第15話 おっさんと仲良くなろう!

 

「んっ……」

 目を覚ますと、目の前に穏やかに微笑むナナの顔があった。膝枕されて気持ちいい。


「あら。目が覚めたねマスター! さっきはごめんねぇ? もうちょっとこうしてたいけど、今回の召喚の願い事は、『マスターの危機を救う』で受諾されてるから、もう戻らないとなんだぁ……詳しい話はナビの私に聞いてね」

 天使は何故か急いでいるようで、話終えると光の粒になって消えていった。


「最後まで優しくて良い天使だったなぁ……きっとあれが真のナナだったんだ」

 俺は瞳を潤ませて反省していた。いつしか人を信じる心を失っていたのかもしれない。


「助けてくれてありがとうな!」

 いつもの様に、頭の中から声が響く。


「……いえいえ、どういたしまして」

 すると、召喚されていた時とは違い、めちゃくちゃ不機嫌そうな声が響いた。何故だ。

 しかし、今変な質問をすると藪蛇な気がした為無視する事にする。


 __________



「そういえば、亡骸を埋めてあげなきゃ! あんなおっさんでも、供養は大切だしな」

 そして大剣はいずれ何処かの街で売ろう。あの強さからして、きっと高く売れるという自信があった。手放すのは少々惜しい気もするけど、こんな身体じゃズルズル引き摺って逆にダサい。


(いや、ロリ女神が実は大剣使いというのもアリか。見た目のギャップさが逆にアリかもしれんな……検討の余地ありだ)

 俺が頭を抱えて悩んでいる所へ、図太い声が響く。


「悪いがまだ死んでねーよ。もう歩く体力もねーけどな……」

「ーーん?」

 上を向くと、そこには鎧が砕け、上半身半裸の髭のおっさんが立っていた。髪は乱れ、衣服は破れ、血や土で汚れたロリ女神の側に佇む半裸の男。その光景は中々に衝撃的だ。


 ーー凄まじい恐怖から思わず絶叫する。


「おまわりさーん! へ、変態がいますぅ!! 助けてえええぇええええ! 襲われるっていうか、もう襲われたあああああっ!!」

 幼女の悲鳴を聞いたアズラは、慌てふためいていた。


「意味はわからねーが、ニュアンスは伝わるから止めろ! だ、誰が変態だああああああっ⁉︎」

「お前だあああああああああっ!!」

 俺は即答しながらおっさんを指差す。


「はぁっ? 俺は違うだろ。どう見ても肉体美を誇る、渋めな良い男だろうが! この髭も、国じゃあ人気なんだぞ〜?」

 拙い、目の前にいる男の美的センスは自分の手には負えない。そう判断して諦めることにした。


「ところでレイアよ。さっきの戦いだが、お前は俺に負けて、俺は天使に負けたから引き分けだよな? だから、盗んだもん返せ」

 いきなりアズラが、まるで小学生みたいな事を言い出す。


「いやいや。天使も俺の能力だから俺の勝ちだよ? だから装備は渡さない。洞窟の財宝も返さない。そして、おっさんの大剣は売り払う」

 一方俺の理屈は元の世界の偉大なる小学生、ジャ○アン君を見習っていた。


「わかった。大剣は絶対売らせないが最大限の譲歩として、今装備しているものはお前に適正反応が出てしまってるから諦めよう。だから、金貨と宝石類は返せ」

 魔人は少し折れて交渉に入るが、大剣は譲らない。どこの世界に自分の大切な剣を売りさばこうとしている相手に対して、諦める剣士がいるのか。気持ちは分かるけどね。


「残念だが、返答はノーだよ。アズラ君? 君は大きな勘違いをしている。負けたものは全てを奪われるのさ。そして、勝者はそれら全てを好きにできる権利を手に入れる。それが、世界共通のコトワリだ!!」

