第54話 スキルイーターとの激闘 1
ディーナの背に乗りハマドの洞窟まで来た俺達は、到着と同時に洞窟奥へと進み出した。
早い所この依頼を終わらせてミナリスに全てをぶん投げ、この国を出なくてはと焦っていたからだ。
『一部身体変化』のスキルを習得出来て、冒険者登録も済んだら正直いつシュバンを出ても良いと思っていた為、これもいい機会かと考えていた。
琥珀色の鉱石が散りばめられた洞窟内では、高くてもCランク程度といった魔獣が所々から襲い掛かる。先頭を走るアズラが護神の大剣で次々両断し、絶命させていった。
ーーそんな最中、俺は気になっていた疑問を発する。
「そういえばビナスって剣士でしょ? その紅いロッドでどうやって戦うの?」
「ははっ! 我は元々魔術師だよ。剣は男状態の飾りの様なものだ」
「そうなんだ!」
「ミナリスから剣技を一応習ったりはしたが、所詮暇潰しの娯楽程度だからな。そうでなければ旦那様に朱雀の神剣を渡したまま放置はせんだろう? 歴代の魔王によっては武術寄りの者もいたらしいが、我を示す魔王という呼び名は、まさしく魔術の王を示すのだ」
ビナスがあっけらかんと笑いながら、当たり前の事の様に魔王について説明してくれた。隣で聞いていたアズラは、何か嫌な出来事を思い出したかの様に顔面蒼白になっている。
「姫。解りやすくいうと魔王様のMPは三万だ」
「はっ? 三万⁉︎ 俺の十倍近いじゃ無いか? 嘘だろ⁉︎」
「褒めるなよ旦那様、照れるだろう?」
(まぁ、今はそんなに無いんだけど……)
ビナスがツインテールを左右にプルプルと揺らしながら、頬を染めている。
「褒めるというか、最初のアホなイメージが強過ぎてギャップがさぁ」
「なっ! あれは旦那様の不意打ちもあっただろうが! 確かに我も遊び過ぎたが……」
深く気にするのは後回しにして暫く走っていると、入り口を糸に塞がれた通路へと辿り着いた。
「ナナ、この先の様子は索敵で判る?」
「はい、マスター。生存者三名に魔獣が一体いますね。かなり強力なようですよ? 既にこちらの存在に気付いています。それでも攻撃を仕掛けて来ないのは知力が高く罠を張っているか、実力に自信を持っている証拠でしょうね。私の予想は後者です」
ナナの言う事が確かなら、当初話に聞いていた状況とは大きく異なる為、自然と警戒レベルを引き上げる。
「成る程ね。みんな! 中に強力な魔獣がいる! 警戒して!」
各々の武器を構え、どうやってこの先へ進むか話し合おうとした直後、何故か糸で塞がれた通路は俺達を導くように消失していく。
『おいでよ。美味しそうな冒険者さん?』
突拍子も無く脳内へ嬉々とした声色が聞こえた。俺は自らが覚えている事もあり、これが『念話』である事を悟る。
入り口から奥に進むと、中央には真白い魔獣が首を垂れており、俺達を出迎える様な礼儀正しい所作をしている。
だが、魔獣がその様な仕草をとる事自体が歪であり、不気味にしか感じなかった。
「初めまして。あなた達は冒険者だよね? ランクはどれ位かな? わざわざ私に食べられに来てくれたなんて泣けてきちゃうよ〜! ほら、お前達もちゃんと出迎えなさい。お客様に失礼でしょう?」
横で女を犯しながら必死に腰を振り続ける男の尻を蹴り上げて、白い魔獣はまるで客人を迎える様にブラブラ垂れ下げた腕をそっと胸元へ添える。
表情に変化は無く、威圧すら発さない事実が余計に気持ち悪さを引き立てていた。
「うぅぅっ……」
蹴られた男は目を血走らせ正気を失っているように見える。身体の限界を超えていたのか、動く事すら出来ないみたいだ。
その横に寝転がっている女はピクリとも動かず、最早意識は無いんだろう。
「悪趣味な嗜好してるね。俺はこういうの大嫌いだよ。気持ち悪いもん見せんな、クソ野郎」
俺は魔獣へ侮蔑の視線を浴びせ、怒りから激しく睨み付けた。
横にはアズラが大剣を構え、いつでも戦いを始めても構わない様に威嚇している。
そんな中、ビナスは冷静に顎を撫りながら、何かを思い出している様子だった。
「楽しんで貰えなかったかなぁ? 大丈夫。あなた達もすぐこの仲間入りだからさ! みんなで
