第51話 魔王様のプロポーズ再び!

 

 沈黙が場を支配する。レイア達のキョトンとした様子を見て、『さては、聞き逃したな?』そう誤解したビナスがもう一度吠えた。


「報酬は我だ!!」

「いや、いりませんから……」

「そんなまさかっ⁉︎」

 まるでそんな返事が返って来るとは微塵も思っていなかったのか、美少女は驚愕の表情を浮かべつつ、大きく目を見開いた。


「我がお前のつがいになると言っておるのだぞ!」

「十分に意味は伝わってるけど。男の姿で駄目だったから女の姿で再プロポーズとか、考え方が浅すぎません?」

「我は元々女だ! 部下や民から甘く見られぬ為に、長年ミナリスから身体変化を習い続けて男の姿でいたまで! これは冗談ではないのだぞ⁉︎ それとも我自身より、金銀財宝の褒美が良いとでも申すのか?」

「うん……普通に金銀財宝の方がいいかなぁ?」

 レイアは欲望に忠実なまま即答すると、真横に首を傾げた。


「なぁぁぁあっ⁉︎ 我の美貌とお前の美貌が重なり合えば天下だってとれるだろう! そこな侍女達もかなりの魅力を秘めておるし、第一我が妻でも良いと言っておるのだぞ?」

「だって第一夫人もういるし。第二夫人はディーナだし。第三夫人はコヒナタ、なってくれる?」

 女神が微笑みながらコヒナタを見つめて問うと、一瞬の迷い無く答えてくれた。


「はい! 勿論ですレイア様!」

「ふふっありがとね! ってわけで魔王様は第四夫人とかだよ? 俺は順番とかあんま気にしないし、全員愛すけど」

 ビナスが立ち上がり、混乱と共に頭を激しく振り出した。


「そんなの嫌あああああぁっ! 何で魔王が第四夫人なの⁉︎ ねぇ、魔王だよ? この国で一番偉いし、世界でも結構上の方だよ私! なんでそんな扱い出来るの? 絶対に頭がおかしいからね! でも、美し過ぎてそんな横暴な所も好き! 好きぃ!」

 ビナスが初めて出会った時の素を出し、慌てふためく様を見て四人は苦笑いする。


 レイアは内心で何時もそのままでいればもっと可愛いのにと考えていた。


「ちなみにプロポーズを受けたとしても、魔王なんだから国にいなきゃでしょ? 俺達はこの国での目的はある程度果たしたから、観光が終わったら人族の国に旅立つよ? どうやってついてくるのさ」

 ビナスは玉座から立ち上がると、アズラを仰ぎ見る。


「アズラは元々我に気質が似ておる。育てあげればミナリスと共に国を治められる器だと以前から思っていた。だからスカウトしたのだ! お前に盗られたがな!」

 アズラは突然ビナスの心中を語られ驚くが、動揺する事なく剣の鞘を撫でて応えた。


「見込んでくれた事には感謝致します。しかし、今の私は女神の騎士。レイア様の側を一生涯離れるつもりは御座いません。それより魔王様が本当に我が主人と添い遂げる気があるならば、国は現在不在のミナリスに任せて、我等と別の国に逃げるしか方法はありませんよ?」


 レイア、ディーナ、コヒナタの三人は『まぁ、どっちでもいいか』と既に話を聞いておらず、最早他人事だと脇をツンツン突きあってじゃれていた。

 脇が弱いコヒナタが悶える度に笑いが起こる。堪える姿が可愛いかったのだ。


「我の国を賭けた決断がこんな軽はずみに扱われているのか納得は出来ぬが、アズラの言うことは最もだ! ミナリス不在の今、この機に全てをぶん投げるしかあるまい!」

「本当にそれでいいの〜? 俺別にビナスの事好きじゃないよ? 正直その喋り方がうざい」

「ぐぬぬっ! 我の美貌の虜にしてくれるから問題ない!! 喋り方は長年これで通してきて癖になっているが、しっかり直してみせるから今は許せ」

 まるで懇願する様な低姿勢を見せる魔王は、瞳を潤ませて涙ながらに縋った。


(もしかしてビナスってM?)

 レイアの脳裏に変態的嗜好が過ったが、敢えて口には出さない。


「じゃあ、ミナリスさんが戻るのっていつ頃?」

「あと一週間ぐらいだな。今は獣人の国アミテアで交易関係の外交を行っている筈だ」

「うん。その間に南のハマドの洞窟に行って、依頼のA級冒険者が生きてたら助け出す。その後この国を出よう!」

「我も協力するぞ! この間見せられなかった本気を見てくれ旦那様!」

 レイアは早くも呼び方を勝手に変える魔王に溜息を吐きながら、一緒に宿へ戻る。


 内密にシュバンの視察を行うという名目で、ビナスは城を大臣に任せて自由を得ていた。今夜は急遽という訳で寝る時は『身体変化』を使って男になり、アズラの部屋で寝て貰う。


「はぁぁあ〜! 疲れたぁ……」

「明日に備えて『今日は』大人しく寝るかのう?」

「そうですね。『今日は』ゆっくり休みましょうか」

 ディーナとコヒナタはわざとらしく一部を強調しながら、ちゃっかりとレイアのベッドに潜り込んだ。


「明日はゆっくり寝かせてくれないって事ね? 全然良いけどさ! おやすみ二人共」

 レイアはビナスの事を本当にこれでいいのかと悩んでいたが、まずは眠ることにした。


 一週間後に全てをブン投げられて絶叫するであろう、ミナリスの幸福を祈りながら。

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