第75話 Aランク冒険者とヨナハ村で出会ったそうな。

 

 俺達が夢幻の森を出て二日が経った。


神覚シンカク』発動後の身体強化系スキルが使え無い制限と、ナナの眠りを回復させる為に休みながら移動する。

 以前よりレベルが上がっているからか、制限解除までの時間も早くなっていた。


 だが、宿のベッドで早く寝たいと焦がれているわけでストレスが溜まる。


 ビナスと手を繋ぎながら『キャッキャ、ウフフ』とスキップしつつ、道中に現れる魔獣を眼中に無いと蹴散らした。『エアショット』のスキルはやはり便利だ。


「もうすぐ村に着くねぇ? とりあえず、二日間は宿から出ないの決定で!」

「賛成賛成! ベットの上でゴロゴロしよう~?」

「うむうむ苦しゅうない、苦しゅうないぞよ! はっはっはっ!」

「ねぇ? この状態で最初の封印を解くとどうなるかな?」

 キラキラした視線を向ける黒髪ツインテ美女の魂胆は分かっている。封印を解くという名目でエロい事がしたいだけだ。


「落ち着いたらおいおい試してみよう。欲情しちゃったら……でね?」

「させちゃうから平気だよ。あっ、右側からゴブリン三匹見えた」

「ほいほいっと! この道なかなか魔獣が多いなぁ? もしかしてまた何か起こってるのか?」

「気のせいじゃないかな。雑魚ばっかだし。どう、演技できてる?」

「うん、いい感じだよ! でも雑魚とか我とか言ったら駄目だからね!」

「はいはーい!」

(旦那様の前ではだけどね……)

 そんな会話をしながら魔獣を五十匹以上殲滅していると、流石に俺も違和感を感じて思わず首を傾げる。村の近くまで寄ると、畑が見えてきたのに人の気配がしない。


 ーーナナの索敵には反応があった筈だ。


「ナナ。人の気配がしないんだけど、なんかわかる?」

「どうやら村の中心に固まっていますね。避難していると考えれば、何か村に異変が起きたのでは?」

「ビナスはどう思う?」

「そうだなぁ。魔獣がやたら多かったのと関係があるとか?」

 俺は余計なフラグを立てたかもしれないと、青々しい空に向かって目を細める。


「とりあえず村の中心に向かってみよう。目立たない様にローブも被って演技だよ! 演技!」

「はいはーい! 私、頑張る!」

(旦那様の前でだけね……)

 こうして話し合いが終わり、村の入口に近づいた瞬間、俺達の足元に向けて矢が放たれた。


 __________


「止まれ! 貴様達何者だ! あの魔獣の群れの中をどうやってここまで来た? 村は包囲されていた筈だ!」

 黒い装飾を施した胸当てを装備し、銀の弓を持つ若い青年が木の上から叫んでいる。精悍な顔付きから、中々の強者に見えた。


(やっぱりなんか異変が起こってるんだ。なんでこう休ませてくれないんだか……もしかして『幸運と不幸の天秤』の運数値が下がってる? まずは様子見するか)

