第77話 レイア、キレる。 2

 

 ヨナハ村の村人達と祭りを楽しんでいる夜。人々の笑顔を眺めながら飲む酒は最高だ。俺はモビーさんと共に賑わう様子を眺めていた。


 ビナスは目が『トローン』としていて酔ったのか、膝枕で休んでいる。

 すると、突然はしゃぐ村人達がざわざわと慌て出し、道を開き始めた。


「おいおい……こりゃあ何の騒ぎかと思って来てみれば、随分美味そうな物を食ってやがるなぁ? どういう事だガイル?」

「わからんが、考えられるとすれば報酬にこの肉を入れていなかったという事か? だが、十分な食料は貰っているんだ。怒る事でもないだろうグラトン」

「そうよ! 楽しそうでいいじゃない。あんたがいなきゃまぜて貰いたいくらいよ。ねぇ、メムル?」

「そうだねマムルお姉ちゃん。私も同意見かなぁ。というわけで、さっさと消えろ豚!」

 メムルとマムルと呼び合う双子は、とても仲間に向けるとは思えない程の殺気を放っていた。明らかに仲が悪そうに見える。


「お前らまだ報酬の事を根に持っているのか? 俺は女に興味が無いから、グラトンの気持ちはわからんがな」

「女の良さがわからねぇなんて、ゼーダは人生を半分以上損してるっつーの。次はどんな女を食おうか考えただけで、涎が出ちまうよ! ぐふっぐふふ……」

 五人のA級冒険者パーティー『風の導き』がこちらに向かって歩いてくる。アーチャーのガイルがいたので、きっとあれが残りのメンバー達なのだろう。


 そして、スキル『狩人の鼻』で嗅ぎたくもない臭いを嗅いでしまい、俺は確信する。ガイルの横を歩いている豚みたいに肥えた巨斧を持つグラトンと呼ばれていた男。こいつが女を報酬にした奴だ。


「やぁ、レイア。楽しんでいる所を邪魔してすまないね。この騒ぎが一体何なのか知りたくてさ」

「こんばんはガイルさん。見ての通りパーティーですよ? 私達とモビー村長が主催して開いてるんです」

 フードの隙間から愛想笑いを浮かべると、ガイルは不思議そうに首を傾げた。


「君が? この食料は一体どうしたんだい? 昨日会った時はこんなものどこにも……」

「私は次元魔術が少しだけ使えるんですよ。だからいつも手ぶらに見えるんです。説明不足ですいませんでした」

 俺がガイルと穏やかに話していると、ずいずいっとグラトンが近づいて来る。

(臭いから近寄んなって殴り飛ばしてぇ……)


「何か臭うと思ったらお前女だなぁ? おい、今朝ガイルが言ってたDランク冒険者ってのはこいつらのことかぁ?」

「あぁ、昨日村に来たレイアとビナスだ。冒険者同士仲良くしろよ」

 グラトンは嬉しそうに両目を垂らして、舌舐めずりしながら涎を拭っていた。


「あの子が女なら、やばい感じがするよメムル」

「わかってるマムルお姉ちゃん。いざとなったら私達があの豚止めないと……」

「ん~? あいつもそこまで馬鹿じゃないだろう?」

「わかってないのよゼーダは。女が絡むと豚は見境いが無いから。本当に最低だわ」

「男の俺にはわからんが、しばらくここで見てようぜ? いざとなったら俺も手伝ってグラトンを止めてやるよ!」

 ガイルとグラトンの後方でぼそぼそと相談し合うメムル、マムルの魔術師の双子と、剣士ゼーダの三人の会話をナナが伝えてくれた。相当嫌われてるのは分かった。

 そうともしれず、俺に向かってグラトンが命令口調で喋りかけてくる。


「俺様がお前らを村ごと守ってやるから、今夜俺の部屋に来いよ? あとババァ、報酬の追加でお前らが持っている肉を寄越せ」

「おい、それはさすがに……」

「うるせぇガイル! なんで俺達が野菜ばっか食って我慢してるのに、こいつらが肉を食ってんだ? それこそありえねぇだろうがぁ! ーーブフゥッ!」

 俺は挑発混じりの豚の言い分に対して、盛大に溜息を吐き出す。


「はあぁぁっ。ぶた、いえ、グラトンさん? この肉は村人の物ではなく、私の物です。モビー村長や村人は関係ありませんし、依頼の報酬は既に受けとっているんですよね? ですから肉は渡せません」

