第68話 時に予想というものは、互いに裏切り合う結果になる。外れる可能性があるからこそ、予想なのだから。

 

 戦前日の夜、俺達『紅姫』の四人はエルムアの里を出て、マリフィナ軍が戦場に選んだ港町ナルケアから南にある、マンゼルク平原を目指し北上していた。

 ナナの索敵で本拠地を移動されようが、決して見失う事はない。


 ーー明日の戦に向けてテントを張り、作戦会議をしながら準備を整えていた。


「やっぱり置いていかれたって知ったら、みんな怒るかなぁ?」

「仕方ないですよレイア様。作戦上巻き込みかねませんからね。帰ったら一緒に謝りましょう?」

 俺の悩みながら沈んだ肩を、コヒナタが軽く叩いて励ましてくれる。


 アーマンに本拠地へ戦線布告を伝える様指示した「翌日」に、マッスルインパクトのみんなには『一週間後』と伝える事で、一日ずらして嘘をついたからだ。


 予想以上に強くなってくれた団員達の成長が嬉しくもあり、逆にそれはマリフィナ軍相手でも戦えてしまうという事実を物語っていた。


 ナナと戦術シミュレーションを行い予測する。ーー結果として、確実に団員達に死傷者が出るであろう事も。

 俺は嫌な想像を振り払い、頬を叩いて気合を入れた。勝てばいい。俺が守ればいいだけだ。


「ナナ、前回の戦闘で上がったレベルの残りSTポイント4050をHPに700、MPに1300、力と精神に500、知力に残り1050を振り込んで。今回は『天獄』と『滅火』が戦術の中心になるから、魔力重視で行くよ」

「了解致しました」


 __________


【名前】

 紅姫 レイア

【年齢】

 17歳

【職業】

 女神

【レベル】

 81

【ステータス】

 HP 7075

 MP 6091(6291)

 力 10280(20572)

 体力 3632

 知力 4748(5048)

 精神力 3191

 器用さ 3901

 運 75/100


 残りSTポイント0


【スキル】

 女神の眼Lv10

 女神の腕Lv5

 女神の翼Lv7

 女神の天倫Lv4

 ナナLv10

 狩人の鼻Lv6

 身体強化Lv10

 念話Lv5

 霞Lv4

 統率Lv2


【リミットスキル】

 限界突破

 女神の微笑み

 セーブセーフ

 天使召喚

 闇夜一世(現在使用不可)

