第151話 「覗きをしていいのは、殺されてもいい覚悟がある奴だけだ‼︎」 1

 

『紅姫』の面々はマッスルインパクトと共に『砂漠の大鼠』のアジトへ向かっていた。訓練後野営をするにも人数が多過ぎるし尚且つ寝床の準備を考えると、元々この大人数が暮らしていた場所を利用するのが手っ取り早いと判断したのだ。


 勿論アジトに残っている盗賊達を省いた総勢六百名を超えるマラソンである。マッスルインパクトは監視側へまわり、レイアは『分身』を発動させてサボったり逃走を図る者を片っ端から坊主にした。


 それでも盗賊団の中にはギガンスやラーディスの様に元A、Bランク冒険者がいる。アリアとコヒナタに壊滅させられたアジト側の中にも実力者は多数いた。大体その者達は不平不満を漏らさず走っているが、腹の中では何を考えているのか分かっている。


『隙を見て状況を覆す』ーー各々が脳内で作戦を練り上げているのだ。

「ふむふむ、ここは一発ディーナの出番かなぁ?」

「妾かぇ? 何をすれば良いのじゃぁ?」

「レイア様……大体何を考えていらっしゃるのか理解出来ますけど……下手をすれば死者が出ますよ」

「まぁ、良いんじゃ無いかしら? 元々殺されてもおかしく無い罪が奴らにはあるわ?」

 コヒナタの制止に対して、アリアはレイアの考えを肯定する。ビナスは既に飽きてヴァレッサの背で寝ていた。


「ディーナはやれば出来る子だもんね〜?」

「うぬ! その通りじゃ主様よ! して何をすれば良いのかのう?」

「後で教えるよ、今はアジトに着いて身体を休めよう。どうせ俺達は明日からまたエルフの国に向かうしね」

「了解じゃ〜!」

 その後、夜の間に『砂漠の大鼠』のアジトに辿り着いた皆が目にしたものはーー

「うん、見事に壊滅させたね……アリア、コヒナタ?」

「ち、違うんです! 私は必死で止めたんですよ? でもアリア様が嬉々として壊しまくったんです!」

「あら? レイア見て? 彼処の一番破壊されている場所、あれコヒナタの一式よ?」


「なぁっ⁉︎ じゃあ、あっちはアリア様ですからね? ほら見てレイア様! あの酷い箇所ですよ!」

「こらこら、誰も責めて無いから大丈夫だよ? 作戦を立案したのは俺なんだしね」

 怒られると勘違いし、お互いに責任を擦りつけ合う二人を嗜めると、盗賊団とマッスルインパクトの面々に命令した。


「貴様等! 今すぐ瓦礫を撤去! 俺達が今日一日を過ごす場所だ、それを重々承知した上で作業を開始しろ! 手を抜いたら坊主だけでは済まさんぞ!」

「「「「サー! イエッサー‼︎」」」」

「キンバリーとソフィア、後サダルスとデールは此方へ来い!」

 指示に従い眼前に整列する四人。サダルスとデールは既に逃走を図り、尚且つ己の待遇に不満を述べた罰として坊主だけに飽き足らず、電気ショックの刑に処されていた為、最早反抗の意思を削がれていた。


「サダルス、デール。溜め込んでいた財宝出せ?」

「「はっ⁉︎」

「だからぁ〜今まで悪どい事して溜め込んでいた財宝を出せ?」

「「そ、それは〜……」」

 ここで『女神の微笑み』を発動させ、トドメを刺す。

「出せ?」

「「サー! イエッサー‼︎」」


 二人に案内され、地下通路への隠し扉を開け内部に進むと、其処には優に純金貨五百枚を超える金貨と宝石類が厳重に保管されていた。

「成る程。お前等溜め込んでんなぁ〜」

「いつか国のトップに立つ為に必要だったのです」

「このデール、私欲で闇に落ちた訳ではありませぬ! 全てはサダルス様を王にする為に必要な悪であったのです」

 レイアは言い訳を始める二人に冷酷な眼差しを向け、現実を突きつける。


「必要悪なんて正義はお前等には無い。お前達はただのチンピラの頭だ。己の器の小ささを知り、マッスルインパクトに鍛え直して貰え。再び俺と会った時に研鑽を続けられていた暁には、この財宝は返すと約束してやろう」


「「…………」」

 サダルスとデールは反論出来ない。それ程に眼前に佇むレイアから放たれる存在感に気圧されている。

 その後、『ワールドポケット』内に殆どの金貨と宝石をしまい込んだ。必要経費はキンバリーとソフィアに渡し、今後の盗賊団の管理に使う様命じる。

「さて、瓦礫の撤去に戻ろうか? お前等もしっかり働けよ?」

「「サー! イエッサー‼︎」」

 アジトの片付けが終わると、アリアとカルミナが面白いモノを発見したと報告に駆け出してきた。いつの間にかアズラに心を奪われている友人の現状を知った時、アリアは標的を近場の崖から突き落として既に排除している。