「あぁん?」

 豚が分かりやすく眉を顰める。短気どころの話じゃないな。


「あと、先程の申し出ですがお断り致します。今夜からモビーさんの家にお世話になりますので。本当はカルバンに連れて行って貰おうと思っていましたが、最大の問題は解決したので必要無くなりました。そういう訳で、大人しく帰って頂けませんか?」

「……おいおいわかってねぇなぁ? これは命令なんだよ! Aランク冒険者の俺様にDランク如きが逆らうんじゃねぇ!」

 その時、激昂したグラトンがうるさくて、すやすやと膝枕で眠っていたビナスが目を覚ました。


「ん~? なんか五月蝿いと思って起きたら豚が増えてるよ? こんなの仕留めたっけ旦那様?」

「ビナスちゃん、タイミング最悪の時に起きましたね~? いい子だから寝てましょうね~?」

 俺はツインテール美少女の顎をチロチロと撫でて再度眠らせようとするが、逆効果だったようで涎を垂らしながら「アヘェ~!」っと惚けさせてしまった。


「おっ⁉︎ イイ女じゃねぇか! 魔人は角が邪魔だが、いい声で泣くんだよなぁ~。ぐふっ、ぐふふ!」

 己が豚呼ばわりされた事にも気づかぬ程、グラトンはビナスを見て欲情していた。あまりの醜さに俺の背筋にも悪寒が奔る。


 俺と違って、先程村人達の前でローブを脱いでしまっていたビナスは、その美しい顔と肢体を見られてしまったのだ。標的にされたのは間違い無い。


「おい! お前でいい。こっちへ来いよ」

「いい加減にしろ。パーティーメンバーとして、これ以上は見過ごせないぞ」

「だからうるせえって言ってんだろ! 黙っていやがれ!」

 激昂したグラトンは、あろう事か仲間であるガイルの腹に向かって拳をめり込ませた。


「がはぁっ!」

 ガイルは元々アーチャーで防御力が弱い為、簡単に地面に崩れ落ちて気絶する。俺が予想外の行動に驚いている隙を突いて、グラトンはビナスに近づくとツインテールを掴んで思い切り引き上げた。


「きゃあ!」

「おい! ビナスに何してる⁉︎」

 俺は苛立ちと共にグラトンに飛びかかろうとしたが、ビナスに手で制される。


「息が臭いんだよしゃべるな豚。旦那様と我の近くによるな。ーー死ねっ!」

 挑発しつつビナスは顔面を殴りつけるが、呪印にステータスを封じられて全くダメージを与えられない。


 ーーわかっていても自らの手で、と考える程に激怒していたのだ。


「ビナス……」

 俺は彼女の気持ちを汲んで、噛んだ唇から血を流し耐えていた。今キレたらみんなが見てる前でこいつを殺してしまう。

 だが、次の瞬間グラトンは厭らしく嗤った。


「ぶひゃひゃひゃひゃぁぁ~! なんだそのパンチは! 優しく触られた様にしか感じねぇよ? もしかして誘ってんのかぁ? それにしても俺様を豚呼ばわりはいけねぇな。躾はしっかりしないと……なぁ⁉︎」

