第216話 祝福の宴、狂乱の初夜 後編
「マスター、そろそろ宴も終わるし、私は神界に戻るね」
「そっか。少し寂しい気もするけど、ナナはやっぱりナビがしっくり来るしな」
「それもあるけど、この後の方がきっと大変だよ〜?」
「……?」
「頑張って? じゃあね」
宴も終わりに差し掛かると、バルコニーで涼んでいた所へナナが帰りを告げてきた。軽く頬にキスされると、照れ臭そうに微笑みながら光粒を放ち天へと昇る。
最後に言われた台詞は一体なんだろうとレイアは首を傾げるが、今は只管に幸せな余韻に浸っていたかった。
(この後っていうと……初夜か? いつも通りみんなで仲良く寝れば良いだけだろうに。また俺の横とかを取り合って何かしてるのかな?)
あながち間違っていない予測を立てるが、『初夜の権利』そのものを賭けているとまでは考えが至らない。
「それでは皆様、そろそろ宴はお開きとさせて頂きます。本日は我等が女神の結婚式をお祝い下さり、レグルス一同感謝に絶えません。最後にレイア様より、一言お願い致します」
ミナリスが何故か体調不良で寝込んでしまったという事で、急遽魔術部隊の副官カルーアが代理を務めていた。
再びホールの壇上へ上がると、女神は飾る事のない言葉で素直な想いを語る。
「みんな、今日は本当にありがとうございました! 最良の一日なったと心から思っています。これからもこんな日々がずっと続く様に家族を守り続けると誓うよ! みんなも困った事があったら素直に頼ってくれ! 面倒くさい事以外なら引き受けてやるぞ!」
満面の笑顔を向けられた者達は、苦笑いをしながらも惜しみない拍手と歓声を送った。本来、その姿をみて微笑ましくあるべき嫁達の視線が、狩人の様にギラついている事に気付く者は幸いいなかったのだ。
こうして、結婚式と祝福の宴は終わりを迎えた……
__________
「ふぃ〜〜! 疲れたぁ〜〜!」
俺は自室に戻ると、メイド長に衣装を脱がせて貰い、軽くメイクを拭き取った。だいぶドレスを着るのにも慣れたもんだが、やっぱりラフな格好が一番楽だ。
「他の皆様も、部屋で準備を整えたら来ると仰っておりましたが……何やら目が血走っておられた様な……」
「ん? あぁ、初夜に燃えてるんじゃないか? ビナスは最近やたらと子供を欲しがっているしなぁ〜!」
「本当に女神様は外見に伴わず男の様な発言を致しますねぇ。私どもの前では、少し控えて欲しいものです」
「中身が男なんだからしょうがないだろう? 今じゃ『一部身体変化』の時間も倍の二時間に伸びているしな。じきに俺の真の姿を見せてやる日も近い!」
「だから……戦争が起こるのでやめて下さい。それでは、私どもは失礼致しますね。良い夜を」
「あぁ、お疲れ様!」
メイド達は深くお辞儀をすると、部屋から去っていった。
「ナナ、聞こえる?」
「聞こえてるよ〜? どうしたの?」
「いや、やっぱりこっちの方がしっくりくるなと思ってさ」
「それはナビナナに言ってあげなよ。喜ぶからさ。でも今日はこれでリンクを切るね、私にも多少なりとも嫉妬する気持ちはあるからさ」
「初夜が終わるまでこっちにいれば良かったのに……」
「いや、遠慮するわ……健闘を祈るよ」
「えっ? 何それこわい。本当に俺はこれから何と戦うの?」
「黙秘します……じゃあね」
強制的にリンクが切られた感覚がした。ナナの様子がおかしい。そう言えば、メイド長もさっき何やら嫁達の様子がおかしいとか言っていたような……
ーーコンコンッ!
考えがまとまる前に、ドアがノックされた。
「どうぞ〜!」
入ってきたは良いが、ディーナ、アリア、コヒナタ、ビナスがいつも通りの寝間着姿では無く、何故かローブを羽織っている。この瞬間、俺は完全に嫌な予感がした。
嫁達の目がハンターの目になっているからだ。ーー何これこわい。
「どうしたんだみんな? ここにはモンスターはいないぞ〜?」
「レイア様、私達は今日この日の為にある賭けをしていたんです」
「そうなのじゃあ! 初夜は妾が貰う!」
「レイア、私達が送るプレゼントの中で一番気に入った物を選んで欲しいの」
「選ばれた者だけが、旦那様と初夜過ごせるんだよ。他は明日なんだよ!」
そういう事か。多分賭けを提案したのはアリアだな。
「とりあえず、そのプレゼントを見せてくれる?」
「妾とコヒナタは先程のパーティーで味わって貰った料理じゃ!」
「あんなに美味しかったんだから、勝利は間違いありません!」
「じゃあ、二人を選んだ場合は一緒にって事で良いの?」
ーー俺が何気ない疑問を告げた瞬間、ディーナとコヒナタは稲妻が落ちたかの如き衝撃を受けて、地面に崩れ堕ちた。考えてなかったんだろうね。
「わ、私とした事がこんな凡ミスを……」
「妾とした事があぁぁぁ〜〜!」
君達どっか似てるところあるよねってツッコミたかったけど、悶え苦しんでいる姿も可愛いから黙っていよう。さてーー
「じゃあ、ビナスからよろしく!」
「うん! 旦那様へのプレゼントは私だぁ!」
「…………じゃあ、ビナスのプレゼントからよろしく!」
「今何で言い直したの⁉︎ 私! 私がプレゼントだってばぁ!」
自分を指差しながら、はい! はい! と挙手するアホな子を前にして、俺は素直に思った事を呟いた。
「進歩が無い……面白味も無い……ビアスはそこにお座り!」
「ひ、非道い⁉︎ でも逆らえないワンッ!」
犬の真似をしながら、恍惚の笑みを浮かべてお座りをするドMさんは放っておいて、いよいよボス戦が始まる。アリアだもんな。きっと俺の予想を超えてくるに違いない。
「じゃあ、次はアリアさんお願いします……」
「何で当然敬語になるのよ? まずはこれね」
「えっ?」
ローブの下から出されたのは、意外にも凄く綺麗な花束だった。何処と無くビッポ村の花畑で見た花に良く似ている。プロポーズの時の意趣返しを狙ったのか?
