見てくる。ディーナの装備する武器の件もあるし、明日はみんなで行動しようと思うから、店の下見だな」

「わかったよ〜! 俺もこの二本の剣に合わせる新しい鞘が欲しいんだ。黒竜の角も見てもらって何かに使えないか聞きたいから、腕が良さそうな鍛冶師も調べておいてくれる?」

「了解した。夜には戻るようにするが、帰りが遅かったら先に飯を食っちまっていいぞ」

 ベッドに寝転がったままアズラを見送った後に、俺は立ち上がると足早に風呂場へ向かう。


「湯浴みかえ? 妾も一緒に入るのじゃっ!」

「うーん……別にいいけどビックリしても知らないよ? 俺は今から漢になる!」

「よくわからぬが、主様のする事なら妾は何でも受け入れるから構わんぞ? 妻だが奴隷でもあるしのう」

「俺の溢れるリビドーが爆発しても知らないぜ?」

 俺は男の身体に戻った暁には、速攻でディーナを食ってやるとエロ心が全開だった。今は女性だから欲情しないのだ。きっとそうに違いない。


「ナナ。ステータスを頼む」

 風呂場で服を脱ぎながら、スキルとステータスを確認しようとナナを呼んだ。


「了解しましたマスター」

 まだ主人格は復活してないかと軽く溜息を吐いた。暴走した俺が翼を引き千切ったという、主人格ナナからの逆襲が怖い。何をされるか想像するのはやめだ。


 __________


【名前】

  紅姫 レイア

【年齢】

 17歳

【職業】

  女神

【レベル】

 54

【ステータス】

 HP 2413

 MP 2210(2410)

 力 5093(10186)

 体力 1172

 知力 1226(1526)

 精神力 986

 器用さ 1133

 運 80/100


 残りSTポイント4200


【スキル】

 女神の眼Lv7

 女神の腕Lv3

 女神の翼Lv4

 ナナLv6

 結界Lv3

 狩人の鼻Lv3

 身体強化Lv6


【リミットスキル】

 限界突破

 女神の微笑み

 セーブセーフ

 天使召喚

 闇夜一世(現在使用不可)

 女神の騎士

 ゾーン

 剣王の覇気

 黒炎球

 心眼

 幸運と不幸の天秤

 一部身体変化

 

【魔術】

 フレイム、フレイムウォール、シンフレイム

 アクア

 ヒール、ヒールアス


【称号補正】

「騙されたボール」知力-10

「1人ツッコミ」精神力+5

「泣き虫」精神力+10体力-5

「失った相棒」HP-50

「耐え忍ぶと書いて忍耐」体力+15精神力+10

「食いしん坊」力+10体力+10

「欲望の敗北者」精神力-20

「狙われた幼女」知力-10精神力-20

「慈愛の女神」全ステータス+50

「剣術のライバル」力、体力+20

「竜を喰らいし者」HP+500 力、体力+100

「奪われ続けた唇」知力、精神−50

「力を極める者」力+100 知力-50


【装備】

「常闇の宝剣」ランクA

「朱雀の神剣」ランクS

「深淵の女王のネックレス」ランクB

「名も無き剣豪のガントレット」ランクA 力2倍

「フェンリルの胸当て」ランクS

「ヴァルキリースカート」ランクB

「生命の指輪」ランクS

「黒炎の髪飾り」ランクB MP+200 知力+300


 ____________________



「魔王様と戦った時の影響かな? また変な称号がついた。まるで俺が脳筋みたいじゃん。力大好きだけど……それより『身体変化』だ!」

 俺は独り言を呟きながらステータスを観察していると、不思議な事に気付く。


「『一部身体変化』の一部ってなんだ? ミナリスさんはちゃんと身体全体が異性に変化しているように見えたけどな」

 気にする事でも無いだろうと風呂場に突入し、いつもの様にディーナと背中を流し合った。


(違うのはここからだぜ!)

 俺は気合いを入れる為に頬を両手で叩くと、ドヤ顔で立ち上がる。


「ディーナ、俺は今から真の姿になる! 変化を見て感想を頼んだ!」

「おぉぉ! まだ何か秘められた力があるのか⁉︎ ワクワクするのう!」

「見て驚くがいい……これが俺の真の姿だ!」

 宣言しつつ右手を翳すと、身体が淡い光に包まれた。


(いよいよだ。この世界に転生してから長い様で短かったなぁ……)

 俺は黙り込んだまま感動に涙している。誰が好き好んでTS生活を望むものかと、拳を強く握りしめた。

 そしていよいよ光が収まると同時に、ディーナの方へ振り向いて宣言する。


「これが俺の真の姿だ! どうだ⁉︎ イケメンになってるか教えてくれ!」

「はてっ?」

 ディーナは不思議そうに首を傾げていた。


「あれっ?」

 俺もそのリアクションにつられて首を傾げる。


「俺格好良くない? あれれ?」

 俺は取り敢えず失った相棒の確認をした。


「ある! 復活しているぞ!」

 滝の様に涙を溢れさせ、自然と号泣してしまう。だって男の子だもの。


 だが、その直後に何故ディーナが首を傾げたのか不安になって、浴槽を覗き見た。そこには見慣れた美しいJK女神が映っている。


「あれ? 相棒は復活したのになんで? えっ? 胸もあるぞ?」

「主様よ。下半身の一部以外何も変わっとらんよ? 子作りの為に生やしたのかぇ? 妾は別に構わんが、真の姿とやらも見たかったのう」

「そ、そんな馬鹿な……これは一体どういう事だナナ⁉︎ 説明を求む!」

「マスター。女神様の身体を変化させるなど、リミットスキルでも許されないのですよ。だから、一部のみの変化となったのでしょう。これも彼の方の配慮だと思いますけどね。使用時間は一日一時間とスキルに制限もついています」

「はあああああああああああああああああああああああ〜〜⁉︎」

 俺はナナの説明を聞いて風呂場で絶叫した。相棒の復活は確かに嬉しいが、効果は一時間のみ。一日は二十四時間。じゃあ二十三時間は女性じゃん。


「それ、変わってなくね?」

 ナナというナビがいる以上、時計の存在しないこの世界でも時間を違える事は無いのだ。


「……ディーナさんや。思いっきり抱き締めて見てくれないか」

 無邪気な白髪の美女が力強く抱きついてきた。豊満な胸が押し潰されてえらいこっちゃになっている。


「立たない……欲情……しない」

 相棒は穏やかな眠りについたままだ。


「まさか、ーーこれも女神の身体の所為だとでも言うのか?」

「正解ですよ」

 ナビナナから冷淡な声色でコンマ一秒と経たずに即答された瞬間、俺はショックから意識を失った。

 __________


 その後、俺は目が覚めると終始無言のまま風呂を上がり、宿屋の屋根に登る。体育座りをしながら落ちる夕陽を眺めていた。ディーナが肩に頭を乗せ、寄り添ってくれている。


「綺麗だなぁ。本当に綺麗だよ……」

 溢れる涙が止まらなかった。ちょちょぎれていた。


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