 直後、持ち上げたビナスの腹に向かって拳を突き上げた。呻き声を上げる間もなくビナスは気絶する。


 その光景を見た瞬間、俺はもう我慢の限界だとキレた。しかし、先に動き出した風の導きのメンバーが、グラトンの背後へ魔術が放ち、攻撃を開始したんだ。


 __________



「この豚ぁ! ガイルに何してんのよ! もう我慢の限界! やるよメムル! 『フレイム』!」

「うん! マムルお姉ちゃん! 『アイスアロー』!」

「お前ちょっと調子乗りすぎだろ? 流石に見てらんねぇぞ!」

「なんだお前らぁ⁉︎ この裏切り者があああああああ! 許さねぇぞ⁉︎ ブフフゥッ!」

 グラトンは魔術ごとゼーダの剣戟を巨斧で弾き飛ばし、三人に向かい飛びかかろうとする。


「みなさん待ってください! 私がビナスの代わりに行きますから!」

 レイアは戦闘を制すると同時にローブを脱ぎ捨てた。透き通る様に輝く銀髪、金色の瞳、淡く燐光を放つ艶かしい肢体。


 そのあまりの美しさに、場にいる全員が言葉を失い見惚れていたが、グラトンは舌舐めずりしながら醜く嗤う。

 攻撃を仕掛けたメンバーの三人は、突然の美姫の発言に唖然としていた。


「だ、そうだぞぉ? 黙って道を開けろ裏切り者どもが。土下座したら許してやるからよぉ? ぶひゃは!」

「あんた何考えてんの? こんな豚に抱かれる位なら死んだ方がましだよ! やめなよ!」

「マムルお姉ちゃんの言う通りだよ! 大丈夫、私達が守ってあげるから!」

「お前みたいな綺麗な女がグラトンに抱かれるのは流石に俺も嫌だから、ここは双子に同意するね」

 己を止める優しい三人へ、女神は静かに微笑む。


「心配しなくても大丈夫ですよ? 私『とっても上手い』ですから。それよりもビナスとガイルさんの治療をお願い出来ますか?」

 レイアは穏やかに微笑んだつもりだったのだが、表情を見た三人は、自分達が何か途轍も無い勘違いをしているんじゃないかと思う程の恐怖に身震いした。


「えっ、えぇ。治療はメムルがするわ……」

「ありがとうございます。では行きましょうか。グラトンさん?」

「ぶひゃひゃ! 今日の俺の運は最高だぜ! こんないい女が手に入るなんてなぁ~!」

 二人は並び立ち、開かれた道を割る様に歩いていく。


 村人全員が恩人に対して何も返せず、娘たちがどんな扱いを受けたか知っている為、落涙し、崩れ落ちていた。


 老婆だけは、レイアの直ぐ近くで溢れ出る殺気を必死に押し殺しているのを感じていたのだ。


 隠された力の一端を覗いたモビーは、何も問題はないのでは、と生唾を呑み込む。寧ろ自分が気絶しそうになるのを堪えていた。


 思わず息が止まってしまう程に、ーー恐ろしかったのだ。


 ___________



「ねぇ、グラトンさん? ちょっと趣向を凝らしませんか? 私……外の方が燃えるので」

「なんだぁ? お前そういう趣味か! グヒッ構わねぇよ、何処だろうが色々漏らすんだからよ」

「じゃあ、こちらへ……」

 レイアは森の方に向かって歩いて行く。グラトンはもう目の前の女をどう味わうかしか考えてない為、黙って着いて行った。


 夜の森に少しずつ霧が発生し、そろそろかと銀髪の美姫が立ち止まると、振り向きざまに問う。


「ここらへんでどうです? 私……もう我慢が限界で……」

「ぶひゃひゃあ! 俺様の女になれた事を光栄に思えよ? さっきの魔人の女も後で混ぜてやるからなぁ!」


 ーーブチィッ!


 場に何かがキレる音が響く。愚かな冒険者は微笑む女神に飛び掛かり、一瞬で意識を失った。


 __________



「……はっ⁉︎ 俺は一体? あの女は?」

 二十分後。意識を取り戻したグラトンは吊るされるように、両手を木に縛り付けられている。引き千切ろうと力を込めた時に漸く痛みで気付いた。ーー両腕の骨が粉々に砕けている事に。


「ブフッブフゥゥッ! な、何なんだ? 何が起こってる⁉︎」

『よぉ? やっと目を覚ましたかぁ? まぁ直ぐにまた眠れるから安心しろよ! じゃあゲームを開始するぞ〜! ルールは簡単、生き延びれたら豚君の勝ちだ。せいぜい楽しんでくれ』

