第7話 「焼きとんの為に無双する女神」前編

 

「俺は、絶対に生でオークは食べたくない!」

 力強く拳を握り締めた。どうすれば美味しく料理を食べられるか考えて、答えは一つしかないと結論を出す。


 スキル『女神の眼』を発動して火系統魔術を使える魔獣狩りだ。まだまだ色々確認したい事は沢山あるが、どうせなら焚き火のある安全地帯で寝床を確保してからにしたい。


 ーーまずは、ご飯の為の『狩り』を開始する事にしたのだ。


「ナナ、この森にメイジとか魔術を使える魔獣はいる?」

 ナナが索敵しながら深淵の森のマップデータを出して、説明を開始する。


「この近くだと、さっき倒したオークの上位にあたるオークメイジがいるよー! ほら、この部分?」

 この時、脳内情報を視覚化して説明を始めるナビに対して、俺はある疑念を持った。


(こんな索敵能力あるなら、なんでさっきの小川近くのオークを俺に教えないのだ。ナビなのに馬鹿なの? 聞かなかったからとか言って誤魔化しそうだが、俺にはわかる。きっとナナは困る俺を見て、楽しみたかったんだ……しかし、本当にそうか? 人を疑う心いくない……天使なら尚更だ)


 会って間もないが、今はパートナーだ。信頼は大切だと考える。一応念の為聞いておこう。勘違いなら自分自身を省みて反省すればいい。ーー俺は大人の対応を決意して、ナナへ話しかけた。


「ねぇ、ナナさん。さっきはなんでそのマップを使った索敵をしてくれなかったのかなぁ? オークと出会う前に教えてくれたら、心の準備とかも出来て喜んだんだけどなぁ〜?」

 ナナは愉快そうに、嬉々とした声色で即答した。


「なんで私がマスターを喜ばせなきゃいけないの? 気付いてたけど、初めて魔獣を見てプルプルする姿が見たかったに決まってるじゃない! あんな雑魚に震えてるマスターだよ? 中身だけは置いといて、さすが女神様の幼女姿ね、可愛かったぁ〜! ワイン一本空けちゃったわ」

 俺は予想を超えた発言に絶句する。このドS天使は人が初戦闘にビビる姿を見て、ワイン片手に一杯やってらっしゃったのか。


(俺も飲めるなら飲みたい……心の淀みを酒で洗い流して、ベッドでぐっすり眠りたい)

 今は飲めない酒に憧憬を描きつつも、狩りの為の準備をする事にした。


「ナナ、いつまでも笑い転げてないでステータス出して。真面目にやるよ」

「了解です。マスター」


 __________


【名前】

 紅姫 レイア

【年齢】

 10歳

【職業】

 女神

【レベル】

 2

【ステータス】

 HP 330

 MP 540

 力 82

 体力68

 知力 130

 精神力 110

 器用さ 38

 運 スキルが発動していない為、数値化できません。


 残りSTポイント50


【スキル】

 女神の眼Lv1

 ナナLv2


【リミットスキル】

 限界突破

 女神の微笑み

 セーブセーフ

 天使召喚

 闇■■■


【称号補正】

「騙されたボール」知力-10

「1人ツッコミ」精神力+5

「泣き虫」精神力+10体力-5

「失った相棒」HP-50

「耐え忍ぶと書いて忍耐」体力+15精神力+10


【装備】

 錆びた剣 ランクF

 __________


「おぉ! 前回の割り振りとレベルアップの全体数値アップに、ナナの精神攻撃に耐えて得た称号補正で、体力と精神力が一気に上がってる」

 これならオーク位ならいけるかもと判断し、再びナナに問い掛ける。


「ナナさんやい。武器を装備しても、攻撃力とかの数値じゃなくてランクしか出ないんですが、これは一体どういう事?」

「マスター、もう分かってると思うけど、この世界はゲームじゃないのよ。肉体の数値はあくまで目安として考えて。疲れれば力は落ちるし、体力も減る。頭も働かなくなるでしょ? 武器なんか、切り続ければ刃こぼれもあるし、血糊もついて切れ味が下がり、攻撃力は落ちるしね」


「嫌なとこだけリアル仕様なのね……」


「ランクは武器の素材と状態を意味しているから、高いものを装備すればそれだけ頑丈で長持ちする。また特殊な能力や、ステータス補正をかけるものもあるよ。攻撃力は数値じゃなくて実際の戦闘で感じられるから、初心者のマスターは戦って学ぶといいよ」

 言ってる事は理解したが、上から目線の天使に納得がいかない。


(中身は違っても身体は女神である俺に、なんでこのドS天使は攻撃を浴びせ続けるのか謎だな)


「わかったよ。今の知識である程度のモンスターは倒せそうだし頑張る。拠点が出来たら残りのスキルの説明頼むね。まずは飯、焼きとんが食いたい。あと、レベルが上がって余ったSTポイントはHPに20、力に20、体力10でお願い」

「了解しました。マスター」

 ナナにマップを出してもらい、一本道になっている狭い洞窟を見つけた。多数対一人の経験が無い自分では一気に攻められたらやられるかもしれない可能性を考慮して、最大二匹になりそうな場所を選ぶ。


 押し切れそうなら奥まで進めばいい。最優先条件は、この先にいるオークメイジの火系統魔法のコピーだ。


「さぁ、行ってみようかな!!」

 洞窟の入り口へ、ゆっくりと歩き出した。


 女神を彩る淡い煌めきが森の闇を照らし、幻想的な空間を作り上げていく。

 異世界生活で、初めての狩りが始まった。

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