「うん。綺麗だ……」
「そう、喜んで貰えて嬉しいわ。次のプレゼントも中々よ? 入って来なさい!」
「ん?」
扉が再び開かれると、薄く透けた下着のみの美しいエルフの少女が入ってきた。アリアさんがまた暴走を始めていらっしゃるのではと警戒していたが、今回ばかりは本当に何を考えているか読めない……
「初めまして女神様……私はクルフィと申します。アリア様の用意したプレゼント……です。どうか貰っては頂けませんか?」
「「「「ーーーーッ⁉︎」」」」
自信満々のアリアとは違い、俺を含めて他の嫁達は驚愕しつつ目を見開いた。何故初夜に別の女を差し出すのか意味がわからない。
「えっと……何故そうなる?」
「レイア、私も考えたのよ。貴女との初夜は私が欲しい。でもきっと普通の贈り物じゃ勝てないわ。だから花を用意したの! 安心して、この子も花の一部だから!」
「いやいやいやっ! めっちゃ人ですやん! ってかエルフの綺麗所ですやん!」
「クルフィ? 女神がこう言っているけど……貴女って人? 花?」
「は、花です!」
「「「「えええええええええええええええええええええええええええ〜〜っ⁉︎」」」」
何この子、洗脳でもされてるの? それともそこで犬の真似をしっかり続けている変態さんと同じなの?
「おいおいアリアさんや?」
「あらあら何ですかレイアさんや?」
「……退場!」
「な、何故⁉︎ クルフィの一体何処に不満があるのよ!」
「その子に不満は無い! お前の考え方に問題がある! エルフを軽はずみに拾って来てはいけません!」
「クルフィ……作戦変更よ。パターンはCで」
「……?」
アリアはクルフィに何か良く分からない指示を出した。次は一体何が始まると言うのか……エルフの少女は一歩前に踏み出すと、語り始める。
「私は……賊に襲われた子供達を守る為に、自ら汚れたーー」
「ーースト〜〜〜〜ップ‼︎」
俺は一瞬でこの後何が語られるのか理解して、言葉を遮って無理矢理止めた。恐ろしい、なんて恐ろしい作戦を考えて来やがるんだアリアめ。
「結婚式の夜にそんな話は聞きたく無い! 分かったよ! その子の事は貰う! 花として貰うからそれでいいだろ⁉︎」
「じゃあ、私の勝ちでいい?」
「…………いや、もう怒った!」
俺の考えを無視して、勝手に馬鹿なことばかりする嫁達にはお仕置きが必要だ。
「ナナ、『神域』発動。ステータスロック解除。『限界突破』『久遠』発動」
「了解しました。手加減無しでどうぞ?」
「ありがとうナビナナ。サポートよろしく」
「えっ? えっ?」
「何じゃ? 身体が動かぬ!」
「レイア、貴女まさか……」
「旦那様のご褒美きたあぁぁーーっ!」
「あの、私はどうしたら……」
何故かエルフの少女まで巻き込む形にはなったが、最早それもいいだろう。女神の本気を見せちゃりますよ。
「さて、みんなお仕置きの時間だよ〜〜? 手加減無しでいくから、失神した人から負けね? 楽しい初夜の始まりだ!」
「「「「嬉しい様な、逃げたい様な……」」」」
その後、神域内で手加減無しで嫁達をたっぷり可愛がってあげた後、意識を保っていられたのは意外にもクルフィだけだった。
「女神の愛って、激しいんですね……」
その一言を最後に、エルフの少女も力尽きる。
痙攣している嫁達を横目に、俺の初夜は凄惨な光景を残して終わった。
「どうしてこうなったかなぁ〜! キャッキャウフフのつもりがぁ〜!」
『後悔先に立たず』ーーそっとナビナナが告げた台詞だけが、脳内を反芻していたのだった……
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