第98話 Fランク冒険者、アズオッサン誕生!

 

『Sランク試験から二日後』


 再び冒険者ギルドを訪れていた。てっきりプレートが貰えると思っていたのに、用意されていたのはメムルのSランクプレートと、ダミープレートだけだった事に苛ついている。


「ねぇねぇ、どうゆう事かなぁ。ギルドマスターのマイルビル君。事と次第によっちゃあ暴れるよ? あと俺のパンツとメムルの胸を見た代金早く払え。純金貨千枚払え。訴えるよ?」


「違うのですじゃ! 話を聞いてくだされ! 儂とジェーンはちゃんと報告したんじゃが、Dランク冒険者がSランク冒険者を倒せるものかと申請が通らなかったんじゃよ! BランクとAランクの試験を飛ばしてSランク受ける者自体が前代未聞じゃからのう。気持ちもわからんでもないが……あとパンツ代は頑張るから許してくれぇ」


「あぁん? どこの馬鹿がそんな事言ってるの? 軽く肉体言語で語り合ってくるよ。ねぇ、ビナス?」

「えぇ、私達の邪魔をするなんてお馬鹿さんは、チビリー用に考えているお仕置き魔術でも受けてもらおうかな」


「はぁっ、はぁっ、新しいお仕置きっすか? どんなんっすかねぇ……おっと想像すると涎が」

 新ペットは舌舐めずりしながら、恍惚の笑みを浮かべていた。

(なんか、周囲に変態が増えてきている気がするなぁ)

 黙っていたが、冷淡な視線を向けている。

 マイルビルは俯いたまま、言い辛そうに苦笑いしながら答えた。

「ピステア国王ジェーミット陛下じゃよ。却下なされたのは」


「よっし! 戦争だビナス、メムル、チビリー! シルバも連れて乗り込むぞ~! 『天獄』で最初っから派手にいくぞぉ~」

「腕がなるね! 禁術をぶっ放してまずは城を落とそう?」

「では、私は後方から兵を凍らせましょうか」

「自分は将軍狙うっすよ! 気配消して暗殺してくっす!」

 怯むどころかワクワクしている四人を見て、マイルビルは絶叫する。


「やめるのじゃぁぁぁ! 何じゃそのポジティブさは⁉︎ 普通、国王とか言われたらちょっと考えるじゃろう? 何で答えが『戦争しよう』になるのじゃ! 実際に今の計画やられたら城が潰れそうで怖いわい! この馬鹿者共がぁ!」


「ちぇっ。アズオッサンで暫く普通の冒険者をやりたかったからいいけどさ! ちゃんと申請通しておいてよ?」

「ど、努力するわい……」

「なんで泥棒メイドとチビリーがSランクで私がーーん? そう言えば私って何ランク?」

「そういえばビナスっていつ冒険者登録したの? 俺達と一緒にスキルイーター狩った時には、最初からプレート持ってたもんね」


「ん~、魔王時代によくレグルスで冒険者の手に負えない魔獣が出た時には、私が狩ってたからなぁ。プレートはミナリスに任せてたからよくわかんないや。あっ、見てみたらGランクだ」

