第89話 女神と元魔王と銀狼は胸をときめかせ、メイドは平穏な生活を諦める。

 

 シルバの『神速』でもうすぐ首都カルバンが見えてくるかという所で、俺はビナスと共に準備を整えていた。


「ナナ、ステータスの確認を頼む。STポイントは見てから指示するよ」

「了解しましたマスター。流石にこのレベルになると上昇率は低くなりますね。しかし、悪魔を倒したのはやはり大きな経験値を得たようですよ」


 __________


【名前】

 紅姫 レイア

【年齢】

 17歳

【職業】

 女神

【レベル】

 94

【ステータス】

 HP 9435

 MP 7785(7985)

 力 12263(24526)

 体力 5472

 知力 5896(6196)

 精神力 4601

 器用さ 5835

 運 70/100


 残りSTポイント2500


【スキル】

 女神の眼Lv10

 女神の腕Lv7

 女神の翼Lv9

 女神の天倫Lv6

 ナナVer2 Lv1

 狩人の鼻Lv8

 身体強化Lv10

 念話Lv7

 霞Lv5

 統率Lv3

 突進Lv3

 剛腕Lv1


【リミットスキル】

 限界突破

 女神の微笑み

 セーブセーフ

 天使召喚

 闇夜一世

 女神の騎士

 ゾーン

 剣王の覇気

 黒炎球

 心眼

 幸運と不幸の天秤

 一部身体変化

 聖絶

 エアショット

 女神の心臓

 感覚倍加

 猿の手


【魔術】

 フレイム、フレイムウォール、シンフレイム

 アクア、シンアクア

 アイスアロー、アイスランス

 ヒール、ヒールアス、ディヒール

 ワールドポケット

 ファントムミスト


【称号補正】

「騙されたボール」知力-10

「1人ツッコミ」精神力+5

「泣き虫」精神力+10体力-5

「失った相棒」HP-50

「耐え忍ぶと書いて忍耐」体力+15精神力+10

「食いしん坊」力+10体力+10

「欲望の敗北者」精神力-20

「狙われた幼女」知力-10精神力-20

「慈愛の女神」全ステータス+50

「剣術のライバル」力、体力+20

「竜を喰らいし者」HP+500 力、体力+100

「奪われ続けた唇」知力、精神−50

「力を極める者」力+100 知力-50

「悪魔の所業」運−5

「断罪者」運−10 力+50 体力+50 器用さ+50 精神力−50

「犯された女神」精神−200

「Sランク魔獣討伐者」全ステータス+300 運+10

「鬼軍曹」精神+200

「殲滅者」全ステータス+500 運−15

「導きの光」運+10 精神+300


【装備】

「深淵の魔剣」ランクS 覚醒時全ステータス1.2倍

「朱雀の神剣」ランクS HP、力、器用さ+500

「深淵の女王のネックレス」ランクB

「名も無き剣豪のガントレット」ランクA 力2倍

「フェンリルの胸当て+」ランクS 『神速』常時発動

「ヴァルキリースカート」ランクB

「生命の指輪」ランクS

「黒炎の髪飾り」ランクB MP+200 知力+300


 __________


「水魔術はメムルが訓練している所を見て覚えたし、『剛腕』はこの前の猿からか。大体概ね順調かな! それより……フェンリルの胸当ての『神速』常時発動って何?」

「本体が傍にいる事で装備自体が活性化しているのですよ。今後は装備を付けていれば常に『神速』状態でマスターは動けます。もっとも私生活では私が制限をかけますけど」

「ありがとう。なんで『猿の手』を残してるの?」

 俺は首を傾げながらナナに問う。だって禿げ専用スキルなんていらんもの。


「いちいち後で覚えに行くのが面倒だからです。要らないとわかった時に消せばいいのです」

「では最後の質問だ。ナナ……君って進化してるの?」

「以前にも申し上げましたよ。私はマスターの『限界突破』の影響を受け、更に進化し続けるサポートナビなのです。自我が芽生えてきたのもその影響ではないでしょうか。主人格とマスターが、『ヤンデレナナ』と呼ぶ存在程、濃くはなれませんけどね」