魔獣は腹を抱え、想像するだけでも愉快なショーが見れそうだと堪えきれずに嗤い出す。その姿を見て、ビナスは漸く思い出したと俺の耳元に語り掛けてきた。
「旦那様。こいつ多分スキルイーターだ。身体の一部を取り込まれたらスキルを奪われるぞ? 正確にはこちらのスキルが使えなくなる訳じゃなく、あいつに使われると言った方が正しいが」
ディーナが続ける様にビナスへ相槌を打つ。
「いや、奪われるで正解じゃな。妾も知っておるよ。人間だろうが魔獣だろうが出会ったら奪われる。オリジナルが殺されておるからのう。性格の悪さも有名じゃな。会ったら全てを投げ出してでも逃げろと、先代が言っておったよ」
ビナスとディーナは最大限に警戒心を強めていた。コヒナタはその後ろで隠れるように震えている。
俺は三人の様子から決して油断はしないと『女神の眼』を発動し、ステータスを覗き見て驚愕した。
「うわぁ……まじでステータス高い。スキルは魔獣の特性上見えないのか?」
__________
【種族】
スキルイーター
【レベル】
84
【ステータス】
HP 9120
MP 6240
平均値 5895
【スキル】
???
【魔術】
???
__________
スキルイーターは単一の魔獣としては、レイアが今まで出会った中で最高の数字を誇っていた。
「俺の『女神の眼』と似たようなもんか? チートだと思ってたスキルが敵に回るとか、こんなテンプレ本気で勘弁して欲しいよ。みんな! とりあえず俺とアズラで先制する! コヒナタは下がって状況によって動いてくれ。ビナスとディーナはサポートをお願い! 油断しないでいくよっ!!」
「「「「了解!!」」」」
レイアは双剣を抜き、『神速』『身体強化』を発動し、ナナとリンクして『ゾーン』を起動する。
アズラと並び立ち、揃って同時に『剣王の覇気』を発動させて闘気を武器に流し込むと、スキルイーターへ向かい一斉に駆け出した。
「おいでおいで〜! 痛くしないでいてあげるからさぁ〜? 私は優しいんだよ〜? ほらっ!」
魔獣は言葉とは裏腹に凄まじい速度で腕を振り抜き、レイアとアズラの両横から、鞭のような腕が襲い掛かる。
冷静に避けられないレベルじゃ無いと判断し、双剣と大剣で下段から跳ね上げて腕を弾くと、その勢いのまま頭部に斬り掛かった。
「おぉ! 中々早いね? じゃあ『結界』」
「それはもう知っているぞ!」
見えない壁にレイアの双剣が弾かれると、背後からアズラが以前『結界』を抜いた二連の衝撃波を仕掛けた。
「成る程ね! 知ってるならコッチにしよっと。『
ーーバチィン!!
突如、視界の外から強烈な鞭打を食らい、女神と騎士は同時に吹き飛ばされる。放った衝撃波も掻き消されていた。
「ぐうぁっ! 一体何が⁉︎」
「多分不可視の鞭による攻撃だ! 気を付けろ!」
そんな二人の様子を眺めながら、スキルイーターはゆっくり右へ左へとウロウロと歩き始める。まるで、何かを講義する様な仕草だった。
「私は常日頃思っている事があるんだよね。あなた達っていつも一人で戦わないじゃない? ランクだってその人数で戦って魔獣を殺したら上がるんでしょう? それってズルくないかな? だから私は相手が多い時、いつもこうして戦う様にしてるんだ! 『分裂』!」
魔獣の白い肉体が千切れてもう一つの塊を生み出し、徐々にそれはもう一体の、スキルイーターへと形を成していった。
『紅姫』のメンバーはその様子を眺めながら愕然とし、額から冷や汗を滲ませる。
「そんなスキルまであんのかよ⁉︎ これは同時に相手するのはきついな……ディーナ、ビナス! 分身体の時間稼ぎを任せていいか? 本体は俺とアズラで仕留める!」
「分かった! だが、倒してもよいのだろう旦那様?」
「妾も負けはせんよ! どっちが先に倒すか勝負じゃな!」
スキルイーターの本体と分身体が離れる共に、『紅姫』も二手に分かれ、それぞれの戦闘を始めた。
___________
魔獣へ向けて
実際の腕と見えない『
『聖絶』で防ごうにも、実像と虚像を混ぜ合わせた様な攻撃はタイミングを合わせずらく、徐々に隙間からダメージを負っていく。