 女神の騎士

 ゾーン

 剣王の覇気

 黒炎球

 心眼

 幸運と不幸の天秤

 一部身体変化

 聖絶

 エアショット

 女神の心臓


【魔術】

 フレイム、フレイムウォール、シンフレイム

 アクア

 ヒール、ヒールアス、ディヒール

 ワールドポケット


【称号補正】

「騙されたボール」知力-10

「1人ツッコミ」精神力+5

「泣き虫」精神力+10体力-5

「失った相棒」HP-50

「耐え忍ぶと書いて忍耐」体力+15精神力+10

「食いしん坊」力+10体力+10

「欲望の敗北者」精神力-20

「狙われた幼女」知力-10精神力-20

「慈愛の女神」全ステータス+50

「剣術のライバル」力、体力+20

「竜を喰らいし者」HP+500 力、体力+100

「奪われ続けた唇」知力、精神−50

「力を極める者」力+100 知力-50

「悪魔の所業」運−5

「断罪者」運−10 力+50 体力+50 器用さ+50 精神力−50

「犯された女神」精神−200

「Sランク魔獣討伐者」全ステータス+300 運+10

「鬼軍曹」精神+200


【装備】

「深淵の魔剣」ランクS 覚醒時全ステータス1.2倍

「朱雀の神剣」ランクS HP、力、器用さ+500

「深淵の女王のネックレス」ランクB

「名も無き剣豪のガントレット」ランクA 力2倍

「フェンリルの胸当て」ランクS

「ヴァルキリースカート」ランクB

「生命の指輪」ランクS

「黒炎の髪飾り」ランクB MP+200 知力+300


 __________


「アーマン隊との戦いは虐殺に近かったのに、酷い称号がつかなかったなぁ。なんでだろう?」

「『断罪者』が既にあるからでしょう。マスターの敵になる者たちの善悪も含めて称号は判断されるのですよ」

「やっぱり人が経験値として入るのは慣れないな」

「『滅火メッカ』で瞬殺したとはいえ、兵の中にはBクラス冒険者並みの強者もいたでしょうしね。性格は歪でしょうが」

 俺は魔獣を殲滅するのと大差は無いと思っていたが、現実的に数値として反映されているのを見ると抵抗が生まれている。


 ーークズでも、人は人だ。


「悩むのは全てが終わってからにするよ」

「それがよろしいかと。マスターは変に優しすぎて時折ナビとして心配になります」

「はいはい。気を付けますよ!」

「本当にそうしてくださいね……」

 ナビナナに心配されるとは野暮がまわったもんだと肩を竦めた。だが、今はその優しさに救われる。


「ところで朱雀の神剣は俺を主と認めてくれたから、ステータス補正がついたのかな?」

「『神炎』が使える様になった事が証明だと思いますよ? マスターの神気に応えたのではないかと推測致します」

「ナナ、今回状況によっては『天使召喚』をするつもりだからよろしくね?」

「……まぁ、今回はしょうがないかぁ。我慢してあげるよ〜〜!」

 仕事モードのナビナナから主人格ナナに切り替わりると本当に嫌そうに答えられた。俺はそれを華麗にスルーしてディーナの傍に向かう。


「ディーナ! 迦具土命カグツチの制御は大丈夫?」

「う~ぬ。自信は無いのじゃあ……よく主様はこんな難しい制御を一人で出来るのう?」

「ははっ! 俺もナナが居ないと距離や方向の制御が滅茶苦茶になっちゃうよ? 寧ろ一人でそこまで出来る方が凄い!」

 己の新しい可能性を俺のの黒炎球に見たディーナは、『聖絶セイゼツ」を薄く張ってレンズの代わりにして竜形態のブレスを収束する事に成功はしたのだ。


 ーーしかし『聖絶』はもともと全てを断ち、防ぐスキルだ。


 力の制御を間違うと、ブレスを弾いてしまうし、真っ二つに散らしてしまう。完全な制御に苦戦するのも頷けた。


「じゃが、今回妾は思い切りブレスを放つだけで良いのじゃろ?」

「うん。『天獄テンゴク』との合わせ技だから、制御は俺とナナがするよ! ディーナは気にせずにぶっ放して!」

「まかせよ! 人間の軍なぞ吹き飛ばしてくれるわ!」

 気合いを入れている所へ、体育座りで拗ねているビナスが声をかけてきた。


「我も旦那様と一緒に戦いたい。なんでお留守番なんだ……」

 既に涙目の美少女に俺はどうしたものかと困り果てながら、和らげに頭を撫でる。


「今回はビナスの出番が必要になる場面はないと思うんだ。大人しく帝国アロに帰るって降伏するなら、アーマン以外は見逃すつもりだしね。でも、敵が予想外の攻撃をしてくる可能性もあるでしょ? だからその時はビナスに助けて欲しいんだよ」

