第149話 とある盗賊団の滅亡 4

 

 カルミナは意識を取り戻すと、眼前に繰り広げられている光景に目を疑った。


「おっ? 起きたか嬢ちゃんっ! ちょっと待ってな? この雑魚どもを蹴散らすからさ」

 アズラはまるで退屈だと言わんばかりに欠伸をしながら迫り来る盗賊を一閃の元に斬り捨てていく。その姿が守れられたエルフの少女にはまるで王子の様に美化されて映っていた。


 絶望した瞬間を救われるのは物語のテンプレであるが、常に自己否定を繰り返してきた人間にとって、この場面に現れてくれる存在と言うのはどんな存在だろうか?

 答えは『王子様』では無い『神』もしくは『英雄』だ。自分の人生の終焉を悟っていた存在を救ってくれた奇跡に、少女は大粒の涙を流しながら、アズラの胸元に飛び込む。


「ありがとうございます〜! もう駄目だって……死ぬんだって私は……私〜!」

「例なら我が主人に言うといい。そして、お前を救う為に一人飛び出していったアリアにな? 友達なんだろ?」

「あ、アリア様が私を助けに動いて下さったのですか⁉︎」

「当たり前だろ。俺達は仲間の友達だからこそお前の為に動いてるんだっつの! そもそも何で深夜に一人里から出たんだよ⁉︎」

 アズラの怒声に対して、カルミナは申し訳無さそうに一歩退がり頭を垂れた。


「わ、私にも友達が出来たって……余りの嬉しさに亡くなった両親の墓に知らせたくなったんです……朝には戻るつもりだったんですけど、いきなり捕まってしまって……」

「成る程なぁ。だがお前さんは一つ間違ってるな!」

「えっ?」

「友達が出来たって報告するなら……アリアを一緒に墓まで連れてって、仲良く手を繋ぎながら見せつけてやらないと、亡くなった両親の心配は解けやしないぞ!」


 魔王は無邪気な子供の様に笑う。その顔はカルミナの心の暗雲を斬り払い、暖かな日差しを差し込ませた。

「あ、アズラ様ぁ……」

 アリアはこの時の出来事を後日聞き、猛烈に後悔する事になる。アズラを亡き者にしておくべきだったと……



 __________



 一方レイアは『念話』を発動させ、ナナとリンクして増幅した状態で全ザッファ国民に宣言した。


『聞け、私の名は紅姫レイア。レグルスの女王にして真女神教の女神なり。商人の国、ザッファの民に告げる。「砂漠の大鼠」と言う盗賊団の話を聞いた事はあるだろう? その頭はこの国にいる「誰か」だ……其の者は我が眷属の友人を在ろう事か攫ったのだ。神罰を下さねばならない……』


 ーーその瞬間冗談や嘘の類では無いのだと、混乱した商人達の意志は傾き出す。


『本来国ごと滅ぼしても構わないが、私は『穏便』に解決させたいと考えている。だから探せ! 君達は商人だろう? あらゆる情報網を使い、財力を駆使して犯人を私の眼前へ突き出すのだ。『女神の眼』に嘘は通じない。そして、嘘をついた瞬間にどうなるかを今証明して見せよう』

 宣告の直後、あらかじめ詠唱を済ませていたビナスは禁術を解放する。


「いけぇぇ! 『メルクオリフィア』手抜きバージョン‼︎」

 ビナスの禁術が放たれると、ザッファ中のあらゆる人間は建物の内部にいようがいまいが、己の身体が浮かび上がり二メートル程昇った後、地面に尻餅をついた。

 仕組みは解らないが、所詮冗談だろうと嗤う闇社会やスラムの者達はアジトから外に出ると、目玉が飛び出そうな程に繰り広げられた光景を見て、己の理解と思慮の浅さに絶句する。


『いまいち理解していない者がいる様だったから分かり易くした……これが最後の忠告だ。さぁ、「国ごと滅びる」か「砂漠の大鼠の頭」を突き出すか選べって言ってんだよ‼︎』


 ザッファの商人や、民が絶句した光景とは何だったのか。答えは互いの力量が増した事で最早天変地異とも呼べる、レイアの『獄炎球』とディーナとビナスの『迦具土命』『メルフレイムストーム』×二を全て受け止めて収束し放つと、ナナと最大演算を繰り返しながらザッファの周囲の大地を消滅させたのだ。


 ーーズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオーーーーッ!!!!

