第345話 双剣復活と不思議なダンジョン。 後編
俺とイスリダは強制的に転移させられたダンジョンの内部を進んでいた。
ナビによる索敵が不可だった為、一先ず手探りで奥を目指している。
「レイア様、この先から魔獣の気配が致します。後ろにお下がり下さい」
「……分かった。イスリダの手に負えないと判断したら、俺が前に出るよ」
さっき『男なら守ってみせるくらい言ってみせろ』なんて言った手前、張り切っているイスリダを無視する事が出来ない。
モヤモヤとした気持ちを抱えながら、俺は戦闘を見つめていた。
ーーギャウゥゥウウッツ!!
気配は感じていたが、通路の先から現れた全身の黒毛を刃の様に尖たせた犬の魔獣が、イスリダを四方から襲う。
「この程度、白虎の力を借りるまでもない!!」
イスリダは黒毛の合間を縫うように長剣を振り下ろすと、一太刀で首を刎ねた。そのまま背後から迫っていた魔獣の額を突いて、絶命させる。
次々と数を増していく魔獣を前に、燃えているのか闘気を漲らせていた。
「良いなぁ。俺も双剣で試し斬りしたいよ〜!」
「マスター、女神の眼であの魔獣を見て下さいませんか?」
「ん? さっきから発動してるぞ?」
「では、違和感を覚えませんか?」
ナビナナに言われて漸く気付いた。俺の女神の眼でイスリダに襲い掛かっている魔獣を見ると、何故かバグが発生している。
それは数字とも、文字とも言えない落書きの様な走り書きだ。
「何だこれ?」
「現在解析中です。索敵が阻まれた事といい、何か裏がありそうだと進言致します」
「分かった。タロウ、出番だぞ!」
「…………」
「おい、タロウ?」
「…………」
俺が呼び出しても、影から反応は無い。今の俺達の念話が聞こえていたからだろう。ビビりやがったな?
右腕を自分の影に無理矢理突っ込んで、掴んだ服ごとタロウを引っ張り上げる。
「出て来いや!」
「ヤダヤダヤダ〜〜っ!! このダンジョン絶対何かおかしいですって! 僕さっきから逃げようとしてるのに外に出れないんですけど!」
「えっ、ーーマジか⁉︎」
最悪『神体転移』で俺は外に逃げられるから、外部の亀裂を破壊してみんなを助ければ良いと思ってた。
タロウが脱出不可という事は、俺自身も転移出来ないかもしれない。
「強制的なトラップだからこそ、何か制約があるのかもなぁ。ますます変なダンジョンだよ」
「僕を呼んだのって、どうせ先の様子を見て来いとかそんな無茶振りですよね? 役に立たないので影に潜ってますから」
「こら待て。俺の影に潜れるって事は、ダンジョン内部の影なら好きに動けるって事だろうが」
ーーギクギクッ!
図星を突かれ、タロウは滝の様に汗を流している。まるで心臓の音がこっちに聞こえてきそうな位、緊張しているみたいだ。
「そうやって怯えたふりをすれば、俺が許してくれるとでも?」
「そんな事一ミリ足りとも考えていないから、常に僕は全力です! 最適解で逃げ道を探しています!」
「よし、良い度胸だ。なら索敵代わりに先の道のマッピングよろしく!」
さっさと行けと掴んでいた服を話すと、タロウは虚ろな目をしながらブツブツと陰気に呟いている。
「本当に転職先を探そうかな……今の僕なら他国でもやっていける気が……」
「タロウの他国への亡命、もとい転職は死刑です」
「ーー罰が重過ぎませんかっ⁉︎」
「今回の任務が終わったら、一週間休暇やる」
「行って参ります、サー!!」
うむ、美しい敬礼だ。因みに現在俺とタロウはリンク状態にあるので、タロウが把握したマッピングをナビナナが解析し、俺の脳内レーダーへ反映させてくれる。
この暗闇であれば、彼奴はある意味無敵に近い。油断さえしなければ転移し放題なんだから。
暗殺者の職業は伊達じゃ無いんだけど、当の本人だけがそれに気付いてないんだよね 。
「さて、ちょっと目的が変わっちゃったけど、タロウに先行させた以上俺達も追うぞ。イスリダ! 遊びは終わりだ! 俺の背後に回れ!」
「あ、遊びって……頭噛まれて結構な血が出てるんですが……」
「ディヒール! ちょっと大人しくしてろ」
ーーヒュンッ!!