「じゃあ、封印を解いてくれ……」

「それはまた今度ね! 少しは場所とかシチュエーションも考えようよ」

「我は旦那様とならどこでも構わない! 野外プレイもありだ!」

「君、段々と秘めていた変態性が隠せなくなってきてるよね。前はもう少し口調とか色々固い子だったよね? 戻ってきて魔王様」

「黙秘する……」

 ビナスは遠い目をしながら顔を逸らした。本当によく今まで持ったなこの国。


「とりあえず明日はコヒナタと後方で戦況を見てて? 大丈夫、すぐに終わらせるから」

「嫌だけどわかった……」

 俺が拗ねるビナスに軽いキスをして誤魔化すと「しょ、しょうがないなぁ~! えへへっ!」ーーそう赤面しながら嬉しそうに惚けている。見事な程のチョロインだ。


「さぁ、こんな戦さっさと終わらせて、人族の大陸で冒険者生活に戻ろう!」

 俺の言葉に全員が一斉に同意して、力を滾らせている。戦前夜でも緊張する事なく、みんなでくっつきながら穏やかに眠りについた。


 この後、まさか互いが離れる事になるとは、ナナを含めて誰も予測出来なかったんだ。


 __________



『マンゼルク平原 マリフィナ軍遠征部隊本拠地』


「兵総数五千五百まで集まったか。将軍から戦争になった時の為に、予備兵を送って貰っておいて正解だったな。他の隊長達は間に合いそうにないが……」

「本当にここまでの数を揃える必要があったのかい? 私にはあの臆病者のアーマンがいう事だから、未だに確信を持てないんだよ。何かがあったのは確かだと思うけど」

 バーレンとソフィア、二名の千人長は明日の戦に向けて、各副隊長と仮で今回の作戦の為に有能な兵から五百人長を六名選任して、作戦会議を行っていた。


「敵は空を飛んで攻撃を仕掛けてくるとアーマンは言っていた。投石機や弓兵の増員は出来ているか?」

「はい。新たに強弓の精鋭百人の部隊を四つ編成してあります」

「よろしい。地面にさえ降りてくれば、吾輩が悪魔だろうが何だろうがこのハルバートで切り裂いてやろう」

 バーレンは副隊長の報告を受けて満足気だった。


「例のピエロ仮面の部隊はどう動くんだい?」

「おやおや……呼びましたかね?」

 ソフィアの問いに応えるかの様に、カーテンの影からピエロの仮面を被った男が現れる。


「本当にお前はどこにいるかわからない奴だな。味方ながら薄気味悪いぞ?」

「ソフィア隊長のような美しい方にそんな事を言われては悲しいですねぇ。泣いてしまいそうですよ」

「はんっ! 白々しい嘘をつくな! 綺麗だなんて今までの人生で一度も言われたことが無い!」

 一般的に見れば、ソフィアは三十代前半の大人の魅力を兼ね備えており、長く綺麗な金髪と、訓練により引き締まった身体は出る所は出ており、十分色気がある。


 しかし、性格が男勝りすぎたのと剣の実力が高すぎて誰も近寄らなかったのだ。


 その場にいる男達は全員、『きっと性格のせいだな……』と可哀想な人を見る憐憫の視線を向けた。


「なんだお前達? 気持ち悪い目で私を見るな!」

「とりあえず話が逸れましたねぇ。実はイイ物を持ってきたのですよ」

 ピエロは両手から二つのアイテムを取り出した。左手に透明な文字が浮かんだ黒水が入った小瓶を、右手に歪な形の刻印が刻まれた石をもっている。


「一つ目は『転移魔石』。これで奴らを分断するのです。転移先はミリアーヌの北の国周辺に設定してありますから、当分は合流出来ないでしょう」

「そんな貴重な魔石をよく持っていたな! 国宝クラスのアイテムではないか?」

「えぇ、心優しい陛下にお借りしているのですよ。壊したら死罪でしょうねぇ~怖い怖い」

 バーレンの問いに対して、ピエロはわざとらしくブルブル震えながら、人を小馬鹿にした演技をする。


「そしてニつ目は『聖女の嘆き』です。このアイテムは対象に浴びせる事で発動します。悪魔のスキルとステータスを封印してしまいましょう。これで怖いものはありませんよ?」

「そ、それは強制封印アイテムか⁉︎ 現存するモノがあったなど聞いたことも無いぞ!」

「ある商人からコネで手に入れたものですよ。お気になさらずお使いくださいな? 隙は私達の部隊が作りましょう!」

「何故そこまで協力する! 見返りは何だ?」

 バーレンは強い口調でピエロを尋問した。とても『仲間だから』などという台詞を吐く存在では無いからだ。


「いえいえ、そんなモノは要りません。あのニセモノさんは中々に邪魔なのですよ。人族の国に入れたら、それこそ国のバランスを粉々に崩す程にね。今この場で防がなければ、きっと手に負えなくなりますよ?」


