第116話 時計を作ろう!
「皆さんこっちですよー! ちゃんと全員分ありますから、焦っちゃ駄目ですからねー?」
お城の庭にシートを引いて、サンドイッチの入った籠を並べます。攫われたというのにも関わらず、此処での生活はとても穏やかで楽しい日々でした。
「あっしは、おかわりしてもいいでやんすか?」
「はいはい。そう言うと思ったから、ちゃんとマスダルさんの分は多めに作ってありますよ」
「うひゃー! 流石はパンツ姫様でやんす!」
「おい、マスダルだけなんて狡いんじゃ無いか? わ、我の分もあるのだろう?」
センシェアルさんが身を乗り出して来ました。はぁっ。ちゃんと作ってありますよ。この人意外に子供っぽい所があるんだよなぁ。
「ちゃんとこっちに……ってあれ? 無くなってる?」
「なぁ! 我のサンドイッチが無いと言うのか⁉︎」
「おかしなぁ。ちゃんと作った筈、ーーってザードさん? 何ですかその膨らんだほっぺは?」
「ひゃ、ひゃにおいうのはよ! わはしはしはんぞ!」
(な、何を言うのだよ! 私は知らんぞ!)
はい、犯人は確定しましたね。嘘つきにはお仕置きが必要です。さて、どうしてやりましょうか。ーーうん、決めた!
「センシェアルさん……貴方の為に頑張って多く作ったサンドイッチは、ザードさんが食べちゃったんだぁ……残念だなぁ……私……心を込めて作ったのになぁ……」
同時に少し俯いて、まるで泣き出しそうな表情を浮かべるのがポイントです。私を好きならこれで引っかかるでしょう。
「ザアアアアアアアアアアアアァァァァドオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォーーーーッ!」
「ひ、ひはうんでふ! ほれはほくみでふ!」
(ち、違うんです! これは毒味です!)
「やっぱり、食ってんじゃねぇかぁぁぁぁぁ!」
あっ、やっぱり引っかかりました。チョロいですね。チョロチョロ君と呼んでも過言では無い位に簡単です。
紅いオーラを巻き起こしながらセンシェアルさんがザードさんに襲いかかっています。あっ、あれ昇○拳だ。
凄い! 竜巻旋○脚ってリアルで見るとあんな風になるんだ。流石異世界……何でもありですね。今度波○拳も見せて貰いましょう。あの人、ザンシロウさん並みに滅茶苦茶な人だからきっと撃てる筈です。
「センシェアルさーん! 殺さない程度にしておいて下さいねぇ?」
「分かっておるわぁぁぁ!」
「ブゲラッ!」
あっ、ザードさん漏らしてる。ちょっとやり過ぎたかな?
「さ、さぁ! あっちは放っておいて、皆さん食べましょう?」
あれ? 残った三人の屍人さん達が蒼褪めています。如何したんでしょう? ちゃんと味見はしたからサンドイッチは不味くない筈ですが……
「あっしは、パンツ姫様にだけは逆らわないでやんす」
「えぇ、マスダル。あんたも思った? 平然とセンシェアル様を操るこの手管……やるわねパンツ姫様。怖い女だわ」
「そ、そんな事より飯を食べ終わったら拙者に『武士道』の講義の続きを是非! 是非お願いするでゴザル! パンツ姫殿!」
「わ、分かりましたから落ち着いてベガスさん。食べ終わって私の用が済んだら、話の続きをしましょうね。今日は居合いの練習ですよ!」
「居合い! これはまた胸が踊る響きでゴザルなぁ!」
「あんたらいつの間にそんな仲良くなったのよ……それに何なの拙者とか、ゴザルって?」
「侍は己の事をそう呼ぶのだ! パンツ姫殿の講義で教えて頂いたのだよ。羨ましければ貴様らも使って良いぞ。武士道でゴザル!」
「あっしは堅苦しいのは苦手なんで、遠慮するでやんす」
「私もパスかな……何と無く私が使うのは違う気がする。あと、ゴザルゴザルうっさい」
「あははっ。まぁ、私も調子に乗って語り過ぎてしまいましたかね。ゴザルって忍者だったかな? なんか混ざっちゃった気がする……取り敢えずサンドイッチを食べましょう。シルバもおいで?」
「ワウウゥゥゥッ!」
私が攫われた後、ビナスさん達と離れてからシルバは匂いを辿り続けて此処まで辿り着いたんです。忠犬ですね。まぁ、最初は殺気全開で、皆に襲い掛かるから止めるのが大変でしたけど。
それにやっぱり私以外はシルバと会話出来ているみたいなんですよね。昨日も木陰でキサヤさんと何か話していたみたいだし……いいなぁ。何で私だけ声が聞こえないんだろう。
「ほら、お食べ? やっぱり全員で食べる食事は美味しいねぇ」
「パンツ姫様の手作りなら、何でも美味しいでやんすよ!」
「本当にね。何でだろう? 腕は城のシェフの方が高い筈なのに、懐かしい様な……不思議な感覚が起こされるわ」
「拙者は前に聞いた、おむすびという料理も食べてみたいのでゴザル!」
「そうですね。お米があれば作れるんですけど、似た様な材料があるかちょっと皆さんに聞きながら調べてみましょうか。カレーの米でも良いんですけどねぇ。それとベガスさん、キサヤさん、この後、やりたい事があるので協力して下さい。作りたいものがあるんです」
「なんで、あっしだけ頼まれないんでやんすか?」
