第233話 敵の敵はやっぱり敵である
『ゼンガ王城、会議室にて』
「成る程……じゃあ今回の戦でリーダーは『神剣ゼフォーリス』の使用を許された訳ですか」
「あぁ、見ろよリッキー! SSランク冒険者である俺に相応しい剣だと思わんか?」
「リーダーが神剣を使える程、邪悪じゃなかった事に驚きだよ!」
「そうそうそれそれ! バッカーデンってば顔付きも凶悪だし、人使い荒いし、不潔だし、筋肉の事しか頭にないし燃やされると思った!」
「……同意」
「お前ら言いたい放題か……でも大体合ってるから否定も出来んわなぁ……」
テーブルを囲んで椅子に腰掛けているのはタイタンズナックルの幹部とリーダー、バッカーデンだ。パーティーを組んだ当初からのメンバーである為、巨大な組織となった今でも気を許せる間柄だった。
冷静沈着な参謀である『魔術師』のリッキー。
お調子者な『シーフ』の兄弟ヒイクとパノ。
寡黙な『治癒術師兼タンク』のゴルート。
そして圧倒的な剣技で、人族の大陸ミリアーヌで開かれた大会の優勝を総なめにした『剣士』バッカーデン。
四人のメンバーはAランク冒険者として登録されてはいるが、『至宝十選』を振るう時の力量は、Sランク冒険者を相手に一対一で引けを取らない程に高められていた。
「それでリーダー、今回の相手は有名なGSランク冒険者なんでしょ? 僕達は勝てるの?」
「ヒイクの心配はどうやら杞憂に終わりそうだぞ。何せ神官に力を封印されてるって話だからな」
「キャハハッ! 何それ〜? 間抜けも良いところじゃん」
腹を抱えて笑う妹のパノと、呆れた表情を浮かべる兄ヒイクに向かい、リッキーが真剣な眼差しを向ける。
「だが、それでも我々タイタンズナックルの暗殺部隊は滅ぼされたんですよ」
「あの変死体の事は報告を受けているだろ? 俺も長い冒険者生活で様々なリミットスキルや魔術を見て来たが、『血が出ない死体』なんて聞いた事も無いわなぁ」
降参だと言わんばかりに両手を上げるバッカーデンに、シーフの兄弟が認められないと反論を述べた。
「死体を回収しに行った部下達が傷口に触れた途端、指が無くなったって証言もあったけど……俄かには信じられないね」
「そうそう、それこそ眉唾だよ〜! 次元魔術の応用じゃないの〜?」
「……不可能」
「ゴルートもそう思うのかぁ。だが、うちの参謀様は既に答えを調べてくれてるんだろ?」
リーダーはニヤリと口元を上げてリッキーに合図を送ると、軽く咳払いした後に魔術師は推測を語り始める。
「まず、紅姫レイアが封印されているのは、コヒナタというパーティー『紅姫』の主要人物が実際に拐われている事から事実でしょう。目的は奪還らしいですしね」
「ふむふむ、じゃあ何で暗殺部隊の奴らは負けたんだ?」
「多分限定的な発動条件が定められたリミットスキルを有しているのではと考えられます。ステータスの高さと無関係に強力なスキルは存在しますしね」
「……どちらにしろ、恐ろしい奴なのは分かった。GSランク冒険者を舐めちゃいけないわな」
バッカーデンは視線を流すと、先程までとは違う鋭い眼光を三名の仲間達に向ける。長い付き合いから言いたい事は直ぐ様伝わり、同意する様に深く頷いた。
「続いて反抗する勢力図ですが、マッスルインパクトという巨大な組織が、次々とこのドワーフの大陸に集結しているそうです。更には元々我々が使っていたアジトの一つを拡張して拠点にしているとの報告を受けています」
「僕達が斥候として調べて来ようか?」
「お兄と私なら余裕だよ〜?」
嬉々として挙手する兄弟を、リッキーは軽く嗜める。力量から適任ではあったが、不確定要素が散見している以上、貴重な戦力を割くわけにはいかなかった。
「そいつらは……絶対に強いぞ……」
バッカーデンはテーブルに肘をついて両手を組み合わせ、重々しい表情のまま口を開く。
「何故なら、筋肉を愛する者達が弱い筈がないからだ……」
余りに偏った思考から発せられたリーダーに、見解の相違から批難が集中する。
「……んなわけないだろ馬鹿!」
「筋肉が全てって考えの時点でそいつら馬鹿じゃん!」
「魔術師を全否定する様な考えには賛同出来ません……」
「……みんなに同意」
「ぐぬぬぬっ! うるせぇ! お前らだってそんな俺について来てるんだろうがぁ!」
筋肉大好き男が怒声を張り上げるが、仲間達は聞く耳持たず、冷淡な態度を崩す事はない。
「話を戻しますが……マッスルインパクトは紅姫レイアを中心に、部隊をいくつかに分けて展開するでしょう。そこで、こちらは敢えて各個撃破を狙わずに、城壁の正門と裏門のみを死守します」
「こっちの方が数は多いだろう? 堂々と潰せば良いじゃないか。ドワーフ達は確かに弱いが、それでも正規兵だしなぁ」
「あちらの狙いは、そこにあるのですよ。こちらの戦力を分散させ、隙を突いて一点突破を試みる筈です」
「ふーむ。考え過ぎだとは思うが、リッキーの作戦なら間違いは無いだろう。みんなも異論は無いか?」
メンバーは参謀兼魔術師の立てた作戦に絶対の信頼がある為、逆らう者はいなかった。だが、欠伸をしながらヒイクとパノは愚痴を吐く。
「僕はさっさと雑魚を掃討してのんびり休みたいよ」
「私はこの国に飽きたかな〜! いっそあの神官を相手がヤっちゃってくれた方が都合良くない〜?」
「……そう、かもな」
この時、冗談のつもりで発したパノの言葉を、男達は聞き逃さずに思慮に耽る。
__________
会議室での話し合いは終わり、各自が王城で与えられた客室に戻った後、『もう一つの打ち合わせ』を始める為に魔術師はリーダーの元を訪れた。
「ちょっと待っていてくれ、結界を張る」
「よろしく頼む」
部屋の床に展開された魔方陣は、外部へ音を漏らさず侵入もさせないといった類の結界だった。二人から先程の気楽な雰囲気は消え去り、憎々しげな視線を交わす。
「一瞬パノが我々の狙いに気付いたのかと焦ったな」
「大丈夫だろう。例えあいつらであってもこの作戦を知られる訳にはいかねぇしな。準備は進んでいるか?」
「あぁ、ドワーフ側のレジスタンスとコンタクトを取る事には成功した。あとは無事にこちらの思惑通り動いてくれる事を願おう」
「これを逃すとチャンスは当分来ないだろうしな」
ベッドにゆっくりと腰掛けると、深刻そうな面持ちでバッカーデンは腰元の神剣を撫でた。
ーー神官ネイスットを殺す。
タイタンズナックルは言葉通り『利用』されていた。周囲の見解は『至宝十選』に惚れ込んで、ドワーフを守る守護者となったとされていたが、事実は異なるのだ。
リーダーと幹部に向けて神官ネイスットから掛けられた呪いとも呼べる契約は、『至宝を奪われた時に死ぬ』だった。
それを知るのはこの二人のみ。バレればどうなるか分からない以上、下手に動く事も出来ず、逆らう事も出来ぬ日々に終焉をもたらそうと決意する。
着々と戦いの準備が進み、様々な思惑がゼンガ国内を駆け巡っていた。
そんな最中、マッスルインパクトの団員達は軍曹の元へ集結する。
「よく来てくれた諸君! 戦いの時は近い! 今日は鋭気を養う為にたっぷり飲めぇ!」
「「「「「イエッサーー!!」」」」」
「ぶっ潰すぞ! タイタンズナックルーー!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」
既に作戦決行の為の実働部隊は動き始めていたが、レイアは敢えて宴を開き、皆の元を回りながら団員達を鼓舞する事に努めた。
楽しい夜は続くと思ったのだのだが、ーー酔っ払ったガジーが口を滑らせ、ディーナに報告した事を皆が知った瞬間、空気がピシッっと音を立てて、宴は終わりを迎えた……
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