第334話 『真・女神の神体』 前編
「ーーきて」
俺は夢から覚める様な和らげな口調で起こされる。どこかで聞いた声だが、どうせ家族の誰かだろう。
「眠いからヤダヤダ〜!」
「……すっかりその身体に馴染んだみたいですねぇ」
「そうそう、今の俺は可愛いロリっこ女神だ、ーーエッ⁉︎」
勢い良く顔を上げたつもりが、ひっくり返ってゴロゴロと転がる。夢かと思ったらいつのまにか俺は『神域』にいた。
(この懐かしい感じはもしや⁉︎)
「漸く目が覚めましたね〜。久しぶり〜! 貴方の女神様ですよ〜!」
「まじか⁉︎ って事はまた……俺ボールですやん!」
「懐かしいわね〜。元気そうで何よりです」
「女神様もお変わりなく〜! って毎日見てますからその身体……全然感慨深くねぇっす」
一回転した視線の先には、いつも鏡で見ている自分の姿があった。こう考えてみると不思議だよ。
ーー女神様の身体に慣れすぎて、まるで自分の身体を見つめている様な感覚がするんだから。
透き通る様な長く細い銀髪。金色の瞳。ロリっことは違って成長した魅力的な肢体は、男なら生唾もんだろうね。
真珠色のローブは淡い輝きを放っていて、美しさを一層際立たせていた。
「あの〜。俺が光った
「いえいえ、死んだどころか予想以上の成長を見せてくれてますよ〜!」
「確かナナが進化しつつ復活して、ナビナナが俺専用のナビとして人格から切り離されたんだっけ?」
「えぇ。これで準備は整ったわね〜」
うんうんと頷いている女神様を見上げながら、俺は地面をコロコロと転がっている。浮く事も出来るし、なんだかんだこの球体形態にも愛着があるのだ。
「あの、準備って何ですか女神様?」
「その話をする前に、改めて現状を説明させて貰うから、ちゃんと聞いてね〜?」
真面目に聞けと言う割には、女神様ののほほんとした口調が抜けない。それに、口元も嬉しそうに綻んでいてる。
「話はちゃんと聞きますけど、何か良いことでもあったんですか?」
「そうねぇ。良い話と悪い話があるんだけど〜、どっちから聞きたい?」
「悪い話からでよろしく!」
これは気分的な問題だけど、俺は持ち上げられてから落とされるよりも、落とされてから良い事を聞く方が精神的なダメージが少ない気がする。
すると、女神様は突然険しい表情へと変わった。空気が張り詰め、緊張感がこちらまで伝播する。
「まず、私達の共通の敵である異世界の主神デリビヌスの事と、貴方の元の世界の息子であるソウシ君の事を話すわね」
「ある程度なら核と記憶を共有した時に知ってますよ。俺達家族を滅茶苦茶にしやがった張本人だしな」
「……そう。そして、貴方と奈々の魂は私がこちらの世界へ転生させ、ソウシ君の魂はデリビヌスの世界に奪い取られた」
ーー俺は女神。
ーー奈々は天使。
ーー
我ながら中々個性的な家族になったもんだ。
「これからが本題です。話すタイミングを伺っていたのですが、そうも言っていられない事態に陥りました」
「……何があったんですか?」
「ソウシ君はデリビヌスを封印する為に、貴方から遺伝した『
おぉ、我が息子ながら凄いことを考えるな。
「そこまでは良いじゃないか。後はソウシをこちらの世界に転生させれば良いだけだろ?」
「ソウシ君の場合は既に転生していたので、転移ですね。レイアの言う通り、神とリンクする事で時間停止に近い存在となった彼を次元の狭間から救い出した者達がいたのです」
「??」
「それはソウシ君があちらの世界で作り上げた絆。彼の想い人達は、その生涯をかけてソウシ君を次元の狭間から救出しました」
「……感謝しなきゃな」
そっか。簡単にこちらの世界に転移させれば良いなんて言っちゃいけないよな。ソウシは自分の世界の大切な人達を守る為に、自分を犠牲にしたんだから。
その意思を汲み取ってやらないと、親父とは呼んで貰えないだろう。
「ーーん? それで一体何が問題なんです? そもそもなんで俺とあいつが戦う羽目になってるの?」
本題と言いながら肝心な所を省かれている気がした。女神様は悔しげに眉を顰めながら、重々しく口を開く。
「私の転生システムを利用して、ソウシ君の肉体がデリビヌスに奪われたのです。つまり、彼の肉体と『
「ーーーーハァッッ⁉︎」
「元々彼の体内に罠が仕込まれていたのですよ。こちらの世界に転移する際に、肉体と精神が引き離されるように……」
「そ、それでソウシの精神はどうなったの?」
「と、取り敢えず急いで移せそうな肉体へ移したのよ〜」
おや? 先程までのシリアスな表情が一気に崩れ去って、まるで女神様が何かを誤魔化すように焦り出していらっしゃる。
「まさか急いでたからって、ソウシの精神を『悪神の魂の欠片』を取り込んだリコッタ姉さんと、アグニスの赤ちゃんに移したとか、ーーないっすよね?」
「……ないわ」
女神様は明後日の方向に顔を向けたまま、ボソッと呟いた。どこかで見たような光景だ。俺ならこうするって考えたら、自然と嘘かどうかが見抜ける。
「何故、顔を背けた」
「チッ! ピンポンピンポン大正解よ〜! さっすがレイアねぇ〜! よっ! 私と一心同体〜!」
いきなり色とりどりの紙吹雪が舞って、玩具のラッパが鳴らされる。かつてこれ程嬉しくない正解があっただろうか。しかも軽く舌打ちしたよ、この女神様。
ーーそもそもクイズになってねぇし!
「そんな些細なミスより、凄いのはソウシ君よ〜! 悪神の力を見事に使い熟して、更に魔剣まで手に入れちゃったんだから。そこに元々の彼のステータスが加わって、まさに神の域に達する剣士の誕生よ〜!」
「……その息子に、俺ボコボコにやられたんですけど」
ーーギクッ!
「両手足斬られて……痛かったなぁ」
俺が駄々を捏ねる様に床を転がっていると、女神様の背後から後光が射し込んできた。同時に女神の羽根を広げて宙に舞い上がる。
「悲しみや憎しみは何も生み出しません。迷える子よ、それでも信じるのです。最後に愛は勝つ、と!」
ドヤ顔をしている女神様を見上げながら、俺の心は微動だにしなかった。ボールだから目は無いのか。どうやって見てるのかとか、深く考えてはいけない。
(何でだろうね。俺がこれまで適当ぶっこいてきた相手の気持ちが、ちょっとだけ分かった気がする)
「あれ〜? 普通ならここで女神様ありがたや〜って感じになるのになぁ」
「相手が俺や紅姫のみんなじゃなければ、きっと通じますよ」
確かにそうね、っと女神様が柔和に微笑んでいる。やっぱり笑っている方が何倍も綺麗だ。
「難しい話はこれで終わりです。さて、お次は良い話の本題にいきますよ〜」
「いきなり終わらせたね⁉︎ ソウシについては他にないの?」
終わらせてたまるかと情報を引き出そうとした所、俺はそのまま持ち上げられて両腕で抱きかかえられた。あら、とっても柔らかいですね。
この身体で感触が味わえる事に驚きつつも、押し黙る他ない。
「どうしてソウシ君がレイアと敵対する道を選んだのか、私は知らないもの〜」
「……知らないんかい」
「まぁ、そこら辺は直接本人に確認するのが一番よ〜」
それもそうかと思いつつ、俺がわざと胸元でローリングを発動出来ないか試していると、めっちゃ強い力で抑え付けられる。
(割れる! 俺、割れちゃう〜!)
「これからはこの胸も身体も力も完全にレイアのものよ。さぁ、私の全てを受け取って下さいね」
「ふぇ?」
ーー意味が分からず間抜けな声を出してしまう。一体どういう意味なんだろう?
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