第284話 『勇者カムイ』と『生物兵器レブニール』 2
「コーネルテリア!! アマルシアに一体何が起こってるのか手短に教えろ!!」
『多分、至宝による洗脳状態にあるし! 気絶させるか殺すしか方法はないし!!』
「ふざけんな! 仲間を殺すなんて選択肢は、はなからねぇんだよ!」
カムイは口から漏れ出る炎を纏い、激昂する火竜王を見据えて離さない。今にも牙と爪を振り下ろしそうな圧倒的な敵意、殺気を感じとった上で意思は変わらなかった。
ーー絶対に失ってたまるか!!
「アマルシア! 俺はお前との契約を違えていない! 子供達は無事に生きている!!」
「嘘をつくな!! わっちは見たのだ! 無惨に殺される幼竜達の嘆きを!!」
「〜〜〜〜ッ⁉︎」
吐き出された『
「ーーガハァッ!!」
「死ね!! 死ねぇ!!!」
連続で撃ち放たれる炎は渦を巻き、次第に周囲を赤に染める。兵士達はヘルデリックとマジェリスの号令に従って退避し、フォルネは離れた場所でスキルを発動して現状の把握に努めていた。
「この……馬鹿野郎があああああああっ!!」
「ヒィッ⁉︎」
大地を蹴ってアマルシアの首元へ聖剣ベルモントを振り下ろそうとした直後、漏れ出た悲鳴を聞いてカムイは動きを止める。
恐怖に震えた瞳。それは己を仲間では無く、本当に敵として認識しているのだと理解させるには充分だった。
「……馬鹿なのは俺も一緒かもな」
「カムイ様あああああああああああああああ〜〜⁉︎」
アマルシアが恐怖に怯えて無意識の内に振り上げた爪は、偶然を含み、無理矢理聖剣を止めた事でカムイの腹を裂いた。
フォルネは血溜まりに沈む愛しい人の元へ駆け寄り、直ぐ様治癒魔術を施す。視線はアマルシアを睨みつけて離さず、魔術で牽制しようとした直後に思い止まった。
「あ、あああああああああああああああああ〜〜〜〜!!」
「……アマルシア」
巨大な火竜王の両目から溢れる涙は、自らの炎でジュウジュウと音を立てて蒸発し続けている。嘆きに震えて、今にも崩れ落ちそうな程に弱々しい竜の姿がそこにはあった。
その姿を見てフォルネは口を噤む。最早アマルシアが攻撃をする事はないと判断し、カムイの回復に努めた。
「お願いです。まだ……死なないで!」
ーーパチンッ!
『
カムイの身体が宙に浮かび上がると、まるで時間を逆行する様に流れた血が傷口へ戻っていった。フォルネは口を半開きにして唖然とする。
「ふうっ……ありがとなコーネルテリア。少々ヤバかった」
『神をこんな風に使うんじゃないし。
カムイはアマルシアに向けてチョイチョイと手を招いた。申し訳なさそうに人化して歩いてくる幼女の頭を撫でる。
「すまんのじゃ。主人様……」
「気にするな。それより一体どうしてこうなったか教えてくれ」
「記憶が飛んでおる。わっちは確かに上空から敵の野営地に向かった。じゃが、気付いたらこうなっておったとしか言えぬ……」
「洗脳系のアイテムか。おい、コーネルテリア。さっき『至宝』とか言ってなかったか?」
アマルシアを抱いて肩に乗せると、カムイは第三柱の発言に耳を傾けた。
『この世界の国にはそれぞれ、『創造神アル』が作った至宝が分け与えられてるし。シルミルにある『勇者召喚の陣』がそれだし』
「呼び出された本人から言わせて貰えば、嬉しいやら悲しいやらってやつだな……」
カムイからすれば、自分自身が至宝なのだと言われたのに等しい。つまりはこちらにこれ以上の手はないのだ。
「だが、俺は負けん!!」
アマルシアが戻った以上、あとは『絶対服従』のリミットスキルで兵をこちらに取り込んでいけば、自ずと戦力差は覆される。
カムイに敗北のイメージは湧かず、『紅姫』や同盟国に助力を求める理由にはならなかったのだ。
何より、
「俺は絶対にティアの仇を討つ!! 力を貸してくれみんな!!」
聖剣を掲げる勇者の姿は誇らしい。兵士達は再び雄叫びを上げて武器を手に取った。仲間達の誰もが想像していなかったのだ。
ーー自分達が敗北するなどとは。
__________
「さて、そろそろ良いですかねぇ〜〜?」
「既に準備は整っております。村人はともかく、正規兵は一兵足りとも動かしてはおりません」
「ならば解き放つとしましょうかねぇ。『悪魔』と『人』と『魔獣』の混じり合った悍ましき生物兵器『レブニール』を!!」
シュバリサはピエロの仮面の隙間から漆黒の瞳を覗かせる。片手を振り上げて合図を送ると同時に、シルミル城下町の上空へ無数の転移陣が広がった。
「さて、蹂躙を始めましょうかぁ?」
ーーピシッ! ピシピシッ!!
「な、何だあの化け物は……?」
カムイと兵士達が困惑する中、五百体を超えるレブニールが次々と姿を現わす。
首から上は魔獣、肉体は緑色の悪魔、そして人の強かな知能を備えた歪な生物兵器は、禍々しいオーラを放ちながら咆哮する。
ーーグギャアアアアアアアアアアアアアアア〜〜!!
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
魔獣の口元から覗く光を見て、勇者は最悪の事態を思い浮かべ絶叫した。だが、無慈悲な紫紺の光線が一斉に城下町に放たれる。
不思議な事に悲鳴は一切聞こえず、カムイは竜化したアマルシアの背中に乗って一気に城下町へ飛んだ。
そして、視線が捉えた光景に思わず絶句する。
「これは一体どうなってやがる……教えてくれコーネルテリア」
『どうもこうも石になってるだけだし。さっき化け物が吐き出した光線に『石化』の効果があったんだし』
「直す方法はあるのか⁉︎」
『それこそ紅姫レイアの力を借りないと無理だし。『石化』はこの世界において、主神である女神が封じた禁忌の力だし』
カムイの眼下には、恐怖に怯えた表情をした無数の石像があるだけだった。
「くそピエロがあああああああああっ!! 絶対許さねぇ〜〜!」
身悶える程の怒り。この場で死んでも構わないと思う程に勇者は憎しみを胸の内に抱いた。
圧倒的な威圧を放ちながら聖剣ベルモントを抜き放つと、『神の器』として立場を忘れ、第三柱に命じる。
「力を貸せコーネルテリア!! ピエロごとあの化け物をぶっ殺す!!」
『しょうがないから手伝ってあげるし! 勇者カムイの『神降ろし』を承認。第三柱コーネルテリアの神気を譲渡! あそこの焼き串美味しかったのに……ぶっ殺せだし!!』
「言われなくても分かってる! 第三柱コーネルテリアの神気よ、形を成し俺の力となれ! 『時空の羅針盤』発動!!」
カムイの肉体が黄金の輝きを放つのと同時に、左手には時間を刻む円形の盾が顕現した。長針しか無く、数字も三時、六時、九時、十二時とシンプルな装飾をしている。
こうして、勇者カムイと生物兵器レブニールの戦いが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます