第164話 二人の王は、責任を擦りつけ合う
「おほんっ! 取り乱して申し訳無かった。レイア女王よ」
「気持ち悪いから呼び捨てでいいよ。冒険者である事には変わり無いし、今回はレグルスに関係無く俺達『紅姫』個人の依頼として動くからさ」
態度を急変させたイザークに呆れながらも、少々気を使ってあげる事にした。王の自覚が足りない自分では、気持ちを理解してやれないと思ったからだ。
「ならば話を元に戻させて貰うが、国宝や至宝と呼ばれるアイテムの数々を知っているか?」
「ん? アズラに聞いた事はあるけど、それがどうかしたの?」
エルフの王は沈痛な面持ちを浮かべて説明を開始する。
「この国に『至宝七選』と呼ばれる強大な力を誇るアイテムがある様に、ザッファにも国宝二選と呼ばれる二つのアイテムがある。その内の一つ『隠り世』は、対象を空間の狭間に閉じ込める能力を持っているのだ」
「ふむふむ、残り一つは?」
「『打ち出の大鎚』という、叩いた対象の身体を巨大化するアイテムだ。しかし、このアイテムは一度使うと、当分使う事の出来ないものだと聞いている」
「ん〜フラグがバリバリに立っている気がするけれど、まぁ良いか」
「主様よ。妾でも判るぞ……」
ーー苦い顔をしながら見つめ合う『紅姫』の面々は、乾いた笑いを浮かべながら頷きあった。
「悲観する事は無い。こちらにも『隠り世』に対しての対抗策があるのだ。至宝七選の一つ、『解放の宝珠』を預けたい」
「なんで俺に渡すの?」
「敵は前回の戦いで、リコッタの強さを目の当たりにしている。『紅姫』の存在を知らない以上、最初に無力化を狙ってくるであろう? 『隠り世』は内側からは絶対壊せないが、外側からそのアイテムを使えば壊せるのだ」
「成る程ね、リコッタ姉さんが閉じ込められたら、そのアイテムを使って無効化すれば良いって事ね?」
「その通りだ」
イザークとレイアは見つめ合って頷きあった。懐から取り出された宝珠を受け取り、本題に入る。
「ところで、先に『神樹の雫』を受け取る事は可能かい? うちのビナスは『聖女の嘆き』の呪印の影響で魔術が使えないんだ。解呪出来れば、戦いがかなり有利になると思うんだけど」
「『神樹の雫』は効果を発揮する為に、神官の祈祷が必要なのだ。神樹の根元で祈りを捧げて大体四日程で完成する」
「ギリギリだね。そう言えば少し不思議だったんだけど、エルフの国ってさぁ、もしかして時間の概念がある?」
「ん? エルフは昔からこの『砂落とし』で一日を計っておるが?」
「おぉ〜センシェアルが手に入れた砂時計は、この国にから出たものだったのかぁ」
「砂時計? この他にも時を計るアイテムが存在するのか? 聞いた事は無いが」
「この戦いが終わったらもっと凄いアイテムを見せてあげるよ。俺はレグルスからこの世界に革命を起こすつもりだから、是非協力すると良い。儲かるぞ?」
「ふむ。その為にも生き残らねばならんな」
「あぁ、任せておきなよ。でも正直こんな事になるなら、呑んだくれてたザンシロウと、シルバを連れてくれば良かった……」
ーーこの時、ピステアで一人興奮している存在がいた事はシルバしか知らない。
「神樹の予言によると、悪魔達がここに攻めて来るのは四日目の朝方だ。それまでに準備を整えて欲しい。余自身も戦う。混成パーティーの選定は任せた」
「了解。問題は一つだな……」
__________
「ライナフェルドは、絶対使わない!」
工房に戻ったレイアの宣言に対して、『紅姫』メンバーは首を傾げる。ーーそれは一体何故だと。
「どうしてですか? 死霊の軍に対して、殲滅するのにライナフェルドは丁度いいと思いますけれど」
「コヒナタ、これは浪漫なんだ。敵が追い詰められた時に巨大化して、その時初めてライナフェルドは顕現するのだよ」
「レイア。ふざけて無いで真面目に考えようね? 敵は死霊よ。数を減らすのも厳しいでしょうし、マリータリー側にもかなりの死者が出るわ?」
「うん。それについては問題無いと思う」
ーー??
「俺は、今回みんなを戦わせる気も無いし、エルフ側にも何かさせる気も無い。正直、敵が何万いようが、『滅裂火』の前には無意味だからね」
「新技かのう? 妾も見た事は無いがそんなに凄いかぇ?」
「ふふっ! ディーナの目を輝かせる位にはね?」
「おぉ! それは楽しみじゃぁ〜!」
「私の封印解呪は間に合うかなぁ……」
ーー歓喜するディーナの横では、神妙な面持ちを浮かべるビナスが思い悩んでいた。
「大丈夫だよ。俺に任せておけば良い」
「ありがとう旦那様! もし手が足りなくなったら、私も頑張るからね!」
「取り合えず、編成を決めましょう」
アリアの言葉に、既に決まっている事柄を述べた。
「もう、ナナと相談して決めてあるから発表するよ」
__________
『第一パーティー』
「神樹前」レイア、イザーク
『第二パーティー』
「城門外」ディーナ、アリア、白夜、極夜
『第三パーティー』
「街中」コヒナタ、アズラ
『遊撃隊』 リコッタ
__________
「この布陣で行こうと思う! 俺が先制攻撃で『滅裂火』を放った後、各自残存する死霊を殲滅してくれ」
「「「「ラジャー!」」」」
『四日後』
遠目で判る程に蠢く死霊の数々に、エルフ達は恐怖しつつ絶叫を轟かせた。
「予想以上に凄い数だなぁ」
「うぬ。本当に大丈夫なのか?」
先手を取る為、イザークと共に城門と死霊の軍の中間に立ちはだかっている。
「問題無いさ。『滅裂火』を放った後は、状況を見ながら神樹防衛に回るからね。寧ろついて来なくても良かったのに」
「ふふっ! GSランク冒険者の本気を見れる機会など、早々あるものでは無いからな」
「好奇心は身を滅ぼすとも言うよ? 今回は滅させる気は無いけどね」
「うむ。それでは頼んだぞ! 戦女神よ!」
「任せておけ!」
頷き合い、攻撃の初手を仕掛けようとした瞬間。ーーそれは起こった。
「残念だが、貴様等には此処で離脱して貰う。我が王の命なのでな」
「「へっ⁉︎」」
突如、背後に現れた悪魔ラキスは、レイアとイザークに向かって『隠り世』を発動させる。
女神とエルフの王は、まさか自分が対象がなるとは予測していなかった為、反応が遅れて見事に隔離空間へと飛ばされたのだ。
『紅姫』のメンバー、白夜、極夜も絶句している。
まさか、戦争が始まった直後にお互いのリーダーを失うと思っていなかったからだ。リコッタだけは腹を抱え、床を転げ回りながら大爆笑していた。
『一方その頃』
「なああああああああああああああああああにが! 狙いはリコッタ姉さんじゃい!」
「知らぬわあぁぁぁぁ! GSランクならまんまと捕まる前に、逃げ切って見せろよおぉぉぉ⁉︎」
レイアとイザークは、頬を引っ張り合いながら喧嘩を始めていた。完全なる計算外、戦が始まる前の戦線離脱。
現実を認める前に、責任のなすり付け合いへと移行する。
「どうすんだよぉぉぉぉ⁉︎ ダメエルフのせいで、こんなんなっちゃってるんですけどぉぉ⁉︎」
「あぁん⁉︎ 任せておけ、キリッ! 見たいな顔してたの誰ですかぁぁぁぁ? 恥ずかしいぃぃぃ‼︎」
「解放の宝珠は、俺が持っちゃってるんですけどぉぉぉぉ⁉︎」
「じゃあ出れないじゃん! 如何してくれるんですかぁぁぁ⁉︎」
「お前が俺に預けたんじゃろがい‼︎」
「お前が狙われるなんて、解る訳ないだろうがぁぁ!」
互いに心の傷を抉るような言葉を放ち合い、最早精神的に崩れそうになっていた。ーー既に涙目だ。
分かっている事は唯一つ。戦争開始直後に、『紅姫』とエルフのリーダーはーー
ーー完全に無力化された。
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