第343話 双剣復活と不思議なダンジョン。 前編
「お、おはようございます……」
俺が城の庭でシルバに腰掛けながら昼食のサンドイッチを食べている所へ、ここ数日寝ていないのだと一眼で分かる程に窶れたコヒナタが姿を現した。
一度スイッチが入ると止めても聞かないので放置していたけど、今回はまた凄いなぁ。
ボサボサの髪を手櫛で梳くと、コヒナタはボーッとしていた顔を上げて、俺から一瞬で距離を取る。
「別に臭わないってば」
「嘘です! 私何日もお風呂入ってませんし、レイア様が気遣わなくても分かってますから……」
「んじゃ、一緒に風呂に入るか?」
「……はい。でもその前に『
俺は頷きつつ、コヒナタと一緒に城内の工房へと向かった。
双剣を修復するだけでは、今後の戦いでまた損傷してしまう可能性が高いとコヒナタは判断したみたいで、時間が欲しいと言われた。
この数ヶ月、コヒナタは鍛治神ゼンの爺の知恵と力も借りて只管に勉強していたみたいだ。俺が今から目にするのはその完成形なのだろう。
どうしよう、久し振りに胸が踊る。
「ワクワクするよ。ありがとうコヒナタ」
「お礼なんて要りません。私はレイア様の妻なのですから当然です」
「ふふっ。でも何でかお礼を言いたい気分なんだ」
「期待に応えられる出来栄えだと、自負しておりますよ」
コヒナタがそこまで言うのは珍しい。今にも倒れてしまいそうな程にフラフラした小さな身体が、何故か大きく見えるから不思議だ。
口元がにやけてしまうのを堪えながら、俺はゆっくりと工房の扉を開く。
「すげぇ……」
思わず漏れ出た言葉を聞いて、コヒナタは小さくガッツポーズしていた。中央に並んでいる双剣が視界に飛び込んだ瞬間、それ程の力作だと認めざるを得ない。
見ただけで溢れ出る力が伝わるからだ。
ーー『深淵の魔剣』は元の黒い刃の端と中央に紅いラインが入っていて、逆に朱雀の神剣の紅い刃の端は黒く染まっていた。
二本の双剣の柄には輝聖石のカケラが使われているのか、宝石の如く輝いている。
「元々、この二本の剣の特性は『見えない斬撃』と『神炎』でしたが、今回本当の意味で双剣となる様に互いの破損箇所を壊れたカケラで補い合って補強しました。柄には輝聖石のカケラを使用し、そこに残りの白虎、玄武、青龍の神気と加護を受けています」
「あの子達も協力してくれたのか」
「麒麟様とアズラ様にお願いして、四神招来で呼び出しちゃいました。レイア様にバレない様にするのが大変でしたよ」
「全然気付かなかったよ。みんなで何かしたな?」
「えへへっ。神域に行っている最中にコッソリとです」
にゃるほど。あっちに行ってる間は、ナビナナが教えてくれなきゃ気付かないしなぁ。こうなるとーー
「ーーナビナナ。お前もグルか?」
「はい。マスターならこの方が喜ぶと思いましたので」
「有能過ぎるだろ。その通りだから礼を言うよ」
「コヒナタ様も言っておりましたが、お気になさらず。私はマスターの為のナビですので」
俺に向かってコヒナタがどうぞ? と双剣に向かって腕を流して一礼する。お礼は後にしようと決めて、双剣の前に立つと、自然と宙に浮かび上がった。
「おかえり。また俺を主人だと認めて、思う存分振るわせてくれないか?」
両手を差し出すと、開いた掌へ双剣の柄が飛び込んできた。
握ってみて更に分かる。眷属になったコヒナタが打った事で俺の神気が伝わり易くなっており、自分の腕の延長の様に馴染んでいた。
このまま振るってみたいが、工房を破壊してしまいそうなので一旦側に置かれていた鞘へ仕舞い、腰に差す。
「試し斬りがしたいから、ダンジョンに行こう!! 今すぐ!」
「それは良い提案なんですけど……もう、眠気が、げん、か、い……」
俺が喜ぶ姿を見れて満足したのか、コヒナタは穏やかな表情を浮かべながら俺の胸元に頭を預けて眠りに落ちた。
俺は頭を撫でた後にお姫様抱っこをすると、コヒナタの私室へ運んでベッドに寝かせる。起きるのを待つかちょっとだけ悩んだけど、早く双剣を振るいたい衝動の方が勝った。
『シルバ。ダンジョンに行くけどついてくるか?』