「キャアアアアアアアアアアアアアーーーーッ!」

「ウワアアアアアアアアアアアアアーーーーッ!」


 天から降り注ぎ続ける灼炎を纏わりつかせた黒い六本の円柱は、空を裂き大地を一瞬で削りとっていく。

『禍津火・六獄』と名付けたレイア、ディーナ、ビナスの合わせ技は、ザッファの者達に虚構や虚像で無いと言う紛れも無い事実を刻み付けた。

 地面が揺れる。大地の叫びが耳元に直接刻み込まれるかの様な地響きに震え上がる。足が諤々と震えて立てない程の恐怖。ーー己の積み上げてきた財が一瞬で飲み込まれる圧倒的な天災。


 ーー女神の力に逆らえる筈が無い。


 情報屋は己が持つ命とも言えるスキャンダルを次々と開示し、商人は長年積み上げてきた情報網を繋ぎ合わせ女神の指摘する人物の晒し上げに取り組む。

 その勢いは波となり、畝りを上げて王宮にいるサダルスとデールの元に辿り着いた。細く細く穿った穴を通すのが情報屋であり、より優秀な人物を抱えるのが商人だ。


 女神から与えられた情報を元に、考えられる人物像は数人しかいない。そしてその人物が間違っていた暁には己の家や商品が焼かれ滅ぼされると分かっていては、皆が隠し持っていた手札を切り必死にもなる。


 ーー結果……

 レイアの宣言からたった二時間でサダルスとデールは顔を腫らし、身体中を打撲だらけにしながら唾を吐きかけられ突き出された。

「き、きひゃまぁ! わらしにむはって! いっはい何を!」

「これは冤罪だ! 今回の真似をしでかした商人達は覚えているがいい‼︎ 己の身に降りかかる不幸をな! はははっ! あははははっ!」

 歯を折られ項垂れるサダルスに対して、デールはまだまだ諦めずに己の無実を主張する。レイアは『心眼』を発動、二人の真偽を見極めた上で溜息を吐いた。


「なぁ〜? 砂漠の大鼠の力を使って報復しようと思ってるなら無駄だぞ? 多分ソロソロ壊滅してるからさ……」

「ふぁっ!」

「騙されてはなりませんぞ! こいつは所詮ニセモノです! 我らが信じる女神はセイナ様だけで良いのです!」

「別にさ……俺は宗教に興味はねーからいいけどさ。いい加減ムカつく事があるんだわ。俺は確かにニセモノだけど、それを言っていいのは俺だけなんだよ! セイナとか言う紛いもんを信じてるテメーらに言う資格はねぇーー‼︎」

 威圧と共に苛立ちを打つけて、二人を気絶させる。女神を語っていいのは紛れも無い己だけだ。他の者が本物を語るのだけは許さない……


 暫くして冷静になり、目的は果たしたと二人を連れ去り、ディーナの背に乗ってザッファを後にする。合流地点は既にコヒナタに知らせてあったから問題は無い。

 『紅姫』の面々が合流した先にいた人物……それはかつて扱き上げたマッスルインパクトの団長キンバリーとソフィアだった。前以て首謀者達に今回与える罰を決めた直後、『神体転移』を使いコンタクトをとっていたのだ。


「この人数が今回の依頼だけど、何とかなるかい?」

「任せて下さい軍曹!」

「貴女がいなくなってからも私達は訓練メニューを強化して、日々己を磨き上げてきたのよ? 今更こんな盗賊達を鍛える位楽勝じゃないかしら?」


「成る程、訓練メニューを見せろ」

「はっ⁉︎ 今は持っておりませんが……」

「ほう? 俺の命令に逆らうか……見せろと言って見せられない。これは減点だなぁ」

「はっ!! 五分お待ち下さい‼︎」


 ーーズガァァァアァン‼︎

 その言葉の直後にキンバリーは張り手に吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。横で見ていたソフィアは何が起こったのかと絶句していた。

 しかし、まるで時間が飛んだようにレイアの眼前には、今吹き飛ばされた筈のキンバリーが控えていた。

「『凍らせる心臓』のスキルを使って対処したか。プラス十点だな」

「はっ‼︎ こちらが訓練メニューでございます」


「ふむ……よし、明日一日のみ俺が直接指導するとしようか!」

「光栄であります軍曹‼︎」

「副長であるガジーはどうした?」

「それが……最近毎日気になるパン屋のあの子の元へ通っており、腑抜けたというかムカつくというか……」

「よし! ガジーは強制参加だ。リア充は殺そう! 他隊員も腑抜けた奴は連れて来い。翼飛竜を全力で飛ばせ!」


「「イエッサー‼︎」」

 ソフィアは呆れながらも伝説になっている、『女神の扱き』が見られると胸を高鳴らせていた……


 ここに宣言しよう。想像はあくまで想像であり、事実とは異なるのだ。

 一体何人三途の川へ誘うのだろうか……


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る