第318話 ロリ女神は自重出来ない。
錬金術師グリセルドに杖作製の依頼を出してから一週間が経った。
午後からはレイセン魔術学園の入学試験だが、俺は前日の事を思い出して憂鬱になっている。
昨晩ギリギリのタイミングで完成した杖は、拳大の大きさをした真珠色の魔核を神樹の枝が巻く様にして取り付けられており、シャフトの先端に向かって捻れ細くなっていた。
双剣や大剣に比べ、やはり外見はシンプルだとなと内心不満を募らせていると、グリセルドは子供の悪戯が成功したかの様な笑みを浮かべた。
「フッフッフ! ロリカ様、今地味だなって思いましたよね? 実はこの杖の真価は魔力を込めた時にこそ分かるのです!」
「……楽しみにしておくよ。取り敢えず城門の外の目立たない場所で試し撃ちするけど、一緒に着いて来る?」
何か不都合があった時の調整の為に、グリセルドが着いて来てくれた方が好都合だと思って誘うと、イケメンエルフは『言われなくても着いて行きます!』っと拳を握り締めていた。
俺は改めて杖を掲げ、シャフト部分に備え付けて貰った『トリガー』もいい感じだと指先で上下させる。
「じゃあ、まずは城門まで向かおうか。グリセルドがいれば深夜になっても問題無いだろ?」
「えぇ。顔パスで抜けられますけど、ロリカ様の事は何と言えば?」
「錬金術の弟子見習いとでも言っておいてくれ。分からない事があったら暫く世話になるし、俺の正体は今のところグリセルドしか知らん」
光栄ですと言わんばかりに瞳を輝かせて敬礼するエルフを連れて宿を出ようとすると、女将さんが見送りをして手を振ってくれた。
気持ち心が弾む気がするのは、ホームシックもあるのかもしれないなぁ。
(入学試験が終わったら、休みの日は『神体転移』でシュバンに帰ろっと)
最近のビナスは母性を溢れさせており、君が女神だと言いたくなるほどに可愛い。いっぱい膝枕して貰おうと決めた。
__________
グリセルドの用意してくれたエアロバイクの後ろに乗り、俺は街の門を抜けて北へ進んだ。
エルフの集落が近くにない場所で、実験をするならば何処かと相談した時に『精霊の湖』が丁度良いと教えて貰ったからだ。
「水の精霊とかって本当にいるの? 俺女神なのに精霊とかあった事無いよ?」
「精霊というよりも、我々エルフは自然のエネルギーの事をそう比喩しているだけですから。水は水なんですけどね」
エルフは『自然に感謝して森と共に生きる』と決めた者と、『強大な魔力を発展に使うべき』だと考える者に分かれているらしい。
首都にいるのはその殆どが後者だ。グリセルドも自然に感謝する心はあっても、錬金術を通じて科学的な考えに偏っている。
「じゃあ湖の水を蒸発させて精霊様が怒るとかはないの?」
「いくら刺激した所で、飛び出て来るのは水棲魔獣くらいでしょう」
(それ……フラグじゃね?)
