第43話 ネズミ狩りがどうしてこうなった?

 

「あ、あの! モルモの巣の盗伐はBランク以上のクエストですよ? 私達じゃまだ受けれないのではないですか?」

「違うんだよコヒナタ。俺達はFランクのモルモ盗伐を受けるんだ。偶々、逸れモルモを狩っていたら巣に入ってしまうんだよ? そう、偶々ね……」

「偶々じゃあしょうがないよなぁ? そんな冒険者は不運だろうなぁ〜?」

「偶々ではのう。逃げたくても巣に入ってしまっては、きっと囲まれて逃げられないんじゃろうなぁ〜?」

 アズラと見つめ合い、口元を歪めて嗤い合う。ディーナもネズミ狩りに意気込んでいた。コヒナタはようやく意味を理解すると、苦笑いしながら溜息を吐いている。


 依頼書の情報から、ラックの砦という東の森の奥、自然が織りなした岩場にモルモ達は砦を構えているらしいと知る。

 白竜姫状態のディーナの背に乗れば、ニ時間もかからずに迎える場所だった。


「さぁ、ネズミ狩りといこうか!」

 レイアの号令に続き、『紅姫』は初のクエストへと駆け出した。


 __________



 私達は以前の自分達の生き方と違い、穏やかな暮らしを望んでいました……

 キングモルモであるガミル様より頂いたこの知恵により、食事は平凡で構わない。


 木の実を集め、時に害虫を駆除して巣を掃除します。


『誰かに迷惑をかけることなく、静かに暮らしていこう』


 ガミル様の言葉に皆が賛同していたのです。彼の方は優しい方です。私のお腹の中には、彼の子供が遂に宿りました。

 子供の名前は何にしようかしらと微笑む私に、彼は何も言わず寄り添ってくれます。


 温かかった。幸せだった。

 そんな日々が、ずっと続くと信じていたのです。


 あの悪魔達が来るまでは……


 __________



 レイアは砦につくと、ナナに索敵をお願いして『ゾーン』を起動後、脳内レーダーを展開させる。


 いつでも『滅火メッカ』が撃てる状態にしておきながら、敵の強さが分かる迄は出来るだけ魔術を温存しようと双剣を構えていた。

 しばらくすると、一匹目のモルモが見えてくる。


「キュイ〜?」

 こちらに気づいてはいるが、敵意など全く感じない。


 ーー愛玩動物さながら、可愛らしく鳴いているだけだった。


「ねぇ、なんか身体の色が灰色じゃないんですけど。桃色で可愛いんですけど? ○ケモンとかに出てきそうなんですけど、これは一体どういう事?」

「あれがモルモですよ? 可愛い見た目に惑わされて一体何人の村人が食われた事か。油断はしちゃいけません!」

 コヒナタに忠告されても、レイアは信じられずにいた。円らな瞳を向けられて困惑している。


「キュイ~? とか可愛く鳴いてるんですけど。ほら、今首傾げたよ? あれって絶対に敵意無しの円らな瞳よ? 斬れるの? あれ斬れるの?」

「落ち着け姫よ。あれも奴らの手なのだ。時には非情な決断も冒険者には必要なんだ」

「なんでネズミ狩りで非情な決断を迫られなきゃいけないんだよ! 話が違うぞおおおおぉっ⁉︎ あんなん斬ったら絶対夢に出てきそうだってば!」

「どれ。妾があやつ等の正体を暴いてやろう! 任せよ!」

 ディーナが紅華を広げて扇に炎を纏わせていくと、突然モルモに向けて熱線を放つ。


「キュィィイイッ〜!」

 呆気なくモルモは丸焦げになり、パタリと力尽きた。


「あ、あぁ……やっちゃった……」

 レイアは呆然とその様子を眺めながら、合掌して冥福を祈る。

(安らかに眠って下さい)

 次の瞬間視界に飛び込んだのは、焼かれたモルモに駆け寄って来た雌のモルモンが、顔を摺り寄せながら悲しんでいる光景だった。


「なかなかいい演技力ですね」

 コヒナタは騙されないぞと身構える。アズラはディーナの攻撃を合図に走り出した。隠れているモルモ達を一撃で斬り捨てる。


「やめてあげてえええええええ⁉︎」

 レイアは叫んでいた。考えて見れば『心眼』があるのだ。魔獣でも演技かどうかの判断くらい出来る。

 明らかにあれはやっちゃいかんやつだと制止するが、仲間達は止まらない。


 なんかの童話で嘘ばっかついていた子が、危機の時に本当の事を言っても信じてもらえなかったアレだ。

 何故か無差別殺戮の様な、凄惨な光景が繰り広げられていた。


 ーーアズラは疾りながら大剣で魔獣を一刀両断し、衝撃波で岩ごとモルモンの巣を叩き潰す。

 ーーディーナはまるで踊りでも舞うかの様に紅華を振り回し、炎で焼き尽くしていた。

 ーーコヒナタはその後を追い、逃げ延びたモルモの頭を槌で叩き潰していく。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいいいいいい〜〜!」

 女神は膝をついて、ひたすら謝り続けた。モルモ達を百体以上狩った頃、突然頭上から声が響いてくる。


「我ハ、キングモルモ。人間ヨ、我ラガ何ヲシタト言ウノダ。穏ヤカニ、静カニ、暮ラシタイトイウ叫ビハ聞コエ無カッタノカ? 皆ニモ家族ハ居ルノダ。無抵抗ナ者ヲ殺戮スルナド、悪魔ノ所業デハナイカ。貴様ラニ、心ハ無イノカ?」

「いや、俺は必死に止めたんですって! ほんっとすいません! まじですいません!」

(何故魔獣に説教されなきゃならんのだ?)

  レイアは情けなくて悲しくなってきた。その間も他のメンバーは狩りを続けている。


「後悔、シテイルノカ?」

「してますしてます!」

「……ナラバ、我ニ食ワレヨ!」

 レイアの目の前に突然降りてきた巨大なモルモの首には、人間のドクロが幾つも重なった醜悪なネックレスが巻かれていた。


「あれ? ん? ……ん?」

 目を細め、しっかりとその首元を確認した後、レイアは俯いて黙り込んだままに『女神の翼』を広げ飛び立つ。

 レーダーを最大数に設定し、標的をロックすると『黒炎球』を発動させた。


「お前だって人間食ってんじゃねぇかあああああああ!! 死ねクソネズミ! 『滅火メッカ』!!」

 溜まった鬱憤うっぷんを発散するかの如く、ドラゴン達を狩った時の『滅火メッカ』より、細く絞った無数の拡散レーザーを天より撃ち放つ。近距離にいたキングモルモは避ける間も無く一瞬で絶命した。


 レベルと知力が上がっている為、連続で『滅火』を放つと二百匹以上のモルモ達の頭部を綺麗に貫き、皆殺しにしたのだ。


「ふう……あぁ〜すっきりした!!」

 翼を仕舞いながら地上に降り立つと、仲間達がドン引きしている。

 事情を知らないパーティーメンバーからすれば、いきなりレイアがキレて暴走した様に見えたのだ。存外、その考えは間違っていない。


 計四百十四匹のネズミ達は全滅し、砦は破壊し尽くした。


 だが、『紅姫』の初クエストが完了して、死骸をワールドポケットに放り込んでいく作業に女神はまじ泣きすることになる。


「死骸がこれだけ多いと気持ち悪い。数が多過ぎて病みそうなんですけど……」

 その後、死骸を持ち込まれたギルド職員は前代未聞、最大級の悲鳴を上げる事になるのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る