 俺は若火の髪飾りから出る炎を宙に浮かせ、まるでマフィアのボスみたいな態度を取った。正直少し楽しくなってきているのを否定はしない。


「鬼畜かお前は⁉︎ ーーまぁ、今はまだいい。取り敢えず、結界の洞窟をどうやってすり抜けたんだぁ? 壊された様子もないのに、オーク達は壊滅してるしな。気づいた時には驚いたよ」

「結界なんて無かったよ。何か張ってあったの?」

 ちゃんと思い出して見ても、何も感じなかった。ナナなら分かるだろうかと問い掛ける。


「だそうだけどナナ、理由わかる?」

 どこかしら元気が無さそうな、重苦しい雰囲気で返答された。


「身体が女神だからに決まってんでしょ……ちょっと疲れてるから、考えて質問してよ」

(マジで元気がないなぁ。なんか怖いから、ほっとこう)


「俺だけの特殊技みたいなものだよ! 滅多に使わないけどね」

 俺は軽々と嘘を吐く。その演技は実にナチュラルだろう。その時同時に思ったのは、アズラの性格の事である。このおっさんは本当にまっすぐだなぁと感心していた。

『女神の眼』で嘘は通じない。何かの打算や負の感情による嘘は、全て眼が見抜いてしまう。


 こんなに普通に会話できるのは、このおっさんがいい奴だからだと嬉しく思っていた。異世界で初めて会った会話出来る存在だから、コミュニケーションや友情を深めようと実は張り切っている。


「とりあえず、戦利品としておっさんも俺のものだから、魔王軍辞めてね?」

 首を若干傾げながら、可愛く『女神の微笑み』を発動させつつ爆弾発言をぶっかけて見た。これはある意味実験だね。


「辞めるわけねーだろ! 辞める、わけ……ない? 辞めよっかなぁ。辞め……てもいいかなぁ?」

 恐ろしいリミットスキル『女神の微笑み』が炸裂した。全ては狙い通りだ。

 先ほどとは違い、この手の男はわかり合うと甘くなる。『威圧』はレベル差で通じなかったが、『魅了』は効くチョロ甘君だろうと予想していた。


 ロリ悪女への道を、全力で踏み出していたが気にしない。このおっさんが手に入れば、これからの旅路でなかなか便利だろうと内心ガッツポーズで喜んでいる。

 さっきまで張り切っていた、コミュニケーションや友情はどこへ消えたのか。もう遠過ぎて見えやしないぜ。


「とりあえず、おっさんはどこから来たの? ここはどこなの?」

「お前、国の名前も知らんでこんな所にいたのか。まぁいい、ここは魔王様の統治する国レグルス。俺はそこの王都シュバンから来た。今いる場所は、そこから東に向かった端にあるダンジョン、『深淵の森』だ」


 ーー俺は顎を抑えて真剣に考えながら、一番求めるモノがそこにあるかを尋ねる。


「あのさ、知ってたら教えて欲しいんだけど、その王都シュバンには、性別を変更して男にも女にもなれる魔人や魔獣はいるかな?」

 アズラは呆れた視線を向けて何を言ってるんだと疑問を持っていたが、偶然にも心当たりがある様だった。


「それこそ魔王軍参謀のミナリスは男女どちらにもなれるし、魔王様自体がコロコロ性別を変えてるのを、俺は立場上よく見てるぞ?」

 俺はあっさりした答えに驚愕する。そしてブルブルと感動に打ち震えた。

(女神様に封印されし、漢が目覚めようとしている! 待ってろ、俺の『相棒』!!)


「いざ、行くぞ王都シュバンへ! 案内しろおっさん!」

 張り切る幼女オレにアズラは若干呆れながら、それもいいかと大剣を担いで歩き始めた。

 まずはここから一番近い、『ビッポ村』へ向かおうと提案される。


 後にこの村は、俺達二人にとって一人の少女の存在と共に忘れがたい村になる。

『深淵の森』のダンジョン生活は、こうして終わりを迎えたのだ。

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