第242話 天を照らす者
ーーガキンッ! ギャリッ!!
巨大鉄球が打つかり合い、弾き合う音が鳴る。コヒナタは
(ゼン様の神力を閉じ込めている核さえ破壊出来れば……)
「コヒナタは僕のものなんだな! 絶対にお前ら賊になど渡さない!」
「……なんて説得力の無い台詞なんでしょうね。私の愛しい人は、どれだけ苦難を与えられても乗り越え、ここまで迎えに来てくれたんですよ?」
「うるさい! 王たる僕に逆らうなんて、お前は死刑確定なんだな!」
「…………憐れな人。せめて、貴方を狂わせた原因の一つになった罪滅ぼしとして、私自らが終わらせてあげます。ーー三式『
コヒナタは金色の神気を収束して撃ち放つと、直ぐ様ザッハールグの形態を変化させた。
四式『
ーーそれでも伝えたい意志を貫き通す為、彼女は自ら選択する。
「グヌヌヌヌヌヌッ! 小癪な真似をするなーー!」
『鳴神』を幾重にも重なった鎖で逸らすと、ワーグルは同じく鍛治神ゼンの神気を収束し始めた。三式まで使えるのかとコヒナタは目を見開き驚くが、技の発動が止まる事は無い。
「貴方の悪夢を覚まさせてあげます! いっけえええええええええええええええええーーっ!!」
「〜〜ッ⁉︎」
ドワーフの巫女は凄まじい勢いで紅き煌めきを放つ巨大な鎚を、回転と共にレーゼンセルンへと打ち付ける。
「そ、そんな技、弾き返してやるんだな!!」
焼き尽くしてやろうと出力を最大まで高めた直後、視界にチラリと映った銀閃に愕然とする。『ディルスの盾』の存在は認識していたが、決して発動する訳が無いと高を括っていたのだ。
「何故! 賊如きがその盾を使えるんだな⁉︎」
「自らが作った盾を、使えない訳が無いでしょう!」
「ーーえっ⁉︎」
「いい加減に目を覚ませ馬鹿王子ーー!!」
左腕に装着されたディルスの盾はワーグルの閃光を無効化し、二周目の回転から振り下ろされた紅鎚はレーゼンセルンを破壊すると共に、胸の核を打ち抜いた。
ーーピシッ! パキィィィイン!!
ゼンの神気が漏れ出すと、王はそのまま意識を失い、巫女は肉体にかかる負荷に耐え切れずに崩れ落ちる。
「ぐううぅ〜〜っ! い、痛いけど、やったかな……あとはお願いします……れ、いあ様……」
コヒナタの視界が途切れる最後に映ったのは、親指をサムズアップする女神の姿だった。
__________
ネイスットを『久遠』で拘束しながら、俺は考えていた。
カルバンで戦った『悪食メルゼス』はもっと強かったし、レイセンで戦った『悪色マジャハン』はもっと小賢しかった。
それでも『シールフィールド』から出る事は出来ずに封印されていたのに、何でこいつは外に出られてるんだ?
「なぁ、お前って何で外に出られたの?」
「……答える義務は無いのでありますよ」
そりゃそうだ。『心眼』で心を読んでみて分かった事は、コヒナタを本当に大事に思っている事くらいだった。
更に俺への『憎しみ』というより『嫌悪感』に満ちている。
そして、あの瞳の奥に映る厭らしい光は、まだ何か奥の手を隠し持っているに違いない。
さて、どうしたもんかねぇ。
「ワールドポケット!」
右手に『深淵の魔剣』、左手に『朱雀の神剣』、背後に『レイグラヴィス』を構えると、トドメを刺そうと徐々に近寄ってみる。
ステータスを封じられていたからか、柄を握ると酷く懐かしい感覚に捉われ、思わず笑みが漏れた。
「お前がこのまま終わるなんて思って無いんだよ。さっと奥の手を見せてみろ! 『朱雀炎刃・閻魔』!」
「……『
神剣より舞った朱雀の白き神炎が
ーーおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〜〜〜〜!!!!