軽く溜め息を吐いたが、俺は最近の自分の運の良さを知っている。巻き込まれ体質を脱却すべき時は今なのだ。
一時間ちょっとエアロバイクを走らせると、目的地である『精霊の湖』のほとりに辿り着いた。
湖面が夜空を反射するように揺らめいており美しいが、輝く精霊が舞っていたり幻想的な光景ではなくてちょっと残念な気持ちになる。
向こう岸が見えない程の広大な面積からして、大抵の魔術ならば蒸発させる事はないだろうとほっと胸を撫で下ろすと、『
「さて、取り敢えず初級魔術から試していくから少し離れていてくれ」
「はい! 女神様の魔術をこんな側で拝見出来るとは、うぅう……感動です!!」
俺はまだ何もしていないと言うのに涙を溢れさせている金髪の美丈夫を薄めで見つめる。
正体を明かしたのは間違いだったかもしれないと言う考えが脳裏を過ぎったが、他の人にもバレたらこうなるという良い例として捉えよう。
「狙いはあそこら辺で……『フレイム』! ーーえっ⁉︎」
「ーーーーッ⁉︎」
杖を掲げて初級魔術の『フレイム』を唱えて瞬間、杖全体が煌々とした眩い輝きを放ち始めた。俺が『女神の翼』や『女神の天倫』を発動した時の輝きとは比べものにならない程に激しく、強く。
そして、杖の先に発動した『フレイム』が杖の輝きを吸収する様にして膨れ上がって球体を作り上げていく。
『獄炎球』のスキルより多少小さいくらいまで膨れ上がった直後、初級魔術の『フレイム』は最初に俺が狙った場所へ撃ち放たれた。
ーードッパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
「……」
「……」
湖の水が十五メートル程の高さまで水柱をあげた後に弾け、俺達に上空から降り注ぐ。豪雨といっても良い程の水量を浴びてビチャビチャになりながらも、無言だった。
見てはいけないモノを見てしまったというか、自然と遠い目をしつつ、凄惨な光景を見つめている。
「一言良いかな……グリセルド君」
「……何でしょうか女神様」
「完全にやり過ぎじゃね?」
「素材が素材ですからねぇ」
二人で濡れた顔面に張り付いた前髪を拭いながら、頷き合った。ーーこれあかんやつや、と。
ちなみにフラグだった巨大な水棲魔獣は結論からして、ーーいた。既に焼き魚と化していたが。
「上級魔術を試すのはまた今度にしておこうかな」
「そ、それが良いと思いますよ! この威力なら最上級魔術だと学園側が勝手に勘違いしてくれるでしょうしね」
(『今のはメラゾーマではない……メラだ』って言ってみたかったけれど、リアルにやったら多分相手が死ぬな)
漸く現実を見つめ直すと、冷や汗が頬を伝う。
精霊の湖に空いた巨大な穴を見て、俺はせめて修復せねばと初級水魔術の『アクア』を何気なく詠唱したのだが、
「あ、あれ? あれれ〜〜?」
「ちょっ⁉︎ 舌の根も乾かぬうちに何してるんですか女神様あああ⁉︎」
ーーズバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
『アクア』は水を出すだけの魔術であり、『深淵の森』にいた頃は身体を洗ったりした便利な魔術だと思っていた。
イメージとしては足りなくなった水を補充するつもりでチョロチョロと補うつもりだったのに、また杖が輝き始め、今度は凄まじい水圧と速度で湖を真っ二つに割ってしまったのだ。
「やべぇ……ナビナナがいないのと、この杖の性能で自重できねぇ……」
「一晩でマリータリーを滅ぼせそうですね……」
「何とかならん?」
「杖の輝きは『鑑定不可』と『擬装』の『
俺は先程までは顎が外れそうな程ビビっていた癖に、今はどこか誇らしげな表情をしているイケメンエルフを睨み付ける。
職人として、良い作品が出来上がった事に感慨を覚えているのだろう。
「最後に頼んでいた仕掛けを試してみるけど、湖が蒸発しちゃいそうだから空に向かって撃つよ。目立つから直ぐにここを離れるからね」
「畏まりました。自分で作っておいてなんですが、アレはどういった仕様なのですか?」
「見てれば分かる」
俺は左手を杖に添え、右手をトリガーに掛け上空へ向けた。
「魔術連装展開! 発射!!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜⁉︎」
実験は成功したと杖をひと撫でした後、呆けているグリセルドをビンタして起こし、急いでその場を去った。
「気に入った! 名前は『ガルバンティン』にする!」
確か元の世界の神様の武器にあったそんな杖があった筈だし、響きがかっこいいから良し。ブツブツと呟きながら何かを考えているグリセルドは店の前に置いておき、その夜は眠りに就いた。
__________
結果、今に至る。
「やべぇ……何の解決策も無いまま試験の日になっちゃったよ……そろそろ向かわなきゃ遅刻するし、どうしようかな」
トボトボと大通りを歩きながら策を考えていたが、否応無く俺の視線の先には『レイセン魔術学園』が近付いていた。
ーーなるようにならないよね?
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