「いいんだナビナナ。お前はそのままでいてくれれば、充分俺を癒してくれている」

 俺はそのままシルバの顎を撫でながら話掛けた。


「この胸当てお前に会えて喜んでるってさ! パワーアップしたみたいでありがとな」

『感じる波動が強まった気がしたのはそれか……なぁ、主よ。その胸当てを更に強力な装備へと高めたくはないか?』

「そりゃあ装備が強くなるのは嬉しいけど、いきなりどうした?」

 シルバはゆっくりと歩を止めると、ハーネスを咥えて自ら外し始めた。


『その胸当てに使われている私の素材は、ほんの微々たるものなのだ。多分錬金術師が最後の仕上げに私の素材を使い、特殊効果を付与エンチャントしたに過ぎない。だが、本来の『神速』はそんなものでは無いんだ。試してみないか?』

「別に構わないけど、俺はシルバより早いぞ? 本気でいいのか?」

『あぁ……構わない』

 メムルの方へ振り向いてアイコンタクトで指示を送ると、メムルは黙って俺とシルバの真横に立って説明を始めた。


「ゴールはあの一つ頭が飛びぬけている木です。レイア様が勝ったらシルバ様は私達のメイド服作成の為に、銀毛を差し出してください。シルバ様が勝ったらカルバンで専用の毛づくろいグッズを一式買い、レイア様がシルバ様をピカピカにするように。いいですね?」

 俺達はじ~っとメムルを睨みつける。いつの間にか素知らぬ顔でルールが変わっているからだ。


「何故思いつきの勝負に賭けが発生していて、勝手に報酬が決められてるの?」

 その疑念の眼差しを受けたメムルは、巨乳を張って堂々と答えた。


「不服がありそうな目をしておりますが想像して御覧ください。勝った時に待ち受ける至福を!」

『「はっ!」』

 ぽわんぽわんぽわんっと擬音を立てながら、俺達の頭上には勝った時の妄想が形作られる。


(銀色に輝くメイド服を着た二人は、きっと可愛いだろうなぁ……)

(主に専用ブラシで毛づくろいしてもらうのか。今まで誰にもされたことがないから、一度味わってみたいな……)


『「その賭け! 乗った!」』

 まんまとメムルに乗せられた感じはするが、それもいいかと頷いた。だってメイド服は至高だからね。


「はい。ではいきますよ! よーい、ーーどん!」

「ーーうそだろ⁉︎」

 俺は全力を出し、勝利の為に『限界突破』まで発動するという大人げない事をしていたのだが、それでもシルバを追い越せない。

 差はどんどん開いていき、シルバはそのまま大樹へ牙を突き立てて止まった。


『主よわかったか? この世界のステータスに俊敏や速さがない以上、私の持つスキルはリミットスキルの中でも特殊らしい。何故私が狙われるのか先日ナナが教えてくれた通りだ』

「…………」

 俺は微かに震えるシルバの銀毛を撫でると、歴代のフェンリルについてナビナナから聞いた事を思い出した。


『私は嫌われているからではなく、この『神速』の優位性を誰かが世界に証明したからだそうだ』

「確かに厄介な事をしてくれるね」

『主の胸当てに宿る何世代か前の私は真の『神速』を出したいと求めている。その胸当てはSランクだそうだが、世界の測りがそこまでしか示さないからだ。きっと、主ならそれを覆せる。『朱雀の神剣』と『深淵の魔剣』も、もっと強力になれる』

「いつの間にか俺も、この世界の常識に捉われてたのかなぁ」

 俺が両腕を組んで悩んでいると、話を聞いていたメムルが補足してくれた。


「レイア様。世界にはSSランクを超える冒険者も、魔獣も、装備も存在するらしいですよ? 私は噂でしか聞いた事がありませんが、Sランク防具を一刀両断する刀や、Sランク魔獣を一刀に切り伏せる旅人が存在しているらしいです」