右手で治癒魔術を発動しながら、左手で朱雀の神剣を鞘から抜き去り、横一文字に一閃した。
『不可視の斬撃』と『神炎』は、より進化した事で敵の身体を斬り裂いた直後に燃やし尽くす。
黒毛の刃を叩き折り、俺が振るった範囲にいた魔獣は全て肉体を両断されていた。
「……凄いですねレイア様。範囲とか関係ない凶悪な斬撃です」
「流石コヒナタとしか言いようが無いな。凶悪とか言うなよ。敵が雑魚なだけだ」
「ざ、雑魚ですか……」
確かにこの魔獣は雑魚だけど、それでもCからBランク位の力はあるんじゃ無いだろうか。イスリダが苦戦してるくらいだから、その程度は見積もっていい。
正直斬った感触すらしないので、そのまま先に進む事にした。
「もう血は止まっただろう? タロウからこの先の地図がどんどん送られてるから、急ぐぞ!」
「タロウって、そんなに有能だったんですね。正直、私は何故こんな子供が暗部の隊長なのかと侮っておりました」
「人には適材適所って言葉がある。城の訓練場で戦えば五十回中、三十回以上イスリダが勝つだろう。だけど、このダンジョンみたいな暗い場所や、夜にタロウと戦えばお前は全敗だ」
俺が一瞬だけ視線を鋭くすると、冗談の類ではないのだとイスリダは生唾を飲んだ。素直に背後へ下がると、剣を鞘に仕舞う。
「全力疾走しないと着いて来れないって分かってんじゃん。偉いぞ」
「足手纏いにはなりたくありませんから。遅いと感じたならば置いて行ってくれて結構です」
「馬鹿野郎! 目的を見失うなよ? 先に入った先発隊が生きていた時に、お前がいなくて誰が統率すんだよ」
俺には俺の、イスリダには騎士部隊隊長の役目がある。ここで俺を頼る様だったら置き去りにして反省させようかと思ったんだけど、その心配は無用みたいだ。
「畏まりました! 全力で走ります!!」
「よし……いっくぞおおおおおおおおおおっ!!」
『フェンリルの鎧』が吠えると、『神速』を発動して俺はエアショットを散弾の様に放ち、近場の敵の頭部を破壊した。
そのまま双剣を十文字に振るうと、斬撃を追う形で疾駆する。
左右の敵は女神の翼の羽根で撃ち落とし、イスリダへ向かった魔獣は『
だが、ダンジョンの奥から見た事のない魔獣が無数に湧き出ており、個の強さよりも数の暴力を体現した様な作りなのだと考えを改める。
「ナビナナ、魔獣のリポップするスピードが異常だ! 何か原因があるからそれを探ってくれ! イスリダは俺から絶対離れるなよ! 大群に飲み込まれるぞ」
「はいっ!!」
俺は只管に双剣を振るい、四方八方に斬撃の檻を作り続けた。自ら飛び込んで来た魔獣は次々と肉塊へ変わり果て、屍の山が積み上がる。
隙間を狙われても結界で防ぎ、こちらにダメージは無かったが、自然と足は止められていた。
でも、俺は感じている。両手に握っている双剣が、そのまま俺達を振るえと言わんばかりに煌々と輝きを放っているのだから。
『レイア様! ヘルプ! ヘルプですよおおおおおっ⁉︎』
『タロウか。こちらも今忙しいから、魔獣くらい自分で何とかしろ』
魔獣の進行の勢いが一瞬落ち着いたかと思った直後に、タロウから緊急の念話が届いた。
どうせちょっと強い魔獣が出て怖くなったからとか、そんな理由だろうと思ってぞんざいに扱っていると、ナビナナが珍しく口を挟む。
「マスター! タロウが現在交戦中の敵が魔獣の発生源であると捉えました!」
「……マジ? それヤバくね?」
『だからさっきからヘルプって言ってるんでしょうがああああああっ! この
緊急事態なのは間違いないので俺は一度双剣を仕舞い、『
そのまま前方に向けて構えると、アイスアローを弾丸としてチャージし、神気で威力を増幅させた。
ダンジョン内部だというのを考慮して、氷の散弾がベストだと判断する。
「魔術連装展開!!
ーーズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
ダンジョンの前方から敵の阿鼻叫喚と呼んでも相違無いほどの断末魔が響き渡り、撃ち終わった後にはまるで氷の洞窟にでも来たかの様な光景が広がっていた。
イスリダは顎が外れんばかりに口を大きく開いて跪いており、俺はその脇を抱え上げて一気にダンジョン内を翼を広げて飛ぶ。
「おぉ〜! 我ながら凄い威力ですな。ナビナナのロックオンのお陰で百発百中だし、魔獣からすればたまったもんじゃないだろ」
「元々あった『天獄』と『滅火』のシステムを応用しただけですので、大したことではありません」
「謙遜するなよ。流石だぞ相棒!」
「ありがとうございます」
ーーうおおおおおっ! 来んなこんにゃろおおおおおっ!!
一本道だった洞窟を抜けると、そこには血塗れのタロウが冥府の鎖鎌を構えて、黒衣の骸骨と戦っていた。
タロウが影転移で影に潜ると、スケルトンは空中の亀裂に飛び込んで、タロウの出現先に先回りして攻撃を繰り出している。
タロウはそれを寸前で避けると再び影に潜り、影から鎖鎌を投げつけて反撃していた。
「何だろうなぁ。このモグラ叩きみたいな光景。本来凄い技術の応用である筈なんだけど、地味過ぎる」
「聞こえてますからねええええええっ⁉︎ ヘルプって、さっきから言ってるでしょうがあああっ!!」
「いや、良い線いってるから、このままちょっと頑張ってみろよ。そいつ多分災厄指定クラスの魔獣だぞ」
次元魔術をここまで多彩に扱うスケルトンなんて聞いた事もないし、脅威度で言えば災厄指定クラスだ。
それと張り合ってるタロウも中々凄いが、俺が声を掛けた途端に黒衣の骸骨の動きが止まり、眼球の代わりに青い炎の灯した顔がこちらへ向く。
「紅姫……レイア……」
「ん? 何だ? 俺の事を知ってんのか?」
ボソリと俺の名を呟いたスケルトンは、そのままタロウを無視してこちらへ転移して来た。
三メートル程離れた場所で対峙すると、暫く沈黙が続いた後に、漸く骨の口がカタカタと音を立てながら動く。
「我ハ異世界ノ使者、グラフキーパー。女神レイアヨ。我ガ主人カラ伝言ダ。『実験ハ成功シタ。直ニ塔ガ現レル。ソレヲ、始マリノ合図トシヨウ』、シカト伝エタゾ」
「片言で何言ってんのかよく分からないけど、異世界の主っていうのはデリビヌスの事か?」
「…………」
ーーヒュンッ!
伝言を聞いた後、俺達は強制的にダンジョンから転移させられ、最初の滝の側には先発隊の兵士を含めて巻き込まれた人達が倒れていた。
あの骸骨は俺を呼ぶ為にこんな真似をしたのか? それとも偶然だったのか分からないが、既にダンジョン自体が消失している。
「レイア様、先ほどの敵の伝言は一体何だったんでしょうね」
「俺にも分からんよイスリダ。帰ってみんなに報告する必要がありそうだな」
「その前に僕の治療を……一刻も早く……ゴフッ」
「おいおい、タロウ君や。善戦してたしそんな大した傷じゃないーーって、腹に穴空いてますやん⁉︎」
俺が服を捲りあげると、タロウの横腹に細いレーザーで焼き貫かれた穴が空いており、ドバドバと血が流れていた。
俺は『女神の抱擁』を発動して完全治癒を施しつつ、タロウの頭を撫でてやる。災厄指定魔獣はまだ早かったか。
本来様子見に徹するこいつが戦うしかないと判断したのは、先制攻撃を食らってしまったからだったのだろう。
「うむ。男らしく成長してんじゃないか、タロウ君!」
「いやいや……あんな化け物がいるなんて聞いてませんし、抱き締められたからって、全然柔らかくて気持ちいいとか思ってませんから。絶対、一週間休暇貰いますからね」
「俺の胸の中でもう十秒強く抱きしめて貰うのと、一週間休暇貰うのどっちを選ぶ?」
俺は『女神の微笑み』を全開で発動して、更にとどめと言わんばかりに『女神の歌声』で、子守唄を歌う。さて、どうでるかね思春期坊や?
「スーッ、ス〜ッ」
「おや? 寝ちゃったか。反応がなくてつまらんが、頑張ったご褒美だけやろうか」
俺はそのままタロウを膝枕して、自分も木陰で休んでいた。
後に、この光景を見ていた兵士達から噂が広まり、タロウがあらゆる方面からの妬みや嫉妬でエライ目に合うとは思いもしないままに。
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