第22話 特訓は続く!!
『特訓一日目、セーブセーフ一周目』
レイアは先程の戦闘から次は『限界突破』も『ゾーン』も使えない状態で打ち合っていた。体力を消耗していたからだ。
隙を見せれば容赦なく拳が飛んできて、足元が留守になれば下段蹴りをくらう。
泣きたくなる程のダメージに耐えながら二時間程打ち合い、倒れ、回復薬を飲み、また戦うと戦闘を夜まで繰り返していた。
エジルの宿に戻る頃には身体はボロボロで、抱き抱えるアズラの顔に余裕は無い。レイアが食事はいいと言うが、スープだけでもと口許に運び流し入れた。
そのままベッドに運び寝かせ、アズラは下で食事をとりながら明日からの特訓を再考する。
(こんなものは特訓とは言わない。無茶苦茶過ぎるがあいつの瞳は本気だ。一体どうしたらいい?)
思い悩むが、明日のレイアの気力次第で判断しようと決めた。まだ自分の知らない能力があるかもしれないと思ったからだ。
そのまま、今日も己が眠る為に酒場へと向かう。
__________
一方、レイアは意識を失いベッドに横たわったまま、脳内でナナと思考リンクによるシミュレーションと実践、今日の反省と新スキルの検証をしながらアズラの能力を呑み込んでいた。
「やはり、このパターンは右の剣で受けて、左腕を狙った方がいいか?」
「いえ、その場合過去のパターンからして脚蹴りで脇へダメージを食らいます。正攻法で顎へ柄による攻撃を仕掛けた方が、与えるダメージは大きいでしょう」
「なるほど……では次だ」
ーー何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も繰り返して、検証していく。
ナナにより二十三時間経過が告げられたあと、『セーブセーフ』のスイッチとも言える言葉を唱えた。
「リトライ!」
__________
『特訓一日目、セーブセーフ二周目』
「ふぅ。無事に発動できたね」
ロリ女神は無事に時間を戻せたかどうかわかりやすいようにあるメモを残し、確認すると廃棄した。その内容を見て、頬を叩き気合いを入れる。
「…………」
ナナは何もツッコまない。例えその言葉が『目指せ、ハーレムの為に!』だったとしても。
「ステータスを頼む!」
当の本人は到って真面目なのだ。幼女にされたとしても諦めておらず、冗談の類では無かった。
__________
【名前】
紅姫 レイア
【年齢】
10歳
【職業】
女神
【レベル】
19
【ステータス】
HP 937
MP 1015
力 1045(2090)
体力 430
知力 374
精神力 290
器用さ 471
運 スキルが発動していない為、数値化できません。
残りSTポイント0
【スキル】
女神の眼Lv4
女神の腕Lv2
女神の翼Lv1
ナナLv4
結界Lv2
狩人の鼻Lv1
身体強化Lv1
【リミットスキル】
限界突破
女神の微笑み
セーブセーフ
天使召喚
闇■■■
女王の騎士
ゾーン
剣王の覇気
【魔術】
フレイム、フレイムウォール
アクア
ヒール
【称号補正】
「騙されたボール」知力-10
「1人ツッコミ」精神力+5
「泣き虫」精神力+10体力-5
「失った相棒」HP-50
「耐え忍ぶと書いて忍耐」体力+15精神力+10
「食いしん坊」力+10体力+10
「欲望の敗北者」精神力-20
「狙われた幼女」知力-10精神力-20
「慈愛の女神」全ステータス+50
【装備】
「常闇の宝剣」ランクA
「深淵の女王のネックレス」ランクB
「名も無き剣豪のガントレット」ランクA
「フェンリルの胸当て」ランクS
「ヴァルキリースカート」ランクB
「生命の指輪」ランクS
「若火の髪飾り」ランクC
__________
「やはり思った通りだ!!」
『セーブセーフ』で戻されるのは本人の記憶のみ、では覚えたスキルやスキルが得た経験はどうなるのかと疑問を抱いた事から始まった。
結論としては、肉体強化はやり直した二周目にしか反映されないが、精神やスキルの強化は記憶と共に引き継がれる。
「第一段階クリアかな? 引き続き検証だ! アズラの所に向かおう!」
暫くした後、一周目と同じように草原へ移動して剣を構える。違うのは『限界突破』と『ゾーン』を最初は使わない。
己の力と剣技の熟練度を上げる為だが、ある事柄を一つ決めていた。
(アズラがスキルや剣技を使ったら、こちらも使う)
一周目と同じように、最初は軽いウォーミングアップだと剣を交わし合う。
「そろそろ本気でやろう? 色々試したいんだ!」
その台詞に若干違和感を覚えつつ、アズラはオーラを高め威圧を放ち飛び掛かった。
右へ左へ剣撃を放ち、時には下と見せかけての掌底。それをシミュレーション通りに、薙ぎ払い、逸らし、時に武術、体術を使い対応していく。
「お、お前、一体何をした?」
アズラは震える。こんなはずはない、今日まで幼女の側にいた自分がこんな事に気付かないわけがない。
全てが読まれている。己のフェイントも、太刀筋も全てがだ。何故こんなにも敵を強大に感じるのか理解できない。まるで掌で遊ばれているかのような感覚が襲う。
剣士として認められないその焦燥から、アズラはスキル『身体強化』を発動し、『剣王の覇気』へと繋げた。
「きたっ!!」