「まだ見ぬ強者がいるって事ね……もしやフラグなのか……」

 出来れば聞きたくなかった。俺は戦闘狂じゃないし、仲間達とのんびりまったりと冒険者ライフを送りたいだけだ。


「あまりに強い力を国が隠蔽しているとか……その者達は『GS』ランクと呼ばれるそうです。冒険者にとって始まりと終わりのランクを兼ね備えた『測れぬ者』を意味します。私は噂話だと思っていましたが、ご主人様やビナス様を見て、それも嘘じゃないのではと思うようになってきました。ピステアに戻ったら調べてみましょうか?」

「う~ん。二人の言いたい事はわかったんだけど……俺の愛するコヒナタがいない状態じゃあ装備を改良して貰いたくないんだ。シルバ、その話はもうちょっと待っててくれ」

『異論はない』

 コヒナタは装備面において最高のパートナーだ。勝手に話を進めるのは控えたい。後から作り直しとか弱体化したら堪らないし。


「シルバの気持ちは凄く嬉しいよ。負けた罰はしっかりピステアに着いたら受けてやるからな! メムルはGSランクの事なんて調べなくていいから、俺達と依頼をこなすか別パーティーを見つけるか、そっちに時間を使いなさい。強けりゃ勝手にあっちから近づいてくるもんなんだから、今は気にしなくていい」

 メムルは何処と無く悲壮な表情を浮かべながら頷くと、先程より弱々しい声を発する。


「では最後にこれだけ聞いてください。先程の装備のランクですが、『エルフの国』はもっと感知器のレベルが優れていて、上のランクまで細分化できているようですよ。知識の国ですから。人族は嫌われているから、入国出来るかわかりませんが……」

「うん、いつか行こうと思ってたんだ。いい情報をありがとうね! じゃあ着替えた後、打ち合わせ通りカルバンに入ろう!」

 俺はビナスが着替えている馬車に入り、二人でお互いを確認しあいながら苦笑した。


「ビナスのメイド服はぼろくても最高だよ」

「うふふっ、ありがとう。でも旦那様の皮鎧姿は見ていたくないから、次の町でもう少しいい装備買おうね?」

「グフッ!」

 ビナスの言葉がボディーブローの様に突き刺さり、俺は膝から崩れ落ちた。誰が好き好んでこんな茶色い鎧着たいもんか。


「う、うん。それ位Dランクでも許されるよね? 町に着いたら服と装備を新調しに行こう。ダミーの為の金なんて本当は使いたくなかったけど、鉄剣よりはましかぁ」

 俺達はおなじみのフード付きローブを羽織ると、シルバの元へ向かう。


「メムル、とりあえず打ち合わせ通りに城門の検問はよろしくね」

「わかっておりますが、もどかしいですね。ご主人様を下に扱うなどメイドとしては失格ですよ」

「我儘を言って旦那様を困らせるなメムル。殺すよ?」

 ビナスの紅い双眸がメムルを睨みつける。相変わらず俺以外には厳しいと思います。注意しても無駄だけど。


「ビナス様。貴女は今のご自分の状況を分かった上で、この先は発言してください。余計なトラブルはご主人様を困らせるだけですよ? 封印が解けていない状態では私でも貴女を一撃で殺せますからね。A級冒険者を嘗めないで?」