「成人前に作ったプレートですか?」

「十歳くらいの時だったかなぁ。よく覚えてないけど」

 ーー頭をぽりぽり掻きながら、面倒くさそうに語る。


「ねぇ。魔王時代に狩ってた魔獣のポイントがついてるなら、そのプレートのポイントはどれくらい溜まってるの?」


「んっとねぇ。743250ポイントって書いてあるよ?」

「「「「七十四万ーー⁉︎」」」」

 全員が数字を聞いて驚愕する。

「何? どうしたの?」

 驚かれる意味が分からずに、首を傾げていた。


「それSSランク並みっすよ? 年齢の都合で、多分ポイントだけ溜めて更新してなかったっすね。お姉様やっぱりぱねぇっすよ」

「そのポイントを王に証明して事情を話せば、今回の話も通りそうじゃな。つくづく規格外な者達じゃのう」

 ビナスの凄さを知っているので、恋人を自慢するかの様に誇らしげに胸を張る。

 しかし、自分のポイントが負けているのは、男としてのプライドが許さんと密かに燃えていた。


 ーー『アズオッサン計画』を早く進めねばならないと決意した瞬間だ。

「それじゃあダミープレート頂戴? 名前も変えてある?」

「頼まれた通りアズオッサン 二十八歳 職業冒険者で登録してあるぞい。Fランクじゃが、良かったのか?」


「うん。報酬のポイントはダミープレートに入ってるように見えて、メインのプレートに入るんでしょう?」


「そうっすよ。ダミープレートもランクアップやポイントは溜まってる様に見えるっすけど、実際はご主人のプレートに蓄積されていくっす! 周りを騙すのに、ダミープレートがそのままじゃすぐバレるっすからね。ところで変装するって言ってたっすけど、どうやってするんすか? リミットスキルでも『鑑定』や『真贋』持ちの冒険者にはバレるっすよ?」


 ドヤ顔で幻華水晶の仮面を装着して答えるーー

「これを見ろぉ!」

 ーーそこには一瞬でひげ面のアズラが現れた。

「「おぉ~~! パチパチパチッ!」」

 チビリーとマイルビルは見事な変身に拍手して驚いていた。手品でも見ているかのようだ。

「どう? この仮面は見ている相手には絶対気付かれないんだ。触られるとすぐばれちゃうんだけどね」

「触ってみていいっすか?」

「いいよ~?」

 チビリーは迷わず躊躇わず胸を触り揉みしだく。

「はぁっ、はぁっ、や、柔らかいっす!」

「何故胸を触る? なんか女に触られて、こんなに気持ち悪いの初めてだよ……そろそろ離せ変態」


「わ、儂もいいじゃろうか⁉︎」

 マイルビルが勇気を振り絞って、一縷の望みにかけたが、その夢は儚く散った。

「調子に乗るんじゃねぇっすよ! このエロ爺!」

「いや、チビリー。それ俺のセリフだからね? なんでお前が激怒するんだよ」


 ビナスとメムルは、やっぱり髭のおっさん姿は嫌だなぁとため息を吐いていた。マイルビスは、遠くを見つめながら黄昏ている。


「とりあえず、チビリーは今日から家のペット兼ビナスとメムルの護衛だよ? 俺がいない間しっかり二人を守るように! あと、ギルマスはアズオッサンで活動している間、問題が起きたら誤魔化すのに尽力しろよ。出来なかったら、パンツと胸の代金純金貨千二百枚な?」


「金額がふ、増えていらっしゃる⁉︎」

 天国から地獄とはまさにこの事か、悪魔と契約した人間はこんな目にあってしまうのか……爺は達観した悟りを開く。


「わかったっすよ! メムルさんと一緒に、ビナスお姉様をしっかりお守りするっす!」

「旦那様。その言い方だとアズオッサンになったら暫く家には帰らないの?」


「う~ん、どれくらいかかるかわからないけど『魔竜の巣穴』ってダンジョンの奥に欲しい物があってさ。それを手に入れたら帰るつもりだよ。あと、シルバの事も町中じゃ構ってあげられないから連れて行くんだ。きっと楽しいぞぉ!」


「魔竜の巣穴ってAランクダンジョンで、まだ地下十四階までしか到達出来て無いんすよ? 普通、何ヶ月もかけて進めて行くんすけど、大丈夫なんすか?」


「俺とシルバなら問題無い! ーーって言いたいけど、階層があるダンジョンは初めてだから、最初はどっかのパーティーにポーターとして付いて行こうと思うんだよ。勉強は大事だからね。シルバとはアズオッサンフル装備が揃ってから一緒に行くかな」