レイアはそれを待ってましたとスキルを発動する。そのタイミングはほぼ同時だった。そしてアズラが、絶望と焦燥を覚えた瞬間でもある。
「何故! 一体何故お前がそれを使えるんだああああああああっ⁉︎」
魔人は驚愕しつつ怒声を張り上げた。自分が何年もかけ、負け続け、勝ち上がり、それでも負け、一日も休まず研鑽を続けた極地が『剣王の覇気』だ。
それこそが魔王軍「騎士」部隊第一隊長へと登り詰めた、認められた自分の力なのだから。
アズラは自らが抱える『職業』の問題から騎士にはなれなかったが、それを目の前の幼女一人に簡単に覚えられるなど、到底認めることは出来ない。
なのに、眼前には自分と全く同じタイミングで『身体強化』を施し、練り集めた気を両手に持つ剣へと流し込んでいく存在がいるのだ。
混乱の坩堝に落ちた自らを制御出来ず、真の強者に出逢うまで使わないと決めていた自らの最大禁忌の技を放ってしまう。これは恐怖、真なる恐怖からだ、と。
「うわああああああああああああああああっ! 『白虎雷刃』!!」
神獣を模した雷の刃が光速で迫る。それは瞬きすら許さない程の紛れも無い達人の一撃。
レイアは『ゾーン』を起動させ、その様子を観察していた。
初めてみるその武技に対応は出来ないが、こんなテンパったおっさんが放った奥義ならこれで充分だと、両手の剣を頭上に構え叫ぶ。
「死ぬなよおっさん! 『風神閃華』!!」
かつて見たアズラの風神衝閃波を何度も脳内でシミュレーションして研鑽し、ナナと追求し続けた。
それは最早、新しい奥義と呼べる。
白虎は瞬く間に竜巻に飲まれ、切り刻まれつつ無数の剣閃に吹き飛ばされる。その勢いに引き摺られ、アズラは空中に投げ出された後、斬撃を食らい続けた。
ーードスンッ!!
空中から放り投げ出され、地面に沈む魔人は意識を失い虫の息だった。
『セーブセーフ』によるチートから、一日でアズラの経験と技術を喰らい尽くした事にレイアは歓喜するが、やり過ぎてしまったと駆け寄り、若干回復したMPで『ヒール』をかける。
「そろそろ、ヒールの上位互換に連なる魔法が欲しいなぁ……」
回復しながら、レイアは背後からの視線に振り向くと、そこには木の陰から、こちらを『ジ~~ッ』と見つめるアリアがいた。
何かあったのかと不安になり、優しく微笑みながら声をかける。
「ごめんね! 怖がらせちゃったかな? 身体はもう平気? 大丈夫だからこっちへおいで?」
アリアは身体をビクッと震わせるも動かない。木の陰に待機だ。
ロリ女神はとりあえずアズラを宿に運び、自分も明日の『セーブセーフ』の使用の為に休息を取ろうと、嫌々身体を抱えて歩き出した。
(この世にカメラがあるなら是非撮っていただきたい。どこの世界に十歳の俺にお姫様だっこされて、痙攣しつつ口から泡を吹くおっさんがいるというのだ……良いネタになるな)
内心納得はいかないが、それは後日ドSモードナナ様のストレス発散ネタに使おうと我慢した。エジルの宿に向かう途中も、ずっと村人の視線を感じる。
「ナナ、索敵頼む」
「しなくてもわかるでしょー? あの子が追ってきてるだけだよ? 自分で見てわからければ私に聞くとかやめて? 呑んでんだから気を使えや、ーークピクピッ」
(信じられない……まだ飲んでいるのかこのダメ天使は)
「……この天使に、上司からの天罰がくだりますように」
ーーその懇願の直後、突如ナナが慌てた様子で騒ぎ出した。
「マスタあああああ⁉︎ 今何かお願いしなかったああああああ⁉︎ ねぇ、今なら怒らないから早く、早く教えて? 早くしなさいよ!! お願いしますからそれ取り消して!! やばい、やばい、やばいいいいい!! イタタタタタタタタタタァ!!」
突如ナナの声が消えて返答が無くなった。レイアは何かあったのだろうかと首を傾げるが、振り向いてアリアに声をかける。
「ちょっと待っててね? お父さんが気絶しちゃって寝かせてくるから、その後話そう。嫌かな?」
少女は首をブンブンと横に振って、待ってると腕と身体でジェスチャーしていた。連動する様に大きな胸がブルブルと震えている。
(この歳でけしかりませんな……)
「じゃあ、ちょっと待っててね?」
その後、驚くエジルに会釈しつつ、アズラをベッドに放り投げて宿の入り口に戻った。
だが、先程の場所にアリアがいない。キョロキョロと周りを見渡すと、近くの路地裏から顔を半分覗かせてこちらを見ている。
「ストーカーかお前は!」
中々絵面が面白いと大爆笑していると、意味を分かっていないアリアが恐る恐る近づいて来た。
栗色の髪。ぽっちゃりしてる身体に十四歳に見えない豊満な胸。たれ目であり、いい意味で狸みたいに愛嬌がある。
(村には魔人では無く、人や獣人が住むとアズラが言っていたがハーフだろうか?)
その可愛い生き物はレイアの元へゆっくりと近づいてきて、ピタッと腕に両腕を絡めた後、スリスリしながら離れない。
まだ恐怖が残っているのだろうと女神は穏やかな眼差しをしながら微笑むが、全ての間違いはそこから始まったのである。
レイアは自分の容姿を『深淵の森』の生活で忘れていた。異世界転生人生初の、ストーカーに憑かれる体験をする羽目になるのだ。
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