 額に青筋を浮かべて口調が乱れたメムルから出た思わぬ反論を受けて、ビナスはグーの音も出ない。


「ぐぬぬっ! 生意気な小娘め!」

「いや、私二十歳超えてるし、貴女の方が小娘でしょうが!」

 俺は火花を散らしあう二人を見て軽く溜息を吐く。しかし、ディーナやコヒナタが傍にいた時の様な憧憬を思い浮かべ、少し嬉しくもあった。


「シルバは大人しくメムルにテイムされた事にしてね? 話の筋書きはメムルに任せるから頼んだ」

『私も文句はあるが、初めて人の暮らす街に入れるのならば我慢しよう』

 二人のメイドは頷き合うと、御者の様に手綱を引いて進み始める。


「では行きましょう。冒険者による、冒険者の為の国ピステアの首都カルバンへ!」

「「おおぉっ!」」

 城門が見え始めると、検問でやはりフェンリルである事が引っかかるのは間違いない。

 そこで、作戦通りテイムした魔獣だという証拠としてシルバがメムルの頬を舐めると、ギルドに登録後は問題なく飼っていける事が分かった。


 しかし、兵達はその『事件』を凄まじい早さで噂して広めていく。ーー俺達がそれを知るのは後日の事だが。


「ふわあああああぁ~~~! 賑わってるなぁ~~!」

「旦那様~~! 凄いねぇ~~!」

『私が街に入れた。私が街に入れた。私が街に入れたああああああ~~!』

 大通りは商店で立ち並び、中世ヨーロッパの様な街並みと家々に、様々な冒険者やここで暮らす人々が賑わいを見せていた。


 レグルスで見たシュバンの光景も賑わっていたが『人口が違いすぎて、歩くのもやっとだなぁ』と俺が感心していたその時、陽気な青年に声をかけられる。


「おう! お帰りメムル! いつも一緒の癖にマムルはどうしたよ? つーか、なんでお前そんなメイドみたいな恰好してるんだ?」

 冒険者らしき青年は、空気を読まずに的確にメムルの急所を突いた。後でフォローしなきゃな。


「……ただいまカンダル。事情は後日話すから、放っておいて頂戴」

「……あ、あぁ、分かった。後日ギルドには来るのか?」

「えぇ、察したなら引いて」

「……すまない」

 瞳を伏せるメムルへ申し訳無さそうに頭を下げて、青年は背後を向き去っていった。


「大丈夫か?」

「……家に向かいます。この街は商業地区、ギルド地区、居住地区、交易地区の四つに分かれています。私たちA級の冒険者はギルド地区に一つ家を与えられるのです。そこを今後の根城と致しましょう。私一人では大き過ぎますからね」

「わかった。よろしく頼むよ」

 俺は向けられたメムルの顔付きから予想していた。今夜あたりまた『発作』が起きるだろう、と。


(俺にはメムルを救えない。なら、誰なら救う事ができるんだろう……)

 その時一人の少年が思い浮かんだが、いやいやと首を振る。こんな所で会える筈がない。ディーナやコヒナタとは違うんだから。


「ねぇ、ビナス。こんな時にディーナやコヒナタに会いたいと思う俺を怒るかい?」

 突然の質問を受けて、ビナスは柔和に微笑んでいた。


「うふふっ! どうせ私が旦那様を独り占めできるのなんて今だけだってわかってるよ。私が逆の立場なら、きっともうすぐみんなと会えるから心配なんていらない。だから、今は私を優先して愛してね?」

「敵わないなぁ。じゃあ、精一杯癒してもらうとするかな」

「後にして〜? 今そういう事言われると色々拙いからね……」

「ドMの変態め……」

「いやぁ〜っ!」


 既に手遅れかと俺が呆れた視線を向けると、元魔王は赤面しながら内股でもじもじしていた。可愛いけどね。


 __________


「へっぶしっ!」

「風邪ですかディーナ様? 悪化するなら面倒くさいので置いていきますから、後から追いついてくださいね」

「最近、妾の扱いが酷くないかぇ……」

「ディーナ様のせいでレイア様に会うのが遅れているんです! 当たり前ですよ!」

 そこへ、クラドが呆れた様相で一言呟いた。


「絶対に二人のせいですからね。助けてレイアさん……」

 こうして愉快な三人組の旅はまだまだ続く。

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