第342話 親は誰でも自分の子供が一番可愛い。
大国シンが帝国アロと獣人の国アミテアと同盟を結んだという情報を受けて、俺達は紅姫のメンバーは体調を崩しているビナスを除いて全員ミナリスに呼ばれ、会議室に集まっていた。
「王と聖女を先の事件で失った帝国アロが大国シンからの申し出を受けるのは当然だと理解出来ますが、何故アミテアが私達を裏切ったのか分かりません」
「ん〜? 多分嫌な理由じゃないから気にしなくて良いんじゃね?」
「アブゥ〜!」
「ダメでちゅよ〜奏たん〜! パパはオッパイが出まちぇんからねぇ〜」
ーーハムッ!
「こら〜! 服の上からじゃ吸えないでちゅよ〜? 全く奏たんは甘えん坊でちゅねぇ〜? ちょっとパパ大事な話をしてるからもうちょっと待っててね〜」
先日ビナスが寝付いてる時に奏たんがぐずり出したので、代わりにオッパイを吸わせてみたら気に入られてしまったらしい。
パパとしての尊厳とか一瞬頭に過ぎりましたけど、別にどうでもいいっす。だって俺、女神ですし。
寧ろこれが母性なんかと感動したね。元の世界でおっさんだったら絶対出来ないであろう母親プレイとでも言うべきか。
日頃嫁達にも吸われてるし、免疫ついてます。男の子だったらまた違ったかもなぁ。
「あの……カナデ様がいらっしゃると、正直会議にならないのですが……」
「何て事を言うんだミナリス! うちの娘が邪魔だとでも言うつもりか⁉︎」
「い、いえ……邪魔とかではなくて、誰一人として私の話を真剣に聞いてくれないと言うか、カナデ様にデレていらっしゃると言うか」
「それはしょうがないだろ。だって、うちの娘達は本物の天使が認める天使なんだから。なぁ、ナナ、アリア?」
俺が涎を垂らしながらデレているナナとアリアに視線を向けると、無言で親指をサムズアップされた。
因みに言うまでもないが、冒険者パーティー『紅姫』は『家族』である。
つまりは奏たんは俺達全員の新しい娘として扱われており、その親馬鹿っぷりを止めようとするのは部下達だけで身内にはいない。
意外だったのが、アズラが男代表としてなのか一番に奏たんを可愛いがっていた。仕事の隙を見つけては奏たんの様子を見に行き、昨日はビナスにいい加減にしろと怒られる始末だ。
「ミナリスの言うこともわかるが、今はビナスが回復するまで俺達がサポートするって決めてんだよ。だから、問題はないぜ」
「
「奏たんが可愛いから仕方がないんだ。俺達は悪くない」
「ミナリスは頭が堅いのう。妾達とて遊んでおる訳ではないぞ?」
この会話の間、アズラは一度もミナリスと目を合わせていない。視線の先は常に奏たんにある。溜め息を吐き出しながら頭を抱える宰相の様子を見て、ディーナが口を開いた。
ーーえっ? ずっと遊んでると思ってたの俺だけ?
「カナデは何も出来ぬ赤子なのじゃ。つまりは妾達が守って育ててやらねばならぬ。そして、この瞬間は二度と戻らんのじゃ」
「……はい」
「だからこそ離れぬ!! 世界がどうなろうが、後でどうとでもしてみせるのじゃあ!!」
「ディーナさんまじぱねぇっす!! 旦那としてその潔さに惚れ直すわ〜!」
「照れるじゃろ主様〜!」
ディーナの頭を撫でている最中、紅姫のみんなはウンウンと頷いていた。眉を顰めているミナリスに俺は少しだけ真面目な話をする。
「大丈夫だミナリス。元々ザンシロウは蒼詩が
「……それだけの理由を敵国が開示なされた、と?」
「そうだな。息子が何故俺と敵対する道を選んだのか、俺とナナには分からん。俺達は所詮元の世界で家族だった頃と違い過ぎてるからね」
俺はチラっとナナへ向けて視線を流すと、何故か睨まれた。ナナ達は人格が変わっても記憶を共有している分、感情まで共有してしまう。
息子の行いに納得がいってないのかもしれないな。
「レイア様は本当にご子息と戦えるのですか? 失礼ながらマリータリーで敗北したのは、肉親への甘さからだったのではないかと噂が立っております」
ミナリスは言い辛そうに顔を伏せながら俺に進言してきた。
確かに今思い起こせば動揺したのは間違いない。でも、幼女の肉体だったとはいえ俺は瞬殺された。普通の人間だったら確実に死んでいただろうと思う。
だけど、迷いのない一太刀は逆にあいつが迷いを振り切ろうと必死だった様にも思える。
「俺達はどうせまた合間見えるよ。アミテアの獣人達は義理堅い。同盟を抜けたのは、きっと何か理由があると思っておこう。決してこちらから攻める様な愚行を起こさぬ様に兵士達に伝えてくれ」
「畏まりました。ですが、GSランク冒険者が二人もあちら側についたのは痛いですね」
ミナリスのその言葉を聞いて、俺は家族の顔を見渡す。
ーーいくらでもかかって来い。そう言わんばかりに口元をつり上げる嫁達の微笑みが、何て心強いんだろう。だけどチビリー、お前はダメだ。死ぬからな。
「アブッ!」
「奏たんも戦うつもりでちゅか〜?」
「ダブゥッ!!」
偶然だろうが、掌をバタバタと動かしながら『自分も』っとばかりに笑う奏たんを見て、俺達は一瞬視線を鋭くする。
「みんな……俺が言わなくても分かってるよな?」
「おう。誰に言ってんだよ。やる事は分かってるさ、姫!」
「どんな魔獣も、竜姫の妾が焼き尽くしてくれる!」
「レイア様の敵は粉砕します!」
「マスターの為って訳じゃないけどね〜」
「私はレイアの為ならどんな敵でも倒すわ」
「ご主人の命令は絶対っすよ〜! 目指せヒエラルキー最下位脱出っす!」
『ペットに気遣いなぞ不要だぞ。主人よ』
「イザヨイは妹を守る為なら敵の骨バッキバキにしてやりますの!!」
アズラ、ディーナ、コヒナタ、ナナ、アリア、チビリー、シルバ、コヒナタの順で一人一人が強い意思を胸に秘めている。
俺は本当に良い仲間を持った。
「さぁ! 今日も全力で奏たんを愛でるぞーー!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」」」
俺の号令を受けて奏たんを掲げつつ、普通じゃ笑わない奏たんをどうやって笑わせるかという本当の作戦会議が始まった。先日は最上級魔術を見て笑ったんだったか?
龍化したディーナの背中に乗って飛ぶのも好きみたいだ。だけど、何故か普通の赤ちゃん様玩具には見向きもしない。
魔法少女ロリカ人形をアズラが渡してみた所、ぶん投げられて首が折れたらしい。
その時に俺達は悟ったのだ。この子はやはり一味違うぜ、と。
「いや、働いて下さいよ……本当に……」
ミナリスが何か呟いていたが、今日は何をして奏たんを笑わせるかで俺達の頭はいっぱいだった。
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