 ーー突然真剣な口調に変わり、明らかに先程までと違うオーラを纏った存在に、隊長達でさえ生唾を呑んだ。


「最初は作戦通り投擲部隊で強襲をかける。ソフィアが正攻法では無理だと判断したら、そのアイテムを使うがいい」

「わかったよ爺さん。だがピエロよ? どうやって敵に近付くんだい?」

「それは大変簡単な事ですよぉ! ちょっとお耳を拝借……」

 ソフィアにしか聞こえない様にして耳元で策謀を語る。


「成る程ね。そういう事なら素直に力を借りようか。おい、十人程連れてアーマンを捕らえてこい! 決して逃すな!」

「その心配には及びませんよ。私の部下が既に捕らえていますからね」

「仕事が早いな。私が断るとは思わなかったのか? 貴様と私に信頼関係なんてないだろうに」

「ふふっ! 酷い言い草ですが、貴女の人となりは理解しているつもりですよ? 今は味方なのです。協力しましょう」

「今は……ね」

 こうしてマリフィナ軍の作戦会議は終わり、夜は更けていく。不安は有れど帝国軍に敗北はあり得ないと自負しながら。


 レイアの抱いたピエロ仮面の男がこういう戦で動かないという予想は間違ってはいなかったーー

 ーー相手が自分でさえ無ければ、だが。


 __________



 翌日、朝からマリフィナ軍は兵を五百人ずつ八隊に分けて、東、西の両端、北の本軍に間隔を離し気味に陣を敷いた。

 残りの兵は予測不能な事態に備えて本拠地背後に控えている。


 アーマンの報告から固まっていると一気に殲滅されかねないと判断し、一つの陣が崩されても残り二陣で背後から急襲出来る様にしたのだ。


 投擲部隊を各陣に配置し、空中への対処も準備が終わる。本軍にはバリスタを隠し、隙があれば撃ち落そうと企んでいた。


「本当に来るかねぇ?」

「来てもらわんと最早困る程、念入りに準備を整えてしまったからな。これで来なかったら大した策士だ。吾輩の興味は失せるがな」

「爺さんの楽しみより私は生きてりゃいいさ。いつか結婚もしたいからなぁ……」

「ソフィア殿にそんな願望があったとは意外だったぞ!」

「男が寄って来ないなら、自分で探し出すまでさ。それより爺さん、得体の知れない相手だ。死ぬなよ?」

「ハッハッハ! 我輩は生涯最前線だ! その為に褒章を受け取らず、千人長でいるのだからな!」

 胸を張って高笑いを上げる老獪な将兵に、ソフィアは呆れた視線を送る。


「物好きな爺さんだねぇ。嫌いじゃないけどな!」

「では、行ってくる! 軍を頼んだぞソフィア!」

「あぁ、ご武運を!」

 拳をカツンと交え、バーレンは馬に乗り最前線へ駆け出した。


 _________


 軍の配置を済ませて暫くした後、見張り櫓の兵が突如慌てだす。


「ば、バーレン隊長に伝令! 南方の空から巨大な竜が飛んできます!」

「竜だと⁉︎ 敵は悪魔じゃなかったのか⁉︎ どういう事だ! 急いでソフィアにも伝えよ! 走れ!」

 少しでも時間を稼ごうと投石機を使い、遠距離攻撃を仕掛ける様にバーレンは命令するが、飛ばした岩は竜に当たる前に粉々に砕けた。


「ディーナの『聖絶』はやっぱり俺が使うより全然凄いね。じゃあ、そろそろ始めようか?」

「うぬ。こんなもんいくら飛んできても毛ほども効かぬわ。奴等からすれば始まりじゃなくて、終わりだと思うがのう?」

 レイアは『念話』を発動してマリフィナ軍へ最終勧告を施した。


『マリフィナ軍に告げる。アーマンを引き渡し大人しく自国へ戻り、もう二度とこの国に来ないと誓えば見逃そう。この提案を断った場合、貴様らの軍に待つのは全滅のみだ! 返答を待つ。よく考えろ!』

 レイアの『念話』が戦場の兵達の頭に直接響く。経験のない兵からすれば、これだけでも恐怖に値するものだった。


「よく考えろという割には気の短いやつだな? 吾輩の意思をそんなもんで捻じ曲げられると思わん事だ! 弓兵構え! まだ打つなよ! 相手が落ち着く時間をわざわざくれたんだ。気を落ち着かせろ」


 ーーバーレンは動揺する事無く、意識を集中していた。歴戦の猛将は知略にも富んでいるのだ。


(討ち落としさえすれば我輩が仕留めて見せる!!)

 遥か先にいる獲物に胸を躍らせる。ハルバートを構え一閃すると、リミットスキル『鋼心一体』を発動させ、身体全体に気を流してその攻撃力と防御力を大きく跳ね上げた。


『返答を聞こう。トップが頭の中で念じればいい。それで皆に聞こえる』

 レイアの問いにソフィアが応えようとした瞬間、バーレンが割り込んだ。


『馬鹿をいうな竜を連れた悪魔め! 久々に血が滾る獲物じゃ! 皆の者、打ち取った報酬はでかいぞ⁉︎ あの竜だけでも純金貨何千枚の価値だ! 腑抜けは去れ! 勇気ある兵のみ、我輩と共に立ち向かえぇ!!』

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!!」」」」

 一斉に雄叫びが轟き、レイアは敵軍の士気が跳ね上がったように感じた。


 ソフィアはやれやれと肩を竦めるが、言いたいことは変わらない。内なる闘志を燃やす。


『決して負けるわけにはいかない』ーーそう、気を漲らせていた。


「やっぱ駄目かぁ。この技を使う前に説得したかったね。ディーナ、準備はいい?」

「勿論じゃ! 妾に任せよ主様!」

 レイアはディーナの背に乗ったまま、マリフィナ軍の敷いた東西北の陣にちょうど囲まれる中心部分まで進み、予定通りにその場に留まる。


『ごめん。俺も手加減は出来ないんだ。できたら……逃げて欲しかった』

 マリフィナ軍はその言葉を聞いて敵が臆したのだと勘違いした。竜がいようがこの人数差で負けるわけがないだろうと、嘲笑する者まで出てきている。

 そんな中、バーレンだけは恐ろしい程の死の重圧に身を屈めた。


(どうしたらいい、どうすればいいのだ!)

