閑話 ナナの憂鬱

 

「ハアアアアアアアアアッ〜〜」

 ナナは天界の日常を住まう空間で、盛大な溜息を吐いている。


「やっぱり、『天使召喚』するとあぁなったかぁ〜! だから嫌だったのに~!!」

 先程の地上での行動を思い出し、転がりながら悶えていた。


 実はナナは、あくまでこの主人格が主体となっていることに間違いないのだが、ある条件で人格が交代するように、女神より誓約を義務付けられている。


 まず、レイアから知らなければ命に関わる事に関する説明を求められた時、リミットスキルなどの説明時がこれだ。『仕事モードのナビナナ』が答えるようになる。


 これは問題がない、もともと面倒くさそうな説明は引き受けてくれるのだ。嬉しいことこの上ない。しかも、ある程度思考の融通が利くため、自分の言葉で話す事も可能だ。

 わかりやすく言うと、ゲームで戦闘をオートにも出来るし、マニュアルでも可ということ。


 ーーしかし、『天使召喚』はそれに一切当てはまらない。


 あくまで「あらゆる願い」を叶えるリミットスキルだからだ。そこで発現する第三の人格には、主人格ナナの意識は及ばない。

 さらに感情の起伏が激しくなり女神様、もといレイアを敬愛し過ぎている様にも思える。実際は病んでるだけなのだが。


 ーーある意味多重人格のようなものだ。なので素に戻ると、とにかく恥ずかしい。


「やだやだやだやだやだやだやだやだああああああああああああ〜〜!!」

 溢れる恥ずかしさが止まらない。ナナは虐められるより虐めたいのだ。


「これ以上マスターに『天使召喚』をさせないように手を打たないと拙い。本気で拙い……」

 レイアが何かくだらない事、もしくは屈辱的な事を願って召喚しようものなら、召喚された自分は何でも喜んで受け入れてしまうだろうという確信があった。


「マスターの容姿だけは私ですら大好きなんだから、絶対奴は逆らわない。寧ろ進んで従うよ……冗談じゃない。私の純潔は、自分で守らなきゃ!」


 幸いレイアはこの事実に気づいていない。このままバレないように、騙し続ければ問題は無いのだ。

 その後、ナナは現実から目を逸らして遠い目をしながら天界を見渡した。ワインのコルクを開けるとグラスに注ぎ、考える事を放棄したのだ。


「そうそう召喚しなきゃいけないような、危ない機会なんて訪れないよね〜〜! ナナ様とした事が考え過ぎちゃったかな〜? さぁ、ワインでも飲んで忘れちゃおっと。暫く飲み続けてやるんだから!」

 それはフラグだと、どこからか聞こえた気がするので答えよう。

 その通り、フラグだ。



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