『是非と言いたいのだが、主人と入れ替わりで飛び付いてきたイザヨイが背中で昼寝中なんだ。チビリーまで腹で寝ていて動けそうにない』
『それはしょうがないな。また今度にしよう』
『あぁ。直った双剣を振るう姿を楽しみにしている』
一人で行くのは寂しかったからシルバを念話で誘ったのだが、タイミングが悪かったみたいだ。出来れば他の家族にはお披露目まで隠しておいてびっくりさせてやりたい。
俺にサプライズを仕掛けたのだから、こっちからも仕掛けてやるんだ。
「さて、ナビナナならどこのダンジョンが良いと思う?」
「深淵の森で良いのでは? 慣れているダンジョンの魔獣の方が試し斬りには丁度良いかと」
「却下だ。あの森は巨大Gの住処へと変貌してしまっただろうが。俺は視界に奴等が入ると身体が動かなくなる。天煉獄で焼き尽くすならともかく、接近戦なんて自殺行為に等しいだろうが」
「それでは久しぶりにギルドへ行って見てはどうでしょう?」
「それな!」
GSランクであり、女神となった今、最近は冒険者ギルドへ足を運ぶ事も少なくなった。時折ギルマスのマーリックから手に負えないと判断した依頼を城へ上げさせる事はあったけど、嫁達が修行の一環だと片付けてしまうからだ。
レグルスの魔獣は人族の大陸に比べて強い為、冒険者の質が落ちる事は無かったけれど、俺自らが出張る機会はほぼ無い。
ウキウキしながら冒険者ギルドシュバン支部の扉を開くと、相変わらず昼から隣接している酒場で酒盛りをしている魔人達の冒険者達が多くいて、平和そうで何よりだと感じた。
何人かの冒険者は他所から流れてきたのか俺を知らないみたいで、見惚れている様子が伺える。だが、次の瞬間にはベテランの冒険者に首根っこを掴まれて引き摺られていた。
流石に始めてこのギルドを訪れた時とは違って、チンピラには絡まれないかぁ。ちょっとだけ期待してたんだけど。
「久しぶりだね、メリーダ」
「れ、レイア様⁉︎ 今日はどういったご用件でしょうか⁉︎」
「ハハッ。緊張しなくて良いよ。修理した剣の試し斬りがしたくてさ。何か良いクエストは無いかなぁ? 別に報酬は低くても構わないから」
「ソロでですか⁉︎ 流石に国の王をダンジョンに送り込む訳には……」
受付嬢のメリーダが頭を抱えて悩みだしたので、俺は心配いらないって所を伝える。
「ソロじゃないし、俺には頼れる
「どこにも姿が見えないのですが……」
「タロウ。出て来て良いよ」
ギルドの影から憂鬱な瞳をした少年が姿を現わす。ジト目で睨みつけられると、次に何を言うつもりか心眼を使わなくても分かった。
「「勝手にダンジョンに行くとか、付き合わされる僕の身にもなって下さいよ!!」」
一言一句違わぬ様にハモると、タロウもメリーダも驚いて目を見開いている。俺は大丈夫だろう? と視線を流すと、メリーダは頷いた。
「それなら今朝入ったばかりの丁度良いクエストがあります。シュバンの北にある『ヘイケルの谷』に新しいダンジョンが生まれたみたいです。本当はAランク冒険者に難易度認定をして貰う依頼を出すつもりだったのですが、レイア様なら平気かと」
「近隣の村人は平気なのか? それって城に報告してる?」
「はい。既に騎士部隊から小隊が何組か出発してますよ」
まぁ、調査段階から俺に報告する事はないか。部下達も色々と気を遣ってくれてんだなぁ。今度労ってやろう。
「んじゃ、そのクエストを片付けがてら双剣の試し斬りしてくるわ! 行くぞタロウ、ナビナナ!」
「え……嫌な予感がするので帰りたいんですけど」
「一時的にタロウにも私の声が届く様にリンクを繋げておきます。マスターは気にせず暴れて下さい」
「気を付けて下さいね。レイア様なら心配はいらないと思いますが、貴女様は世界でも貴重なGSランク冒険者であり、この国の主柱なのですか」
「ありがとうナビ、メリーダ。行ってくる」
さて、久しぶりに双剣で暴れようかな! 新ダンジョンでお宝でも見つかれば万々歳だ!
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