 必死で頭を回転させるが、答えは出ないままに時間は流れていく。


 ーー先程の返答を間違えた時点で、既に遅かったのだ。


 女神は右腕を天へ翳すと、眼前に直径五m以上の巨大な『黒炎球』を発動させた。『ゾーン』を起動し、リンクしたナナと『天獄テンゴク』を放つより、一層意識を集中させる。

 ディーナは『黒炎球』を『聖絶』で包むように展開すると、己のブレスを最大限まで高めつつーー溜めた。


「いくよディーナ!」

「うぬ! 全開じゃあああああああああああああああっ!!」

「「唸れ! 禍津火マガツヒ!!」」

 レイアとディーナが同時に新技を叫ぶと、シンフレイムとディーナの『聖絶』で収束された極大ブレスを放つ。

 それを更に『黒炎球』で二段階に分けて収束した女神と竜の神の鉄槌と呼ぶべき巨大な『収束砲レーザーが、七発同時に一斉に放たれた。


 それは一発一発がレイアの『天獄テンゴク』と同じ破壊力を持ち、黒と白銀の螺旋の炎を纏いながら、マリフィナ軍へと無慈悲に襲い掛かる。


 バーレンは自らが率いる部隊の上空を見上げ、その天から降り注ぐ柱を見た瞬間、死を悟った。

「なんだあれは……これが破滅の光だと言うのか……」


 ーーズガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!


 大地を割り、隕石でも落ちたようなクレーターを七つ作り上げる。一発につき直径四、五十メートルの直撃を食らう範囲にいた者は、一瞬で叫び声を上げる間もなく存在自体が消え去った。


 周囲に巻き上がる爆炎と、岩礫ツブテに巻き込まれた兵は、訳も分からず混沌の渦に絡め取られる。


「ぎゃああああああああ〜〜!」

「何も見えねぇ! これは一体何なんだ!」

「た、助けてくれえええぇぇぇ⁉︎」

「何でこんなことにぃ! 腕が! 足がねえぇぇぇ!」

「隊長! どこですか、隊長⁉︎」

「目が見えないぃぃ〜〜!」

 レイアは『禍津火マガツヒ』一発でこうなる事は予測出来ていた。敵の布陣も索敵で判明している。


 これは彼らが選んだ選択なのだと、一切躊躇する事は無かった。今の一撃で遠距離攻撃が可能な部隊は全て潰し、ーー殺した。


「だから言ったのに……」

「馬鹿なのだからしょうがなかろうて、主様が気に病む必要はありはせんよ」

 ディーナの言葉に対して、レイアは静かに首を横に振る。


 一方、ソフィアは絶句していた。巻き上がった土煙で正確な状況はわからないが、七つの黒光の柱が降り注いだと思ったら、部隊がほぼ全滅しているからだ。


(生き残っている者も、最早負傷者だけではないのか? 後方の予備部隊にも黒光は降り注いでいた。何故、こちらの部隊の配置が正確に読まれている? 被害は? 何故私は生きている? わざとここだけ外されたと考える方が正しいのか? 何故? これからどうしたら? バーレンはどうなったんだ?)


 溢れてくる疑問に優しく答えてくれる者などいない。恐怖に心臓を鷲掴みにされて、正常な判断など出来なくなっており、ただ訳も分からず痛哭に喘いだ。


「い、いやああああああああああああああああああああぁ〜〜!!!!」

 戦場のソフィアの叫びはレイアの耳にも届く。どうか、これで大人しく撤退してくれと静かに願っていたのだ。


 自らが仕掛けたに等しい戦争でも、圧倒的な実力差からまるで弱い者イジメをしている様なもどかしい気持ちに苛まれていた。


「あらあら、やはりこうなりましたねぇ……」

「ひいぃっ⁉︎」

 ソフィアの肩口からピエロが顔を覗かせる。女性の声なだけに、余計にソフィアは気持ち悪く感じた。


「落ち着きなさいソフィア隊長。全て『計画通り』ですよ?」

 軽快なステップを踏みながら、くるくるとピエロが踊り舞う。その周りには黒装束の鉄仮面を被った者達が膝をついて控えていた。


「さぁ、本当の作戦を開始しましょうかぁ~?」

 女神の撤退して欲しいという希望は、道化によって打ち砕かれる。


 本当の戦いは此処から始まったのだ。


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