「この呻き声は何だ……?」
「食らった者達の全ステータスと共に、魂を解放したのであります。こうなっては誰にも止められないのでありますよ。全てを喰らい尽くすまで、ーー暴走するのみ!」
「まさかの自爆技とか……テンプレ過ぎんだろ」
『久遠』の空間固定で拘束しているネイスットの肉体がボコボコと音を立てて肥大していく。まるで喰らった者達から逆に喰われているかの様な気持ち悪い光景が広がっていた。
俺は鳥肌を立てつつも、軽い溜息を吐き出す。
予想以上でも、以下でもない
一度双剣と大剣を鞘に仕舞うと、化け物の触手の一部に触れ、『空間転移』でランダムに城壁の外へと追い払う。ナナがいない以上、細かい座標の指定は出来ないがアレだけ目立つ存在なら見失う心配は無かった。
みんなが倒れている場所で暴れられる訳にはいかないし、何より溢れ出ている俺の神気が巻き込む事も無いでしょ。
「さて、そろそろ来てくれないかな? ーーナナさんやい!」
「お呼びでしょうか、間抜けな罠に引っ掛かって私とのリンクを切られたマイマスター?」
おかしいな。感覚的にはナビナナの筈なのに、言葉に棘があるぞ?
「あははっ! 主人格の方か? 今は緻密な計算が必要だからナビナナを頼むよ!」
「言われるまでも無く、私ですが!」
「ふぁっ⁉︎」
そ、そんな馬鹿な。ナビナナが俺に怒るなんて事がある筈が無い。もしや演技か?
「確信が持てない様なら現状を言ってあげましょう。主人格とヤンデレナナは、ギロチンの準備に忙しいので私が来ています……」
えっ、何それ怖い。俺が罠に嵌ってリンクを切られたってだけで、首を刎ねられる程怒らせちゃったの?
「ちょ、ちょっと理不尽な気がするぞ、天使諸君?」
「今回は自業自得かと……ちなみに私も刃を研ぎますよ」
冗談じゃない⁉︎ 落ち着け、落ち着くんだ俺……ここは言葉巧みに素晴らしい言い訳を考えて説き伏せればいい。何故か一瞬ヤンデレナナが刃を舐めている
「待ってくれたまえ。ナビナナにまで見捨てられたら俺の精神が保たない」
「……私も寂しかったのですよ。こんなに離れた事はありませんでしたし」
いやいや、マイリティスちゃんの事件の時に結構長い事リンク切れてたぞ。ナナ達の場合、可愛い台詞の裏側に隠された意図を読み間違えてはいけない。
「だから、一度マスターの首を刎ねて反省させようという結論に達しました」
「ちっがあああああああああああああああああああああうううっ!!!!」
前提も何もかもが違い過ぎて思わず絶叫した。本当何なのこの子達。何故に罰ゲーム感覚で夫の首を刎ねようとするんだ。何もかもが怖いわ!
「まぁ、話は後だ……思考をリンクして状況は分かったでしょ? ーー『アレ』をやるよ!」
「あの程度の敵なら『神覚』の発動で十分では?」
「いや、魂も救ってやるなら丁度良いだろ?」
「成る程、了解しました!」
俺は『女神の翼』を広げ、城の直上へと舞い上がる。さぁ、全てを終わらせよう。
__________
「おおおおおおおぉぉおおおおぉおおおぉぉぉぉぉ〜〜〜〜っ!!!!」
「最早自我も無いか。化け物もあそこまで堕ちると憐れだな」
女神の遠く離れた視線の先で森が腐食し、大地が枯れていく様から『悪癖』の場所を直ぐに把握した。
巻き込まれて喰われる魔獣や獣の断末魔が轟き、鞘から双剣と大剣を再び抜き去る。
「ナナ! ステータス、スキル全解放! 『
「了解しました。神滅最終
その瞬間、天が青空から金色へと変わる。大地全てを照らすかの如き神気の奔流は次第に円を描き、その中心にいる女神へと集まり始めたのだ。
レイアが『女神の神体』を得てからずっと
『
金色の光の収束が終わると、双剣と大剣を胸元に添え、天空より女神は咆哮する。
「俺の大切な者達を守る為に、敵を消滅し尽くせ! 『星堕ち・
金色の飛行体は螺旋を描きながら、遥か上空から大地を蝕む
(そっか……お前は羨ましかったんだな)
ーーズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
大地を震わせ、『
あまりの威力の凄さにゼンガの城下町にいたドワーフ達は震え上がり、天変地異を覚えて自らの死を覚悟する。
それは、マッスルインパクトの団員達も同様だった。
「なぁ、俺達さ。本当にあんな人からレイアちゃん人形手ブラバージョン貰えると思う?」
「言うな……泣きたくなるから」
一部始終をバッチリと眺めていたキンバリーの問いに、他幹部達は涙で応えた。
残されたのは『悪神の魂の欠片』の鈍い輝きのみ。ーーこうして、戦闘は終結したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます