第165話 戦闘の始まりを告げるは白竜姫の咆哮
『隠り世』の隔離空間に閉じ込められた女神とエルフの王はーー
「お互いを責めても仕方ない。そろそろ脱出手段を考えようじゃないか? まぁ、イザークが悪いんだけどね」
「ははっ! そうだな。余も大人になろうじゃないか。レイアが謝れば、許してやらん事も無い」
「そうかそうか。肉体言語で語り合いたいんだな? 良いだろう……ピピルピーしてやんよ!」
「待て、落ち着け。暴力では何も解決しないと、両親から教わらなかったのか?」
ーー未だに、責任を擦りつけ合っていた。
「取り敢えず、この状況はかなり拙い。ナナとのリンクも切れてるし、何よりスキルも魔術も封じられてる。ワールドポケットが開けないから、双剣も大剣も出せない」
「何故これから戦争を始めるという一大事に、武器すら装備しとらんのだ貴様は? GSランク冒険者は阿呆なのか?」
「『滅裂火』で殆んどの敵を殲滅する予定だったからじゃい! 阿呆なのは、ザンシロウだけだ!」
「それでは『隠り世』を発動させた悪魔を、外の者達が倒してくれるのを待つしか無いな」
全てがモノクロに映る四角い空間の中で、レイアとイザークに残された選択肢は……待つ事のみだった。
__________
『一方その頃』
『紅姫』とエルフの合同チームに対して、死霊の軍団が迫っている。
神樹の防衛に当たる予定だったレイアとイザークに代わり、アリアが単独で担当していた。
十万を優に超えるであろう大群に対し、真面に相対しなければなら無い状況では、それ以上に人員を割く余裕が無かったのだ。
城門外にはエルフの軍二万が控えており、白夜、極夜が戦の始まりを告げると同時に皆を鼓舞していた。
「例え敵がいくら強大であろうが、我等は神の眷属であり、神樹の恩恵がきっと御守り下さる! 勇気あるエルフの兵士達よ! 臆する事なく立ち向かうのだ!」
ーー「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉーーーー!!!!」」」」」」
「妾は空の骨竜どもをどうにかするから、地上はお主らに任せるぞ」
「分かっています。ディーナ様も御武運を!」
「住人の非難は無事に完了しています。思う存分暴れて下さい」
ディーナは白竜姫形態に変わると、上空のスケルドラゴンの群れに向かって飛び去った。白夜と極夜は軍を大きく二つに分け、各々が死霊の軍団を挟撃しようと動き出す。
ーー城門外の戦闘が開始されたのだ……
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「カルミナ、危ないから貴女もそろそろ避難なさい? 私はレイアの代わりに神樹を守らないといけないから」
「はい、アリア様。どうか無事にお戻り下さいね」
「友達に悲しい想いはさせないわよ。私を信じて待っていてね」
「はい。避難所から祈りを捧げておきます」
アリアは、そのまま振り向かずに神樹へと疾駆した。己の考えが間違っていなければ、敵の王は隙をついて神樹へ向かっているだろう。
ーーそして、その予測は図らずも的中する。アグニスは既に水晶城へと向かっていたのだ。
__________
「私達は、レイア様を如何にかして救出しなければいけませんね」
「『隠り世』を放ったあの女悪魔を倒さなければならんな。神樹の雫でビナスの封印が解ければ何とかなるか?」
コヒナタとアズラは、レイセンの街の水晶城に繋がる道を守っている。ビナスは『聖女の嘆き』の封印解除の為に、まだ戦いには参加出来ずにいた。
「リコッタお姉さんがいれば、悪魔なんて余裕よ〜?」
「そうかも知れんが、油断はするなよ。そして何故ここに居るんだ?」
「私は遊撃隊だからね〜? 悪魔の気配を感じたら直ぐ様倒しに向かうけど、それまで暇なのよ〜」
「そろそろ城門外の戦闘が始まる頃だろう?」
「えぇ。ゼン様が警戒する様にと仰っています」
「麒麟様も同様だな。敵の数が予想以上に多い。下手すると、街より外の防衛に回った方が良いかもしれんな」
「ダメよぉ〜? 死霊も確かに問題ではあるけどね。それよりも先に三人の悪魔を倒さないと、更に被害は大きくなるもの」
「姫を救出する為にもそれが一番か。のほほんとしてる割には、戦況を良く見てるよなぁ?」
「これでもGSランク冒険者ですからね〜! あっ! 漸く一人見つけた」
「見つけたっていうより、真っ直ぐ此方へ向かって来てるぞ?」
「明らかに気配を隠す気がありませんね。狙いはリコッタさんでしょう……」
ーー三人が見つめる先には、激昂したラキスが魔剣オーベルを携え駆け出していた。
__________
「さぁ、派手にいこうかのう。主様が戻った時に褒めて貰うのじゃあ」
ディーナは、上空を飛ぶスケルドラゴンに向けて、初手から『迦具土命』を放つ。
『聖絶』により収束された竜のブレスは、灼熱の炎を纏う閃光となって先頭のスケルドラゴンを消滅させた。
しかし、直後に予想外の事象が起こる。スケルドラゴン達は灼炎に対して避けるのでは無く、黒いブレスを吐きながら、自ら向かって行ったのだ。
骨の巨躯は崩れ去りバラバラに砕かれながらも、『迦具土命』を防ぎきった。そして、ダメージを受けた身体は即座に再生を初めている。
「なんじゃと⁉︎ 妾の迦具土命をそんな方法で防ぐとは!」
「キシャアァァァーーッ!」
次々と襲い掛かるスケルドラゴンの骨牙や骨爪を避けながら、ディーナは久し振りに焦燥感に苛まれていた。
「これは、手間がかかりそうじゃなぁ……」
眼下に蠢く死霊達。グールやゾンビを統率するデュラハンやグレートマミーに、次第にエルフの軍は飲み込まれていく。
次々と放たれる火属性魔術も、レイスの氷属性魔術に相殺されて苦戦を強いられているのは明らかだった。
城門外の戦闘は劣勢のまま、戦線を保てない状況まで既に追い込まれている。
ーー追い討ちを掛ける様に百夜、極夜の元へ悪魔レビタンが舞い降りた。
「おいでよ。エルフの雑魚達〜? レビタンちゃんが遊んであ、げ、る!」
死霊の瘴気により、以前より遥かに力を増した狂気がエルフ達へ襲い掛かる……
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