【最終章 終わりゆく世界を照らす光】

プロローグ 『同盟国の王の集結』

 

 ダークエルフの事件から二ヶ月が過ぎた頃、魔人の国レグルスの王都シュバンには各国の要人が集結していた。


 ーー議題は二つ。


 一つはミリアーヌの大国シンの賢王が崩御し、時代の王に就いたのが悪魔の王であるアグニスである事。

 もう一つはその裏を引いている人物の情報を女神レイアが知り得ているという事だった。


 謁見の間に集められたのは紅姫のメンバーと各部隊の隊長陣、そして各国の王と護衛のみ。


 人族の国ミリアーヌからは東のシルミルの王、勇者カムイとフォルネ姫。北のピステアからはジェーミット王とハーチェル姫。

 エルフの国マリータリーからはイザーク王とインメアン学園長。


 獣人の国アミテアからはスクロース王と剣神ランガイ、そしてザンシロウ。


 ドワーフの国ゼンガからはドルビーとタイタンズナックルのリーダー、バッカーデンが付き添っている。


 各国の王と実力者達によるひりついたプレッシャーが場を支配する中、謁見の間の扉は静かに開かれた。


 ーーコッ、コッ、コッ。


「「「「「…………」」」」」

 硝子のヒールを鳴らしながら玉座へと向かう姿に皆が息を呑む。そして、理解するのだ。


 ーーこの姿こそが真なる女神レイアの姿なのだ、と。


 美しいなどという言葉では表せぬ凛とした神々しさ。冒険者としてでなく、女王として真紅のドレスを身にに纏い、透き通る様な銀髪が輝きを放ちながら靡くと観る者を魅了する。


 どうしようもなく、こちらを見向きもしないその金色の瞳を振り向かせたいと強く望んでしまう。


 その場にいる王達は一瞬にして格の違いを感じ取ってしまった。


 ゆっくりと玉座に座る女神の姿に惚けながら、誰一人として言葉を発しようとはしない。


 レイアは微笑みを浮かべながら、静かに皆を見つめていた。


 __________



 おいおい。なんだか良く分からないけど、この様子じゃあ全員俺の『魅了チャーム』に掛かってる気がするな。

 嫁達はともかく、アズラまで泣いてるし意味が分からん。イザヨイを寝かしつけておいて良かった。


『なぁ、ナビ。この状況を説明してくれないか?』

『単純にマスターの美しさに見惚れているだけでしょう。神の領域に達した美はとオーラは抑えていても溢れ出てしまうものです』

 俺はなるほどと納得しつつも、正直実感が湧かない。


 でも、魅了されてるなら少し遊んでみるのも良いかなぁなんて思ったけど、流石にこれだけの面子を前に悪戯を仕掛けるのは控えておこう。


「みんな、よく集まってくれたね。感謝するよ」

「我がピステアどころから世界の一大事と聞かされては動かぬ訳にもいくまい」

「あぁ。俺達はこの国と同盟を結んでるだけじゃなく、色々と借りもあるからな」

 俺が感謝の意を述べると、瞳を輝かせたジェーミットとカムイが応えてくれた。カムイも随分と勇者らしくなったもんだ。


 ジェーミットとハーチェルはバッチリ魅了に掛かったままだな。紅潮した顔を見れば一目瞭然だ。


悪魔デモニスの襲撃とダークエルフの件では我がマリータリーも世話になった。今回犠牲になったエルフ達の亡骸も無事弔えたし、死霊と化す事もあるまい」

「それなら良かったよ。俺もイザーク王には内密にして魔術学園に通わせて貰っていたから、貸し借りは無しさ」

 今回の同盟国の召集が遅れた一番の理由は、相次いで事件に巻き込まれたマリータリーへ人材と物資の供給をレグルスで行ったからだ。


 復興のために隊長達にも動いてもらい、ミナリスは何回倒れたか数え切れない。俺が膝枕してやったら全回復して生き返ったけどね。

 その間、別の目的があってエルフの技術者とドワーフに協力を仰いだ。


「神樹の件でとても貸し借りが無しだとこちらは思っていないが、今は良しとしよう」

「な、何のことかなぁ〜?」

「しらばっくれても無駄だぞ。レイセンの錬金術師という響きに覚えがあるのではないか?」

 あらま。完全に錬金術師グリセルドとガルバンティンについてバレてら。


「イザーク君。その件については後日別の場を設けようじゃないか。今は仲違いしている時じゃないさ」

「あぁ。是非に」

 細目でこちらを睨み付けるイザーク王に対して、俺は若干視線を逸らしながら逃げるしかなかった。時間を稼いで誤魔化そう。


「話に割り込んですまんがちょっといいか? この度の戦いなんだが、俺達獣人は一時的にこの同盟から外させて欲しい」

 瞼を閉じて沈黙していたスクロース王の発言を皮切りに、ランガイとザンシロウが続く。


「知らんと思うが、わい等獣人にとって大国シンはミリアーヌで一番まともで、恩義のある国だと思ってるんじゃ。交流もあった。獣人といって奴隷にしたり迫害もせんかった」

「ランガイの意見を否定する訳じゃないけど、それは表向きの話しじゃ無かったのか?」

「違うさレイア女王。俺達はアミテアの先代の王の頃から大国シンにだけは手を出すなと言われている」

「う〜ん。話に聞いていた賢王のイメージとちょっとズレるなぁ」

 俺の中では不老不死を望んで、狂気の実験を行いながら自分の人格を引き継ぎ続けたマッドサイエンティストって感じなんだけど。


 でも、帝国アロや今は亡き商人の国ザッファの悪意から国を守り続けたからこその賢王なのか?