 レイアの『念話』が直接豚の頭に響いた。犯人が分かった事に激昂し始める。


「くそあまぁっ! 出て来やがれ、ぶっ殺してやる。顔をグッチャグチャにして、手足を砕いて滅茶苦茶にしてやっから、泣き叫んで後悔しやがれぇ!」

 すると狂騒の最中、何かがグラトンへ向かってくる。『一体何だ?』と目を凝らすと、キバピグが殺気を感じて突進していた。


「やべぇやべぇぞ、クソ! 千切れねぇ! 何だこの縄は⁉︎」

 グラトンは焦燥の中必死に暴れるが無意味。腹部にキバピグがスピードを乗せたまま、体当たりをぶちかました。


「がはあああああああああっ!!」

 肋が何本か歪な音をたて折れる。肺の空気を全て吐き出して強烈な痛みが襲った。


 キバピグは役目を果たすとブヒブヒ鳴きながら、ゆっくり歩いて森の奥へと去って行く。この時グラトンは漸くゲームの意図が分かったのだ。

 ならば殺気を放たなければキバピグは襲って来ない。ーーそう考えた次の瞬間、二匹目が突進して来た。


「何でだぁぁぁぁあ⁉︎ 俺は殺気を出しててねぇぇ! ギャアアアアアアアアアアア〜〜!!」

 二匹目は足に突撃して骨を粉砕した。泣き叫んでいると再びレイアの声が響く。


『お前馬鹿か? 殺気を放とうが放つまいが、こっちから殺気を放ってんだよ。キバピグには道が一本にしか見えてねーから、怖くてお前に向かうしかない。ほら? まだまだ行くぞ? 死ぬなよ〜〜?』

 その後、三匹、四匹、五匹となんの防御も攻撃も出来ないまま、豚はキバピグの体当たりを喰らい続ける。最早、虫の息だった。


 すると、突然姿を現したレイアが向かって来る。光輝に充てられたグラトンは、本当に女神が降臨したのだと奇跡に涙した。肉体と共に、精神も弱っていたのだから。


「すびばせんでし、た……だすけてくたさい。めがみ、さ、まぁ……」

「おいおい、豚は人の言葉を喋れないだろう? やり直せ?」

「ぶひぃい! ぶひっ! ぶふっぶひぃ!」

 グラトンは必死だった。プライドなど微塵も無く豚を演じたのだ。


「ふむ……笑顔が足りないな。笑いながら鳴け?」

「ぶひゃぁ! ぶっぶっひゃぁぁ!」

「おっいいぞ〜! でも悪りぃな。俺豚語わかんないや。あと、お前口が臭いから喋んな」

(それじゃあどうしろと⁉︎)

 豚は理不尽な物言いを受けて驚愕する。レイアは冷ややかな視線を向けたまま、近付くと手を翳した。


 グラトンは『また何かされる』、と恐怖から目を瞑るが、『ディヒール!』ーー上位回復魔術を施され、許されたのだと感謝しつつ、安堵から号泣する。


「ほ、本当にすいませんでしたぁ! これからは心を入れ替えて、ちゃんとした冒険者になります! 二度と貴女様には逆らいません!」

 レイアは豚の土下座を含んだ謝罪に対してキョトンと首を傾げた。


(何言ってんだこいつ?)


「お前に『これから』なんて無いぞ? ビナスを殴ったろ? 髪を引っ張ったな? 今回は何時も見たいに斬り殺して瞬殺なんかじゃ許せねーから、俺も我慢してんだ。わかったらゲームを再開するぞ? 回復してやったから、まだ死なないだろ?」

 グラトンは女神より齎された宣言の意味がわからなかった。


(許されていない? ゲーム再開? まさかっ⁉︎)

 答えを導き出した瞬間、再度キバピグに体当たりをかまされる。


「ぎゃあああああああああああああ! 嫌だ! 嫌だ! もう一度は嫌だ! いやだああああああああああああああああああああ〜〜!!」


 必死に暴れまくるが縄が切れない。頭を地面に叩きつけて両腕を自ら折るくらいに暴れているのに、だ。引き続き興奮したキバピグから体当たりを喰らい、絶叫し続けた。


 十匹目が見えた頃、骨は肉を突き破り、血が地面に滴り落ちて激痛に支配されている。最早、グラトンは生を諦めかけて絶望していた。だが、次にテクテクと近付いて来たのは、小さく幼いキバピグだったのだ。


