【第13章 GSランク冒険者パーティー『紅姫』の日常】
第245話 アズラとキルハ 前編
ドワーフの国ゼンガでの事件が治った頃、レイアとコヒナタは正式にシュバンの『宰相』に任命したミナリスへ国交をブン投げた。
当の本人は人形作りに精を出しており、そろそろ魔王軍の参謀と、第四暗部部隊の隊長を引退しようかと思っていた矢先の出来事だ。
「今度はリベルアの連中と協力して、ゼンガに王政を撤廃した新しい政府を樹立して来てくれ」
「……えっ?」
(おかしい……やっとエルフの国の復興が落ち着きを見せて、シュバンに戻ってきたばかりなのに……我が女神は一体何を仰っているのでしょう。私の身体は一つしか無いのです……そろそろ休まないと死にそうなのですが)
「大丈夫だよ! ミナリスが何を考えているかは分かってるつもりさ。俺は鬼じゃなくて女神だぞ?」
「そ、そうですよね! あくまで案を出せとか、そう言った範囲の命令ですか。疑ってしまい申し訳御座いませんでした」
しかし、ホッと安堵する部下へ、女神の無慈悲な命令が突きつけられる。
「他の隊長にもしっかりサポートする様に伝えてあるから安心して? ジェフィアとキルハは勘が鋭くて逃げたみたいだからさ、イザヨイに鬼ごっこさせてる」
「……イスリダはどうなったのですか?」
ミナリスは、名前が出て来なかった騎士部隊隊長の安否がどうしても気にかかった。堅物である騎士が、素直に言う事を聞くとは到底思えない。
「イスリダはもうとっくに出発してるぞ! やる気に満ちていたね!」
「な、何ですと⁉︎」
(馬鹿な……一体どんな方法で彼を説き伏せたと言うのですか?)
最近、王都シュバンを守護する立場にある元魔王軍の隊長達は、武力では無く外交の為に世界を奔走する羽目になっている事に疑問を抱いていた。
特に魔術部隊隊長のキルハは天賦の才を持ってはいるが、副隊長のカルーアがいなければ部隊内部でも浮いてしまう程にコミュ力が低い。
『適材適所』という意図が全く感じらず、ミナリスは眉を顰める。
「言いたい事があるのは分かってるさ。でも、この無駄に思える交流は必要な事なんだよ」
「ですが、一体何の意味があるのか教えて下さっても良いのでは……」
「まだ秘密さ。今回ドワーフの国に行ったら、そろそろ気付いてくれると願ってるよ」
「はい……」
顔を伏せる宰相へ、レイアはやれやれと肩を竦めながらある提案をした。最近家族サービスは念入りに行っていたが、部下達への配慮が足りないかと思案していたのだ。
「そういえば今回の事件のお礼として、マッスルインパクトに『レイアちゃん人形手ブラバージョン』を進呈する約束をしたんだ。次にお前が戻って来たら作ってくれないか? 勿論、俺がモデルでさ」
ーーブフッ!
ミナリスは勢い良く鼻血を噴き出し、地面に膝を突いた。脳内ではキャッキャ、ウフフと照れるレイアを三百六十度隅々から視姦し、作品を手掛ける己の姿、即ち『
背景はキラキラとした幸福な空間に包まれ、こう言うのだ。
『我が人生に、一片の悔いなし』ーーそうして人生を終えよう。
(そうか……私が生まれたのは、今日この瞬間の為だったのか)
「おぉーい! 戻って来い、それは夢だぞ!」
妄想だけで泡を吹いて気絶しそうになっている男を眺めながら、レイアは深い溜息を吐いた。
以前『身体変化』のスキルで常に女性の姿になって欲しいとお願いした所、同じ様な場面で『綺麗なのに残念なお姉さん』を体現されたからだ。
(あの絵面は酷かったからなぁ……)
暫くして正常に戻ったミナリスは、目の色を変えて背筋を伸ばし、美しい敬礼を女神に捧げる。何度この手で引っかかるのかと問うた際ーー
「何度でも餌でお釣り下さい! マイマスターに栄光あれ!」
ーー洗脳でもされたのかと見紛う程のウットリとした表情を見せつけられ、レイアは背筋に寒気を覚えたのだ。
「さて、問題はキルハか……上手くやれよアズラ」
コミュ障だと分かっていても、キルハを他国の復興に送るのには然るべき理由がある。膨大な魔術の知識量は、同じく魔力を元に作動する魔導具の構成を把握するのにも役立っているのだ。
マリータリーでは、エルフの魔導具専門の研究者を唸らせる程の発明の基礎を築いたと、報告を受けていた。
ジェフィアはチョロ子なので、レイアがカメラの試作機を渡した事で『世界の良い男達リスト』の収集に役立てており、没収すると脅せば何でも言う事を聞く。
「キルハの求めるものなんて、アズラしか無いんだもんなぁ」
女神は天井を見つめながら、自らの騎士であり家族の安否を願った。
__________
「良い加減に捕まれって!」
「……だが断る」
王都シュバン外壁の上で、アズラとキルハは相対した。互いに退けぬ以上、必然的に戦闘へと発展しそうになっていたのだが、何故かその場へ
「話は聞かせて貰ったわ。貴方……カルミナがいながら、この女とも婚約者なんて名乗ってるらしいわね!」
「ーーーー何の話だっ⁉︎」
アズラはエルフの少女カルミナの恋心に気付いてはいない。だが、天使による爆弾発言はキルハの純粋? な乙女心に火を付けた。
「……やっぱり他国で浮気を」
「違う違う! 待て、落ち着くんだキルハ! アリアはその外見で実は子供なんだよ、だから思い込みが激しいだけなんだ!」
キルハはアリアを見つめると、不思議に思い首を傾げた。見た目からはとても子供だとは思えない『ある部分』が強調されていたからだ。
「騙されないで? 私は処女じゃないし、年齢も立派に十五歳の成人です。嘘をついているのはあの男よ!」
ーージ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!
(……あの胸、一体何カップあるの? こんな破壊力を秘めた女が子供な訳が無い。きっとこの胸でアズラの事も誑かしているんだ。しかも処女じゃない、だと……)
ーーグギギギギギギギギギギギギギギギギギギギッ!!
キルハは血涙を流しながら、唇を噛み締めた。徐々に纏うオーラが闇に染まり、まるでレイアの『
「敵だ、貴様らはみんな敵だ……胸が大きい奴はみんなコロス……私を愛してくれないアズラもコロス……私に乳をくれなかった神もコロス……」
「落ち着けえええっ⁉︎ お前キャラが崩壊してるぞ! こっちに戻って来てぇ⁉︎ 『黒手』とか出て来そうでマジに怖いっつの!!」
アズラが慌ててキルハを諌めようと近付いた瞬間、右肩口を銀閃が貫いた。余りに鋭い速さと斬れ味に顔を歪ませる。
ーーウグウゥッ!
「死ね! 女の敵!」
「ちょっと待て! 何でお前がそっち側に立ってるんだよ⁉︎ 一緒にキルハを止める役じゃないんかい⁉︎」
意味不明な事態を収束出来ずにいる女神の騎士へ、銀翼の天使と、闇に染まった第二魔術部隊隊長の理不尽な攻撃が襲い掛かろうとしていた。
『
(まぁ、死にはしないでしょうし『限界突破』の良い特訓になりますか)
ーーそっと、静かに瞼を閉じたのだった……
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