「ねぇ、レイア! カルミナがあの山の麓に温泉を見つけたのよ? みんなで入りましょう?」

「へっ⁉︎ 温泉なんてこの世界あるの⁉︎」

「あぁ……ごめんなさいね。天界で貴方の事を聞いた時に教えてあげるべきだったわね。この世界で温泉は余り知られて無いのよ。エルフの中では常識らしいけど、人族や魔人にとってはまだ忌避されているみたいね」

「妾の竜の里には大浴場があるんじゃ〜! いつか主様にも入って貰いたいのう!」

「ディーナ……先に言って。もっと早く言って……そうしたら俺はミリアーヌに来る前にまずその竜の里に向かったよ……」


「そ、そんな温泉に入りたかったのかぇ?」

「あ、あ、当たり前じゃあああああぁぁぁぁぁぁーー‼︎ 俺がどんだけベッドと風呂に焦がれていたと思ってるんだ! ビバ温泉! 酒も用意しろぉ!」

「「「ラジャー‼︎」」」

 その後、目を覚ましたビナスと共に『紅姫』女性陣とカルミナ、ソフィアは温泉に向かう。


 女神は胸をときめかせていたーー


 __________



 一方、アズラ、キンバリー、サダルス、ガジー、ジングル、デールを中心に構成された男性部隊が結成され、テーブルに地図を広げながら重要な作戦会議が開かれていた。

「却下だ! 姫にはそんな浅はかな行動は筒抜けだ! 急げ! 向かった距離を追いつく時間を計算すると、作戦会議に使える時間は十五分程しかないんだ! 姫から賜ったこの『時計』に基づいて作戦を速やかに決行せねばならない!」


「分かっている! しかし女性陣の感知能力を上回る策となると……」

「諦めるな! 新参者ではあるが、我らも知恵と力を貸す!」

「あぁ、お前等……いい奴だったんだな」

「俺達は愚者さ……ただの落ちぶれた盗賊だよ。だが! 今はそんな事関係ない! 漢になるのだ!」

「サダルス……お前、訓練を終えたらきっといい王になれるぜ!」

「ありがとうガジー、俺自身こんなにスッキリした気分は久しぶりだ。さぁ、知恵を貸せデール」


「既に八通りの作戦を同時に進めております! しかし、どうしても最後の砦が崩せませぬ!」

「ぐぬぬっ! 邪魔くさい能力だ!」

「姫だけに意識を捉えられてはいけない。この際しっかり資料に目を通せ。ディーナは鼻がいい、コヒナタは邪魔くさい神がきっと警告する。アリアは良く分からんがとにかく速いし怖い女だ! 俺は何故か先程崖から突き落とされ殺されてかけた!」


「天使か……厄介な……」

「なぁ、聞いてくれみんな。俺には『凍らせる心臓』っていう、三秒だけ時間を止めるリミットスキルがあるんだ」

「なっ⁉︎ 貴様噂に聞く『月夜族』か! そんな情報を何故こんな人族の前で晒す! 気でも狂ったか!」

「良いんだサダルス。なぁアズラ……この能力を何か作戦の役に立てないか? 俺は死んでもこの作戦をやり遂げたいんだよ」


「キンバリー……お前等! 此奴の覚悟に応えてやれ! 漢の意志を無駄にするんじゃ無い!」

「「「「サー! イエッサー‼︎」」」」

 ジングルはその漢達の様子を一人黙って眺めていた。結婚したばかりで死にたくないからだ。そして如何なる策も軍曹に通じる訳無いのにと達観している。


「今更やめた方が良いなんて言えないけどな……生きて帰って来てくれよ」

 結論、漢達が決めた作戦は部隊を十に分け、楽園に辿く確率を少しでも高めるという物量作戦だった。裏をかくのは不可だと判断する。漢らしく特攻あるのみと、死んでも良い覚悟がある奴だけが部隊に加わったのだ。


 アズラは大剣を構え、コヒナタに改良された英雄の鎧を身に付ける。瞼を閉じて精神統一を開始した。

「姫よ、騎士の誓いと漢の野望は別なのだ……俺は成長したその裸が見たい‼︎」

 欲望に負けた阿保な騎士がいた。その漢の名はアズラ。魔王であり、女神の騎士であり、漢だったのだ。大剣を高々と構え、マッスルインパクトと砂漠の大鼠の団員達の前に宣言する。それは戦場へ赴く兵士達を鼓舞するかの如き真剣さを秘めていた。


「今から我等は死地へ向かう! 勝ち目はほぼ無いだろう! しかし、俺達は漢だ! 腑抜けは去れ! 楽園を求める真の武士(モノノフ)のみがこの先に進む事を許される! 俺達の意志は一つだ! 強大な敵に立ち向かえ! 己を奮い立たせ、眠った野生を目覚めさせろ! 行くぞ! 付いて来い馬鹿野郎共‼︎」


「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーっ‼︎」」」」」」」」」

 このままザッファに攻め込めば国を取れる程の気迫と意志を奮い立たせ、一つになった漢達は進み出した。


『温泉を覗く』ただそれだけの為に……

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