「貴方はきっと役に立ちません」
「ひ、酷いでやんす! 試してくれなきゃ分からないでやんすよ!」
あっ、センシェアルさんが戻って来た。ザードさんは意識を失ってるみたいですね。
「パンツ姫。それで一体何を作りたいのだ? 大抵の品なら我のコレクションの中にある筈だぞ? 今更作らんでもよかろう」
「じゃあ質問しますが、皆さんは『時間』や『時計』って分かりますか?」
「それって朝や昼、夕方、夜の事じゃないの?」
「ふむ……時計は分からんな」
「やっぱりなぁ。今日も昼食にしましょう? ーーって私が言ってから、昼頃に皆さんが集まって来ましたけど、早く来る人や遅く来る人がいたでしょう? 大体これくらいって感覚が人によって違うんですよ。それに私の推測ですが、この世界が二十四時間というのは変わらない筈なんです。なのに皆さん『時間』という概念は分かっているのに、それを示す『時計』が存在していない。これじゃあ待ち合わせも出来なくて不便です。ーーだからみんなで作りましょう! 時計を!」
「ふむ……難しい話でよく分からなかったが少し心辺りがある。ちょっと待っておれ」
「はい、私は引き続き説明をしていますから、メイドさんや執事さんも呼んで下さい。時計作りにはみんなの知恵が必要なんです。どんな些細な事でも構いませんから、気付いた事を話し合って作り上げましょう!」
「何だかわくわくするわね!」
「拙者は何をしたら良いでゴザルか⁉︎ 指示をして下されば、何でも致しますぞ!」
「ちんぷんかんぷんでやんすね……」
「大丈夫です。マスダルさんには最初から期待していません。取り敢えず全員を集めてから、案を出し合いましょう!」
「ひ、非道いでやんぅ〜!」
私は時計を作ると言ったものの、内心焦っていました。時計ってどうやって作るの? あったら便利だって思ってつい話しちゃったけど、肝心の作り方を知りません。
落ち着け、落ち着くのよレイア。今更作り方が分かりませんなんて言えない程に、みんな盛り上がってる……
デジタル時計はまず無理……デジタルが無いんだから絶対無理。クオーツ時計って言うのも聞いた事があるけど無理。まずクオーツって何よ? 美味しいの? スイーツみたいな名前して紛らわしいのよ……
やっぱり砂時計? あれなら形はわかるけどあれって二十四時間も測れるのかしら? 試してみるしか無いよね。後はあれだ! 大きなのっぽの古時計の奴だ!
名前何だっけ……ふ、ふ、ふ? 振り子時計! あれならきっとイケる! 確かゼンマイで巻くのをみたわ。試してみましょう!
「私達が作るのは砂時計と振り子時計のニつです! 私の話を聞いた後に、材料集めを初めて試作を繰り返しましょう!」
「パンツ姫! これは『時計』とは違うのか?」
戻ってきたセンシェアルさんが手に持っているのは、紛れも無い砂時計です。何で? 何処かに時計を知ってる人がいるというの?
「そうです! それは砂時計です! どうやって手に入れたんですか⁉︎」
「いや、確かカルバンの商人が世界の革命とか言って売っているのを買ったのだが、使い方がよく分からず放置していたのだ。砂が流れるだけだからなぁ」
「成る程。時間が分からなければ唯砂が流れている様にしか見えないんですね。でもそれを売っていた商人は、きっと時間の概念にハッキリと辿り着いたんだ。それならきっと私達にも作れる筈!」
それから私は広場に集まったみんなへ砂時計と振り子時計の説明を開始しました。砂時計は現物があった為分かりやすいのですが、この小ささでは多分五分くらいを測る様に作られているのでしょう。
二十四時間の砂時計は、とても巨大になるんじゃないでしょうか? 流石に作成は無理かなぁ……予想がつかないよ……
あと、振り子時計に関しては等時性の説明や、振り子の法則から教えなければならなくてかなり苦労しました。
この説明について来れるか来ないかで、分担を割り振るつもりです。馬鹿は要りません。欲しいのは知恵です。
それから素材集めと部品の試行錯誤を繰り返して、人員の交代をしながら観測を続け『二十四時間』へと少しずつ振り子時計を調整していきます。
問題だったのは、振り子運動って減衰するのを知らなかった所為で最初は止まったままになって、全然話が進みませんでした。
だから、ゼンマイが必要なんですね。選抜した執事さんとメイドさんには昔、針子や細工職人をしている人がいて、仕掛けの細かい部分まで要望通りのモノを作ってくれます。
興味を持ってくれた様で、みんな楽しそうにーー
「次はこのゼンマイを小さく見ようか!」
「それなら全体の形を縮小出来るわね」
「でも、まだ正確さに欠けるな。砂時計を交代で見張って情報を得よう」
ーー実験に付き合ってくれました。
少しずつですが、完成に近づいている気がしています。そんな穏やかな時間の最中、またもや現れたのでした。
オルビクス城の周辺へ展開された、一万人近いピステア軍が……
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