 レイアは顎を抑えながら一考した後に、そっと両手を前に組んで祈る様に青年へ応えた。


「私達は旅の冒険者です! ちゃんとプレートもあります。道に迷っていた所を魔獣に襲われて逃げて来たんです! そちらの事情も教えて頂けませんか?」

 声の高さも少し上げてか弱い子ぶる演技を見て、隣に控えていたビナスが俯いたままボソっと呟いた。


「……お前は誰だってツッコミたい豹変ぶりに、流石の我も驚くな」

「しっ! こういう時は猫被ってる方が目立たない! 戦いになって翼とか出しちゃったら、いつもみたいに崇められてアウトだ! 仮面だ、仮面を被るのだ」

 レイアは自己暗示をかけると青年の様子をフードの隙間からそっと見やるが、警戒心は解いていない様子だ。中々に手強い。


「冒険者プレートを見せろ! 身分の確認が取れたら警戒を解いてやる!」

「いいですよ。では近付いても?」

「ダメだ! そこからプレートを投げろ。その代わりにこっちも投げる。変な真似をしたら即座に撃つからな?」

「分かりました。ではどうぞ?」

 レイアは自分のプレートを放り投げ、男もほぼ同時に言葉通りプレートを投げて来た。


 プレートを冒険者ギルドの人間以外に見られても名前と年齢、ランク、登録した職業しか表示されない事は、仲間内で見せ合い確認している。

 肝心の本当の職業とポイント、討伐魔獣ランクさえ見られなければ問題無いのだ。


 レイアは投げられたプレート受け取り、軽く見つめる。


【ガイル 27歳 職業アーチャー Aランク】


「へぇ……Aランクかぁ。そりゃあ慎重な訳だね」

「所詮唯の雑魚であろうが。我の足を止めるとはどうしてくれようか……」

「口調戻ってるから気をつけて? さぁ、どう出て来るかなガイル君は?」

「旦那様だって人の事は絶対言えないよ……ちょっと悪どい顔も素敵だけどね」

 ガイルはレイアの姓に首を傾げるが、古代語を使う部族がいると聞いた事があった為、問題無いだろうと木から降りて近付いた。


「疑ってすまなかった。僕はガイル、Aランク冒険者だ。高ランクの魔獣の中には知脳が高い奴や、人を騙すスキルを持つ奴がいて、警戒させて貰ったんだ」

「へえぇ〜、そうだったんですかぁ! 知りませんでしたぁ! Aランク冒険者なんて凄いですねぇ?」

(知ってます。もう妖精擬きに騙されましたから。それよりも早く宿のベッド!)


「それにしても君達は運がいい、今は魔獣の繁殖期に入っていてね? ダンジョンや瘴気から魔獣が大量に溢れているんだ。とてもDランク冒険者が生きてここまで辿りつける数じゃ無いんだよ? 僕ら『風の導き』は、この村に結界を設置して、繁殖期が終わるまで村を守る依頼を受けているんだ」

「へえぇ〜? そうだったんですかぁ! 私達も危ない所で怖かったです〜!」

(知ってます。ここに来るまでに何十匹殺したか数えてませんけど。仕事しろやお前ら!)


 ーー女神は全力で素を見せ無い様に耐えていた。こめかみには青筋が浮かんでいるが、フードで隠れているのが救いだ。


「仲間達は狩りの疲れで休んでいるから、君達も村の宿で休むといい。村長には僕から話しておくから起きたら挨拶に来てくれるかい? Dランクとはいえ何か手伝ってもらう事があるかもしれないから、その時の為にしっかり休んでおいて欲しい」

「はい。私達に出来る事なんて微々たるものなのですが、魔獣と戦う以外でしたらお手伝い致しますよ」

(絶対手伝わねぇ! お前達が受けた依頼じゃろがい!)


 レイアは自分達にも依頼の手伝いをさせる気かと苛ついていたが、今はまだ我慢だと堪えた。


 案内された宿では、野菜が煮込まれて軽く塩で味付けされただけの簡易なスープと、硬めな黒パンを分けて貰う。一目見た瞬間にレイア達は食事に飛びついた。

 ピエロにピステアに飛ばされてからというもの、まともな食事にありつけていなかったからだ。


 ーー『空腹は最大の調味料』とは良く出来た言葉だなぁと、二人は感動している。


「お腹が減ってたんだね? また作ればいいから沢山食べなよ!」

「「ありがとうございますぅぅ!」」

 この言葉だけは紛れも無い本心だった。料理が出来る奴を見つけたぞ、と。


「そう言えば、この村ってどこなんですか? 正直迷ってて……」

「ん? ここは北の冒険者の国ピステアの領地内にあるヨナハ村だよ。君達は何処から来たんだい? あと、いい加減にフードをとろうよ」

「すいません。並々ならぬ事情がありまして、素顔を晒すのはまだお許しを。身分に偽りは無いですから」

「冒険者には色々な過去を持つ人が多いからね。余計な詮索はしないよ。食べ終わったら二階の一番奥の部屋が空いてる。ゆっくり休むといい」

「ありがとうございます。感謝します」

 二人はガイルから部屋の鍵を受け取り、部屋に入ると即座に内側から鍵をかける。


「ブハァぁぁあ! フードなんてこっちがとりたいっての! なぁ、ビナス?」

「本当だよ! やっとローブと服が脱げるから嬉しいっ!」

「パジャマは着てね? 今取り出すから」

 レイアはワールドポケットから二人分のパジャマを出し、水魔術の『アクア』で濡らした布でお互いの身体を拭きあうと、身綺麗にしてからベッドに寝転がる。


「「はぁぁぁぁあ〜〜! ベッド最高!!」」

 二人でユニゾンすると、軽いキスをしながら眠りに就いた。


 レイアは現在地が分かりここから始めようと決意を固めるが、同時に問題も起きていたのだ。


「やっぱ演技って疲れる……明日から続ける自信が無いなぁ」

 ビナスにあれ程言っていた張本人は、既に心が折れようとしてるのだった。

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