「分かった。でも、俺達の敵に回るって訳じゃなさそうだね」

「あぁ、それは約束しよう。まずは探りを入れたいのさ。今の新たなシンの賢王が敵なのか、味方なのか。はたまた悪神の欠片を全てを呑み込み、その力を手に入れたソウシという少年が聖か邪なのかを」

「……ザンシロウの意見は?」

 スクロースは一切嘘を吐いていない。完全なる『女神の眼』の発動と『心眼』がそれを教えてくれる。ならソウシと同じ世界から来たこいつは一体何を考えているんだろう?


「俺様は今回ソウシにつくぜ。元々獣人の国には食客として身を置いていただけで、只の放浪GSランク冒険者に束縛はねぇ!」

 ザンシロウは口元を三日月に歪めながら、嬉々として笑う。


 確かにこの場においてこいつが一番自由に動ける身分だなぁ。だけど、それもいいかって思う。


「ソウシを頼むよ。俺が出来たら戦いたくないって言ってたと伝えてくれないかな」

「任せろ! あの泣き虫がどんだけ強くなったか試した後で良けりゃあな。それに、俺の相棒は元々ソウシの相棒でもあるからよ。久し振りに会いたいだろうさ。なぁ? 魔剣シャナリス」

「そっか。翠蓮から感じる二つのエネルギーはそういう事なのか」

 女神の神体が完全になったからか、俺には魂の流れが見えるようになっていた。女神の天倫の効果がパッシブになったんだろう。


「機会があれば俺達の世界の話も聞かせてやるよ」

「その時はソウシも混じえて頼む」

 各国の王が眉を顰めて怪訝な表情を見せていたので、俺は話を元に戻した。


「とりあえず、獣人の国アミテアの言い分は了承した。それを踏まえた上で今後の話をしよう。今回エルフとドワーフの技術者に、うちのコヒナタとビナスの腕と知恵を重ねて開発したものがある。ドルビー説明宜しく!」

「あいよ。今までは強大な魔力を消費して尚且つ小規模でしか発動出来なかった転移魔方陣を、根本から作り直した。名付けて『ハコビヤクンデラックス』だ! 各国に設置すれば最低でも一回で五十人前後の人数を転移でき、更には従来の魔力消費量を五分の一に抑えてある!」

「「「「「おおおおおおおおっ⁉︎」」」」」」

 一斉に感嘆の声が上がる。これには同盟を離れようとしていたスクロース王も驚きの表情を浮かべている。


「みんな聞いて欲しい。今回の戦いだけど、どの国が襲撃されるか一切読めない。相手はソウシだけじゃなくて、この世界に侵略しようとしている俺の最大の敵であるデリビヌスという神だからだ。だからこそ、俺達紅姫はどの国に現れても駆けつけられる様に最大の準備をして望むつもりだ」

「女神の行為に感謝する。だが、我々も協力させて貰うぞ」

「時空神コーネルテリアから多少事情は聞いているしな。俺は神降ろしを完璧に制御出来る様になった。力になるぞ!」

「ありがとうジェーミット王、勇者カムイ」

 俺は感謝しつつ頭を下げる。本来なら軽はずみに頭を下げるのは良くないと言われたが、こんな時くらい構わないだろう。


 それよりも急がねば。


「さて、俺はそろそろ失礼させて貰う。続きはアズラとアリアにお願いしてあるから、今後の動きについて詳しく聞いておいてくれ。ハコビヤクンの試験稼働は終わってるから、準備が出来次第各国に持ち帰って貰って構わないからね」

「おい。まだ会議は始まったばかりだろう? まだまだ話し合いたい議題は沢山あるのだぞ!」

「うっさいんじゃボケカスイザークがぁ!! ビナスが臨月でいつ産まれてもおかしくないんじゃい! 今は世界より俺の子供が優先に決まってんだろうがぁっ!」


 ーー子供おおおおおおおっ⁉︎


 家族以外のその場にいたみんなが一斉に立ち上がって目を見開いてる。あれ? 言ってなかったっけなぁ?


 因みに護衛にはチビリーとタロウがついており、この二人だけじゃ心配だからシルバを控えさせた。


 そう言えばもう一つの計画を言い忘れてたな。


 __________


「安心しろ! 俺の子が生まれたら世界中でパレードするから。お前達にもその恩恵、もとい強制的に協力して貰うからな! 逆らう奴は肉体言語で交渉しようか」

「「「「「…………」」」」」

 王と護衛は自分達に純粋無垢な瞳を向け、親馬鹿極まりない締まりない顔をしているレイアを見て思った。


 逆らえば異世界の神との戦いの前に国が滅びる、と。

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