 ーービナスは話を聞きながら、ふくれっ面になっている。シルバだけズルい。


「寂しいから私もついていく~!」

「だぁめ! そのかわり我慢しててくれたら、いい物あげるから待ってて? 絶対喜ぶから!」

 頭を柔らかく撫でて、嗜めた。

「うぅぅ~わかった。我慢して待ってるよ」

「いい子だ! メムルもよろしく頼むね?」


「はい、いってらっしゃいませご主人様。帰ってきたら、ご褒美を期待してもよろしいですか?」

「こ、考慮しておくよ……尻叩きを受けない程度ならいいかな」

「ふふっ。考えておきましょう」



「とりあえず鞘とローブが出来るまであと三日程度あるし、Fランクの依頼位ならこの皮装備と鉄剣でも余裕だから、明日から活動を開始するよ。一旦帰って、チビリーの荷物を置いてこないといけないしね」

「うっす! よろしく頼むっす!」


 冒険者ギルドの外にはシルバを待たせていたのだが、出口の扉を開けると、そこには何人もの冒険者が倒れていた。


「はぁっ。大丈夫? 馬鹿がいっぱいいたのかい?」

『どうやら私の素材狙いの冒険者が、主の不在を狙ったようだな。雑魚だったから何も困る事はなかったぞ』


「命知らずもいたもんだ。よく殺さなかったね。偉いぞ!」

『主を困らせる様な真似はせんよ。ただ、やっぱり人混みの中にいるのは、このような殺気を浴びて気持ちがいいものじゃないな』

「大丈夫、アズオッサン計画が上手くいけば、手を出す奴もいなくなるよ。協力頼むね」

『それは心強いな。こちらこそ頼む主よ』


「任せとけ! 数日待っててな! とりあえず、今から載せる荷物を家まで頼むよ」


 レイア達はそのまま家に帰り、チビリーの部屋を用意した。納屋で十分だろうと告げた三人に対して、興奮した姿を見たシルバが嫌がったのだ。


 ーーメムルは黙って予想通りだと頷いていた。

 当分食べられなくなるからと、ビナスがヨナハ村で習ったモビー特製のぶつ切り鍋を振る舞い、夜は更けていく。


 __________


 深夜、眠るビナスを置いて、メムルの元に向かった。

「大丈夫? メムル……」

 涙を流しながら窓際に佇む女性を見て、少しずつ近付いて行く。


「こ、来ないで下さい! マムルお姉ちゃんが居ないの! みんなが居ないの! 私だけ生きてるなんて許される訳ない!」

 泣き叫ぶメムルをそっと抱き締めて、頭を撫でながら女神は歌う。


 ーーエルムアの里で、ディーナがクラドの為に歌っていた歌。


 この世界に来てから初めて見せる歌声。この世のものとは思えないソプラノは、透き通る様に美しかった。

 何処までも伸び広がる旋律に、メムルはただその身を預けている。


「行かないで、私のご主人様……」

「……ごめんね、どうしても手に入れたい物があるんだ。待っててくれる?」


「あんまり遅いと、死んじゃいますからね」

「じゃあ、なるべく急がないといけないね。頑張ってくるよ!」


「はい、お帰りをお待ちしています。女神様」

「やめてくれよ、所詮俺はニセモノなんだから。お祈りなら本物にしておくれ?」

「私の女神はご主人様だけです。それでいいんです」


 そのまま眠りについたメムルをベッドに運び、レイアも自分の部屋に戻ると眠りについた。


 __________


 翌朝、皮鎧と鉄剣を装備した状態で『幻華水晶の仮面』を被ると、アズオッサンに変身する。


「じゃあ行ってくるよ! シルバ、明後日念話を送るから、その場所まで夜目立た無いように来てくれ。何かあったら冒険者ギルドに連絡を頼むよ。帰りを待っててね、みんな!」


「「「行ってらっしゃい!」」」

「行って来ます!」


 笑顔で手を振りながら、一人冒険者ギルドへ向かう。

 指輪を作る為に『輝彩石』を求めて。

 寂しさはもちろんあるが、それ以上に普通の冒険者として活動出来る事に、高揚しているのだ。


 Fランク冒険者アズオッサンの普通? の冒険者生活が始まった……



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