 これは流石に痛くは無いだろうと思って安堵すると同時に『念話』が届く。


『油断するなよ? そいつはキングキバピグってレアな奴だから、小さいけどパワーがヤバイぞ? 死ぬなよ〜?』


「ーーえっ⁉︎」

 直後、『ズドォォンッ!!』っと大地を凄まじい力で蹴ったキングキバピグの頭部が、柔らかく肥え太ったグラトンの腹部に突き刺さる。


「ブッ、ベッ、ベフッ、ベッ!」

 叫びや呻き声すら上げれない衝撃を受けて、Aランク冒険者は一瞬で意識を失った。


 ___________


「おーい起きろよ〜? 回復してやったから生きてるだろ?」

「うっ、ここは……? また始まるのか地獄が、ーーってあれ?」

 グラトンは自分の手足を見て驚いていた。拘束していた縄が解けているからだ。


「動く! 動くぞぉぉ! ぶひゃひゃあ!」

「お〜、よかったなぁ? 我慢しようと思ったけどさ、やっぱ無理だったわ。俺は今からお前を殺すから抗って見ろよ、ーーAランク冒険者様?」

「身体が全回復していて武器まである。さっきまでとは話がちげぇよなぁ? 前言撤回だぁぁぁ……グチャグチャにしてやるぜぇ〜!!」

 俺はやっぱりかと呆れながら、グラトンへ冷酷な表情のまま侮蔑の視線を向ける。もうアウトだろう。


「はい、終了〜! もし、戦わずに謝る選択をしてれば、お前を許そうかと思ったんだけどね。やっぱ屑だなぁ」

「うるせぇ! 死ねやああああああああ〜〜!!」

 俺は双剣を次元魔術ワールドポケットから出さない。装備する必要が無いと判断する程、今の俺からすればグラトンは雑魚だった。

 振り降ろされる巨斧を、右手の親指と人差し指で摘んであっさり止める。


「えっ? えっ!」

 そのまま目を丸くして困惑する豚の、右膝目掛けて拳を振り下ろし骨を粉砕した。


「ぎゃあああああああああああ! 痛い痛い痛いぃ〜〜!!」

 地面をゴロゴロと転げ回る豚君は、今の一撃がキバピグの突進より俺の拳の方が、遥かに高い攻撃力を持っていると、痛みで理解ようだ。

 俺は続けてぴょんっと軽く宙に跳んだ後、一回転して左太腿へ踵落としを食らわせる。骨が盛大に肉を突き破って気持ち悪い。


「や、やめてくださいぃぃ!」

「お前の悲鳴は聞き飽きたよ」


 ーー殴り、蹴り。

 ーー捻り、引っ張り。

 ーー振り回し、突き。

 ーー叩き、踏み付け。

 俺は我慢する事なく、豚君の肉体と精神を存分に陵辱した。


 四肢を砕かれピクピクと痙攣し、最早動く事すら出来ないようだと確認した。指先へ力を込めて背骨を突き刺し、一つだけ骨を抜きさると冷酷に告げる。


「これでお前は完全に動けない。そろそろ『ファントムミスト』の効果が切れて森の魔獣達が動き出す。生きて村まで戻って来れたなら、その時は奇跡に免じて見逃してやるよ。頑張れ豚君! じゃあな〜!」


 ふむ。まぁまぁスッキリしたかな。


 __________


 暫くして、場に置いていかれたグラトンは顔を上げて周囲を見渡した。


 目の前にいたのは、先程自分を攻撃した見た目に可愛らしいキングキバピグだ。『ザッザッ!』と地面を踏みならして、突撃の準備を整えている。


「や、やめろ、やめろやめろ! やめてくれえええええええええええええ!!」

 レイアは森中に響く、豚の如き断末魔を聞きながら考えていた。


(キングキバピグは逃さず食べた方が良かったかな。きっと美味しいぞ)


 キレたレイアの凄惨さは、以前よりずっと怖い方向へ成長していたのだった。


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