「ぐうぅっ! なかなかきついのぅ!」
「無理するな! 我の魔術を信じよ。『アイスレイド』!」
ビナスの周囲へ小さな氷塊が無数に発生して、空中に浮かび上がる。先端を尖らせた氷は、銃弾のような速さで一斉に発射され、スキルイーターの全身に襲い掛かった。
「強力な魔術だけど、この程度じゃあ『結界』は破れないよ〜?」
その言葉通り肉体に当たる直前に防御膜に防がれる。だが、粉々に砕けていく氷弾は次第に冷気の靄を空間に発生させ、周囲を包み込んでいった。
魔術の止んだ隙を見計らい、
「いまだっ!」
合図に反応して、冷気の空間から同じく無数の氷弾が瞬時に形成され、次々と魔獣の肉体を貫いていた。
「やるでは無いか小娘! でかした!」
その隙を見逃さず、ディーナも扇を閉じた紅華を背後から突き刺し、体内へ炎を巻き上げた。
前方は氷弾に貫かれ、体内を炎で焼かれては、流石のスキルイーターも余裕の笑みを浮かべてなどいられない程のダメージを受ける。
「ぎゃああぁっ! くそがっ! 生意気なんだよ死ね!!」
魔獣は血を垂れ流しながら『
そのまま周囲に張られた氷の結界から距離を取ろうとするが、ビナスはすでに魔術を放つ準備を終えている。
「終わりだよ。『メル・アイリス』!」
足元からバキバキと音を立てて、氷塊が魔獣の肉体を飲み込んでいった。対象が死んだ後も、砕けるまで凍結させ続ける高等魔術が発動したのだ。
「ギャッギャ! 凄い魔術だねぇ? でもこれでどうかな? 『聖絶』!」
スキルイーターは己の肉体を足元から凍らせる氷塊を、『聖絶』で叩き割る。先程ディーナに鞭打を放った際、髪を抜いて食らっていたのだ。
「まだまだ勝負はこれからだよ?」
白い魔獣は、余裕を含んだ厭らしい嗤いを浮かべている。
しかし、ビナスはその様子を見ても先程と変わらずに『もう終わった』、そう言わんばかりの冷酷な視線を向けていた。
「しっかり見ておったよ……妾の髪を抜いた瞬間ものう。本当に気付いておらんと思ったのかぇ?」
所々から血を流しながらも怒りと鬱憤を溜め続けた白竜姫は、いつの間にかスキルイーターの背後に立ち、高々と上段に紅華を構えている。
「妾の
ーーザンッ!!
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
竜の咆哮と共に振り下ろされた一閃は、白い魔獣を真っ二つに斬り裂いた。足元からは堰き止められていた魔力が昇り、氷の彫刻を作り出してゆく。
ディーナは動けないスキルイーターに向けてゆっくり近くと、紅華を突き刺した。パキパキと破壊音を立てながら、氷像は粉々に崩れていく。
「はぁ……なんとか勝てたのう?」
「あぁ、旦那様に褒めて貰わなければな!」
「それは構わんが、主様の横で寝るのは妾じゃよ?」
ディーナが『にやり』と愉悦に浸りながら見下すと、ビナスは悔しそうにプルプルと身体を震わせながら唇を噛んでいた。既に涙目だ。
「さて、彼方はどうなっておるのか。コヒナタと共に救援に向かわねばのう」
ディーナが手を振ると、コヒナタが急いで走って来る。
「お怪我は大丈夫ですか?」
「あぁ。血は出とるが見た目程では無いから気にせんでいい」
隣で会話を聞いていたビナスは苦笑した。
「強がりだな? 我もダメージは少ないが、MPの残りが半分も無い。お前はあれだけ攻撃を食らったんだ。暫くは真面に動けなかろう? それより旦那様の状況はどうなんだ?」
「はい。先程から少しずつ押しているように見えますが、接近した際に妙なスキルを受けて耳が聞こえないようです。アズラ様も戦い辛そうにしていました」
「やはり本体の方が強いのだろう……我等にも出来ることはある筈だ! 急ごう!」
「おう!」
「はい!」
隙を見て加勢しようと仲間達は駆け出した。だが、身動きが取れない程の畏怖を抱く事になる。
三人の眼に映ったのは、戦神の様に荒れ狂う力で破壊の限りを尽くす女神の姿だった。
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